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9、告白

 美少女生徒会副会長のなれの果ての姿を見ながら、俺は思う。


 ……酔っぱらって自分が未経験者だと告白した真桐先生程、正気を失うようなインパクトはないな。

 そう考えれば、みっともなく床を転げまわる竜宮なんて、お可愛いものだ。

 俺は一つ深呼吸をして気持ちを整えてから、再び生徒会室を覗き見て、竜宮の様子を確認した。


 彼女はぺたんとお尻を床につけて座りながら、


「もー……もぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!! ……ふえぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」


 と、先ほどよりもなおヒートアップした様子で、床をポカポカ拳を握って叩いていた。

 もしかして俺が覗き見ていることがバレていて、竜宮はウケを狙ってこんなことをしているのかもしれない。本気でそう思い、俺は自然と鼻で笑っていた。


 彼女の様子を見守りながら、流石に今の状態で声をかけるのは無理だな……なんて思っていると、ピタリと動きを止めた竜宮。

 それから、


「会長も友木さんもイミワカンナイ! 漫画でも作者が気を使って480点代くらいに抑えるっていうのに……満点と496点って!!? ……そんなんチートやチーターやん!」


 と490点台を叩き出した自分のことを棚に上げつつ、何故か関西弁で悔し気に呻いた竜宮。

 意外なことに彼女はライトノベルを嗜むようだった。


「というか! やっぱりあの顔の怖い人は気に入らないっ!」


 そして、竜宮は座ったまま、拳をギュッと握って、痛々しい表情を浮かべて呟く。


「会長が仲良くしている人だから、決して悪い人じゃないのは分かっているけどっ……!」


 ……池に対する竜宮の信頼が高すぎるだろ。


「私を差し置いて会長と仲良くするし、あんなに可愛らしい冬華さんともイチャイチャしているし。ずっと私が維持してきた会長の隣――一位にはなれないまま、二位の座までとられるし……。会長の隣には、私がいたいのに、あの人が私の道を阻んでくる……」


 救いを求めるような、竜宮の弱々しい呟き。

 だけどきっと、今この場所で俺は彼女に声をかけるべきではないのだろう。


 しかし、その言葉を聞かないふりをすることは出来なかった。

 きっと、彼女のように。……いや、彼女以上に。

 俺が池と一緒にいるのを、快く思わない人間は、いるのだろう。


 だけど、池は俺を友達だと思ってくれているのだ。

 だから俺は――あの主人公の友人キャラとしての矜持を貫くために、生徒会室の扉を勢いよく開いた。


 そして俺が扉を開くのとほとんど同時に、竜宮が一人告げた。


「もういっそ会長に勝てないままでも、好きだと告白してしまえたら……どんなに楽「あ、すまん。お邪魔しました」……え?」


 急に池への好意を吐露した竜宮と目が合った。

 俺はとりあえず何も聞かなかったことにして、急いで扉を閉じる。


 ……さーて、今から昼飯を食うか。

 そう思って生徒会室から背を向けて歩き始めようとしたのだが、


「え? ……友木さん? どうなされたんですか、こんなところで?」


 俺の肩に何者かの手が置かれ、背後から強張った声が聞こえた。

 恐ろしい程の握力で掴まれる肩、振り切って逃げることは出来そうにない。

 なるほど、これが噂の女子力か。などと現実逃避気味に考えていると、竜宮が続けて口を開いた。


「少し、お話をしましょうか?」



 俺は生徒会室の一室で、竜宮と向かい合っている。

 彼女は手慣れた様子で俺に紅茶が注がれたマグカップを差し出した。


「どうぞ。……毒なんて入っていませんので、ご安心を」


 などと、逆に不安になってくるようなことを言う竜宮。

 俺は愛想笑いを浮かべつつ、「おう、悪いな」と一言返し、そのマグカップを受け取った。


 竜宮は自分の分の紅茶に口をつけてから、


「それで……どこから、聞いていたんでしょうか?」


 固く強張った声で、俺に問いかけた。

 ここでつまらない嘘を吐いても仕方ない。そう思い、正直に告げる。 


「竜宮が生徒会室で一人、言葉にならない悔しさを呟きながら地団駄を踏んだり、床を転げまわったり、ポカポカ叩いているところくらいから見ていた」


 と俺は言う。

 その言葉を聞いた竜宮はというと、


「はうぅ……」


 と呻きつつ、顔を両手で覆っていた。もちろん、耳まで真っ赤になっていた。

 それからしばらく無言でそうしていた竜宮。

 数回深呼吸を繰り返し、落ち着いたのか彼女はもう一度俺に向かって問いかける。


「それでは……その。友木さんが部屋に入ってきたとき、私が何か言っていたことは聞こえていましたか?」


 落ち着いたように見えて、やはり不安と羞恥を抱いているのだろう。

 彼女の声は震えていた。


「え、ああ。聞こえてたぞ。池にこくは「わあぁぁぁぁぁぁぁああっ!! 信じられませんっ!そういうのは嘘でも『聞いていない』って、言うところですよ!??」……え、ああ。聞いてないぞ」


