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幼馴染が女勇者なので、ひのきの棒と石で世界最強を目指すことにした。  作者: のきび
第三章 ミスティアとクロイツ ―ふたりの魔王討伐―
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クロイツと勇者候補選抜御前試合 その十七 ~私のハーレムに男はいらない、なら性転換させて女にしちゃえば良いじゃない~

「それで、何であんたは力を貸してくれなかったのよシルフィーネ」

 力を貸してくれればあんなに苦労することはなくあいつを倒せたと言うのにとシルフィーネを責める。私は今、私のもう一人の人格であるシルフィーネと精神世界で邂逅している。

「単純な話よ、私は世界をが、アリエルやガリウスが大切だからよ」

「それと力を貸さないことになんの関係があるのよ」

「あるわよ、黒髪の女が言ってたでしょ、あなたが全力で戦えば世界が滅ぶって」

「だけど力を貸さないせいでアリエル達が死んだらどうするのよ本末転倒じゃない」

 私が意識を失うのを待っていたのだと言う。前までは入れ替わろうと思えばいつでもできたのに、今の私の精神はシルフィーネの精神力を上回っており入れ替わるのは困難なのだという。

 そして自分なら、あの力をコントロールすることは造作もないのだと付け加えた。

「ならいいわ、でもなんで黒魂ノ勇者剣(クロノエクセリオン)も抜けないのよ。クロイツが私を拒否してるの?」

「私の記憶を手にいれたなら全部知っているでしょうけど。あなたが黒魂ノ勇者剣(クロノエクセリオン)を使うとあなたの心はクロイツに吸収されてしまうのよ」

 シルフィーネの記憶にある私が黒魂ノ勇者剣(クロノエクセリオン)の中でクロイツと邂逅したとき、私はクロイツと融合しそうになっていた。それが黒魂ノ勇者剣(クロノエクセリオン)を使うだけでも起こると言うことなのか。

「ならクロイツが私を拒否している訳じゃないのね?」

「むしろあなたには感謝してるわよ、彼女の唯一の懸念材料がなくなったのだしね」

 確かにこれでガリウスを攻撃することはない。いつでも彼に会うことができるのだ。

「まあ、どうせこの身体はあなたちには返さないわよ?」

「ええ、分かっているわ。もうその身体はあなたのものよ。私もクロイツも死んだ人間だもの」

 そう言うとシルフィーネは沈んだ顔をする。

「ウジウジ、ウジウジ湿っぽい女ね」

「そうね、ごめんなさい」

「本当は外に出たいんでしょ? アリエルが好きでガリウスも好きなんでしょ? だったら私からこの身体を奪えば良いじゃない」

 しかし、シルフィーネは首を横に振る。自分は死んだ身だからと。私が何を言っても、でも、だってである。

 まあ、精神年齢10歳位だし仕方ないのか? 私はなんだかんだ言って生まれたばかりだけどクロイツをベースとしてる分精神年齢は高めだ。いや、年齢自体も高いけど……。

 私は両手でシルフィーネの頭をつかむと、顔をこちらに向けさせ目と目を合わせる。

「あなたは死んでない」

「し、死んだわ」

「じゃあ、なんでここにいるの」

「……」

「生きてるからでしょ。そして外の世界を楽しいと思い始めてる」

「でも、あなたを押し退けることなんてできない」

「別に押し退けることなんてないわよ。いつか一つになれば良いんだから。私たちはそもそも一つなのでしょ」

 クロイツも私もシルフィーネから生まれた。なら元の一人に成ると言うのも選択肢にあるはずだ。

「今さらひとつになんて」

「だめよ、これは決定事項。変更はないですし拒否も許しません」

 そう痛みを誰かに押し付けて自分だけ楽しく過ごすなんてことは私は許せない。シルフィーネの痛みもクロイツの痛みも全て引き受ける。自分を愛せない人間に人を愛すことなどできないのだから。


「わかったわ。でも、あなたはまずクロイツと融合しなければ私とは融合できない」

 シルフィーネは言う。再融合するには分離したときの順序を逆に追っていかなければならないのだと言う。そしてクロイツは剣になってしまった。つまりクロイツと融合すると言うことは私も剣に成ると言うことなのだ。

