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幼馴染が女勇者なので、ひのきの棒と石で世界最強を目指すことにした。  作者: のきび
第三章 ミスティアとクロイツ ―ふたりの魔王討伐―
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クロイツと勇者候補選抜御前試合 その十九 ~料理対決。三分クッキングVSデス料理VS家庭料理VS直火焼きそして豆~

 日が沈む前に私たちは馬車が停められる場所で夜営の準備を始めた。

「じゃあ薪を拾ってくるわね」

「いりませんよ」

 (まき)がいらない? 馬車にはなかったようだけど、アリエルはアイテムボックスにでも薪をいれているのだろうか。

 薪は街道沿いにいくらでもある、だから持ち歩くと言うのは余程のことがない限りない。それ自体が荷物になるしね。

 とは言え雨降り等が予想されるときはあらかじめ用意しておくこともある。

 空を見ると真っ青な空が広がり雲一つない。

「アリエル、こんなに天気が良い日に薪なんか用意したの?」

「違いますよ、魔導具で調理できるんです」

 そう言えばこの馬車はキッチンも完備していた、だからとは言えども薪はなにも調理に使うだけじゃない。獣避けに夜どうし絶やさず点けておくのが習わしだ。まあ、マップでどうとでもなるからいらないと言えばいらないのだけど。

 こう言うのは雰囲気が大切だからね。

 だけどアリエルはアイテムボックスから円柱の魔導具を取り出すと地面においた。

「それは?」

「自動薪とでも言いましょうか、薪がなくても永遠に火が着いてます」

 薪も無しに火が永遠に? 私がそう言うとアリエルは誇張が過ぎたと言う。魔石の力が続く限りだそうだ。とは言え1ヶ月着けっぱなしでもだいじょうぶだと言う。

「それで、その魔導具で料理を作るの?」

「いいえ、馬車の中のキッチンで作りますよ」

 馬車の車内で火を使うのかと私は驚き、それをアリエルに聞くと火は使わないと言う。火を使わないのに料理ができるわけないじゃないかと言うと出来ますと要領を得ない。

 納得しない私にアリエルは目の前で作りますと言うので、ならば作ってもらおうかと言うことになり私たちは馬車のキッチンへ向かった。

 キッチンに立つアリエルの前には二つの黒色の円の板が二枚置いてあった。アリエルはそこにフライパンを置くとその中にベーコンを入れた。フライパンの中のベーコンはジュージューと音と煙を出し始め火も無いのにベーコンは良いにおいを出し焼けはじめた。煙はものすごい勢いで壁に付けてある四角の装飾の方へと吸い込まれていき、馬車の中が煙に包まれるようなことはなかった。

 ジュージューと焼かれるベーコンはその身の油を外に排出しフライパンの中はベーコンの油で満たされていく。

 アリエルはその油で卵を揚げるように焼くと皿の上にベーコンとその卵を乗せ私の前に差し出した。

 食べろと言うことなのだろうが。残念ながら私はベーコンはしっとり派で卵は蒸し焼き派なのだ。

 アリエルが作ったベーコンはカリカリで卵は片面を焼いたものだ流派がまるで違う。

 これでは食べられない。これを食べてしまえば私はしっとりベーコン派蒸し焼き卵の神に罰せられてしまう。

 そんな神いないけど。

 とは言えアリエルが私のためにせっかく作ってくれたのだ、ここは我慢して食べるしかないわよね。

 申し訳ありません、しっとりベーコン派蒸し焼き卵神よ。私は居もしない神に謝罪をしてフォークを持ち固いベーコンに切っ先を差し込む。

 くっ、こんなの板じゃない、なんでカリカリベーコン何て存在するのよ。アリエルの料理を否定する訳じゃないけど料理は主義主張(こだわり)が大事なのだ。一度曲げてしまえば私は大切なものを失うことになる。

