クロイツと勇者候補選抜御前試合 その六 ~私のハーレムを邪魔するやつは馬に蹴られて死ぬ前に私が殺すわ~
「そうそう自己紹介がまだだったわね、私はクロリア、こっちのかわいいこはティアね。私の許嫁だから」
「よろしくねベルルちゃん」
「あいよ、よろしくな!」
ベルルは顔だけ向け興味無さそうに挨拶をする。まあ、人間も他種族の顔を見分けられないのと同じでピクシーも人間を見分けられないのかもしれないわね。
「じゃあベルルちゃんと捕まってなさいよ」
「まかせてよ、髪の毛引きちぎってでもちゃんと握ってるから」
まあ、風も当たらないし振り落とされることなんてないでしょうけどね。
私は浮き板の切っ先を空に向け大空へと飛び立った。
「ひゃ~、やるなクロリア、あたいでもこんなに高く飛んだこと無いよ」
「ふふふ、我を褒め称えよ。そしてひざまつくが良いぞ」
私は鼻高々で更に魔法剣・疾風で加速した。背景が一瞬で流れ、目まぐるしくその表情を変えていく。
「こわっ! なんだよこれ」
「ええと、加速中です」
さすがの私もこれは無いと思うどれだけ、とんでもない速さで加速してるのよ。二重に魔法剣かけると効果が上乗せされるのね。
アリエルも知らなそうだから、あとで教えて上げれば喜ぶわね。
加速が止まるともう目の前にツガラシ連峰が現れた。もちろん山は削られて崩れておりそれはもう山ではなく丘だ。これなら上昇しなくても抜けられる。
私はそのまま再加速をしてツガラシ連峰を通り抜けた。
町のそばに戻るとマップ上のディオナが同じ箇所から動かない。私は浮き板をディオナの方へ方向を転換した。
上空からディオナを見ると木に手を向けている。手の周りに光るサークルと模様が浮かび上がると光る矢が射出された。それが木に突き刺さると大穴を開けて木は倒れた。
なにあれは、あんな魔法みたことがない。そもそも魔法の有効範囲の距離制限を無視している。エレメンタル属性の関与も感じられなかった。
更にディオナは手を前に伸ばすとまた手の周囲にサークルと文字が現れた。
手から火炎が放出され周囲を焼く。焼かれた草木は他の草や木を燃やしていく、あれは魔法の火ではない。目標を焼いて、なおも周囲の木々を焼く。あれは本当の火だ。
そしてディオナはその火に向かい手から膨大な水を放った。火も水もエレメンタルの関与がない。なんなんだあの魔法は。あれが昨日言っていた異質な魔法知識なの?
私はディオナのそばにおりると彼女に声をかけた。
「ディオナすごいわね」
「ひゃ! お、驚かさないでください。あ、おかえりなさい」
あわてふためくその姿は、まるで隠れていたずらをしていて母親に見つかった子供である。
「お姉ちゃん、攻撃魔法使えるんだね」
「でもそれ中級レベルじゃないわよね?」
「ええ、そうですねこの魔法は弱い魔法なんですよ」
は? 距離制限もなく一撃で木を貫く魔法が弱い?
