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21.マーカスとの出会い

『ふんわりパン』が家族に好評で、さらに私は酵母液を定期的に作るという作業が加わった。

 ……うん、だんだんと私一人じゃ手が足りなくなるんだよね。


 なんというか、贅沢なことを言っていると思うのだけれど、私が【鑑定】に頼って錬金術の品質の見極めをしている以上、どうしても、同じ【鑑定】を持っている人じゃないと、品質を維持できないような気がする。それに何より、色んなタイミングの見極めどころを伝えづらい、という問題があって、誰かに手伝ってもらう必要があるという問題が後手後手になってしまっているのだ。


 ……しかも、六歳の錬金術師の弟子?になりたい人なんていなさそうだし……。


 そんな悩みを抱えている今日この頃なのだが、今日は朝市が開かれるので、次に作るものの食材を買いに、ケイトと街に出てきている。午前中の魔法の練習は今日だけお休みだ。


 と、そんな事情で街を歩いているときだった。

「こんな品質の悪いモンしか作れない店で弟子なんてやってられるか!」

 私と同じくらいの年頃の男の子が、バン、と荒々しくお店の扉を開けて出てきた。

「品質が悪いなんて人聞きの悪いこと言うな!こっちこそお前なんか破門だ!」

 店の中から、少年の言葉に怒った男性の怒鳴り声がした。

 そして、カバン一個が外に放り出された。きっと少年の荷物なのだろう。


 ……その店の看板を見上げると、錬金術師の店だった。


「品質が悪い」と言った彼の言葉がどうしても気になって、ちょっと悪いかもしれないけれど、【鑑定】で見てみることにした。



【マーカス】

 平民・長男

 体力:50/50

 魔力:170/170

 職業:錬金術師見習い……だった

 スキル:鑑定(3/10)

 賞罰:なし


 やっぱり【鑑定】持ちだった!しかも錬金術師見習い!さらに過去形!

 彼しかいないよ!逸材発見!


 私は、放り投げだされたカバンを取りに行く彼に駆け寄り、ガシッと手を掴んだ。放ったらかしのケイトは何事かとびっくりしている。

「私、錬金術師のデイジーっていうの。少しお話できないかしら?」

「はあ?こんなチビが錬金術師?何言ってんだ……って、本当だ」

 最初は訝しげにしていた彼が、私をじっとみて(多分鑑定で見てるんだろう)、驚きに目を見開いて呟いた。


 と、そこで、「ぐうううううう」と、彼のお腹から盛大な音がした。

「お腹すいているの?」

 顔を真っ赤にしている彼に尋ねる。

「朝メシ食べる前に親方と口論になっちまって、食べてないんだ」

 そう言ってお腹を押えながらガシガシと頭を搔く。


「ねえ、ケイト。こんな時間じゃ食べ物屋さんって開いてないわよね?」

 背後で呆然としているケイトに尋ねる。

「まだ、朝早いですからね」

 そう言ってケイトは頷く。


「お話ししたいこともあるし、私のうちに来て!朝ごはん食べさせてあげる」

 そう言って、ケイトにいいでしょ?と尋ねる。

「ボブに頼んでみましょうか」

 ケイトが仕方ないといった様子で頷き、私はその日の市場は諦めて、彼と一緒に自宅に戻ることにした。


 ◆


 家に帰って、彼には少し玄関で待ってもらい、お母様に彼を招き入れる許可を貰う。

「お母様、ぜひ錬金術をお手伝いしてもらいたい少年がいて、その子が、今朝前の職場から追い出されてしまってお腹を空かせているんです。家に招いて、食事を食べさせても良いですか?」

 お母様は、「いいわよ」とにっこり笑って頷く。

「あなたを手伝ってくれることになるなら、後で私とお父様にもちゃんと顔合わせをするようにね」

 と、一応釘は刺されたが。


 ようやくマーカスを家の中に招き入れ、一緒に厨房へ向かう。すると、ボブはいないがマリアが居た。

「ねえマリア、この子朝ごはんがまだでお腹を空かせているの。何か食べさせてあげられるものはないかしら?」

「ちょうど私たち使用人達の一人が休んでいて、パンが一つとスープが余ってますよ。温め直しましょうね」

 そう言って、マリアが支度しに移動する。

 私たちは、厨房の中にある使用人用のテーブルに二人で腰を下ろして待った。


「何だこのパン!凄い美味い!」

 出されたパンに、マーカスが驚いた。例の『ふんわりパン』だ。我が家では、パンは使用人も含めて『ふんわりパン』が出されることになっている。


「それも、ふんわりのもとは錬金術で作るのよ」

 私は美味しそうにパンにかぶりつくマーカスを眺めながら言った。


「あとねえ、こんなものも作れるわ」

 そう言って、ポシェットに入れて置いたポーションとハイポーションを机の上に乗せて彼に見せた。

「えっ!こんな質のいいやつ、見たことない!お前が作ったのか?」

 瓶二本を見て驚いている。

「うん、他にもマナポーションも作っていて、国の軍に納品しているの」

 国に納品、と聞いてさらに驚いたのか、マーカスは目を瞬かせる。


「お前って見かけによらず凄いんだな。あ、俺はマーカス。七歳で見ての通り平民だ」

 ようやく朝食を食べ終わったマーカスは、自分の名を名乗る。

「うん、【鑑定】で見せてもらったから知ってる。さっきは偽装してたから、見えなかったかもしれないけれど、私も【鑑定】が使えるから。私はデイジー、六歳よ。よろしくね」

 私はにっこり笑って名を名乗る。


マーカスの口調について気になられた方は、後のお話で叱責を受けて再教育、と後のお話につながっていますので、しばらくお待ちいただけると幸いです。

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