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第三話 リルターナの憂鬱


「あの商会で出しているガラスのグラスの制作方法はまだわからんのかっ!」


 派手な装飾をされた応接室で息巻いているのは、良く言えば恰幅の良く派手な貴族服、悪く言えばたるんだ腹を抱えているコルジーノ侯爵だ。

 コルジーノの怒鳴り声でナルニス商会の会頭、マティアスが小さく縮こまっている。

 マティアスはグラシア領の支店長であったが、コルジーノの後ろ盾を得て、今はナルニス商会の会頭となっていた。


「そうは言ってもサラカーン商会はシルフォード伯爵家が後ろ盾になっているんですよ。リバーシにガラス細工製品、曇りのない鏡、そして便器まで……。商業神への奉納し、すでに契約期間は過ぎていますが、まだ他の商会を含め材料を含め作り方は判明していませぬ……いったいどうやって作っているのか……」


 商業神への奉納を行い、三年間の独占はあったが、すでに切れている。しかし他の商会も模倣しようとしたが、どこも成功した例がなく、未だにサラカーン商会の独占市場となっていた。リバーシだけはどこの商会も簡単に真似をし、独占期間が終了し模倣して売りに出したが、すでにサラカーン商会によって王国内、帝国、共和国等他国にも大量に輸出が済んでおり、そこまでの需要は見込めなかった。


「忌々しいあのガキめ……。ドリントルで失脚すると思っていたのに、まさかあそこまで街を発展させるとは。しかも今となっては王女殿下の婚約者でもある。簡単にはいかんか……」


「そうです……。でも、サラカーン商会には娘がいたはず。それを上手く使えばもしかしたら――」


「うむ、上手くとは――」


「――それはですね……」


 二人は怪しい笑みを浮かべながら計画を練っていく。そして話が終わると薄気味悪い笑みを浮かべたコルジーノが大きく頷いた。


「――ぐふふっ、それは楽しみだな……最悪、他国へ売り払ってもいいしな。猫獣人なら愛玩具としても高く値を付けられるだろう」


「一つは以前、潰されましたが、今は他の手もございます。私らにお任せを」


「上手くいったときにはわかっているだろうな、マティアスよ」


「それはもちろん……たっぷりと寄付をさせていただきますよ」


 その後、二人だけの話は続き、終わった後にマティアスは部屋を後にした。

 マティアスは馬車の中で、同乗させている若い女性の奴隷を抱き寄せ胸を揉みしだく。

 奴隷の女性は嫌そうな顔をしながらも、マティアスに身を寄せた。


「あとは裏の手に連絡をとって――ぐふふ、あのサラカーン商会の泣く顔が目に浮かぶわ」


 怪しい笑みを浮かべたマティアスを乗せた馬車はナルニス商会へと戻って行った。



 ◇◇◇


 ――とある貴族の屋敷。

 一人の少女がベッドに勢いよく飛び込んだ。


「なんで……婚約者なんているのよっ! まだ成人してもいないのに。せっかくエスフォート王国まで来たのにこれじゃぁ……」


 学園で作った笑顔とは違い暗い、怒った様子の――リルターナは一人ベッドで愚痴を言う。


「それにしても、辺境伯の子供なのに、成人前になんで伯爵に……帝国ならまずありえないわ。何があったのかしら……知りたい……」


 リルターナはベッドから立ち上がると、部屋を後にした。




 応接室では座っているリルターナの前には執事兼家令、そして――護衛でもあるニギートが控えている。ニギートはリルターナが十歳の頃から内々的な護衛としてついている。


「ニギート、カイン・フォン・シルフォード・ドリントル伯爵について調べてちょうだい」


 指示を出すリルターナにニギートは首を傾げる。


「リルターナ殿下、エスフォート王国にきて早々に男性に(うつつ)を抜かすおつもりでしょうか……」


「うるさいっ! グラシア領の事もわかるでしょ! それに……その年で何故伯爵までなったのか気になる。我が帝国の前に将来仇となる可能性もある。いいから調べて!」


 本心とは違う言葉を放つとニギートは納得したように深く礼をした。


「――わかりました。こちらで情報を集めさせていただきます。指示を出しますのでこれで」


 再度、深々と頭を下げたニギートは部屋を退出していった。

 一人になったリルターナは深くため息をついた。


「それにしても――カイン恰好良くなっていたな……。出来れば――」


 まだ幼かった時に出会ったカインから選んでもらったネックレスを手に取り、リルターナは一人だけ残った部屋で呟いた。




 ――情報はすぐに集まった。

 応接室ではリルターナが座り、カインの情報が書かれた書類が目の前に置かれていた。

 使徒などの王国上層部で極秘にされている情報を載せられていないが、一般的にわかっていることだけでも、カインが王国内にどれだけ貢献しているのかが細かく書かれていた。

 書類の束を事細かく読んだリルターナは、書類をテーブルに投げ出し深くため息をついた。


「――まさかここまですごいとは……」


「その通りでございます。まだ十三歳でここまでの才能を持つ子供など帝国でも聞いたことがございません。私もまとめあげながら信じられませんでした。しかも屋敷には幼い頃に一人で討伐したSS級のレッドドラゴンの剥製まで飾られていようとは……。天は人にいくつもの才を与えるのだと改めて知りました」


