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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
そうして勇者様は魔境へ向かう
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179.勇者様の後ろ向きな成長



「と、とんだ式典日だった…!」

「勇者様、素直に厄日だって言えば?」

「この程度で厄日だなんて言って堪るか! これが厄日だったら、魔境には厄日しかないじゃないか!」

「勇者様のお国も大概ですよ?」

 パレードの最中で引っ手繰りが逃亡したことから始まり、ほんの身近な時間で色々あったような気がします。

 ううん、勇者様のお国に来てから、毎日何かしらが起こっているような…

「……………」

 あ、勇者様が目を逸らした。


 ヤマダさんの強制労働が決定した、あの後。

 もう怯えなくても大丈夫だと伝えに行くのも大変な苦労に見舞われました。

 主に、勇者様が。


 何しろ民衆は恐怖と不安で暴動一歩手前!

 そこに人類の希望(笑)勇者様の颯爽とした登場ですから。

 民衆は、道々全力で勇者様に縋りつき、しがみつき…

 結局、国王様にもう大丈夫な旨の報告に行くだけで勇者様は人民に呑みこまれ、危うく死ぬんじゃないかと言う目に遭いました。

 なんか、悪鬼羅刹、亡者の群れに地獄へと引きずり込まれていく図に見えたよ。

 こりゃまずいということで、途中でまぁちゃんが勇者様を人波からすっぽんと引っこ抜きく羽目に。

 地上は危険と言うことでロロイ達の背に乗ることにしたら先程まではなんだったのかってくらいにすいすいでしたけどね!

 これで勇者様が国王様に危険は去ったと報告完了すれば、あとは国の方から国へ向けて避難警報解除やら何やら、面倒臭い手続きはやってくれるはずです。

 …街の一部はかなり滅茶苦茶ですけどね!

 高台にある王宮のバルコニーから眺め下ろす街並は、かなり無残なことになっていました。何とも酷い状況です。

「こりゃ酷い」

「………言わないでくれ」

 被害確認をしようと、一緒に見下ろす勇者様が両手で顔を覆ってしまいます。

「勇者様、顔を伏せても被害状況は変わりませんよ?」

「分かっている。分かっているから…ほんの少しで良い。暫しの間、現実から目を逸らさせてくれ」

「素晴らしくあからさまな現実逃避だね!」

「もう辛くて仕方ない…」

 そう言っていた勇者様は、本気で凹んでいました。

 今が有事じゃなかったら、3日くらい引籠りそうなくらいに。

 だから勇者様が、こんなことを言い出しても私達は驚きませんでした。


 それは国王様に謁見する前に、荒方の状況を担当係の方にお話終えた後のこと。

 正式な報告は王様相手にしますけど、迅速な対応の為に必要事項だけ担当さんに報告しておくんですって!

「……と、そう言う訳で」

「どんな訳だ?」

「報告の為に改めて当たり障りのない状況(真実八割隠匿)を口にしたことで、状況を再認識した勇者様がどん底まで凹みました。もうボッコボコです」

「ある意味いつも通りの光景だな?」

「でも口にしないけど、なんか嫌になっちゃったっぽい感じ?」

「まあ、勇者の性格なら嫌になっても嫌とは言わんだろ」

「そして限界ぎりぎりアウトまで自分を追い詰める…と」

「暴発する前にガス抜きしねーと、今度こそ人間花火になるんじゃね?」

 なんて、思っていたんですけどね?

 いつもならもう一杯いっぱいでも無理して頑張って、廃人一歩手前になっても自分を酷使して踏ん張ると、思っていたんですが。

 勇者様が…!

 勇者様が、仰ったんです!


 それは、身支度を整えようと勇者様が着替えの為に服を脱いだ合間のこと。

 着替えの手伝いをしていたサディアスさんは勇者様の全身を見て、顔色を変えられました。これは着替えの前に、まず手当てが必要だろうと。

 皆様、覚えておいでですか?

