クロイツと勇者候補選抜御前試合 その八 ~A馬車に乗って行こう~ ★(挿し絵付き)
次の日、私はアリエルの修行の為に魔導具屋のオババの店に付き添った。まあ、明日王都へ出発するので挨拶や準備もかねているのだけどね。
「しかし、アリエルがいなくなると寂しくなるのう」
オババがアリエルの手を取り名残惜しそうにする。いや今日行くわけじゃないのに人の嫁の手をきやすく握らないで欲しいわね。
「私はいなくてもいいと?」
「お主は初日来ただけだろう。アリエルはムチムチでかわいい私の弟子だぞ。とは言え逆に教わることの方が多かったがな」そう言うとオババはカッカッカと笑い自虐を言う。
「姉さんこの町に残ってくださいよぉ」
「この町じゃS級冒険者を狙うの無理だもの仕方ないわよ」
この町の周囲には本当に魔物がいない。魔窟が近くに無いせいだろうけど。この町を拠点にしている冒険者はほぼD級、たまにC級がいるくらいなのだ。そして大体の者が猪や鹿などの害獣駆除を生業としている。
つまりこの町じゃどう頑張ってもC級止まりなのだ。それに問題があったときの後ろ楯が弱いしね。
アリエルを見ると浮き板から取り出したパーツを魔導具に囲まれたサークルに置いていた。そこにはコンスタチ鉱のインゴットやウルティニウムの剣など大剣生成に必要なものが置いてある。
「しかし、これで武器ができるんだから鍛冶屋は失業よね」
「そうはならんな、この魔導具を動かすのに大量の魔石を使っておる。採算が合わんだろう」
「魔石ってオババが用立ててくれたの?」
私から買い取った魔石を使わせたんじゃ心が痛む。でもどうやらアリエルも魔石を隠し持っていたらしく、それを使っているのだとか。バレたアリエルはテヘッと舌を出し私を見る。かわいいからいいか、それに内助の功でしょうね。うん、そうね。
「それでは組み立てますね」
アリエルがなにか呪文を唱えると目の前に光の幾何学文字が大量に現れた。それらをアリエルは指で上から叩くようにリズミカルに触る。
「オババあれなに?」
「あれな、ワシにもわからんが操作をする魔方陣?らしい。まあ、あの魔導具は置いていってくれるそうだから死ぬまでの暇潰しができてありがたいわい」
オババはそれを言ったあと小声で「解明する前に、たぶん死ぬだろうけどね」と言葉を添える。
アリエルが操作を続けるとコンスタチ鉱のインゴットが溶け出し。液状の球体になり宙を舞う。
次にウルティニウムの剣が浮き、形がウニウニと修正されていく。その剣に先ほどの液状の球体から流れ込むように剣を包み出す。あっという間に大剣が出来上がった。しかしそれで完成と言うわけではなく、今度は浮き板のパーツが浮くとその大剣に組み合わされていった。
そしてアリエルはその宙に浮かす操作板をどかすと、そのままサークルの中へと入って大剣の前に立つと呪文を唱え出した。アリエルの指が光り、それを大剣の刃をなぞるように触るとその部分が七色に光出す。それはまるでRBCの輝きだった。
「クロリア様、出来ました」
アリエルが出来上がった大剣を私に感慨深かげに渡してくる。受け取った大剣はちょうど良い重量で振るのに問題はなかった。問題はちゃんと飛べるかどうかよね。私は大剣を床に置いて乗ったが全く浮かなかった。
「アリエル飛ばないわよ」
「ふふふ、それがクロリア様専用の浮き板と言うことですよ」
アリエルが言うにはこの大剣は中央の宝玉の下の柄にある穴に念糸を入れなければ作動しないのだと言う。効率的にも直接増幅器に魔法剣を送り込んだ方が良いと言う。それに、この剣を私以外の者が使うと考えたとき世界のバランスが崩れかねないからと考えた上の処置なのだそうだ。
「こんなところで飛ぶんじゃないよ」
なにかやばさを感じたオババが試し乗りなら外でやれと言う。アリエルもそれに賛同した。効率が良くなったせいで今までと違うものになったからと。
「わかったわよ。オババ、アリエルに手を出したら許さないからね!」
「手を出すわけなかろう! さっさと行け」
「じゃあ、ちょっと行って来るわね。ついでに魔法剣も試してくるわ」
「はい報告を待ってますね」
