第十九話 領主の仕事
猫の和み亭についたカイン一行は各自部屋に別れていく。
カインはエナクにお願いをして、宿を後にする。
路地へと入り込み人目のない場所で屋敷に一度転移をした。
ダルメシアと一度打ち合わせをすると、そのまま屋敷を後にする。
そして、レリーネが泊まっている宿へと戻って行った。
宿の人にお願いをして、レリーネに到着したことを伝言すると、程なくしてレリーネと護衛の騎士が降りてきた。
レリーネは旅装から着替え、準備万端であった。
綺麗なドレスに身に纏い、貴族令嬢らしくカインも思わず声を漏らす。
「カイン様、ここまでの護衛なのに申し訳ありません。この街は不慣れなもので……」
「いえいえ、これくらいなら問題ありません。それにしても……とてもお綺麗ですよ」
カインの言葉に、護衛の騎士は顔を顰める。
「ーー冒険者風情がリレーネ様に不敬であるぞ」
騎士がそう言うのをレリーネが手で制す。
「いいのです。カイン様にそう言ってもらえるのも嬉しいですよ」
レリーネは笑顔でそういうと、用意してある馬車へと向かう。
馬車へ乗り込むと、騎士二名が先行し、カインは御者席に座らせてもらい走り出す。
そして領主邸ーーカインの屋敷へと向かった。
「それにしても領主様もすぐに会っていただけるとは……。数日は待つと思っていたが……」
「手紙をお持ちしたら、すぐにでも問題ないと従者から言われたからな。助かったとも言える」
「シルフォード伯爵は、まだ子供だから、そんな事気にしないのであろう」
「それもそうだな。まだ王都の学園に通っていると聞いている」
馬に跨る騎士二人の会話にカインは苦笑する。
程なくして領主邸に到着すると、門の両側には直立不動で立っていた。
屋敷に近づく馬車に気づくと、一人は屋敷へと走っていく。
残っている一人の衛兵に騎士は話しかけた。
「ミサンガの街のレガント伯爵ご令嬢、レリーネ様です。領主様にお約束をしております。お取り次ぎを」
「レガント伯爵家ですね。聞いております。どうぞ中へとお入りください」
「では、失礼する」
騎士が先行して門をくぐり、その後を馬車が追う。
馬車が門を潜る時に、御者台に乗っているカインと衛兵は目があった。
「?! えっ!?」
カインは笑顔でそっと口に指を一本立てて、内緒だとアピールすると、口をパクパクさせ、驚きながらも衛兵は頷いた。
そのまま馬車は屋敷の前までつけられる。
すでに屋敷の前には、ダルメシアを筆頭に数人のメイドが並んでいた。
馬から降りた騎士が、馬車の扉を開け、そこから優雅にレリーネは降りていく。
ダルメシアが代表して口を開いた。
「レリーネ様、遠路はるばるありがとうございます。シルフォード伯もすぐに用意をいたしますので、まずは部屋へとご案内いたします」
優雅に一礼すると、それに合わせてメイド達も頭を下げる。
「急なお伺いなのに申し訳ございません。よろしくお願いいたします」
カインも御者台から降り、すぐ隣に降りていたが、ダルメシアの対応に満足して頷く。
「君はここで待っててくれ。ここからは私たちがついていくから」
「ーーはい……」
騎士からカインはここで馬車と御者と共に待っているように告げられた。
ダルメシアはちらりとカインに視線を送った後、レリーネと二人の騎士を屋敷へと案内する。
カインは姿が見えなくなると、裏口へと一度周り、執務室へと転移した。
執務室ではすでにカインの礼服が用意されており、カインは袖を通していく。
準備が終わった時、扉がノックされた。
「カイン様、用意はできてますか。それにしても……相変わらずいたずらが過ぎるのでは……」
ダルメシアも、その対応は嫌いではなく、むしろ好きと言えた。
「たまにはねぇ。一応冒険者としていたし。あとーーいるよね?」
「はい。今も執務室に篭っておられます」
「なら、時間を見て呼んでもらえるかな……タイミングは任せたよ」
「かしこまりました。最高のタイミングでお呼びいたしましょう」
カインとダルメシアは二人揃って笑みを浮かべる。
「あんまり待たせたら悪いからそろそろ行こうか」
「はい、一番いい応接室に案内しております」
「うん、ありがとう」
カインは笑みを浮かべながら執務室を後にした。
レリーネ達が控える応接室がノックされる。
レリーネはもちろんの事、後ろで控えている騎士にも緊張が走る。
そして扉が開かれ、ダルメシアが入室し、その後を着替えたーーカインが入室する。
入ってきた人物に、思い当たる節がありすぎて、騎士二名は愕然とした表情をする。
「えっ!? えっ!?」
「な、なんで!?」
レリーネも少し目を見開いたが、笑みを浮かべて立ち上がり一礼する。
カインは笑顔で頷くと、レリーネに座るよう促した。
「カイン・フォン・シルフォード・ドリントルです。遠路お疲れ様でした」
「改めて……レリーネ・フォン・レガントでございます。急な訪問に対応していただき感謝いたします」
「いえいえ、半分騙すようになってしまい申し訳ない。ただーーレリーネ殿は薄々わかっていましたね?」
カインの言葉に、レリーネは笑みを浮かべた。
「えぇ……父から聞いておりましたので。銀髪といい普通の冒険者と違う雰囲気といい、カイン様の名前でもしやと思っておりました」
二人で話す間、後ろで控えていた騎士は冷や汗をかいていた。王都からドリントルまでの二日間、ずっと護衛として一緒にいたはずのまだ子供の冒険者が、実は領主だったというのだ。
当初は、貴族の護衛になぜ子供をつけるのか、王都のギルドの対応に疑問視もした。もし、問題があれば、王都のギルドに苦情をいれる可能性もあった。
そう思っていたら実は領主でした。そんな事は想定されていない。
ガチガチに固まった護衛二人にカインは声をかける。
「騎士の皆さんもお疲れ様でした。騙すような事になり申し訳ない」
軽く頭を下げるカインに、驚き、すぐに止めた。
「こちらこそ、不躾な対応で申し訳ございませんでした」
「申し訳ございません……」
深々と頭を下げる騎士に、カインは頭を上げるように伝える。
「それで本題ですね……」
カインがそう告げた時、扉がノックされる。
扉が開き、中に入ってきたのは、アレクだった。
「カイン……急に戻ってきて、呼び出すなんてどうし……た……」
アレクはカインの目の前に座っている令嬢を見て固まる。
「アレク兄様、隣にどうぞ隣に……」
「カイン!? これは一体!? なぜ、レリーネ嬢がここにっ!?」
驚くアレクにカインが告げる。
「だから……ご案内したのですよ。アレク兄様のーーーーお見合い相手を」
カインは満面の笑みでそう答えたのだった。
いつもありがとうございます。
アレクにも春が来るんでしょうか。