 勇者様が紙風船の如き軽々しさで、まぁちゃん達に容易く吹っ飛ばされまくっていたのを…。まるで玩具みたいに、天空をキリキリ舞いしていたあの勇姿を…!

 精神的な回復力は高いけど、勇者様の肉体は一応人間。

 傷ついたら相応の手当てが必要です。

 そんな訳で、私が呼ばれまして。

 勇者様の傷口に薬をつけたり、湿布を貼ったり、包帯を巻いたり。

 手当をしながら、勇者様と談笑していたんです。

 そうしたら仰ったわけですよ。

 とても重要な、その一言を。


「もう魔境に戻ろうと思う」


 なんと。

 『無理をする』がデフォルトの勇者様が、いつのまにか『自己保身(良い意味で)』を覚えちゃった――!?

 結構な衝撃でした。

 私も思わず衝撃でよろめきそうになりましたよ?


「でもまだ式典の日程も終わってないし、勇者様もこっちにいないといけないんじゃないですか?」

「正直に言おう。……………限界なんだ」

「勇者様のお言葉とは思えないチョイスの発言!」

「頑張るのは(やぶさ)かじゃない。吝かじゃないんだけど…自分の身体を守りながらリアンカ達の面倒を見るのは……………」

「濁された言葉が重々し過ぎますね」

「君達を連れて来たのは俺の責任だけど、こっちの国に魔境の常識を混入すると本気で危険すぎる。俺の身が保ちそうもない…」

 混ぜるな危険、ですね。

 どうやら勇者様は自分のお国事情と魔境のどたばた…どちらか一方なら、それほど労せずに対応できる自信があるようです。でもそれの複合合わせ技…ごっちゃ煮状態の連係プレーで来られると、対応能力を超えて疲労MAXになっちゃうみたい。

「勇者様………とうとう、己の限界を悟ったんですね。勇者様ならそんな限界も、いつしか軽々超えていけると思っていたのに」

「時間があったら、ここまで大きな騒動が起こらなかったら、きっと頑張ってたよ…。でももう、今回はギブアップだ」

「………次回があるんですかね?」

「…………………あまり考えたくないけど、似たようなことはこれからも起こりそうな予感がする。当たってほしくはないけれど」

「それもう、確信じゃないですか? でもまあ、タイミング的には良かったかもしれませんね」

「うん? タイミング…?」

「……………今夜の夜会に焦点を当てて、ミリエラさんが他のご令嬢方…『ライオット殿下崇拝淑女会』の皆さんと手を組んだって小耳に挟んだので」

「待て! ちょっと待て!! 色々と聞き捨てならないんだけど!?」

「あ、ちなみに今夜の夜会で勇者様の捕獲に成功したら、功績の高い者から勇者様の側室に潜り込むべく既成事実を掴むつもりらしいですよ?」

「行こう! 今…今すぐにでも旅立とう! 何が何でも逃げなくては…というか、ちょっと待て俺の『崇拝淑女会』って何だ!?」

「勇者様のお情けに縋り付いてでも人生捧げて喰らいついていく所存を表明した肉食お嬢様&未亡人達の地下組織だそうですよ」

「色々妖し過ぎる…!? 危機感しかないんだが、俺!」

「私も本格的に逃げた方が良いと思いますよ。情報をくれたレオングリス君も、パレードが終わったら夜会が始まる前に何が何でも勇者様を捕まえて忠告して下さいって重々頼みこんできたし」