アリエルを置いて店の外に出ると、私は言われた通りに柄の穴に念糸を入れた。宝玉が光を持つと大剣を道に投げ捨てた。だが大剣は道に落ちることなく宙を浮く。私はそれに乗ると、まずは普通に移動してみた。効率化がうまくいっているのか今までよりもスイスイ移動ができる。
私はそのまま風刃剣・疾風を使い上空まで一気に昇った。
これはすごいわね、たった一回の魔法剣でここまで上昇するとは思わなかった。通常使用ならただの風刃剣で良いかもしれないわね。
私は人気の無い森の中に降り立った。できるだけ町から離れて狩りの邪魔になら無いような場所へと来たのだ。
「クロリア、こんな所に来てどうするんだい」
見つからないように私の胸の中に隠れていたベルルが出てきて、私の頬をぺちぺちと叩く。
「ちょっと魔法剣の試し撃ちね。前の浮き板でさえ山を崩してしまったからね」
そう聞いたベルルはすでに興味なさげに私の頭で鼻唄を歌っている。自由すぎませんかねベルルさん。
「”風刃剣”」
一刃の緑の風が木々を切り裂きなぎ倒す。威力は10mほど先の木まで届いており通常の風刃剣を遥かに上回っているのは誰の目にも分かるほどだった。
「風刃剣・烈風」
五枚の巨大な刃が前方に飛び出し次々と木々を切り裂く。まあ、これは風刃剣が5枚になる技だから驚くほどではないわね。風刃剣・疾風は良いとして。問題は風刃剣・紫電ね。通常の有効範囲は30m増幅効果でどうなるか。
「ベルル、私の胸の中に入ってなさい」
「なんでだよ~。見てたいんだけど」
「今から範囲攻撃技を使うから、あなた死んじゃうわよ」
「もう、しかたないな」
ベルルは不貞腐れながら私の服の中に入り胸に収まった。そこが定位置なのね。
マップで獣たちを確認する。ここら辺は冒険者もあまり来ないようで結構な数の獣がいた。
「”風刃剣・紫電”」
紫色の稲光が四方に飛び散る。それにともないマップ上の獣たちの反応が次々と消えていく。魔法の効果が終わると辺りは焼け野原となっていた。いや、まだ焼け野原の方がかわいいだろう。木や獣たちは影だけを地面に残し存在自体なくなったのだ。
こんなやばいの単独戦以外で使えないじゃない。
「うん、封印決定」
私は上級の魔法剣は増幅器を通さないで使うことにしようと心に誓った。仲間を殺しかねない技とか使い道無いもんね。
終わったと思ったベルルが服から出てくると「ゲッ!」と驚いた声を上げる。ほほほ、褒め称えなさいこのクロリア様を増長するくらい褒め称えよ。
「クロリアさ~、むやみに森を破壊するなよ。森はあたいらの大事な生活圏で隠れ家なんだからさ」そう言うとアゴをペシペシと叩く。
「はい、すみません……」
帰ってアリエルに甘えよ。
私は浮き板の大剣に乗るとさっさと魔導具屋に戻った。
「ありえる~」
地下室の扉を明け勢い良く入ると私は馬車にぶつかった。なんで地下に馬車が。ぶつけた鼻をさすりながら周りを見ると馬車の下から「おかえりなさい」と声がする。
馬車の下を除くとアブラ・カタ・ブラの三人とアリエルが作業してた。
「なにしてるの?こんな地下室に馬車なんかいれて」
「ちょっと待ってくださいね、これで一段落つきますので」
少しカチャカチャという音が聞こえるとアリエルがにこやかに這いでてきた。昨日作った服と違い今はツナギに着替えていて服と顔を真っ黒にしていた。
「すみませんすぐ着替えますね」
「別に良いわよどんな姿でもアリエルはかわいいし。でもどうしたのこんな地下に馬車なんか入れて」
「いいえ、せっかくなので私たち専用の馬車があった方がいいかなと思いまして浮き板を馬車に装着してました」
アリエルが言うには浮き板を装着することにより移動中の道と馬車の衝撃を無くすことができるのだとか。
もちろん車輪がなくても大丈夫なのだが不信がられるので、そのままにするという。
「この馬車はどうしたの?」
「エマさんに融通してもらいました」
馬車と言っても幌馬車を全部板張りに改造した安普請の荷馬車だが、一応馬車だそれなりに高価なはずなのにポンと出すなんてなかなか気前が良いわね。まあ、その分あの王子のために働かなきゃいけないんだけどね。
アリエルが喜んでいるし、この笑顔のためなら王子の無理難題など屁でもない。オナラなんかしないけどね!