 俺の言葉を遮って、一人で盛り上がる竜宮に、俺は無表情にそう言った。

 

「そんな見え透いた嘘で私が騙されるとお思いですか!??」


 不服さを滲ませて、竜宮は言う。

 あまりにも理不尽なその言葉に、流石に俺は失笑を浮かべてしまう。


 そんな俺を見て、さらにむくれる竜宮に、俺は告げる。


「まぁ……安心しろよ」


「何をですか?」


 疑わし気な目をこちらに向けつつ、彼女は問いかけてきた。


「竜宮が池のことを好きなのは、とっくに気づいてたからな」


 俺の言葉に、目を丸くする竜宮。

 それから、戸惑ったように彼女は言う。


「……え?」


「見てれば分かるって。……いや、悪い。逆に、気づかれていないとでも思っていたのか?」


 あまりにも呆然とした表情を浮かべていた竜宮に、俺は心配になって問いかけた。

 すると彼女は顔を真っ青にしてから、


「え……それじゃあ、友木さんですら気づくということは、会長もすでに私の気持ちに気づいて……?」


 同様を浮かべてそう言った彼女。どうやら本気で誰にも気づかれていないと思っていたようだ。

 俺は竜宮を安心させるように、


「いや、池は自分に向けられる恋愛感情には異常に鈍いからな、多分気づいてはいないだろ」


 俺の言葉に、竜宮はホッとするものの、どこか残念がっているような、複雑な表情を浮かべた。

 それから、俺に不満をを宿した眼差しを向けてから、口を開く。


「……それでも、納得できかねます。無断で私の恋心を知った罪は重いです」


「知られたくないならもっと上手に隠すべきだと俺は思うのだが」


 恋する当たり屋の竜宮に、俺は切実に思ったことを伝えた。

 しかし、俺の言葉を無視して、彼女は言葉を続ける。


「しかし、知られてしまったからには仕方ありませんね。そうなんです……」


 思いつめた表情を浮かべ、潤んだ瞳を俺に向けながら、口を開いた。




☆☆




「好き……なんです」


「……知っている」


 竜宮の言葉に、俺は頷きつつ応えた。


「……それでしたら、友木さん。私の言いたいこと、分かりますよね?」


「ああ、分かっている」


「でしたら……私が会長とお付き合いをするお手伝いをしてくれますね!?」

 

「俺に何ができるかは分からないが、力を貸す。約束する」


 こんなポンコツになるまで、竜宮は一人で思いつめてしまったのだ。

 そして、彼女を追い詰めた一因は、俺にある。

 ならば、何ができるかは分からないが……彼女の力になりたいと、俺はこの時思ったのだ。


 俺の言葉を聞いて、ホッとした表情を浮かべてから、竜宮は惚けた表情で続けて言う。


「本来は、会長をメロメロにさせて、生涯の愛を誓ってもらうのは私一人の実力で、というのが王道なのですが。あなたがどうしてもというのなら、その言葉に甘えてあげるのも良いでしょう。ですが、こうなってしまえば会長が私を意外なほどたくましい腕に抱きながら、耳元で愛の言葉を囁くようになるのも、もう時間の問題というわけですか。それはなんだか、素敵なことですよね。……いえ、流石にその先までは許すつもりはありませんが……会長が本気で私を求めてきたらどうしましょう……? 高嶺の花というのは、手に入れられないからこそ強く欲したくなるもの。やはり心を鬼にして、断るべきだと思いますが……一応参考程度に、友木さんはどう思いますか?」


 とんでもなく早口で意味不明な呟きで、ほとんど何を言っているかわからなかった。


「あー……それな!」


☆☆☆



「あー……それな!」


 と言いつつも、(うーっわ、めんどくさ……。)と、俺は考えた。

 俺に何ができるか分からないというか、俺にできることなんて何もないだろ。

 何を求められるか今から不安で仕方ないし、恐ろしい。


 俺は情けないことに、竜宮の無邪気で邪悪な笑顔を見て、背筋がブルっていた。


 ……というか。

 こんな風に開き直らずに上手いこと失態を誤魔化して、隠し続けてくれたほうがよっぽど良かった。


 俺は、彼女が浮かべる笑顔を見ながら、今からでもどうにかこれまでの話の全てを聞かなかったことにできないだろうかと、しばし考えるのだった――。




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