「レオングリスはどこでその情報を獲得して来たんだ…!? 最初から俺に言えば良いのに、どうしてリアンカに…」

「何か私に、女性達を牽制する壁になってって同時に頼んで行きましたけど…」

「…母上が手を回したんだな、きっと。お節介をまだ諦めていなかったらしい」

「勇者様、愛されてるね! 主に女性に!」

「愛が重すぎて押し潰されそうだけどな…!!」


 そんな訳で、深く勇者様は逃亡を決意されました。

「………それに重臣達の思うまま長居したら、それこそまた誰か供を付けるとか言いだして選定し始めそうだし、な…」

「それこそ竜が重量オーバーだって言えば良いじゃないですか」

「……………タナカさんがいるだろう」

「タナカさん…ああ、確かに私達についてきそうな気配がしますね」

 あの食いしん坊で寂しん坊でお昼寝大好きのドラゴンさんは、未だに私のことを何故か御先祖様…フラン・アルディークと間違えるままです。置いて行ったら、絶対に追ってくるだろうなぁ…

「なるほど。確かに重量問題が知らない間に解決されていますね」

「タナカさんが荷物を運ぶのに適しているかと言われたら、疑問が残るけどな…」

 背中に乗ってるモノには全然配慮してくれなさそう。

 それこそ気付いたら、背中が空っぽになっていたりしそうです。

 それで背中に乗せた誰かが落ちて死んだら…流石に寝覚めが悪いよね。

「だからやっぱり、皆が対応できない今のタイミングで急遽旅立つべきだと思う。対応できる時間と猶予を与えちゃいけない」

「なるほど、勇者様のお考えはよくわかりました。でも責任放棄なんて、勇者様だったら蛇蝎の如く嫌がりそうなのに…」

「……………今なら、言い訳が立つからな」

「え、言い訳!?」

 それこそ勇者様らしくないお言葉が出ましたよ!?

 どうしましょう、素で吃驚してしまいました。

「ゆ、ゆ、勇者様…!? どうかなさったんですか? 体調が悪いとか…熱でも?」

「どうしてそういう反応になるんだ…」

「だって、だって勇者様が『言い訳』ですよ!? それこそ渾身の力で以て忌避しそうなものなのに!」

「確かに言い訳なんて男らしくないし、あまり気持ちの良いものじゃないと思う」

「そうですよね、それでこそ勇者様なんですが…なのに?」

「ああ。今回は、やむを得ない…」

「ゆ、勇者様が…勇者様らしくない方に進化した!」

「誰のせいだ、誰の? 俺だって、出来ることならこんなことはしたくない……したく、ないんだが命は惜しい」

「勇者様…そこまで、追い詰められて」

「うん、誰のせいだ?」

「私とまぁちゃんとせっちゃんとその他全員ですかね?」

「リアンカもわかっているのになー…」

 勇者様の溜息は、深く海溝すらも埋めてしまうほどの重みが感じられました。

「………さて、怪我の手当ても終わりましたよ」

 包帯を巻き終わり、軽くぽんぽんと叩いて具合を確かめる。

 うん、これなら大丈夫!

 どんなに勇者様が走って逃げ惑っても、これなら解けないでしょう。

 勇者様は小さく「そうか」と呟いて、上着を片手に立ち上がりました。

「行かれるんですか?」

「ああ、頃合いも丁度だ。謁見の間で父上と話してくる」

 その席で、旅立ちを表明してくると。

 勇者様の背中には、固い決意がめらめらと燃えあがっておりました。

 燃え過ぎて、灰になって帰ってこないと良いんだけど…


 心配になりながらも、時間はわずか。

 私は急遽仲間達を急かし、大忙しで出立の準備を整え始めたのでした。






勇者様、夜逃げ宣言。


予定としては次回、「ここは人類最前線6」の最終回とさせていただきます。

書きこぼしがもしかしたらあるかもしれませんが…この顛末は絶対に知りたい!というものがありましたら、土日中に感想欄で教えていただけると考慮いたします。

書ける内容であれば最終話に入れるか後書きなどで捕捉するか出来たらします。


ちなみに「6」が終わっても年明け以降に「7」を書き始めることになるかと思います。そちらは前々から微妙に触れていた、魔族の伝統「武術大会」から話が始まる予定です。そっちの方でも何かリクエストがありましたらお知らせください。


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