「そんな馬鹿なこと」
「本当です、これはある人が最適化した、この世界で言うところの初級魔法です」
初級、それでこの威力なら中級、上級はいかほどになるのか。
「でも、魔法って言ってもエレメンタルが関与してないわよね、それ」
「はい、無属性魔法です、エレメンタルの代わりに魔法部品、つまり素材や秘薬を使います」
昨日言っていたあれか、雑草だとかなんだとか。しかも無属性、魔法にエレメンタルの関与がないなんて。
「まあ、良いわその件も含めてあとでみんなで話し合いましょう」
「はい、そうですね……。え? なんですその小さい人形みたいの」
「失礼なやつだな、あたいは人形じゃないやい!」
ディオナの発言にベルルは腹を立て怒る。
「しゃ、しゃべった! かわいいい!!!」
ディオナはベルルを私から引ったくるとマジマジと見て頬ずりしだした。
「ちょ、クロリア助けてよ!」
とは言えお姉さんディオナ苦手なのよね、しかもあの目狂気を孕んでるわ。今邪魔するとあとが怖い。私はベルルにごめんねのポーズをしてティアの頭を撫でた。
「お姉ちゃん人形コレクターなんですよ。こっちに来てから集めてなかったんですけど」
つまり抑圧された欲望が爆発したのか。とは言えこのままだとベルルが死んでしまう。助けるか、う~そんな役回りだわ。
「ディオナ、ベルルがぐったりしてるから、もうそのくらいにして上げて」
「なんですか! 私からこの子を取り上げようと言うんですか。そんなこと許しませんよ!」
そう言うとディオナは斧を構えた。斧を構えた瞬間手が緩んだのかベルルはスルリとディオナの手を抜け出すと私の頭の後ろに隠れブルブルと震え出す。
「なんなんだよあいつ、怖すぎるよ」
「そんな~、ベルルちゃんこっちおいでその人はケダモノよ!」
「あんたの方がよっぽどケダモノだよ!!」
そう言うとベルルはディオナに捕まらないように私の服の中に隠れた。
くすぐったいけど仕方ないわね。
「クロリアさん返してください!ベルルちゃんを返してください!」
私の服の中に隠れたベルルを無理矢理奪おうと私に襲いかかる。さすがに斧は振ってこないが目が血走ってる。
「ちょ、この子は人形じゃなくて生きているのよ。オモチャじゃないのよ」
私の声など馬耳東風、暖簾に腕押し、と言うかディオナはそもそも私の言うことなど聞く気がない。
家族とはなんだと思わなくはないが、自分をさらけ出してると思えば、かわいくも思えるか。
「お姉ちゃん! いい加減にしなさい!」
ティアの大声にディオナがビクッとなり我を取り戻す。
「あ、私はいったい」
「ダメだよとぼけても。お姉ちゃんは人形のことになるとすぐ見境なくなるんだから!」
「だって~」
「またそんな甘えた声だしてもダメです!」
世の中の姉は基本妹に弱い。歳が離れてるとなおさらなのだ。つまり最年長の私はチーム最強だが最弱でもあるのだみんな妹で私の妻、みんないっしょでどこでもいしょ!
「まあ、ディオナも反省してるみたいだし戻りましょうか」
「クロリアさん、お姉ちゃんは甘やかしたらダメなんですよ」
甘やかされてる本人は甘やかされてることに気がついていないとは良くいったものだなとティアを見てクスッと笑う。
「でも、ディオナもいつか私の嫁候補になることもあるかもしれないし――」
「なるわけ無いでしょ、馬鹿なんですか?」
言葉を言い終わる前にディオナはにべもなく私の言葉を一刀両断にする。ティアに対するのと違い私にはズケズケと言ってくる。だがそれが心地良い。そうよ罵るが良いわ、いつかあなたも私の妻件妹になるのだから!甘やかすわよ、徹底的に甘やかすわよ。
そしていつかお姉ちゃんと言わせるのだわ。夢が膨らむわ~。
「じゃあ帰るから、ディオナも浮き板に乗って一緒に帰りましょ」
私はディオナが乗れるように場所を空けた、しかしディオナは浮き板に足をかけるとステンと転がってしまった。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫ですよ!」
焦ったディオナは浮き板に飛び乗るがジャンプするような形で浮き板から飛び出し地面を転がった。
「「「・・・・・・」」」
おかしい、ディオナはティアと同じくアイキドゥーをDLされている。アイキドゥーはバランス感覚を操ることに長けている。それが浮き板一枚乗れ無いなんてことがあるだろうか?
