ミスティアのクーデターまでの六日間 その十三 ~約束の日~
翌朝眩しいほどの朝日が私をたたき起こす。太陽に近いから朝日がいつもより眩しい気がする。
二人に聞くと、またバカにされそうだから聞かないでおこう。起きて気がついたのだけど肌寒い、と言うかかなり寒い。寝てるときは二人が肌寄せてくれていたから凍えなかったようだ。
「おはようミスティア」
「おはようございます」
二人が私が起きたのに気づき目を覚ますと伸びをする。
「私が凍えないようにしてくれてありがとうね」
「いえいえ、私も寒かったのでちょうど良かったです」
私はお茶らけるアルファにベーっと舌を出すと、サグルに身体の状態を聞いた。状態はすこぶるいいらしい、けど人に戻れる感じはしないらしい。
「今日が約束の日だから頑張らないとな」
サグルが復活してから邪骨精霊龍との約束の日が来た。必ず鍵を手に入れて私はサグルを救う。
「絶対人に戻すから」
「ミスティア、ありがとう」
サグルは獣の口をクイッとあげると笑って見せた。
朝食をとり、装備を整え準備が整うとアルファの指示で私の前にレジスタん達がならんだ。
アルファは私にレジスタンス達に声をかけろと言う。リーダーの訓示は必要だからだと。
リーダーと言われても共闘なのだからウィルソンさんが言った方がいいんじゃないかとマイクを渡したら、ウィルソンさんは皆は私を信じてついてきたのだからと言いマイクを私に押し返す。私は覚悟を決め言葉を紡いだ。
「私とみなさんの思いは違います。この国の出身者でもありませんし圧政に苦しんでもいません。ですが、虐げられた民を救いたい気持ちは一緒です。あなた達はゴミトルスを殺して革命を成す、私はゴミトルスを殺して目的をとげる。最終目標は互いに違えどゴミトルスを倒すことは同じです。戦いで友が、仲間が死ぬかもしれない、ですが、だけど、ここが正念場です。みなさんの命をこのミスティアに預けてください、革命を成功させましょう」
「おー!! ミスティア! ミスティア! ミスティア!」
レジスタンスの皆は足をダンダンと踏み鳴らし、自分達の気持ちを鼓舞させる。
「なかなか良かったですよミスティア」
「成功させないと、サグルの命もないしね。それにあのゴミトルスは許せないもの」
「そうですね、あいつはこの国の癌ですから」
「アルファ、確認するけどゴミトルスを殺せばその心臓に鍵が現れるのね?」
「そうです二つの鍵が現れ左右の鍵を解錠できます」
「こんなの早くはずしてサグルに絆の力を発現させないとね」
でも、一つだけ疑念が残る。はたして精霊の力が戻っただけでサグルと絆が結べるだろうかと言うこと。
「ねえ、アルファ私に精霊の力が戻ったとしてサグルは私と絆を結べると思う?」
「無理かもしれませんね。今のサグルは邪骨の信奉者と言わないまでも心があちらよりな気がします」
確かにアルファが言うとおりかもしれない。邪骨を様呼びするようになったサグルはすでに邪骨の信者と言っても良いのかもしれない。
「でも……。それなら肉体的な関係を持てば絆は発現するでしょ?」
「今のあなたにそれができますか?」
「できるわ、サグルを失いたくないもの」
「本当に?」
「……何が言いたいの?」
「いいえ、ミスティアはガリウスに思いを馳せているようですから」
アルファの言葉が私の心をえぐる。ウイニードの力を得たときガリウスの心を感じた。ずっと側にいて守っていてくれたんだと気がついた。今、私の心はガリウスと繋がっている。
「それはそうだけど」
「それで肉体的な繋がりを持てるのですか?」
「でも、キスだけでも今の私たちなら絆を結べるんでしょ?」
「あのときでしたらね。ですが、あのような状態のサグルと心の中のガリウス膨れ上がっているあなたでは、もうキスでは無理でしょうね」
「……」
アルファは私が沈黙すると意地悪が過ぎました、すみませんと謝るとサグルの方へと歩いていってなにか深刻そうに話をする。サグルがちらっと私を見た気がした。
アルファがサグルに私が嫌がるようなことを言うわけないのに、わたしはそれを想像した。私は嫌な女だ。
『人よ準備ができたなら、我らが背に乗るがよい』
古代龍達が30匹ほど集まり私たちを待っていた。しかし、どう考えても一匹につき最大5人くらいだろうか。一回で運べる人数は150人でだいたい七往復か。
「古代龍さん、これ振り落とされないんですか?」
『元々我らはドラゴンライダー用の龍として設計されておる。故に背に乗るだけで張り付いたように落ちることはない』
「つまり、乗れる数だけ運べると?」
『そう言うことだ、まあ、普通は我らを使役するには我らに勝ち屈服させる必要があるのだがな。今回は特別だ』