 報告をまとめた書類には、王都に行く最中に王女殿下を助けるためにオークの上位種を含む数十体の魔物を一人で蹂躙したこと。男爵に叙爵されたあとは王都で暮らし、商会と手を組んで画期的な商品をいくつも世に送り出したこと。そして、子爵として陞爵された後は代官や悪党たちに牛耳られた街を治め、膿を全て出して街を改善し、さらに大々的に発展させたこと。さらに教国の聖女までがカインの虜になっていることが書かれていた。資産についても帝国貴族だったとしても、五本の指には入るのではないだろうかといわれるほどの巨額の富を持っている可能性も秘めていた。

 報告書を見れば見るほど本当なのかと疑われる内容が記載されていた。

 対面に座っているニギートも投げ出された報告書をまとめながら、その内容には舌を巻くしかなかった。


「リルターナ殿下がなぜ調べよと言ったのかがよくわかりました。これほどまで才能にあふれた子供などおりません。――そのままリルターナ殿下の婚約者として帝国に連れていきたい位です。もしかして……リルターナ殿下もそれが目的で……?」


 ニギートの『婚約者』という言葉に、一瞬にしてリルターナの頬は紅く染まっていく。


「そ、そ、そんなっ! いきなり婚約者だなんて! カインにはすでに婚約者が三人もいるのよ。教国の聖女様も含めたらすでに四人……今から私もなんて……って違うわよっ!」


 焦りながら説明をしていくリルターナの表情を見てニギートは苦笑する。


「皇女殿下も年ごろの乙女ということですか……」


「うるさいっ! それよりも、このサラカーン商会に行ってみたいわ。帝国にはない物が数多くあるというし」


 照れ隠しをするリルターナにニギータは微笑みを浮かべた。


「かしこまりました。では、週末に手配をいたしましょう」


「素直にそういえばいいのよ。まったく……」


 部屋を出たニギートは廊下で報告書に再度目を通しため息をついた。


「これほどの人材を輩出するとは……世界統一のためには帝国の邪魔になる存在になる可能性が――」

 誰もいない廊下を歩きながらニギートは呟いた。




 平日は何事もなく学園で授業が行われていた。報告書を見てからリルターナはカインの事が気になっていた。正確には転校した初日にカインを見つけて天まで昇るような気分になったが、王女殿下、公爵令嬢が婚約者だと知り、その気持ちはどん底まで落ちていた。

 しかし、皇女として仮面を被り、テレスティアとシルクと友人関係を築いていた。

 だが、報告書を読んでからのリルターナは、まさに恋する乙女のようにカインを見ていることが多くなっていた。授業は疎かにはしていないが、後ろから眺めるカインの銀髪や後ろ姿に見惚れることが多くなっていた。

 幸いなのはテレスティアもシルクも最前列に座っており、その表情が見られなかったことだろう。



 ――そして週末。

 サラカーン商会に向かう馬車が一台。帝国から乗ってきた馬車には、バイサス帝国の王家の紋章が大きく描かれている。だが、帝国王家の紋章を街の平民は知る由もなく、どこかの貴族の紋章だと思われていた。

 馬車はサラカーン商会に到着し、リルターナはニギートを連れ商会へと入る。


 ――そこには鮮やかな彩りをしたガラス細工のグラスが並べられ、それを目にしたリルターナの目は大きく見開かれた。




いつもありがとうございます。最近ノートPCで縦書きで書くと文字が霞んで見えない夜州です。

やはりWEB版は横書きで書かないと、誤字すら見つけられませんね(汗)

今週は2巻の初稿を出して空いた時間で必死にWEB版書いてます!

来週からは、また改稿作業に戻る可能性がありますのでご了承ください。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「ガラスのグラス」は「馬から落馬」です。
[気になる点] もうコルなんとか邪魔だからいい加減に退場させて欲しい [一言] リルターナはかわいいけど帝国は危険だな
[一言] リルターナ可愛いね(*^^*)
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