 私が躊躇しているとアリエルはなにかを察したように「大丈夫ですよその卵はハコブネで管理されている安全な鶏から生まれた卵ですからサルモネラ菌とかありませんから」

 違う、違うのよアリエル。信仰する神(しょくのこのみ)が違うの。私にはカリカリベーコンはハードルが高いのよ。そしてこのベーコンの油ギトギト卵も。

「あ、申し訳ありません。調味料を出すのを忘れていました」

 そう言うとアリエルはアイテムボックスからケチャップやソース、塩コショウを取り出しテーブルの上に並べ、さあどれでも好きなものをお選びくださいと私に微笑みかける。

 私はその調味料を一通り見たが大切なものがない。そう醤油だ。魂のソールフード、ソイソースだ。

 そうよね、さすがにアリエルでも醤油は持ってないか。あれはアキトゥー神国のみで製造流通しているものだ他国民は食べたことすらないだろう。

 シルフィーネとクロイツの記憶がある今、私の身体は醤油を求めている醤油(ソイソース)でそそいのそいなのである。

 だがこの醤油はくせ者なのである。アキトゥー神国は徴兵制で王族や貴族を除く全ての国民は18歳から2年間の兵役の義務がある。ただし、身体が病弱なもの等は兵役を免除される。一度免除されれば再び兵役につかされることはない。

 そして、この免除のための道具に醤油が使われるのだ。醤油は実は海の水よりも塩分濃度が高い。そんな醤油を大量に飲めば下手をすれば死ぬこともある。実際毎年何人か死ぬこともあると言う。事態を重く見たアキトゥー王が醤油をこの量までは飲んでも大丈夫と言う御触書を出したほどだ。

 これが効をそうし醤油を飲んで兵役逃れがするものが減った。それはそうだろう醤油を飲んだときの症状まで書かれているのだ、同じ症状なら兵役逃れで醤油を飲んだと言うことになり非国民として一生生きていかなければいけなくなる。

 アキトゥー神国民の所在地や出生はすべて管理されており、他に住居を変えることは許可がいる。一度レッテルを貼られると、一生指を指されて生きていかなければいけなくなる。生活に支障が出るくらいなら2年の兵役を我慢するようになったのだとか。


 目の前のベーコンエッグ(げんじつ)を忘れるように考え事をしていたがベーコンエッグ(げんじつ)は無くならない。

 醤油さえあれば。醤油はアキトゥー国民に無くてはならないものなのだ、醤油さえあればこの油ギトギトの目玉焼きも美味しく食べられると言うのに。

「うあ、美味しそうですね。アリエルさんはカリカリ派なんですか?」

 ティアが私の後ろからヒョイっと顔を出しテーブルに置かれたベーコンエッグを見る。

「……なに派とかあるの?」

 アリエルはティアの言葉に首をかしげる。

「ありますよ、うちは宿なので見映えよく作るためにベーコンはしっとり卵は蒸し焼きなんですよ。もちろん見映えだけじゃなく美味しいですよ」

 きたこれ、ティアは宿屋の娘だけあって見映えのいい焼き方のようだ。このチャンスを生かすしかない。

「実は私もしっとりベーコン派蒸し焼き卵が好みなのよ」

 私がティアの発言に乗っかるとアリエルはハッとして私が躊躇していた意味が理解できたようで少し悲しそうな表情を見せる。

 私はそれを見た瞬間、一気にカリカリベーコンと揚げ卵焼きを口にほうばった。信仰する神(しょくのこのみ)など愛の前にはいらないのだと悟ってしまった。

 神様、あなたは愛の前に死んだのだ。

「馬鹿ですねクロリア。でも次からはしっとりベーコンで焼きますね」

 アリエルはそう言うが顔は嬉しそうだ。うむ神を殺して正解ね。

「でもクロリアさんしっとり系が好きなんて王公貴族みたいですね」

 あ、そう言えばディオナとティアの二人には私がアキトゥー神国王女だと言うのを言ってなかった。まあ、私と言うよりシルフィーネとクロイツが、なんだけど。

 私がそう言うとティアとディオナは驚いていたが前回出てきたシルフィーネのたたずまいが高貴な感じだったので薄々は気がついていたらしい。とは言え王女だとまでは思わなかったそうでせいぜい貴族の子弟くらいだろうと思っていたそうだ。