取り合えず乗れれば良いそうなので、みんな膝を抱えて座らせると古代龍一匹につき30人を乗せることができた。レジスタンス達はかなりの斜面でもまったく落ちることがなく張り付いている。
さすがにあの体勢はキツいだろうかろう。私は古代龍に周りにいる飛竜には乗せられないのかと聞いたのだけど、飛竜は子供の頃から一緒に過ごさないと仲間とは認めないそうなので人を乗せることがないと言う。知能的には5歳児位の知能だそうなのだ。まあ、それ以前に人を乗せる機能はないので、振り落とされるから無理だと言う。
乗れないなら仕方がない。私はウイニードを抱えると古龍ジャゴムに乗ることになった。
「ミスティア手を」
サグルが上から手を伸ばす、私はお礼を言うとサグルは一気に私を引きをせジャゴムの背に引き上げた。
龍の背中は足をつけると、まるで地面のような安定性があり、よろけることもなかった。
私を乗せると古代龍達は翼をを羽ばたかせ上昇した。翼を羽ばたかせているにも関わらず、私達には風一つ来ないそればかりか羽音すらしないのだ。
「すごいわねこれ!」
私は二人を見て素直に感嘆の声をあげた。
「でも、生命を作り出すなんて精霊龍ってのはすごいんだね」
大声で語りかけた私と違い、サグルは普通に返してきた。大声でしゃべらなくても聞こえることに驚いた。サグルのその言葉にアルファが突っ込みを入れる。
「私たちも作られた生命でしょうに」
「あ、そっか。そうなると真奈美様も精霊龍並みに凄いってことか」
サグルは言われてみればそうだ気がつき頭を掻くしぐさをする。
「どうでしょうかね、真奈美様は精霊龍とはモメルな、争うな、近づくなと言ってましたから、恐れているのかもしれませんね」
アルファは精霊龍と真奈美は同等ではないと言う。精霊龍に会ったことのある私でも強さの比較はできない。
「しかし、精霊龍とは真奈美様が恐れる程の存在なのか……」
「ええ、とは言え魔王城には精霊龍がいるので近づかなければいけないのですか」
そうだ、魔王城には精霊龍がいる。ガリウスを取り戻すために戦わなければいけないのなら戦おう。ガリウスの心を取り戻すために。
「なんだついて来てくれるのかアルファ」
心配するアルファをサグルはからかうがアルファは意に介せずと言う風に手を振り無理ですと答える。
「じゃあアルファの分までガリウスを殴っておくよ」
「ええ、お願いします」
「「プッハハハ」」
二人が腹を抱えて大笑いする「なんでガリウスを殴るって話になってるの」と私が聞くと、父親が娘のつれてきた男を殴るのは当然の権利ですからと二人はどや顔で言う。
年下に父親面されても困るんだけど。
「そう言えば二人とも生まれてから何ヵ月なの」
「人工子宮で意識が芽生えてからは1年ですが、生まれでたのは半年くらいですね」
「じゃあ、この国を出たら二人ともハーフバースデーしましょうよ」
「「ハーフバースデー?」」
「そうよ、貴族の間じゃ生まれて6か月毎に誕生日をするのよ。大事な人の誕生日を半年に一回祝うなんて素敵でしょ?」
二人は顔を見合わせるとあきれたように「ミスティアは結構キラキラさんなんだね」と言いう。
「キラキラ?」
「まあ、よく言えばロマンチック、悪く言えば世間知らずかな」
「なによそれ酷いわね」
「まあ、そうですね誕生日に興味はありますし、この国を出たらやりましょう」
「そうだな俺もやってみたい」
「じゃあ、決まりね。この国を出たら、今日が二人のハーフバースデーです」
サグルがニヤリと笑い「アルファ、押しきられたな」と言う。
アルファが怪訝な顔で「何がです?」とサグルに訪ねる。
「ハーフバースデーするってことは付いてくるってことだろ」
「あ、……これはやられましたね」
アルファが頭を掻いて私を恨めしげに見る。
「もう却下はできないわよ決定事項ですから」
「わかりましたよ、着いていきます。ただ、あちらの国までですよ」
私はダブルピースをして喜んで見せた。もちろん二人からそれは辞めましょうと言われたが、なぜなのか分からない。
日本人には好評なのだが二人には不評なのは文化の差なのだろうか。まあ、これは日本人の子供達相手にだけにしときましょう。
『人よ着いたぞ、我らは人間の生活圏には入れない。故に城門前に下ろすがよろしいか?』
みんなと話をしていると、あっという間に王城上空にたどり着いた。私は古龍ジャゴムにお礼を言うと城門前に下ろしてくれるように頼んだ。
私はマイクを取り出すとレジスタンスの皆に発奮させるように叫んだ。
『革命の時は来たれり!』
あと二話でミスティアパートが終わります。