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未来は過去であり今日なのだ。

 遠い遠い昔の記憶。


 それは未来であり、今日である。


 後悔は私を苦しめさいなむ。


 だから私は行くのだ。


 あの懐かしき世界へ


◆◇◆◇◆


 人里離れた森の中をブラウンの長髪を風にたなびかせ疾走する青年がいた。


 彼の名前はガリウス。18歳の彼は13歳の成人の儀を迎えても村に残った居残り組である。


 彼の村では成人の儀を迎えると、男は村を出て都会を目指す。


 居残り組とは、この村以外の場所で生まれこの村に連れてこられた者達で彼らは諸事情により外の世界で生きていけなくなった者達なのである。


 彼らは成人しても村から出ることを禁じられていて一生を村で過ごし死んでいくのだった。


 ただしガリウスだけは特別で居残り組でも外に出ることを許されていた。とは言え長期間村を留守にすることは村長から禁じられているのだが……。


 彼には幼馴染みの少女がいた、名前はミスティア。当時、成人の儀を行ったのは彼とミスティアの二人だ。

 ミスティアも居残り組なのだが少女はもう村にはいない、都会に出ていってしまった。


 ミスティアが村を出たのは成人の儀を終えたからではない。原因はガリウスの特別な力、あらゆる物に真名(まな)を授ける力、その名も真名命名(ネーミング)の力のせいだ。


 この真名命名(ネーミング)で名前をつけられると、付けた名前に(そく)した力を引き出すことが出来る、名前によってはとてつもない力を発揮することが出来るのである。


 だがこの能力はネーミングセンスがものを言う。このネーミングセンスが当時のガリウスには大幅に欠けていた。


 上手く付けられるようになったのは皮肉にも村を出たミスティアのお陰だろう。


 今から3年前、ガリウスはミスティアにこの能力の話をした。彼女はその話を半信半疑で聞き、それなら自分を勇者にしてくれと彼に頼み込んだ。彼は少女の頼みを断ったが何度もしつこく頼み込む少女に折れ"救国の女勇者(ヴァルキリア)"と名付けた。


 救国の女勇者(ヴァルキリア)となったミスティアは村の結界に囚われることなく出入りできるようになった。


 少女は世界を救う旅に出ると言い、ガリウスを誘ったが彼はそれを断った。


 彼はミスティアの誘いよりも村長の言いつけを守ったのだ。


 ミスティアが村からいなくなったことでガリウスは意気消沈した、そのショックで夜も眠れなくなるほどに。


 真名命名(ネーミング)で親しい人がいなくなることに恐怖を覚えた彼はそれ以後人や生き物に真名命名(ネーミング)を使うことはなかった。ミスティアが出ていってからは専ら(もっぱ)ひのきの棒と石に名前をつけている。この辺りは針葉樹林地帯で(ひのき)が多く、また石も無限にあるので真名命名(ネーミング)のテストにはちょうどよかった。


 ガリウスは数個の石を拾い上げると真名をつけた。


必中の一投(ストライクショット)


 そのうちの一つだけを手に持ち、残りをカバンにしまい入れる。


 必中の一投(ストライクショット)と名付けられた石は目標を逃すことなく仕留める、そしてその後は灰になって崩れさるので使い捨てなのだ。


 目の前で茂みが揺れる、かすかに茶色い体が葉と葉の隙間から見えるそれをガリウスは一瞬でイノシシだと見抜き真名の付いた石を投げる。それは一直線に茂みの方へと飛びこんだ、その刹那イノシシの断末魔が辺りに響き渡る。


「簡単な仕事だ」


 彼は自嘲ぎみにそう呟く。


 彼は後悔する。あのときミスティアに着いていけば、あのとき真名をつけなければと。


 そしてミスティアにいい人ができていないかと胸を焦がす。


「キャー!!」


 ガリウスが物思いにふけっていると、街道の方から悲鳴が聞こえた。


 声のする方を見ると、少女が二匹のゴブリンに襲われている。


 彼はポケットから、真名の付いた小石を二つ投げた。それはゴブリンの頭部を破壊すると、効力を失い灰になって崩れ落ちた。


「大丈夫ですか?」


 ガリウスは倒れた少女に手を差し出す、しかし少女は逃げてきた方向を指差す。


「むこうで両親が……。 おねがい、です、たすけて」


 少女は震える声でガリウスに懇願する。


 それを聞いたガリウスはすぐさま少女をお姫様だっこすると、彼女の指差す方へと走り出した。その速さは人一人を抱えてるとは思えない速さであっという間に襲撃場所と思われる地点に到着した。辺りにはすでに戦っている者もおらず、ただゴブリンだけがうまそうに何かを食い散らかしていた。


 その場に女性を下ろすとカバンから石を五つ取り出し、それを無造作に投げると、その五つの石はまるで糸でもついているかのように、それぞれゴブリンへと一直線に飛び頭部を破壊した。


 二人は壊れた馬車の側に駆け寄った。頭部を破壊されたゴブリンの横には手足を無くした男女が倒れていた。男女共にまだ生きてることを確認すると、地面に落ちている石を二つ拾いそれぞれに全ての力で復元する(エリキシー)と名付け死にかけている二人の上に石を置いた。


 全ての力で復元する(エリキシー)は部位欠損はもとより、失った血や衣服すら回復する。手足を失い死にかけていた二人の体は一瞬のうちに回復して元の状態へと復元する。それにともない石は灰となり消滅した。


