少女との出会い
私が人工島で一人ファッションショーを楽しんでいた時、女性学者はそれなりに真面目に活動していた。
彼女は様々な場所で探索魔法を使い、拠点として使えそうな建物を探す。
しかし、理想的な建物は見つからない。
それでも彼女は諦めずに、探索魔法を使い続けた。
そして時々、研究所の所長が隠していたであろう高級酒を見つけては、わざわざ大きな瓦礫を魔法で押しのけて回収していった。
そんな探索を続けたが、残念ながらその日は拠点を見つけることは出来なかった。
そして彼女は魔物の背中から小型のテントを下ろし、今夜はそこでキャンプをする事にしたのだった。
日が落ち、空に星が煌き始めた頃、既に彼女達は夕飯を済ませていた。
魔物も満足そうな顔でテントの近くに横になり、静かに眠りについている。
彼女は灯りが一つもない廃墟の群れを見ながら、思いをはせていた。
(この国は、本当に素晴らしい国だ。
ここの魔法技術は、現代においても色あせていない。
・・・いや、違うな。
現代においても、この国の魔法を再現することは不可能だ。
それ程に進んだ魔法技術を持つ国が滅ぶなんて・・・。
彼らは一体、何をしたというのか?)
彼女の眼前には巨大な魔物の骨が月明かりに照らし出されている。
それは、まるで白い丘の様に延々と城壁まで続いているのだ。
後ろを振り返れば、遠くにある崩れかけた城にも、巨大な骨が山のように重なっていた。
(これ程の魔物が襲撃する理由・・・。
やはり、そこには魔法が関与しているに違いない。
この国が使った「魔法」によって、魔物は引き寄せられたのだろう。
一体、何だ。
どんな魔法を使ったんだ。
それさえ分かれば、魔法と魔物の関係もはっきりする筈・・・。
・・・しかし・・・、この広大な廃墟の山からたった一人で原因を探し出すのか・・・。
一体、どれほどの時間がかかるのか・・・。
果たして、私が生きている間に、原因を見つけることが出来るのだろうか・・・?
・・・いや、駄目だ。
そんな事を考えては駄目だ。
ここが、人類と魔物の戦いの最前線だ。
そして私こそが人類の希望であり、人類の未来そのものだ・・・。
私が諦めた瞬間、人類は長い長い苦しみに満ちた歴史を送る事になるだろう。
私は、諦める事は許されない。
そう、まるで大神官が女神教を広めたときのように、最早私の人生は私だけの物ではないのだ。
私の人生も、私の研究も、これから続く人類を支えるために存在しているのだ。
「決して挫けてはならない」
「決して負けてはならない」
演劇で何度も聞かされた大神官の台詞だ・・・。
まさか、こんな時にこの言葉が頭の中に響くとは・・・)
そして彼女はゆっくりと目を閉じると、力強く目蓋を開いた。
そこには決意を新たにした瞳があった。
・・・そして、彼女は研究所で回収した高級酒を一本まるまるラッパ飲みし、明日からの探索に備えてテントで休むのだった。
翌朝。
ズキズキと痛む頭を抱えながら、彼女は魔物の背中に上る。
魔物は心配そうに彼女の顔を見上げるが、彼女がわき腹を小さく蹴った事を確認するとノソノソと歩き始めた。
(ああ・・・、くそ・・・。
ズキズキと頭が痛む・・・。
決意を新たにしたつもりだったが、生来の酒好きはどうにもならんな・・・)
そんな事を考えながら、彼女は魔物の背中で探索魔法を使う。
移動しては探索し、また移動しては探索しを繰り返し、昼食時になった。
残念ながら、彼女は未だ研究拠点を見つけていない。
本当ならばもっと長時間探索を続けたかったが、彼女の腹と魔物の腹が同時にグーと大きな音を立てた。
彼女はため息を吐きながら魔物の背中から下り、昼食の準備を始める。
大きな鍋には畑から手に入れた野菜が山盛りに入れられており、小さな鍋ではスープが作られている。
美味しそうな匂いが鍋から立ち上る湯気に乗って周囲に運ばれる。
その匂いに魔物は涎を流し、彼女の腹は更にグーグーと鳴り続ける。
そんな時、小さな足音が彼女達に近付いてきた。
最初は小型の魔物か動物でも来たのかと思っていた彼女だったが、足音の主を見た瞬間、彼女は目を見開く程に驚いた。
見上げた瓦礫の上に、女神様が立って居たのだ。
女神様は正面部分に殆ど布が残っていない、ボロボロになった白い服を着ていた。
そして瓦礫の上から、彼女達にジッと視線を送っているのだ。
そんな女神様に魔物もチラリと視線を送るが、直ぐに興味を失ったらしく、視線を大鍋に戻した。
真っ白な長い髪を風になびかせ、透き通るように白い肌をした女神様はゆっくりと瓦礫を下り、鍋の横で驚いた表情で固まっている彼女の目の前に立った。
そして驚きのあまり身動きが出来ない彼女に、女神様は語りかける。
<あなたは誰ですか?>
と。