「え、それは無理よ。わたし剣になりたくないわよ」

「そう言うことよ。だから一つにはなれないの」

「なにか方法ないの?」

「何度かクロイツと黒魂ノ勇者剣(クロノエクセリオン)との繋がりを外そうとしたけどだめだった」

 クロイツを偽勇者の剣から引き離すにはクロイツを上回る強い意思が必要なのだが、クロイツの意思は私たち三人の中で群を抜いて強いから。自分の貧弱な精神ではクロイツの思いを破れないのだと言う。

「なら、私がクロイツの精神を上回れば良いんじゃない?」

 私の精神がクロイツに劣るから引っ張られるんであって、クロイツの精神を上回ればむしろクロイツを引き寄せることができるはず。

「そんなことが。……いいえ、私が協力すればできるかも」

「なら決まりね。私がクロイツを越えるわ」

「でも、クロイツは、クロイツの精神力は私たちより遥か上の存在よ。とても届かないわ」

 シルフィーネは頭が良い子なのだろう、だからこそ自分ではどうすることもできないと諦めてしまったのだろう。全てのことを。

「シルフィーネ、でも、でも言ってたらできるものもできないわよ。あなたは強い、だからこそ弱くなってしまったのよ」

「私が弱い? ……そんなこと言われたのは始めてですよ。あなたはやはり面白い人ねクロリア」

 シルフィーネは言う、自分は挫折を知らない、なんでもできてしまう。だからこそ自分はできない人の心を理解できなかった。

 シルフィーネがクロイツを作った理由は愛されない自分が嫌で、愛してくれない父親が嫌で自分をわかってくれない世界が嫌で。人間をみかぎり世界を捨てたのだとわたしに打ち明けた。

 私には二人の記憶はあっても感情までは分からない。だからこそ自分がどんな気持ちでクロイツを作ったのか打ち明けたかったのだろう。

 私はシルフィーネの頭をコツンと叩いた。痛みが自分にも来て驚いたがその痛みがシルフィーネとクロイツがわたしなのだと実感させた。

「あなた馬鹿よね、言わなきゃ分からないわよ。父親とちゃんと話さなかったの?」

「言ったわよ、でもわかってくれなかった」

「一度しか言わなかったでしょ」

「一度で十分じゃない」

「だからあなたはバカなのよ。何度も言わないと分からない人だっているのよ。みんながみんな理知的に動ける訳じゃないのよ?」

「だからって……無抵抗な子供を何度も何度もムチで打つなど」

 そう記憶にあるアキトゥー王は憎悪の目でシルフィーネを見ていた。それでもどんな課題をもこなすシルフィーネに対して表だって殴るようなことはなかった。しかしクロイツになってからは酷かった。あれだけ強かったシルフィーネがただの子供になってしまったのだ。アキトゥー王はそれを自分をからかってるものだと思いクロイツを折檻した。

 それ事態許されることではないが、気持ちは分かる。

 私から見てもシルフィーネの力はうらやましいを通り越してねたましいのだ、そのくらいの差がある。

 力を持つ者は力無き者のことは分からない。

「一度アキトゥー神国に行って父親と話し合いましょう」

「今さら話すことなんてない! クロイツを私をあそこまでいじめぬいたあの人はもう父親じゃない!」

 シルフィーネは子供のようにすねると私に背を向ける。

「でも、あなたは父親が好きだからクロイツをつくって中に閉じ籠ったんでしょ?」

「違うわ、嫌いだから、嫌いだから言うことを聞きたくなくて閉じ籠ったのよ!」

 私には分かるシルフィーネはまるで子供だ親にかまって欲しくて駄々をこねている子供だ。愛情が欲しいのだ。無償の愛が。私はシルフィーネを背中からそっと抱き締める。

「じゃあ、私がアキトゥー王を殺して上げるわよ。嫌いなんでしょ?」

「それは」

「わたしなら殺せるわよ、父親って感覚ないもの」

「ダメ……ダメよ!」

「いいえ、殺すわ。それであなたの憂いを無くしてあげるわ」

 その言葉が終わる前にシルフィーネは剣を私の首元に突きつけた。一瞬である。腕をほどかれたのも、身体をこちらに向けたのもわからなかった。全く見えなかった。思考の中とは言え能力はそのままのようだ。つまりこれが私とシルフィーネの差な訳か。