 ディオナが急に手を”パンッ”と叩くと「そうだせっかくですから夕飯はみんなで一品作って食べ比べしませんか?」と言い出した。

 その提案を反対したのは以外にもティアだ。なんでもディオナの料理は不味いのだとか。いや正確には残飯なのだと言う。

「でも手先が器用なんだからそんなことないんじゃない?」

 私の言葉にティアが眉間にシワを寄せる。

「あれは人間の食べ物じゃありません。料理に前衛芸術を持ち込むんですよこの人」

 ティアが心底嫌そうに言う、料理は芸術でもある一面はある。だから料理に前衛芸術が何でダメなのか分からないが、ティアがここまで嫌がるのは異様だ。

「論より証拠、とりあえずみんなで作ってみて見ましょうよ」

 ティアがここまで眉を潜めるディオナの料理をちょっと見てみたいと言う好奇心もあり、私はみんなで料理を作ることに賛成した。当然アリエルも賛成だ。ティアは渋々承諾したが乗り気ではない。それほどディオナの料理が嫌なのだ。

「ちなみにクロリアは何を作るんです?」

「肉よ肉、肉を焼くに決まってるじゃない。もちろん直火焼きよ」

 火を使って焼かない肉にその存在価値はない。アリエルの魔導具はすごいが正直あれでは美味しい肉は食べられない。私が真の料理を見せてあげましょうぞ。

 持ち時間は一人1時間その間に料理を作ること。できなければ失格と言うルールをもうけた。


 私はすぐさま薪を拾い集め肉を焼く準備をした。ここしばらくまとまった雨が降らなかったお陰で薪はいい具合に乾燥している。

 アイテムボックスから綿草を取り出し、それをまとめておいた枯れ葉の上に置くと火打ち石をナイフで叩き綿草に向かい火花を飛ばす。火花は一瞬で綿草に燃え移りチリチリと小さな炎を揺らす。

 火が揺らめく綿草の上に枯れ葉の付いた小枝を組み上げていく、小さな火は枯葉に燃え移り次々と燃え広がっていく。私はさらに中くらい太めの薪を順々に組み上げていった。高めに組み上げた薪の円錐は上昇気流を産み出しあっという間に太い薪にも火が燃え移る。

 火が安定すると私は両サイドにY字型の枝を突き刺す。アイテムボックスからローテス牛とレッドジャージャーを掛け合わせた牛のサーロインを取り出した。その肉のブロックは私の胴体よりも大きく太い、それに料理用の(サーベル)に刺すとそのまま火にかけた。

 強火の火はあっという間に肉の片面を焦がす。私はそれを確認すると90度回し更に焦げ目をつけ一周させて黒焦げにした。黒焦げにした牛のモモ肉の骨を持ち強火のまま火から遠ざけくるくると回す。あとは強火の遠火でじっくりと焼く。時間一杯ギリギリまで焼き焦げの部分を切り落とし中からピンク色の肉をを切り出すと並べた皿に一枚一枚乗せ私は天高くから塩を振り撒く。それはまるで天使が踊るように宙を舞い、キラキラとピンク色の肉の大地に舞い降りた。彩りに辛味のある葉っぱを添える。


 命名”サーロインの中心で(にくじる)を叫ぶ者、恋愛にはピリッと辛味のあるスパイスも必要を添えて”って感じね。

 私はそれをテーブルに置くと出来上がりを宣言した。みんなもちょうどできたようで次々と料理がテーブルに運ばれてきた。

「……なにこの汚物は」

 私はディオナが持ってきた料理に反射的にそう言ってしまった。

「どれが汚物ですか」

 斧を構えたディオナが私を威圧する。私は汚物なんていってないわよ。お陀仏ねっていっただけだからと取り繕う。普通ならそれで許されるはずはないのだがディオナの料理は死体がモチーフなのでなるほどとうなずいて斧を納めた。そうなのだ見た目が人の頭で死体なのだ。頭がパッカリと割れそこからは血がどくどくと流れ落ちる。割れた頭の中には脳みそも見える。いったいどうすればこんな料理を作れるのか。いやこれ本当に料理なのかすら疑わしい。

「だから言ったんですよ」

 ティアが私の背中を軽くこずくと嫌そうにそう言った。いやだって普通料理大会でホラーが出てくるなんて誰も思わないじゃない。正直ティアの言葉をもっと信じればよかったと今更ながらに後悔する。ディオナの料理のせいか私の料理もまるでディオナの料理の一部であるかのように血なまぐさく感じる。

 食欲失せるわね。


「じゃあ実食ですね。まずはティアちゃんのからいきましょうか」

 アリエルがそう言うとティアは大型の鍋からスープを皿に移しみんなに配る。豆や野菜類に腸詰めを煮ただけの物だが美味しい。これは安心する味ね、毎日食べても飽きないわ。ティアの料理を味わっているとディオナの死体の目がポトリと落ちる。