 二人は朦朧とした状態から回復すると、何が起きたかわからないようだった。


 そこへ先ほど助けた少女が二人に抱きつくと、何が起きたのかを思い出した二人は三人で抱き合って声を上げて泣きじゃくった。


 「ゴブリンの習性が幸いしたな」


 ゴブリンは人間を食べるとき、苦しめながら食べる習性がある。半殺しにした獲物を端から食べていく。痛みを与えた生物は悪想念が増える。それが彼らゴブリンの力の源となり進化するためのエネルギーとなる。


 ゴブリンにとって悪想念の貯まった内臓がメインデッシュで脳みそがデザートなのだ。


 少女は一人で逃げ出してごめんなさいと謝り、両親は私達が逃げろと言ったのだ気にするなと娘の頭をなでる。


 ガリウスはそれを見て羨ましいと思う、彼には親はなくただ親代わりの村長がいるだけなのだ。その村長も最近では忙しいのか村に帰ってこないのでガリウスは余計羨ましく思うのだろう。


 彼は他に外敵がいないか周囲を警戒すると、少し離れた場所に護衛と思われる武装した男が倒れていた。どうやらこの男は護衛対象を見捨てて逃げたようで、背中に弓で撃たれた跡がある。逃げずに戦ってゴブリンに食べられていれば助かったものをとガリウスは残念がる。


 とは言え、ゴブリンは狡猾(こうかつ)なので武器を持っている人間を殺さずに食べるようなことはしない。どのみちこの男は死ぬ運命だったのだ。


 全ての力で復元する(エリキシー)は死んだものは治せない 。正確には直るのだが魂は戻らないのだ。


 馬車を見ると、車輪に棒が射し込まれ破損している。ガリウスは棒を抜き取ると小石を拾い全ての力で復元する(エリキシー)と真名をつけると、それを馬車に使った。


 この全ての力で復元する(エリキシー)は、無機物でも壊れて1時間以内なら直すことができる。

 馬も足をやられており動けなくなっていたので全ての力で復元する(エリキシー)回復させた。


「おお! 素晴らしい。魔法使いのかたですか?」


「ええ、そのようなものです」


 ガリウスは説明するのも面倒なので能力の説明は適当にはぐらかした。


「お礼も言わずにに申し訳ありません。この度は助けていただいて本当にありがとうございます」


 彼のぶっきらぼうな受け答えを、礼もできない不作法に怒ってると思って小太りの男は深々と頭を下げ、二人の女性も父親に続き頭を下げた。


 ガリウスは自分のぶきちょう面のせいで誤解させたかなと反省し、謝る男の頭を上げさせ「自分は他人とのコミュニケーションが下手で勘違いさせて申し訳ない」と怒っていないことを伝えた。


 それを聞いた小太りの男はホッとして胸をなでおろし自己紹介をしてきた。


 男の名前はウィルソン、妻はネバダ、娘はマイラという。商人の会合のために城塞都市クレセアに、旅行もかねての旅路だと言う。


「私の名前はガリウスと言います。しかし、護衛一人とは……」


 この地域はゴブリンがそこらじゅうに巣を作っている地帯で最低でも二人以上の護衛が必要な地域である。ゴブリンは雑魚モンスターではなく狡猾(こうかつ)で手強い、家族連れを護衛するには最低でも3人は必要なのだ。


「いつも使ってる護衛なのですが、今日は一人で受けたい、自分なら一人でも大丈夫と申しまして……」


 自分の命を預けるのに顔見知りだからという理由でその話を鵜呑みにするとか。この男バカがつくお人好しだとガリウスは思う。


「自分の命なのですから保険は多目の方がいいですよ?」


「真にその通りです、面目無い」


 ウィルソンは自分よりもはるかに年若いガリウスに説教されても憤慨することなく自分の過ちをちゃんと理解した。その上で彼はガリウスにお願いをする。


「ガリウス様、助けていただいてさらにお願いをするのは恐縮なのですが、城塞都市クレセアまで護衛をしていただけないでしょうか」


 ガリウスはウィルソン家族を見て、このまま見捨てるのも後味が悪いので次の町まで護衛をしてあげようと思った。もちろんウィルソンと言う男がお人好しだからだガリウスはそう言う人間は好きなのだ。そう考えるガリウスもまたお人好しなのだが。


「もちろん護衛料はお出ししますし助けていただいたお礼もいたします」

「お金目当てで助けた訳じゃないですよ」

「は、はい分かっております、ですが今はあなた様に頼るしかないのです」


 ガリウスは自分が護衛を引き受けなかったらこの家族はここで死ぬなと考えるとそれはかなり後味が悪いなと思う。それにクレセアは王城に近い、王都にいるミスティアのに会えるんじゃないかという期待もあり彼は護衛を引き受けることにした。


 ガリウスは護衛するにあたり新しい真名を四つの石につけた。


隠れたるものを暴く物(センサー)


 それを馬車の四方に配置した。これは魔物がいれば光って魔物に向かって飛んでいく、攻撃力はないが魔物探知に最適なのだ。


 それとガリウスは石をカバンに入れられるだけ入れ馬車にもいくつか積んだ。これは一々石を拾うために馬車を降りていては日が暮れてしまうからだ。


 そしてガリウスは死んだ冒険者の装備は回収して装備した丸腰では盗賊など人間の悪党に付け入る隙を与えてしまう可能性を減らすためだ。


 とは言えどのみち護衛が一人の時点で標的になるのだが。無いよりはましと言う程度の物だ。


 城塞都市クレセアには馬車で約一日半かかる、ガリウスは村長にバレたら怒られるかもしれない。だけど今度こそ後悔したくないと言う思いが彼をクレセアへと行かせる。


 できればミスティアに会いたい、そう願いながら彼は城塞都市クレセアへと向かうのだった。



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