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8、副会長のなれの果て

 真っ赤になった竜宮は深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせようとしている。


 彼女の様子に気づいた池と冬華の二人と顔を見合わせる。

 二人は察したような表情を浮かべていた。俺は、池と冬華と無言のまま頷きあった。

 

 おそらく今、とんでもなく恥ずかしがっている竜宮。

 彼女がどんな対応をしようとも、優しい言葉をかけてあげよう。

 暗黙のうちに、俺たちはそう共有した。


 それからしばらくして、深呼吸をやめた竜宮。

 それから、顔を覆っていた両手を口元にずらし、コホンと可愛らしく一つ咳をしてから、普段のおすまし顔を浮かべた。 

 ……しかし、朱色の頬を見るに、未だに羞恥を抱いているのは明白だ。

 もちろん、俺たちは誰一人としてそこには触れないのだが。


 彼女はもう一度だけ可愛らしく咳をしてから、こちらに視線を向けてから口を開いた。


「会長、友木さん。……お二人とも、前回同様の結果、おめでとうございます。私も夏休み期間を利用して勉学に励んだつもりでしたが、お二人に比べればまだまだだったようですね」


 すっかり普段通りのような言葉だったが……視線が俺と池の間をキョロキョロと泳ぎまくっているし、口元はふにゃふにゃしていて様子がおかしい。

 それに、もう一つ彼女が精神的なショックから回復できていない証左があった。


「すみませんが、みなさん。私は急用を思い出しましたので、失礼させていただきます」


 綺麗な会釈をしつつも、悔しさと恥ずかしさのためだろう、スカートの裾を握る手が震えていた。

 俺たちはその哀愁漂う背中に声をかけることができないまま、彼女は立ち去った。


 ……俺は、池と冬華と再び顔を合わせた。


「……大丈夫ですかね、乙女ちゃん。先週はかなりイキってたのに、アニキにも優児先輩にも負けちゃって」


 意外にも心配している様子の冬華。

 俺の視線に気づいたのか、


誰か・・に勝ちたい気持ちも、勝てない悔しさも。私は分かってるつもりですから。……一応は」


 どこか気恥ずかしそうに言ってから、彼女はプイと俺から視線を逸らせた。。

 なるほど、他人事とは思えない、というわけか。

 ……本当に優しい奴だな、冬華は。


「このまま放っておけない。……少しだけ様子を見に行ってはくれないだろうか?」


「俺がか? 池……は確かに今声をかけるべきではないだろうが、俺よりも冬華の方が良いんじゃないか?」


 俺の純粋な疑問に、池は首を振ってから答える。


「竜宮はきっと、冬華の前では格好つけてしまうからな。優児なら、気兼ねなく話せる……可能性が一番高い」


 苦笑を浮かべつつ言ったのは、俺自身竜宮を任せた相手だからだろう。


「分かった。少し様子を見てくる。一緒に昼飯食べられないかもしれないが、良いか、冬華?」


 俺が冬華に向かって問いかけると、


「……しょうがないですね、こんなに可愛くて健気な彼女をほったらかすなんて、普通はありえませんけど。今回は特別ですよ?」


 はぁ、とわざとらしいため息を吐きながら、彼女は答えた。

「悪いな」と俺は呟いてから、そういえばと考える。


「そうだ、池。竜宮はどこに行ったか分かるか? 教室に戻ったのか?」


 俺の疑問に、池は優し気な微笑を浮かべてから、答える。


「ああ、竜宮はきっと――」





 生徒会室。

 そこに、竜宮がいることを俺は池から聞いた。

 生徒会室の中からは、竜宮が何事か言っていることが不確かだが廊下にまで聞こえていたため、彼女がここにいることは確実だ。


 俺は、ゆっくりと扉を引き、微かに開いた隙間から、部屋の中の様子を見た。

 

 そこには――













「わぁーー! 悔しいっ! すごく悔しぃー! もぉー……もぉー!!!!!!」













 悔しさに歯噛みして、一人地団駄を踏む竜宮がいた。


 ――まさかな。

 俺は一度その光景から目を逸らし、深呼吸をする。


 あのお淑やかな生徒会副会長様が、あんな無様を晒すわけがない。

 そう思い、今度は見間違いを防ぐために両目を擦ってから、もう一度扉の隙間から生徒会室を見た。


 そこには――











「あー、もう! 悔しいっ! ホント悔しいっ! もー! ……もぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」













 と、叫びながら制服が埃に塗れることなど気にせず床を転げまわる、美少女生徒会副会長のなれの果ての姿があった――。



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