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第三十一話 父は偉大


 カインの響き渡った声に思わず、国王苦笑しながら咳を一つつく。


「し、失礼いたしました」


 カインは焦って頭を下げる。

(まさかレイネ姉さまが……。確かにすでに適齢期ではあるけど……)


「お主にはガルムから伝えられていなかったようだな……」


 カインは静かに頷く。あれだけブラコンであったレイネがまさか婚姻を結ぶとは思ってもいなかった。

 しかし、自分がすでに数人の婚約者がいることを考えれば、カインより年上であるレイネはいつ嫁いでもおかしくなかった。

 

「下がっていいぞ。詳しくはあとでマグナに聞くように」

「はい……」

 

 カインは一礼し、元の場所へと戻って席につく。

 いくつかの報告が終わり、貴族が集まった報告は終了を迎えた。

 もちろんカインはそのまま帰れる筈もない。従者から案内されいつもの応接室へと入った。

 すぐにガルムが現れカインの隣へと座った。

 

「父上、レイネ姉さまの件、教えてくれてもよかったじゃないですか……。そうすれば、あの場で声を上げないで済んだのに……」

「済まんな。まだ確定ではなかったのと、レイネからも口止めされていてな……」

 

 申し訳なさそうに説明をするガルムにカインはため息をつく。

 

「ロラン殿下はな、レイネと同じ年になる。ほら、レイネが学生時代に生徒会役員をやっていただろう? あの時の生徒会長がロラン殿下なのだ」

 

 カインはレイネがまだ学園に滞在していた時の記憶を呼び起こす。確かに生徒会の役員と良く仕事をしていた。

 そしてガルムは話を続ける。

 

「その頃からお互い意識はしていたらしい。そして王家から打診を受けていたのだがな、レイネがカインには伏せるようにロランにも話していてな。だからテレスティア王女殿下もまだ知らないはずだ。まぁ説明しなかったのは他にもあるが……」

「そうだったのですか……。知っていたらもっと祝福するのに……」

 

 そんな話をしている中、扉が開かれ国王を始め、エリック公爵、マグナ宰相が部屋に入ってきた。

 

「待たせたな」

 

 中央の席にどかっと国王が座り、その両側にエリック公爵とマグナ宰相が着席する。

 

「どうだ? カイン、驚いたであろう? いつもお主には驚かされてばかりだからな。たまには仕返しがしたいと思って、二人の婚姻について黙っていたのだ」

 

 ケラケラと笑う国王に、一番の原因はこの人だとカインは思った。

 しかしそれを表情に出すわけにもいかない。

 

「……本当に驚きました。ーー姉のレイネをよろしくお願いします」

 

 カインは素直に頭を下げると、国王は満足そうに大きく頷いた。

 

「わかっておる。二人とも仲良くしているらしく問題はないはずじゃ。それよりも本題だ。マグナ、説明を頼む」

「わかりました。ではーー」

 

 マグナ宰相は手に持っていた地図をテーブルに広げた。

 

「今回、コルジーノ派のいくつかの領主は街の自治権を剥奪する。今、内定を進めているが、問題がある領主はそのまま貴族階級の剥奪になる予定だ。そこは王家直轄とするが、テレンザは先程伝えた通りにシルフォード卿に治めてもらう。そして、ここからが新しく我が国の領地になる範囲だ」

 

 地図にはイルスティン共和国の内部に線がひかれている。ガザールまではいかないがそれなりに広く、いくつかの小さな街や村が含まれていた。

 

「いやぁ、本当はガザールももらおうと思ったんだけど、そこまでやったら経済が破綻するらしくてね。これだけにしておいたよ。まぁうちの娘に手を出そうとしたんだ、それなりに反省してもらわないとね」

 

 悪びれた様子もなく軽く言うエリック公爵にカインは苦笑する。

 正直、カイン達に襲撃をかけたのはイルスティン共和国だけではない。自分の国からも出ているのだ。

 それを差し引きしても十分な成果と言えよう。

 

「お主のところではこれだけ一気に領地が広がっては人手も足りぬであろう。王都から官僚を代官として各街へと派遣させる。それと当面の資金も出すつもりじゃ。そして五年間のドリントルからの税金も免除とする。これからはドリントルを領都とし、まとめてドリントル領とせよ」

 

 国王の言葉にカインは頷く。そして国王からの言葉は続いた。

 

「しかし、辺境伯として軍の整備もしないといけないが、それは後々となる。そして、お主が成人を迎えるまではーー戦争は行うな。これだけは守るのじゃ」

 

 エスフォート王国では成人をしていない者に対し戦争への参加は認めていない。たとえ辺境伯であってもそれは例外ではない。正直、カイン一人がいれば他国との戦争でも問題なく勝利を収めるであろう。

 しかし初代国王から守られているこの法は例外を認めない。

 これはユウヤがこれから未来ある子供に、国の思惑で生死に強制させないためであった。

 

「あと、カインくんは学園に関しては、卒業まで自由出席でいいよ。正直、学園は将来のために顔を売ることと、領地経営など学ぶために行くところであるけど、ドリントルの発展を考えたら意味がないしね。まぁたまには顔を出してもらいたけど、シルクも寂しがるだろうし」

「それはもちろん、出来るだけ学園には通うつもりです」


 とりあえずの話は全て終え、国王は次の業務のために、エリック公爵、マグナ宰相を引き連れ退出していった。

 部屋に残ったのはガルムとカインの二人である。

 

「まさかな、カインがここまでなるとはな……。まぁわからなくもないが……」

 

 これまで行っていた非常識の数々。それはまだ幼い頃からである。

 色々と問題を起こしてガルムに心配をかけていた。

 それがまだ成人前でありながら、ガルムと同じ辺境伯へとなった。

 

「ーーこれからは父と子だけでなく、同じ辺境伯として、このエスフォート王国を守っていくぞ、カイン」

「はい、もちろんです」

 

 ガルムは満足そうに頷くと、カインに右手を差し出す。

 カインは笑みを浮かべ右手を差し出し握手をする。

 

 父親の手は大きかったと、改めて感じたカインであった。



いつもありがとうございます。

これにてイルスティン共和国編は終了となります。

次章は・・・。

それはお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
レイネがカインには結婚のこと黙っていて欲しかった理由がなんとなくわかるな
[一言] 前世の両親が守った世界 今世の両親と守る王国 熱いな 祖父や幼馴染みも来そうだけど
[気になる点] 結局学校らしいイベントがほとんど無かった気がする····· 通った意味あった?
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