魔王は神魔王の死を嘆く。
魔王の魔法を連続して使った後、体が動かなくなった。
意識があるのに身体中の感覚が失われて指一つ動かせない。私はジェリーの攻撃をただ黙ってみているしかなかった。
予想外の出来事だ。今まで生きてきたなかで魔王化が強制解除されたことはない。
魔力がつきたこともない。
調子にのり過ぎた、人の身は私にとって未知のものだと言うことを忘れていた。
今になってガリウス様の忠告がわかった。ジェリーの触手の刀剣が私を襲うその瞬間、ガリウス様が私を押し倒す。ピンムを私の胸に置くと、私の頭を自分の頭で隠した。
触手の刀剣が私たちを貫く。そのほとんどはガリウス様の体で止まる。
ガリウス様の体からは何本もの刀剣が突き出ていた。片目もつぶれそこから刀剣が飛び出している。私は叫んだが声にならなかった。
私よりも重症のガリウス様は自分のこともそっちのけで、私に全ての力で復元するを使う。それにより私は全回復して動けるようになった。
でも、 でも、 でも……。
ガリウス様は倒れて動かなくなった。
「いやああああああああぁ!!!」
私はすぐさまガリウス様からいただいた全ての力で復元するを使った。傷は治ったけど息はしていない。私はそのまま緊急蘇生法を試みた。
しかし数度のマウスツーマウスから胸骨圧迫をした瞬間手応えがなくなりガリウス様の体は倒した魔物と同じように床に吸い込まれていった。
「いや! つれていかないで!」
私は必死につれていかれまいとガリウス様を引っ張ろうとしたが、さわることもできない。
完全に床に吸い込まれても私は床を爪で掻き掘ろうとした。だけど、ただ爪が剥がれただけだった。
「ガリウス様、ガリウス様、ガリウス様……」
なにも無くなった床を、ただ引っ掻いていた。引っ掻いていればガリウス様が戻ってくるかもしれないと思って。
私はガリウス様を馬鹿にした。精霊龍様やリライマさんよりも弱く、すでに私よりも弱いであろうガリウス様を。好きで好きでしかたなかったガリウス様を蔑んでいた。
私がいなければこの地下塔は攻略できないのだからと。
でも、あの人はきっと私がいなくても一人でこの地下塔を攻略できたろう。
私が足を引っ張った。傲慢で愚かでプライドだけ高い小娘の私が。
「ごめんなさい、ガリウス様」
どのくらい床を掘っていたろう。床は全く代わりばえしないのだが、すでに私の指は第一間接まで失った。でも掘るのをやめることができない。ガリウス様の暖かみが私の中にある。ガリウス様は生きてる、この下にきっといるんだ。だから私は掘るのをやめない。
いつの間にかジェリーが私を取り囲む。
ガリウス様と同じ場所で死ねるなら、それも良いかな。
ジェリーは刀剣の触手をだし、私に狙いを定める。
私はそっと目を閉じた。
しかし、いつまでたってもジェリーの攻撃は私を貫かない。
切り刻む音が響き渡る、しかし私は切り刻まれていない。不思議に思い目を開けると、私の前には漆黒の悪魔が立っていた。
◆◇◆◇◆
「ああ、死んでしまうとは愚かなり」
俺はその声で目が覚めた。
「あれ、ジュリアスさんなんでここに?」
4階層まで上がったはずなのに目の前にはジュリアスさんがいる。
「あなたは情けないことに、死んだのです」
「ええと、死んだんですよね? なんで生きているんでしょう」
「デス・ヘッド様のご配慮です。この地下塔で、使徒は一度だけ死んでも生き返ることができる。ただし生き返った使徒にはあらんかぎりの罵倒をせよとのご命令ですのでこれから罵倒させていただきます」
神気を持つ者は使徒扱いなのか、でもそのお陰で助かった。俺はデス・ヘッドに感謝をするが、もしかしたらデス・ヘッドは俺かもしれないので苦笑した。
それと死んだと言っても、正確には死ぬ寸前だそうなので実際には死んでないらしい。とは言え4階層で死ぬなんていままでの最低記録ですよと罵られ、ワーストワン・ガリウスと言うありがたい称号をいただいた。
罵倒が終わると、俺はお礼を良いすぐさま魔王の元へと走った。寄り道はせず一直線に。
しかし、なんだこれ。体の中に新たな力が芽生えてる。名前は”魔王ノ絆”、これは精霊龍や精霊鬼と同じく精霊の力を使うことができるスキルだろう。
魔王と絆を結んだのか。でもなぜ精霊じゃない魔王の力が……。
いや、今の魔王の魔王石は精霊龍の力を使い作ったもの、言うなれば魔王は精霊龍の子でもある、つまり精霊でもあるのか。精霊なのにレベルがある存在。精霊魔王? 魔王精霊? ミスティアのような存在みたいだけど実力は桁違いだ。
そんなことより、魔王がどうなっているかわからない以上、力の出し惜しみは無しだ。
”魔王ノ絆!”
