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誕生日会


ある日の夜。

少年兵は椅子に腰掛けながら静かに本を読んでいた。


既に彼は全ての仕事を終えており、のんびりと夕食後のひと時を楽しんでいたのだ。

そんな時、小さくドアをノックしてカタミミが部屋に入って来る。


「どうしたカタミミ、こんな時間に来るなんて珍しいな」


彼は読んでいた本を閉じ、少し驚いた顔を見せる。

そんな彼に、カタミミは普段と変わらない表情で語りかけた。


<実は隊長に見ていただきたいものがあります。おいで頂けませんか?>

「そうか・・・、何だか分からないが、まあ、今は時間もあるし構わないよ」


そういうと彼は椅子から立ち上がり、先導するカタミミについていった。


カタミミが連れて行った場所は、彼が住んでいる隊舎の直ぐ隣にある体育館だった。

そんな体育館の中は真っ暗で、中に何があるのかさっぱり分からない。


そんな暗闇の中で彼がキョトンとしていると、突然、入り口が閉ざされた。

驚いた彼がカタミミに話しかけようとしたが、既にカタミミの姿はどこにも無い。


何が起こったのか分からず、周囲をキョロキョロと見回す彼だったが、その時、どこからか綺麗な歌が聞こえて来る事に気がついた。


その歌は徐々に大きくなり、最終的に大勢が歌う合唱となった。

そして歌われている歌は、誕生日を祝う歌だったのだ。


歌が終わると天井に固定されている照明がつけられる。

そして彼は、体育館がどうなっているのかを理解したのだ。


そこには、彼が所有している全ホムンクルス兵が綺麗に整列していた。

そして天井には大きく、


「誕生日おめでとうございます」


と書かれた横断幕が垂れ下がっている。


そうなのだ。

彼女達は彼の誕生日を祝おうと、こっそりと誕生日会の準備を進めていたのだ。

歌い終えたホムンクルス兵達は声を揃えて、


<<<<<お誕生日おめでとうございます>>>>>


と彼の誕生日を祝った。



その光景を見た彼は、感動のあまり目を潤ませる。

まさか、こんな事をしてもらえるとは思ってもいなかったのだ。


そんな彼の前に、16本の蝋燭が立てられた小さなケーキが運ばれて来る。

彼はこぼれそうになる涙を必死に堪え、蝋燭一本一本に火をつけていく。


そして全ての蝋燭に火を点け終わると、彼は女神に対して祈り始めた。


(・・・女神様・・・。

・・・どうか、どうか、この幸せな時間が続きますように・・・。


彼女達と人類が、手を取り合って生きることが出来る世界になりますように・・・)


