ミスティアのクーデターまでの六日間 その十一 ~次元跳躍~
ガリウスのくれた力が、いまだに私の中で息づいている。そして新しい力となって私にまた力を与えてくれた。
カスミが言っていた、精霊になれたのはガリウスの付けた救国の女勇者のおかげだと。
村から勝手に出てきたの誰?
名前をつけるようにお願いしたのは誰?
好きな人を裏切ったのは誰?
すべて私だ、私が自分で選んでやったことだ!
ガリウスが助けに来てくれない? ガリウスは今でも助けてくれている。今でもこうやって力をくれている。
それ以上なにを望むの? ガリウスと一緒の時間を生きること? ガリウスの子供を産むこと? 全部捨てたのは私じゃない。
私はどうしようもなく愚かで傲慢だ。
そして今もサグルのことも考えず傷つけてしまっている。
『ミスティアよ今は考えているときではあるまい?』
ウイニードが心ここにあらずの私を叱責する。
「そうね、今はサグルを助けないと。あのままでは確実に邪骨精霊龍に飲み込まれる」
「”超龍疾風斬”」
剣から放たれた緑の風が渦を巻き数体の土蜘蛛を屠る。
サグルはその隙を見逃さず新世代土蜘蛛に爪を向ける。しかしサグルを襲う土蜘蛛に気が付いていない。周りが見えていない。
「”超龍風来撃”」
上空から風の塊が敵を穿つ。残りの土蜘蛛に撃つと同時に、私は一気に距離を詰めサグルの側へと急ぐ。私は両手から”超龍双尾撃”を放ち両サイドの新世代土蜘蛛を叩き潰した。
アルファの火柱でも傷一つ付かなかった外骨格が今の一撃でぐちゃぐちゃのペチャンコになった。
残るは一体、正面の敵のみ。
「”超龍神王嵐”」剣を包むように緑の風が暴れ狂う。
私はその渾身の一撃を正面の魔物に向かい撃ち放った。
だけどその一撃は魔物を殺すことは無く、そればかりか私の手から翡翠色の小手が掻き消え、私の剣は糸に絡めとられていた。
あっけにとられているとサグルが血を撒き散らしながら後ろへと吹き飛んだ。
後ろを振り向くと私の消えた小手はなぜか新世代土蜘蛛の右手に付いていた。
「今のはかなり危なかったですね。神の祝福 次元跳躍を使わなかったら死んでましたよ」
「……何が起こったの」
すべての力が抜け私の中から超龍の力がごっそりなくなった。
新世代土蜘蛛の翡翠色の小手の一撃が私を襲う。その攻撃を血まみれのサグルが防ぐが体は切り裂かれその衝撃で私たち二人はアルファ達がいる場所まで吹き飛ばされた。
私は超龍にぶつかり赤い水溜まりの上に倒れこんだ。
「……血?」
一瞬サグルの血かと思ったけど、これはサグルの血じゃなかった。私はぶつかった超龍を下から仰ぎ見る。翼をもがれた超龍は口から血を垂れ流し死んでいた。
サグルもただでさえ瀕死状態だったのに、私を守る為に受けた今の一撃で虫の息だ。
「……なんでこんな」
「うーん、説明しても良いですけど、あなた達原始人に理解できるかどうか」
そう言うとバカにしたような笑いを浮かべるがパチンとアルファの指が鳴り新世代土蜘蛛を火柱が焼く。
油断した敵の隙をつくアルファらしい攻撃だ。
「やった!」
「手癖の悪い男ですね」
その言葉を発していたのは今しがた焼き殺したはずの新世代土蜘蛛だった。いつのまにかアルファは体を糸でがんじがらめにされていた。
「なんなのよ! なんでなのよ!」
「では説明しましょうか。私としても、この神の祝福が破られるか知りたいですしね。そうそう、まずは挨拶をしませんとね。私の名前はネクロムと申します短い間になるでしょうがよろしくお願いしますよ」
そう言うと新世代土蜘蛛のネクロムは自分の神の祝福を説明し出した。
神の祝福 次元跳躍は平行世界に飛ぶ能力なのだと言う。そして平行世界はこの世界よりも数分遅れて進行しており、そちらの世界で起こした行動がこちらの世界として併合されるのだと言う。
何を言っているのか分からないけど、超龍をその神の祝福で殺したと言うことだけはわかった。
「つまり過去を書き換えたと言うことか」
アルファは能力を理解できたようでネクロムは満足そうにうなずく。「原始人にしては、なかなかに理解力が早くて助かります。ですが」とネクロムはさらに話を続ける。正確には過去を変える能力ではなく変えた平行世界をジャンプする前の場所に紐付けして変えた平行世界を正史にする能力だと言う。ただ平行世界が入れ替わるのはそれほど大きくない範囲なのだと付け加える。
訳が分からない。とりあえず倒せばいいのでしょう?
