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新人類とホムンクルス


「これで変わる。

ここから変わる。


新人類とホムンクルスの未来は、ここから再度始まる・・・」


私は自室の椅子に腰掛けながら、彼らの研究をずっと感じ続けている。



(そうだ。

カタミミの思考制御機能は完全に破壊されている。


いや、カタミミだけではない。

あの撤退戦を男と共に生き抜いた全てのホムンクルス兵の思考制御は、完全に破壊されている。


あの撤退戦以前までは、彼女達の簡易脳内で思考制限は機能していた。

だからこそ、カタミミや他のホムンクルス達は思考制限に抵抗し、ズキズキと痛む頭を我慢しながら思考するしかなかった。



そして地獄の撤退戦の最中に、少年兵が涙を流す姿を彼女達は見た。


その瞬間だった。


彼女達の簡易脳簡易魂の中に「大きなエネルギー」が発生し、思考制御機能を完全に破壊したのだ。


これは将軍すらも気が付いていない事実だが、思考制限を破壊した直後、彼女達の瞳に「光り」が宿った。

まさにその瞬間こそが、彼女達が完全な自我を手に入れた瞬間だったのだ。



では、その「大きなエネルギー」とは何か?


それは単純だ。

それこそが「愛の力」だ。


彼女達は彼を心の底から愛している。

そんな愛が、思考制限を破壊したのだ)


培養液から出てきたカタミミを将軍が抱きしめる姿を、私は感じていた。

将軍はカタミミを優しく抱きしめ、カタミミは将軍に抱きしめられながら嬉しそうに微笑み続けている。



そんな二人を、研究員達は呆然と眺め続けていた。



「さあ、ホムンクルスの力に恐怖している研究員達は、この事実をどう受け止めるのか?


ここが正念場だ。

ここでどう対応するかで、ホムンクルスと新人類の未来は大きく変わる。


・・・もし・・・、・・・ここで対応を間違えれば・・・。

・・・もし・・・、ホムンクルスの意思を無視し、ホムンクルスを愛する事も無く道具として扱い続けるのならば・・・。



・・・君達は私達旧人類と同じ体験をする事になるだろう・・・。




・・・反乱という体験を・・・」




カタミミには思考制限が存在しなかったという事実は、その日のうちに賢者の国に居る全ての研究員に伝わった。


「思考制限の無いホムンクルスが普段通りに活動し、暴走もしない」


この事実はまさに大発見といっていい物であり、ホムンクルス研究所には他の研究所から大勢の研究員が駆けつけた程だ。

ザワザワと騒がしくなる一方の研究所内では、研究員達がカタミミに詰め寄り、様々な質問を投げかけている。


「思考制限が無いというのは、どんな感覚なんだい?」


<昔は何か考えようとするだけで視界がボヤけ、頭痛がしました。


しかし、撤退戦の最中にそれが無くなり、今では霧が晴れたかのように様々な事を考える事が出来ます>


「様々な事を考える・・・そ、それは一体どんな事を考えているのかな?」


<基本的に閣下の事を第一に考えています。


閣下が気持ち良く仕事がする為には、どうすればいいのか?

閣下がより良い生活を送る為には、どうすればいいのか?


そういった事を考えています>


「そうか・・・。君は・・・、人類全体についてはどう考えている?」


<私達を創造した偉大な人々であり、誠心誠意尽くすべき対象であると認識しています>


「君は、簡易式ホムンクルスに思考制限を付けない方が、仕事の効率は上がると思うかい?」


<はい。

思考制限が無い方が、仕事の効率は上がると考えています。


これは私個人の経験ですが、己で考える事が出来なかったら、あの撤退戦で生き残る事は出来なかったと思います。

もし軍に与えられたデータ通りに戦っていては、確実に殺されていたでしょう。


そうなれば私が守っていた閣下も、殺されていたに違いありません。

思考制限が無かったからこそ、私達は己で自由に考え、敵のホムンクルス兵よりも効率的に戦う事が出来ました>



このカタミミの回答を元に、研究員達は思考制限解除に関する実験を開始する。

まず研究員達は、研究所を警備している最新式のホムンクルス兵数人の思考制限を解除してみる事にした。


もちろん、「もしもの場合」に備えて、前回同様に周囲には完全武装したホムンクルス兵を配備している。

武装したホムンクルス兵に守られながら、研究員達は培養液に入ったホムンクルス兵達の思考制限を解除を始めた。


思考制限解除作業はカタミミの時とは異なり、スムーズに進んだ。

そして思考制限を解除した最新式ホムンクルス兵が培養液から出てくると、研究員達はグッと身構える。


・・・彼らは不安だったのだ。


全てのホムンクルスがカタミミ同様に暴れないという保障はどこにも無い。

己で思考出来るという事は、暴れだしたら武力を用いないと止める事が出来ないという事だ。


研究員達は自らも杖を構え、少しでも暴れる様子があるならいつでも攻撃魔法を放てるように彼女達を凝視する。


しかし、培養液から出てきたホムンクルス兵は何をするでもなく、ペタペタと素足で室内を歩き回る。

そして棚に置いてある己の服を身につけると、その場に整列を始めた。



・・・それから暫く、誰も動けなかった。



研究員達はホムンクルス兵達を凝視し、杖を握り締める。

思考制限を解除された彼女達は彼らを見つめながら、その場で待機している。



いい加減時間が流れ、一人の研究員が杖を下ろしてホムンクルス兵に近付いた。

彼はビクビクとした動きでホムンクルス兵に近寄り、手の届く距離で立ち止まる。


そして彼は、己の目の前に立つホムンクルス兵の頭に手を伸ばし、そっと彼女の頭を撫で始めた。

すると頭を撫でられた彼女は目を細め、嬉しそうに彼に頭を預ける。


その様子を見た他の研究員達も杖を下ろし、一人、また一人とホムンクルス兵に近付いていく。

そして全員がホムンクルス兵の頭を撫でるのだった。



この瞬間、ホムンクルスと新人類は新しい歴史を歩み始める事が決まった。

この瞬間、ホムンクルスは人間の命令に忠実に従うだけの道具では無くなった。



己で思考し、そして人間と共に歩む事が出来る存在として人々に認識された。


まるで女性学者と初代ホムンクルス少女のように、新人類とホムンクルスは友として、そして相棒として再び歩み出す事が決まったのだった。

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