「あ、歩いて帰りますから先いってください」
ディオナは恥ずかしいのかそっぽを向いて町へと歩き出す。やれやれ。
私はディオナをお嬢様だっこで抱き上げ浮き板に乗った。
「何するんですか、下ろしてください!」
「馬鹿ね、置いていけるわけがないでしょ。ちゃんと捕まってないと落ちるわよ」
「は、はい!」
ディオナは私をギュッと抱き締めるがディオナの前面は鎧なので胸が当たっても感触が楽しめなくガッカリだった。まあ、太ももと吐息を楽しみますか。
魔法剣で飛べば一瞬だから、あえて通常速度で帰ることにした。ゆっくり帰ればその分楽しめるからね。
「なーなークロリア、こいつ怖いんだけど」
私の服から顔を覗かせて私の首をぺちぺちとベルルは叩く。
「大丈夫よ、かわいい子よ」
私がベルルにそう言うとディオナは私をギンと鋭い目でにらむ。これはきっと愛情の裏返しというやつね、恋愛マスターで嫁が二人いる私が言うのだから間違いないわ。
でもごめんねディオナ。これ以上嫁は増やせないのよ。甲斐性の無いお姉さんを許してね。とか妄想していると前方に町が見えてきた。
町の正門につくと私たちは出入場記録に書いてないのを忘れていて、ひと悶着あったのだけど町を救った英雄と言うことで特別に許された。
ディオナとティアを宿で下ろし、私は用事があると言って防具屋に戻った。
「おじいさん、鎧できてる?」
店の中に入ると物音ひとつしない。良く見ると奥の部屋の床に手が見えた。
「おじいさん!」
私は倒れていたおじいさんを抱き起こした。おじいさんの手は私の胸を揉んでいた。
”ガツン!”
エロジジイにはお仕置きが必要よね。とは言え拳骨を頭に喰らわせただけだけど。あと十歳若かったら殺してるわよ。
「ほんにひどいのう。年寄りのおちゃめなギャグだろに、年寄りには優しくせんかい」
「敬われるような人ならね、このエロジジイ。それでできてるの?」
エロジジイは胸当てと首当てをカウンターに出すとニヤリと笑い胸を張った。
「あれ、既製品じゃない」
「当たり前じゃ、ワシの一世一代の自信作だぞ」
爺は昔は王宮鎧鍛冶師だったらしく、隠居してこの町に住み着いたのだと言う。引退後は型に流すだけの鋳造防具だけを作っていたそうだ。鋳造鎧は重いけど技術力の無い戦士の命を守るには最適なのだと爺は言う。
でも、私に渡された鎧は鋳造鎧ではなく薄型で軽く、それでいて固い鎧だった。腕は落ちてなかったとエロジジイはドヤ顔をする。
「それはキャノイラ王国の秘術で作り出したカンスタチ鉱で作ったものだ」
カンスタチ鉱は世界でも一、二を争うほどの強度を持つ金属で門外不出の金属だ、通常一般には出回ることはない。
「いいの?」
「ああ、かまわんさ。それはワシの退職金としてもらったものだからな」
そう言うと爺は更にきれいな銀のインゴット2つカウンターに置いた。
「これももって行け、武器鍛冶屋に剣を打ってもらうがよかろう」
「そう、ありがとう。ありがたくもらうわ。それで料金だけど」
「いらんと言ったろ」
私がお金の話をするととたんに機嫌が悪くなりムスッとした顔をする。
「わかったわ、それなら私はこの鎧とこのインゴットで作った剣で世界最強になるわ。それが代金よ」
「まあ、あれじゃそんなに気張らんでも良いぞい。この町を救ってくれたお礼じゃからな」
おじいさんは続けて言う、かって王宮鍛冶師の伝手でこの町の窮状を手紙にしたためたのだが無視され続けたと言う。そのことからこの町のヤクザのバックには力のある貴族か大臣が関わってると察した爺はひたすら耐えることに徹したのだと言う。
爺はそれを恥ずかしげに言うが私は正しい判断だと爺に言った、力なき個は力のある集団には勝てない、それが真理だからだ。もし逆らっていれば爺の命はすでになかったろう。騎士でもない爺が正義感から逆らうなど愚の骨頂なのだ。逃げればいい騎士でもないのだから責任を追うことはないのだ。
「まあ、そんな話をしたかった訳じゃないんだよ。たぶんこの町の件は王都に伝わってる、つまりその黒幕に気を付けろと言いたかったんじゃ」
「わかった、ありがとう。できればそいつもぶっとばしてやるわよ」
「勇ましいのう。だが、あんたならできるかもしれんな」
「当然よ、できるわ」
おじいさんはお腹を抱え大笑いする
「そうかい断言するかい、やっぱりその金属をあんたに渡して正解だったわ」
おじいさんは急に真面目な顔になり私にお辞儀をする。私はこの国に住む気だから、当然害虫は駆除するわ。害虫がいたら安心してハーレムも築けやしないものね。
私のハーレム王国建国を邪魔するやつは例え神だろうがぶっ殺すだけよ。