「……」

 これはディオナのこだわりのようで、この料理は時間と共に崩壊するのだと言う。リアリズムの追求だそうだ。いやこれ料理ですよね? なんで死体の崩壊をそこに取り入れたんですか、と言えるわけもなく私は黙ってティアのス鍋料理をもくもくと食べる。

「次はアリエルの料理ね」

 アリエルの料理はパテ料理だった、色とりどりの野菜がパテで閉じ込められており見た目にも美しくまるで七色の虹を料理にしたような美しさがそこにあった。

「すごいです、こんなの見たことありません」

 エマがキャッキャッとアリエルの料理を四方から眺めるように観察する。

「テリーヌと言ってブカロティお姉さまから教わった料理なんですよ」

「大和神国女王の直伝料理なの?」

 アリエルはその姉からひどい目に遭わされたと言うのに、まったく恨むようすもなく姉との思い出の料理を作る。ギルドで聞いた情報によると大和神国はアリエルの姉であるブカロティが女王を勤めていると言う、そしてあの国には使徒が居る。使徒がブカロティなのかは分からない。操られているのかもしれないしアリエルにそっくりだと言うブカロティとは実際戦いたくないわね。アリエルと戦ってるみたいで嫌だしね。


 エマがワーワーキャッキャいってる間に私は一口それを食べた。口の中に広がるコンソメのジュレの味やパテ状になった肉はとても1時間でできるものではない。

「アリエル、これ前もって作ってたでしょ」

「バレちゃいましたか、盛り付けに3分使いましたからセーフと言うことで」

「アウトです」

「クロリアはケチですね」

 そう言うとアリエルは口にてを当ててクスクスと笑う。

 次は私のステーキだ。あれだけ巨大な肉から五切れしかとれない貴重な部位だ。それは口に居れると雪のように溶け旨味だけが口の中に残った。

「すごい、なんですかこれ」

「クロイツが開発した調理法よ、あの人は一人の時間が長かったから料理にこだわりがあるのよね。特に肉料理はプロより詳しいわよ」

「確かに、私も最初にごちそうになったときにお肉をいただいたのですがまったく胃もたれせずとても美味しかったです」

 そう言うとアリエルは懐かしそうに黒魂ノ勇者剣(クロノエクセリオン)を見る。

 そしてエマの料理は豆を塩で茹でたものである。うん豆ね。エマは恥ずかしそうに出したがこれはこれで良いものだ。

 そして最後のディオナの料理?だ。ディオナのそれはすでに大分自壊しており最早腐乱死体である。

 とは言え食べてみないと話にならない。私は落ちた目玉をスプーンで掬い上げ口に含むと口のなかで目玉が弾け口のなか一杯に気味の悪いネチョネチョした感覚が広がった。その味は生臭くとても不味かった。

 私の食事する様子をディオナは不思議そうな目で見つめる。

「どうしたのディオナ?」

「いいえ、よく食べれるなと思いまして」

「え? だって料理でしょ食べないと採点できないわよ」

「なにいってるんですか料理は芸術ですよ。食べたらなくなっちゃうじゃないですか」

 つまりディオナは味なんかお構いなしで見た目重視で料理を作っているのだ。もちろんその見た目も大概なのだが。

「これ目玉作るのになに使ったの?」

「それは魔物の目玉をそのまま嵌めました」

 私は誰の目に求まらず一瞬で移動してお腹のものをすべて吐き出した。ディオナやるじゃない私をここまで苦しめたのはあなたが初めてよ。

 馬車に帰るとディオナが私に謝ってきた。さすがに魔物の素材を料理に使うのはダメだとアリエルにすごい剣幕で怒られたらしい。

「次は獣の目玉を使いますので」

 あ、目玉は使うのね。だめだこれは、私はディオナに二度と料理は作らせないと心に、いいえ声に出してみんなと誓いあった。

 私はその晩、魔物の肉に含まれる瘴気で身体に不調をきたし、そのまま死んだように深い眠りに落ちた。


遅くなって申し訳ありません

今年はこれで最後になります

来年の抱負は1部を終わらせることですので平日毎日更新予定のつもりです。

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