その言葉と共に俺のからだが変化する。まるで異形の、そう魔族達のように。
俺は羽根で空を飛び、邪魔な雑魚魔物は尻尾や爪で切り裂いた。
今現在魔力が0の俺には魔王系の魔法は使えないが、この魔王ノ絆は魔王の魔法も使えるようだ。生まれたばかりの精霊なのに魔法も使うことができる魔王の存在はかなり異質だ。
こりゃ精霊鬼が荒れるだろうな、と思いながら俺は一目散に上層階を目指す。
空を飛ぶ移動速度は徒歩の比ではなく、あっという間に4階層までたどり着いた。マップを見ると魔王がジェリーに囲まれている。
俺はすぐさまその場所にいくと黒光ノ尻尾でジェリーを一掃する。
魔王の前に立つと、魔王は目を見開き俺を見る。
「が、ガリウス様?」
この姿でも魔王には分かるようで、俺はただいまと言い魔王ノ絆を解く。
「ガリウス様! ガリウス様! ガリウス様!!」
そう叫んだ魔王に俺は押し倒され熱い抱擁をされた。もちろん唇も奪われたが心配させてしまったのだ仕方ない。
泣きながら俺の唇をむさぼる魔王になすがままになっていた。
ちょ!
「ま、魔王? 服は、服はぬがさないでくださ~い!」
「だめです! 全身くまなく調べるんです!」
服を脱がそうとする魔王の指は削れて短くなっていた。俺は残りのやくそうに全ての力で復元するをかけて魔王の傷を治療した。
「心配かけてごめんね」
治った指を見て、俺だと言う確証を得た魔王は泣きじゃくり、俺に「ごめんなさい、ごめんなさい」と何度も謝る。
ピンムが俺の肩に乗り変体しようとするのを、魔王はまだダメですと冷静に弾き飛ばす。
そして自分がいま、俺のことをどう思っていたのかを話し出す。
魔王は俺のことは好きだけど、自分の力じゃなにもできない人だと、強い人の力だけでなり上がっただけの弱者だと思っていたと言う。
「それは一概に間違いじゃないよ、俺の力は全部借り物だから」
真名命名は元々静さんの神意 真言だし。絆系の力は全部精霊龍と精霊鬼の力だ。黒の戦士はアディリアスだし、考えてみるとひどいもんだと自虐をするが魔王はその言葉に首を振る。
「違うんです、ガリウス様の良いところは力は強いとか弱いとかじゃないんです」
「良い所なんかないよ」
「ありますよ、優しさです」
「優しい人なんていくらでもいるだろう?」
俺がそう言うと魔王は俺みたいなものはいないと言う。そして強い人の優しさは見下す優しさで、弱い人の優しさは卑屈な優しさなのです。ガリウス様の優しさはそのどちらにも当てはまりませんと言う。
だからみんなガリウス様を好きになるんですよ、対等の優しさだから。と言って俺の胸板を撫でる。
胸板を撫でて思い出したのか、そういえばあの魔族のような姿はなんですかと、今さら驚き跳び跳ね聞いてくる。
俺は魔王の体に起こった変化を包み隠さずに教えた。
「つまり、私も皆さんと同じく精霊になったと言うことですか?」
「鑑定眼の表記は元魔王のままだけど俺と絆を結べたと言うことはそうだと思う」
詳しいことは精霊龍と静さんに聞かないとわからないと付け加えたが。皆と同じになれたと言うことで魔王の喜びはひとしおだ。