「それをしたらあなたの精神を粉々にする」

「ほら、好きなんじゃない」

 アキトゥー王も始めからシルフィーネを嫌っていたわけではない。むしろ愛していた溺愛といっても良いくらいに。

 ただ、あの日だ剣術の稽古を始めてシルフィーネにつけた日その日の内にアキトゥー王はシルフィーネに負けた。その時からアキトゥー王はシルフィーネを憎悪の目で見るようになった。

 守るべき者が、守ろうとした者が自分より遥かに強かった。なによりシルフィーネの母親であるミルフィーユの遺言である二人を守ってと言う頼みを守れない事への落胆からアキトゥー王は狂ってしまったのだと思う。

 現に力をなくしたクロイツをアキトゥー王は憎悪していなかった。国を出るときでも十分アキトゥー王を越えていたクロイツを。

「殺せるわけなじゃない! 憎めるわけがないじゃない! お父様なのよ。優しかったお父様を変えたのは私なんだから」

「だとしても、守るべき者が一瞬で強くなってしまったからといって虐待するのは違うでしょ」

「だからって殺すなんて」

「じゃあ、気がすむまで殴りなさい」

「は?」

「ボコボコにしてやれば良いのよ。それでチャラね。ただし二人ねシルフィーネとクロイツ、あなた達二人がやるのよ。聞いてるんでしょクロイツ」

『そうね、それが良いと思う。ちゃんと思いをぶつけないといけないと思う』

 まあ、実際一番殴る権利があるのはクロイツだと思うけど。あのしごきは常気を逸している、シルフィーネの記憶がなかったら私が代わりに殺しているところだ。

「死んでからじゃ後悔しかないわよ。アキトゥー王が死ぬ前にちゃんと落とし前つけましょう」

『ふふふ、本当にバカねクロリアは』

「あの人は死なないわよ。勝手に殺さないでよ」

 私の言葉に各々言いたい放題である。実際人なんていつ死ぬのか分からないんだ親孝行と復讐は生きている内にやれって言うしね。言わないか?

「まあ、まずはストロガノフとの約束を果たして安住の地を手に入れてからの話だけどね」

 戦いなんて私のハーレムにはいらないのよみんなで和気あいあいイチャイチャできればそれで良い、むしろそれが良い。私が妄想を膨らませているとシルフィーネが私の肩を叩く。

「ああ、そうそうあなた今日からアキトゥー流学んでもらうから」

「へ?」

「アキトゥー流は身体の身体機能を全て使いきったら身体が壊れる何て事ないわよ」

 あれ、じゃあなんで私のからだボロボロになったんだろ? 筋肉断裂や骨が折れる感覚は意識がなくなるほどだった。正直あと数秒あの空間の傷に押し込むのが遅れてたら、もう手がなかった。

 ボロボロになった理由は私には武術センスがクロイツ並にしかないと言う、才能がないのだと。

 才能がないと言われ少しカチンと来た私は虚勢を張るようにアキトゥー流は使えたと胸を張って言った。

 しかしシルフィーネは「使えてないわよ?」と一言いうや否や私の首元に剣の切っ先を突きつけた。先程と同じく全く見えなかった。同じ肉体なのに見えないのはおかしい。

「どういうこと?」

「これが本当のアキトゥー流よ、あなたのアキトゥー流はクロイツにも及ばない」

 私は納得がいかず剣をとるとシルフィーネに切りかかるが切りかかるまでもなくいつのまにか切っ先が首元に突きつけられているのだ。何度やってもだ。

「はい、はい、負けました負けましたあんたが一番よ」

 私はなげやりに降参のポーズをとる。

「プライドを傷つけたらごめんなさいね。でもあなたには強くなって欲しいから、今のあなたの実力を知ってもらったのよ」

 慰めるように私に近づくシルフィーネにアイキドーの体捌きで近づきシルフィーネを投げようとした瞬間、私は空を見ていた。

「私もあなたの知識が使えるのを忘れないでね」

 つまりこれが才能の差か、極めたと思っていた力がただの思い違いだった時の絶望感は正直心が折れそうだけど、この高みが私の目指すところだと思えばまたそれも心地良い。

 とは言え、その高みは絶望するに十分な断崖絶壁の山なのだけど。

「でも、才能の差なら埋めようがないんじゃないの?」

「私は天才だもの、理論と実践できっちり教えて上げるわ」

 よく天才は人に教えるのが苦手と言うがそれは嘘だ。真の天才は全てを理解しているので教えることにも長けているのだ。教えることが下手くそな天才はいつかただの凡才に抜かれる運命にある。それは努力により積み重ねたものと天分の才であぐらをかいたものの差だと言う。