馬車の中を見ると、オババがソファーに座りお茶を啜っていた。
「私の嫁に労働させて自分はお茶とか良い身分ね」
私がわざと嫌味を言うとオババがフンと鼻をならす。
「馬鹿言うでない、ちゃんと私も手伝って今休憩中じゃ。だいたい、わたしゃあの娘の師匠だぞい、こき使いすぎだわい」
なんでも内装はオババが手掛けたそうで、魔導具類は一般には手に入らない大和神国製の物で馬車の中は快適空間に仕上がっていた。良い馬車ね。
「これソファーもありえないぐらいふかふかなんだけど」
「当たり前じゃ大和神国製じゃ、裏ルートで手にいれてやったんだからありがたく思って敬うんだぞ」
オババはここぞとばかりにどや顔をするので華麗にスルーをして話を続ける。寂しそうな顔をするので良心がいたんだ。
「この水を作る魔導具も?」
「……当然じゃ、すべて今までにはない魔導具じゃ」
「さすがオババね、こんなものオババじゃなきゃ手に入れられないわよ」
私も褒められて育つ子だしね、寂しそうにするオババに分かりやすいおべっかで誉めた。
「そうじゃろ、そうじゃろもっと誉めても良いんだぞ」
しょんぼりしてた顔が一瞬で笑顔になり嬉しそうにする。なるほど、オババの師匠がオババを可愛がっていたのがなんとなく分かった気がする。単純に可愛いのだ。
おしい、20歳くらいのときに会っていれば……。
車内を良く見ると後ろに扉があり、そこを開けると中には便座があった。馬車にトイレがあるなんて最高じゃない。
結局、キッチンやシャワーもあり、まるで動く家だった。収納スペースがあまりないのは私たち二人がアイテムボックスを使うつもりだろうか。
「それでクロリア様大剣の方はどうでした?」
いつの間にか着替えてきれいになったアリエルが馬車に入ってお茶を用意してくれた。気が効いてるレベルじゃないなと思いながらお茶を一口すすると一息つく。
「おいしい、ありがとうね」
「いいえ私はクロリア様の妻である前にメイドですから」
ぐっ、かわいい早く夜にならないだろうか、いちゃいちゃしたい。まあ、それは置いておいて大剣の報告しないとね。
私は、魔法剣の増幅器を通した威力と飛行時の速度や操作感をアリエルに伝えた。
「そこまで威力が出るのですか」
「うん、もうヤバイわよこれ。とりあえず上級魔法は増幅器通さない方がいいわね。もちろんそれを使わないと倒せないなら使うけど」
「そうですね、クロリア様なら一般人や普通の魔物程度、魔法剣も使わないで勝てちゃいますものね」
ふむ、アリエルは何気に私の評価高いわよね。私が負けることなんて無いと思ってるんだろうな。期待に答えなければと私は決意を新たにするのだった。
「アリエル、この大剣さ名前なんて名前にするの?」
「浮き板?」
「いやいや、剣で板は無いでしょ」
そう言うとアゴに手を当てて悩む、超可愛いこの子私の嫁です。
「天空王ノ翼剣でどうでしょうか?」
「アリエル、あなた名前付けの神だわ! 良いわそれで決まりよ」
「……そうですか、名前つけ神ですか」
誉めたのになぜかアリエルは浮かない顔をする。私はアリエルの頬を撫でるとアリエルは私の手のを掴みニコリと笑った。
◎天空王ノ翼剣
ウルティニウムの剣を芯としてコンスタチ鉱ではを作り更にRBCすることによりシナリのある日本刀のような剣を作り上げた。
また、浮き板のユニットを組み込んだことにより空を飛べ魔法剣を強化することができる。
使用には念糸が使えることが条件で世界でクロリアとガリウスしか使えない。