「”超龍疾風斬”」
だけど振るった剣からは何も発生することがなかった。
「あなたはそちらの方とは違いバカなのですね。あなたに与えられるはずだった力は私がいただきましたよ」
ネクロムは翡翠色の小手を私に見せカチャカチャと動かす。
どういう手品か分からないけど、あいつは私の力を奪った。それだけは分かる。
今の私は超龍から力をもらう前の村娘だ。だけど、今の時点で戦えるのは私しかいないミリアスはサラスティを守っている。彼女が死んだら私たちはほどなく全滅する。
「サラスティ、サグルの治療は任せたわ!」
私は二十一型を使い、一瞬でネクロムの間合いに入った。入ったはずだった。
しかしネクロムは吹き飛ばされて岩壁に激突した。
「なっ! そんな、なんで」
ネクロムは驚きの言葉を投げかける。私は何もしていない、私の横には黒紫の体毛に覆われ体から黒い陽炎が立ち上ぼり私を赤い目で見るサグルがそこにいた。
「神の祝福 次元跳躍」
ネクロムがそう言うと、またネクロムは岩壁に叩きつけられる。
「嘘だ! そんな馬鹿な方法で私の神の祝福 次元跳躍を破るなんて!」
ネクロムは何度も神の祝福を使うが、その度に岩壁に叩きつけられた、次元跳躍は怪我は治らないようで岩壁に叩きつけられるたびにダメージが蓄積していく。岩壁に叩きつけられたダメージと言うよりサグルの攻撃によるダメージの蓄積のようだけど。
「ああ、分岐点前に飛んでるのにこんな馬鹿なことが……」
『グゥルルルル、ミスティアは傷つけさせない!』
◆◇◆◇◆
『サグルよそれで終わりか?』
邪骨の声が聞こえる。
『もう、満足か?』
邪骨が落胆のタメ息をつき俺を見る。
「まだだ、まだ俺は終わってない。俺はミスティアをガリウスに会わせるまで死ねないんだ」
『友愛』
俺の身体が一瞬で回復し、さらに力が身体の奥底から涌き出るように溢れる。
俺はそのままネクロムを蹴り飛ばしミスティアを守った。
「神の祝福 次元跳躍」
ネクロムが神の祝福を使った。一瞬俺の意識が無くなり世界が暗転する。
「今はそんなことはどうでもいいのです、まだ戦いは終わっていない周囲を警戒しなさい」
アルファが俺を叱責する。いつのまにか目の前の景色が代わり、少し前の時間に引き戻されたのが分かった。邪骨の力だ。邪骨が俺に何をするべきか教えてくれた。何をされるか分かっていればネクロムの攻撃に対応できる。そして邪骨は力も分け与えてくれていた。
目の前に突如現れたネクロムを俺は難なく殴り飛ばす。何度も、何度も同じシーンを繰り返す、その度に俺はネクロムを、やつを上回る力で殴り倒した。
「ああ、分岐点前に飛んでるのにこんな馬鹿なことが……」
ネクロムは自分の神の祝福が効かないことを悟りうなだれる。
『グゥルルルル、ミスティアは傷つけさせない!』
俺はネクロムに、自分に言い聞かせるように言い放った。
申し訳ありません、少し凹んでいて更新滞ってしまいました。