 そしてクロイツは独学でアキトゥー流をものにしたのだと言う。二十一形(にいがた)をとことん極め、私の記憶と自分の身体が覚えてるであろうアキトゥー流の動きを導きだし今に至るのだと言う。もちろん深淵の技には到達していないが、クロイツならいつか至れたろうと言う。

 土蜘蛛(アラクノイド)の糸を普通の人は使うことができない。だけどクロイツは使うことができた、それは身体操作の応用なのだと言う。

「でもそれだとまるでガリウスの身体強化と同じじゃない?」

「同じよ、あれは勇者の技だもの、だれかがガリウスに教えたのでしょうね」

「でも、あれ使うと魔法回路が焼ききれちゃうんでしょ?」

「魔法回路なんて身体操作でいくらでも作り直せるわよ」

 魔法回路の形を知っていれば焼ききれても新たに作り直すこともでき、オリジナルの魔法回路すらも作り出せるのだと言う。もちろん作り直した魔法回路は焼ききれることがないのだとか。元祖勇者の能力は半端ないわね。

「じゃあガリウスも魔法回路を作れるわけ?」

「どうかな? 使徒ならできるけど、正直言って男性の使徒なんて聞いたことないのよ。だから私はガリウスは使徒じゃないと思ってる、もちろんクロイツもね」

『そうね、わたしも絶対にガリウスは使徒じゃないと思ってる』

 まあ、使徒だろうが違かろうが、わりとどうでもいい。すでにクロイツの殺意の衝動は消したのだし、それにもうアキトゥー神国とは関係ないのだ。使徒に固執することもないでしょう。

「そう言えば、あの女が言ってたけど、ガリウスがクロイツの事を好きな理由ってなんなの?」

『ええと、あの、その・・・? ふにゃ』

「「ふにゃ?」」

 その言葉を最後にクロイツの反応がなくなった。


「おーいクロイツさーん!」

「ダメね。倒れて意識失ってたわ」

 黒魂ノ勇者剣(クロノエクセリオン)の中へ見に行っていたシルフィーネが呆れたように言う。

「で、シルフィーネは何でだと思う?」

「やっぱり強さかな?」

「強さ? 強さならあなたの方が強いじゃない」

 私の言葉にシルフィーネは「その強さじゃないわよ」と笑う。クロイツはその生い立ちのせいで何度も死ぬような目に遭った。苦しくて辛い思いを何度もした。だからその心は強く挫けない。

 対してガリウスは強いのに弱くて、守って良いのか守られて良いのか分からない人で、人の個を大事にする人なのだと言う。

「よく分からないわね」

「つまり、ガリウスは人に甘えたり甘えさせてもらったことがないんじゃない?」

「あぁ、つまり年上の魅力にやられたわけか」

 なに、その童貞ボーイな思考。いや、私もアリエルに甘えられるならその方が良い。なるほど童貞ボーイ思考も良いわね。

「そう言う簡単な話じゃないと思うけど?」

「ふん、まあ私には関係ない話だけど……」

 とも言ってられないのか、いつかみんなの思考が一つになったらわたしもガリウスを愛すことが……あるのだろうか? アリエルもガリウスを忘れられないようだし、とは言え私のハーレムに男はいらない。

 ならばガリウスを女性に性転換させてしまえば良いじゃない。

「そんな魔法ないわよ?」

 私の思考を読み取ったシルフィーネが呆れるように言う。

「いいえきっとあるわ、探そうぜ性転換アイテム!」

『クロリアはバカね』

 やっと起きたクロイツがため息をつきながら私を罵倒する。ふふふ、残念だったわねクロイツさんガリウスには性転換してもらいますよ。そうじゃなければ私のハーレムには入れません!

 あまりにもバカなことを言ったせいか、私は精神世界から追い出され目が覚めた。しかし目を開けども目が見えない!?

 こ、これは目に障害が……何てことはなくいつものアリエルのおっぱいでした。

 太もも最高、裏乳最高、この温もりがたまらない。

「良かった、起きましたねクロリア」

 アリエルの胸を揉みしだく手をペシリと叩かれ嫌々ながら起き上がるといつのまにか馬車には馬が繋がれており馬車は王都へと向かっていた。



遅くなりました申し訳ありません

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