そして彼が顔を上げると、ホムンクルス兵達は拍手を始めたのだ。

その拍手は暫く続き、終に彼の瞳から涙がこぼれてしまうのだった。



それから誕生日会は本番を迎える。

ホムンクルス兵達は「自作」した様々なプレゼントを彼に贈った。


それは骨を加工して作ったペンだった。

それは皮を加工して作ったチョッキだった。

それは髪を糸代わりに使い、綺麗な瞳を繋げたアクセサリーだった。


そんな愛に満ちた贈り物を貰い、彼は少しだけ苦笑いをする。


贈り物が終わると、今度は演劇が始まる。

演劇の内容は、彼が大好きな女性学者とホムンクルス少女の物語だ。


彼に隠れて必死に練習していたホムンクルス兵達は、素晴らしい演劇を彼に見せた。

彼は用意された椅子に腰掛け、わざわざ給養小隊が作ってくれたケーキを頬張りながら演劇を見続ける。


演劇は1時間程度続き、最後に出演者達が彼に礼をして幕が下りる。

すると彼は頬に涙が流れた跡を残しながら、椅子から立ち上がってパチパチと拍手をした。


そしてホムンクルス兵達に感謝の言葉を述べたのだ。


「みんな、本当にありがとう。

まさか最前線で、ここまで盛大に誕生日を祝ってもらえるとは思って無かったよ。


俺はこの日を絶対に忘れない。こんなに感動したのは生まれて初めてだ。

本当に、ありがとう」


そして彼は、整列しているホムンクルス兵達に近寄り、一人一人とハグを始めた。


ハグをされたホムンクルス兵は、尻尾が千切れるのではないかと心配になる程に尻尾を振りまわす。

中には若い兵士に頬ずりする者や、彼の頬をペロリと舐める者も居たほどだ。


彼は数時間かけて全てのホムンクルス兵とハグをして、誕生日会は終了する。

誕生日会が終わった後、数人のホムンクルス兵が贈り物を彼の部屋に運び込み、残りのホムンクルス兵達は会場の片付けを始めた。


彼は己の部屋で山積みになっている贈り物を眺めながら、感動で震えるのだった。




サプライズ誕生日の翌日から、少年兵は積極的にホムンクルス兵と身体的接触を行うようになった。


任務を上手にこなしたホムンクルス兵達の頭を撫でまわした。

下命前に仕事をしたホムンクルスを抱きしめた。

すれ違うホムンクルス兵ともハイタッチで挨拶した。


そんな彼の態度に、ホムンクルス兵達は尻尾を振り回し、フサフサした耳すらも動かして喜ぶのだ。


そういった彼の想いとホムンクルスの努力が実り、最前線では陣地が大幅に強化された。


もちろん、強化されたのは最前線だけではない。

駐屯地周辺にも様々な防御施設が建設され、後方に存在する予備陣地も大幅に増強されている。


もし、このまま何事も無く物事が進めば、彼はこの駐屯地で幸せに生活出来たであろう。

来年になれば今まで積み上げた功績が評価され、同期の中では一番早く昇進もしたであろう。


しかし、現実はそうはならなかった。



大勢のホムンクルス兵達が任務に励む姿を、少し離れた森から監視する者達が居たのだ。

監視者達は特注の迷彩服を身にまとい、顔にも迷彩柄のドーランを丁寧に塗っている。


そんな監視者達は、全員がホムンクルス兵であった。

彼女達は数人が千里眼魔法を使って駐屯地周辺の防御施設を監視し、他の数人が杖を構えて四周を警戒している。


そして千里眼魔法を使うホムンクルス兵は、駐屯地に建設されつつある防御施設を詳細に記録した。


駐屯地内の隊舎の多くが補修され、使用可能状態にある事を記録した。

最前線に続く道は拡張され、大部隊が移動可能である事を記録した。

最前線の塹壕は強化され、防御能力が飛躍的に向上している事を記録した。


そんな監視を続ける彼女達の頭には、可愛らしいネコミミがピンと立っている。

そう、彼女達は敵国が放った偵察部隊であった。


彼女達は上官の命令通りに偵察任務を行い、判明した詳細なデータを司令部に提出する。

その提出されたデータを見て、敵軍の司令官は苦虫を噛み潰したような顔をしたのだ。


最近まで存在しなかった建設大隊が派遣され、大幅に強化されている敵の前線陣地。

大部隊が移動可能な道の拡張工事や、放棄されていた隊舎の修繕。

更には、駐屯地周辺の防御施設建設や予備陣地の施設建設・・・。


これらが意味する答えは唯一つだ。

それは、


「敵軍は大攻勢の準備を進めている」


という答えだ。


しかし、ここらから先が人によって選択が変わる部分でもある。


慎重な司令官ならば、敵の侵攻に備えて自軍に防御施設の建設を開始するかもしれない。

保身を考える司令官ならば、敵が侵攻を開始する前に後方への異動を願い出るかもしれない。

楽天家な司令官ならば、この報告を受けてもノホホンとしているかもしれない。


しかし、敵軍の司令官は猛将で知られる人物だったのだ。

そして敵軍の司令官はこう考えた。



(敵が侵攻準備を完了して侵攻を開始すれば、こちらに勝ち目は無い。

だが、今なら敵は油断している。


偵察部隊の報告から、敵には建設大隊以外は通常配備の部隊しか存在しない事は分かっている。

今すぐに周囲の友軍から物資人員を集めれば、敵が侵攻を開始する前にこちらから攻め込む事が出来るかもしれない。


圧倒的な数を誇る敵軍の侵攻を少数の部隊で防ぐのは難しいが、油断している敵に攻め込むのは容易だ。

それになにより、俺は烈火の如く攻撃するのは得意だが、防御戦や撤退戦は苦手だしな。


・・・ここは、無理をしても攻勢に出るべきだろう)



総攻撃を決定した敵軍司令官の行動は迅速だった。


司令官は他の前線に居る友軍の予備戦力を引き抜き、後方に存在する補給所から侵攻に必要な大量の物資を無理矢理送らせた。

そして司令官は僅か一週間程度で師団規模の戦力を揃え、侵攻の準備を整えたのだ。


侵攻準備で疲れ果てた部下から準備完了の報告を受けた司令官は、即座に隷下の師団に攻撃開始の命令を伝えたのだった。

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― 新着の感想 ―
もしかして戦争って犬vs猫なのか可愛いけど辛い。。ブタ族もまだ残ってるのかな
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