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孤独なファッションショー

女性学者が必死に研究拠点を探しているとき、私は風呂から上がった。


私の細い体からは湯気が立ち、肌はまるで幼子の様に水を弾いている。

そして体にはシワやシミは一つも無く、それは気の遠くなるほど長い時間を生きている人の体とは思えない美しい裸体であった。


そんな人工的美しさを誇る裸体を見下ろしながら、私は呟く。


「・・・流石はご先祖様です。この純白の体は、本当に美しい・・・」


そして私は、唇をかみ締めた。



その後、私は脱衣所で新しい服に着替えようとしたのだが、ここで一つ余興を思いつく。



(いつも同じ服ばかり着ていては流石に飽きてしまう・・・。


機能的には全く問題の無い服なのだが、・・・今回は外見を少しだけ変更してみようか?

だが、旧人類のファッションを真似ても面白くないな・・・。


・・・よし、今日着る服は新人類の服を真似てみよう。

彼らの服は中々奇抜で面白いデザインをしている。


いつも着ている服と同じ生地を使えば、機能的にも問題は無い筈だ。


さて、どんな服を着ようか・・・)


そして私は裸のまま脱衣所を出ると、居間で巨大なアミダクジを作り出す。


その巨大なアミダクジには数億人にも上る新人類全員の名前が書かれており、時折書かれていた名前が消えたり、新しい名前が現れたりしている。


(さて、これで準備は出来た。

今日着る服はここに書かれた誰かが「今」着ている服にしよう。


もしかしたら今日一日、赤ん坊の服を着る事になるかもしれない。

もしかしたら今日一日、騎士の鎧姿になるかもしれない。

もしかしたら今日一日、ブタ族の服を着る事になるかもしれない。


・・・なんだかワクワクする。


果たして私は今日一日、どんな姿で過ごす事になるのだろうか?

まあ、サイズが合わない可能性が高いので、その時はデザインそのままに、服のサイズだけ変更すればいいか。


もし、服のサイズを変更してしまうとデザインが崩れるようなら、多少私の体のサイズを変更しよう。


・・・では、始めるとしようか)



私は巨大なアミダクジの前に仁王立ちし、どこを選ぼうか少しだけ悩んだ。


「・・・よし。ここにしよう」


私が選んだ線はいくつもの分岐を進み、一つの名前に辿り着く。


名前に辿り着いた瞬間、私の目の前に服が現れたが、それだけではない。

私の体も大人びた体型となったのだ。


小ぶりな胸は大きくなり、身長も伸びた。

少しだけ視界が高くなった私は、目の前に現れた服をワクワクしながら広げる。


・・・それはボロボロになった服だった。

元から肌が露出気味だったデザインの服は、所々に引き千切られたような穴が空いている。


いや、これは穴が空いているというレベルではない。

完全に胸はむき出しになっているし、そもそも正面に布が殆ど残っていない。


まるでマントの様になっている服を眺めながら、私は不思議そうな顔をする。

しかし、次の瞬間には納得していた。



(ああ、成る程、そういう事か。


この服の持ち主は娼婦だ。

確かに彼女はこういった服を着て路地に立って娼婦として働いているが、普段はここまで肌を露出していない。


「今」、彼女は暗い裏路地で男達に強姦されている真っ最中だから、こういった服を着ているのか。

男達は彼女を汚い地面に押し付けて身動き出来なくし、服を掴んでは強引に引きちぎっているな。


この服を作った人工知能は、彼女が「今」着ている服を正確に再現した為、こういった服になったのか)




本来、彼女が着ていた服は彼女の大きな胸に合わせて作られていた服だ。

彼女は大きく魅力的な胸を使って、道端に立つ娼婦の中では有名な娼婦となっていた。


まあ、今回はその「魅力的な胸」が災いして強姦されている訳だが。




(・・・しかし・・・、この服の胸の部分には殆ど布が残っていないし、ここまで私の胸を大きくする必要は無かったんじゃないだろうか?


私は今日一日この体型で、この服を着るのか、・・・まあ、一つの余興としては面白いか。


多少動き辛いが、これはこれで楽しいな)



私は服ともいえない服に着替え、大きな鏡の前でクルリとターンをする。

鏡には殆ど裸に近い、少し大人びた私の姿が映っている。


そんな己の姿を見て、私は思った。



(・・・こういった姿に男性は興奮するものだろうか?


まあ、彼女を強姦している男達はとても興奮しているし、多分そうなのだろう。


男性か・・・。

そういえば最後に見送った隣人は男性だったな。

彼もこういった姿が好きだったんだろうか?


もし、私が彼の目の前でこういった格好をすれば、彼は死ぬ事は無かったのだろうか?

むしろ興奮して私に襲い掛かってきたのだろうか?

そして強姦している男達同様に、私に劣情をぶつけてきたのだろうか?


・・・それは有り得ないか・・・。


そもそも私を含めて旧人類には性欲が残っていなかった。

子孫を残す必要性が無いのだから、性欲なんてあるはずが無い。


いや、性欲だけではない。

末期に存在していた旧人類は、基本的に無欲だった。

私たちはただそこに存在していた、そう・・・まるで路傍の小石の様な存在なのだ。


更に言えば旧人類の体に子供を作る能力は無い。

男性には精巣が無いし、女性には子宮が無い。


もし子供が欲しいなら、己のDNAデータと相手のDNAデータを合成して培養機で作れば良い。

そんな事が常識となっていた旧人類に、「強姦」等と言う選択肢は最初から存在しない。


多分、隣人の前でこういった格好をしても、隣人は普通に挨拶して玄関の扉を閉め、普段通りの生活を送るに違いない。


そう考えると「強姦」というのは中々興味深い行為だ。

こういった発想は、旧人類には残っていなかった)




私が鏡の前で考え込んでいる間も、男達は狂った様に彼女の体に群がり、己の劣情を彼女の体に押し付けている。


拘束魔法で動けなくなった彼女は、必死に助けを求めて叫ぼうと努力している。

そんな彼女の手には女神教のシンボルである「私」が描かれたペンダントがしっかりと握られていた。


どうやら彼女は、外の世界の「私」にも助けを求めているようだ。



最終的に彼女は仲間の男達に助けられ、強姦していた男達はその場で殺された。


だが、既に彼女は男達によって徹底的に汚され、様々な病気を伝染されていたのだ。

これで彼女の残りの寿命は良くて10年程度となったわけだな。


彼女はボロボロになった仕事服を呆然と眺め、苦虫を噛み潰した顔をして強姦男達の死体に蹴りを入れる。



そんな光景を興味深そうに感じながら、私は日課となった散歩に出かける。

人工島外周を散歩する裸に近い私の姿を見るのは、海に居る小さな魔物位だった。


二週間戦争直後に存在していた巨大な魔物は、もう居ない。

彼らは人工島周辺の魔力カスの大半を処理した後に、餓死してしまった。

今、人工島周辺に居るのは小さな魚の魔物位だ。


そんな小さな魔物達は普段と違う姿をした私を暫し見つめるが、直ぐに興味を無くしたようで、フヨフヨと泳ぎ始めるのだった。

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