クロイツと勇者候補選抜御前試合 その二十一 ~迷探偵クロリア編 ディオナのツンツンの意味を解く~
「おはようございますクロリア、体調は大丈夫ですか?」
アリエルが心配そうに私を覗きこむ。昨日はお仕置きを受ける体調ではなかったのでお仕置きが無かった。そのせいか久々にぐっすり眠ることができたようで体調は良い。 だが精神的にはへとへとだ。いや正確には精神も回復させられてるから実際には疲れていないのだけど。
修行を思いだし呆けている私を心配そうにアリエルが覗きこむ。
「心配かけてごめんね。もう大丈夫だから」
「クロリアさんごめんなさい」
しおらしくディオナが私に頭を下げる。あらあら珍しいわね今日は嵐でも来るのかしら。私は気にしなくて良いとディオナに言うと、寝ている間に私の中で行われた私とシルフィーネ、クロイツの三者会談の話をアリエルに伝えた。
「またパワーアップしたんですか?」
「確かにパワーアップと言えばそうかもね、神気量が増えることがパワーアップだと言うならね」その瞬間、私の背筋が凍った。あの無の神気が、膨大な量の無の神気が私の側にいるのだ。それは黒魂ノ勇者剣のクロイツの物ではなくジュリちゃんからだ。クロイツに吸収された無の神気とは比になら無いほどの神気がそこにあった。
いままで神気を感じることの無かった私が神気を感じられるようになった、これはアディリアスの神気とウルティアの神気が結び付いた相乗効果によるものだろうか?
それは今はどうでも良い。
なぜ、もうデスの一人じゃないジュリちゃんから無の神気を感じるの?
……考えられることは一つね。あいつ、どこまでジュリちゃんに甘いのよ。記憶は奪っても力は奪ってなかったわけか。
無の神気がジュリちゃんの中にあるなら、いずれはジュリちゃんはデスの一人として目覚めるかもしれない。無の神気は破壊の力、世界を滅ぼす力、目覚めたジュリちゃんが破壊の使徒になるか天使になるかは親代わりである私達次第かもね。って、それはおこがましいか。生き方を私達が決めるのはエゴだ。だからと言っても世界を破壊するなんてのは絶対に許さないけどね
まあ、愛情一杯で育てて、それでも破壊の使徒になるようだったら私が全力で止めれば良いだけだわ。それに分からない未来のことなど心配してても仕方がない。その時が来たらおしりペンペンね。
すでに朝食の時間を過ぎていたのだが、皆は私が起き上がるのを待っていてたそうだ。かなり苦しそうな呻き声をあげていたりして、何度も起こしたのが起きなくて心配したと言われた。
あの地獄を味わえば呻き声の一つもあげるってものよね。あれは本当にやばい。確かにシルフィーネは教え方がうまい。まるで乾いた砂が水を吸収するがごとく、たった一日でも、すごい勢いで上達することができた。
だけどその修行は想像を絶するものだった。武道の形を教える時はそんなに大変じゃなかった、むしろ優しく懇切丁寧に教えてくれた。だけど実践形式の戦いがやばかった。私は精神の中で何度も何度もシルフィーネに殺された。シルフィーネは私よりほんの少しだけ上回る強さで私と戦い、常にギリギリの戦いを強いた。
本気のシルフィーネでは訓練になら無いからと言うことらしいのだが。何度も殺されて私の精神はズタボロになった。
シルフィーネはあれよね、アキトゥー王のことを文句言えないと思うの。いくら精神体で限界がないとはいえ。死ぬ思いでしたわ。
でも、この位しなきゃクロイツの精神を上回ることなんてできないのだから仕方がないと言えば仕方ないのか。
私は今後も続く修行を考えると身の細る思いがした。
ディオナは昨日魔物の部位を食べさせたせいで私に元気がないと思って、かなりしょげている。まあ、少しは良い薬になるでしょうし、もう少し心配させておくか。
とは言え、アリエルが食事の準備を始めているので、私もそれを手伝う。
私が手伝うのを見て「なんだ大丈夫じゃないですかと心配して損した」とディオナ様は宣う。まったくこの娘は……。もう少し私を敬って愛しなさいよ。いやこれは私を姉と見立てて甘えてるつもりなのかもしれない。考えてみれば何となくティアがディオナに接しているのと同じだ。そう考えると逆に微笑ましく感じずにはいられない。
まあ、それはさておき、すでに朝食の準備自体はしており、あとは並べるだけだった。朝食はいつもと変わらない献立だが今後は魔物の肉を食べなければいけない。
クロイツの肉に対するこだわりが、まずはどの魔物から食べようか思案させる。すでに魔物もクロイツの肉テイスティングの食材でしかないのだ。
私の胸からベルルが飛び出すとお腹がペコペコだと私の首を叩く。
「ベルルちゃんはハチミツで良いんですよね?」
アリエルが小さなカップに入れたハチミツを差し出す。
「ひゃ~! ハチミツじゃないか。これは良いものだ。お前良いやつだな顔覚えてやるよ」
そういってじ~っとアリエルを見るが「無理だわ」と言うと急に興味をなくし意識をハチミツへと移した。
ベルルは小さなカップにいれたハチミツを美味しそうに食べている。彼女の食事は花の蜜が主食だそうなのだが。ハチミツでも良いらしい、むしろご馳走だそうだ。ベルルのサイズでハチに刺されたら死活問題だから滅多に食べることができないそうで、夢中でハチミツを食べている。
ジュリちゃんはスプーンを不器用に持ち口を汚しながら食べている。その姿もまた愛らしい。
「早く食べちゃってくださいね」
二人を眺めながら食べている私をエマは急かすようにせっつく。ストロノガフに早く会いたいと言う気持ちがそうさせているのだろう。
「はい、はい。わかりましたよ」
私はぞんざいに返事をして、エマにいーっと口を一文字に広げて答えた。
「クロリアどうしたんですか」
私があざとい仕草をすることにアリエルがビックリし て私を見る。いや、精神の中でシルフィーネがアリエルの真似をしてたから私もちょっとあざとくしてみましたなんて言えない。
ごまかし笑いをすると私は食事を一気にたいらげた。みんなも手早く食事を終えると馬車は再び王都へ向かって走り出した。
「王都が見えてきました」
御者をしているエマが大きな声で私達を呼ぶ。皆はやっとたどり着いた王都の王城の大きさに驚き声をあげるが、私は一回見たのでそれほど感慨深くはない。けど、上から見るのと下から見るのとで結構違うもので王城はその威厳を示すように佇んでいた。
「じゃあ私は弟王子に到着したことを伝えてくるわね」
「はい、行ってらっしゃいませ」
アリエルがメイドのような仕草で私を見送る。なんだろう今のクロリア呼びも良いけど。たまにはこういう主従関係なのもゾクゾクするわよね。とっておきと言う感じかしら。よし、さっさと面倒くさいことは終わらせてお姉さん今晩はハッスルしちゃうぞ。
私はアイテムボックスから天空王ノ翼剣を取り出すとポトルガノフの住居へと向かった。