自分だけ精霊じゃないと言うことが疎外感があったのだと言う。
「でもそうなると、ガリウス様は精霊使いですね」
なにそれ、かっこいい。俺はその称号に少しニヤケてしまった。それを見た魔王はガリウス様も厨二道が分かってきたようですねとうんうんと頷く。
これからの厨二教育が厳しくなるような気がして、俺は背筋を凍らせた。
◆◇◆◇◆
魔王城の地下で秘密の会議が行われていた。この場所は許可されたもの以外入ることができない。そしていまここに並び椅子に座るのはクロイツ達を襲ったデスの名を冠する者達である。
「聞いてくださいデス・ハンドのやつ六色の勇者ごときに殺されそうになったんですよ」
デス・ハートが呆れ顔でデス・ハンドを責める。
「まあ、お前達は神気解放を禁止してるからね。本気を出せば負けないだろ?」
中央に座る女性がデス・ハンドにそう聞くと彼は立ち上がり意気揚々と喋りだす。
「勿論ですよ! あんな雌豚、神器と神気解放すれば赤子の手を捻るより簡単に殺してやりますよ」
そういわれた女性は赤子の手を捻るとか残虐だろうとお約束を言うと、皆はデス・ハンドに向かいお前は悪魔か!と蔑む。そして俺は悪魔ですがと言い羽根を広げるのが一連のお約束の流れである。
アットホームな職場を女性はウイットなギャグを欠かさない。
とは言え、それに乗らない男がいる。デス・ボディである。マジレス乙なのである。
「大きく出るじゃないかデス・ハンド、俺の見立てじゃそれでも五分かお前の部が悪いぞ」
「うるせぇ! ならお前なら勝てるのかよ!」
デス・ハンドは煽り耐性0なのですぐに挑発に乗るのが悪いところである。
「俺は負けもしないし勝てもしない、知っているだろう?」
「まあ、勇者の件はいいさね、ガリウスは地下塔に入ったんだろう?」
女性がそう言うとデス・ハンドは喧嘩をやめて報告に戻る。
「はい、それは確認しました」
「なら問題はない、しばらく修行したら帰ってくるだろう」
「しかし、1万年も使ってなかったのですから、魔物がかなり強化してると思うのですが、私達が手伝わなくて良いのですか?」
「まあ、大丈夫だろうね。あれも一緒にいることだしね」
「わかりました、それとミスティアですがかなりピンチのようなのですがいかがいたしますか」
「あれも放って置いて良いわ。死ぬならそれまでだし、死んだら死んだでガリウスの重荷も消えるでしょうしね。他に報告はある?」
そう言うと皆首を振る。女性は手をシッシッと言う風に振ると皆は掻き消すように消えた。これは誰かが地下施設に来たと言う合図で消えろと言う指示なのだ。
老婆が地下施設を歩いていた。それを見つけた若い女性は颯爽と飛び付き目隠しをする。
「だ~れだ!」
「ゴブリン!」
「くっ! 遠からず近からずですよ静さん!」
これはいつもの二人のお約束でウィットな(略)
「それで何してたんだいこんなところで」
そう言われた精霊鬼は焦り、周りをキョロキョロと見回し、まあちょっととニヤリと笑い話をはぐらかした。
静はガリウスがいないことで、何か変化が起きたのかもしれないと精霊鬼を訝しんだ。