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168.三つ巴には足りない

「6」最大の、武力的な意味での修羅場が整いつつあるような…。

大丈夫さ、勇者様………精神的な修羅場の数々を潜り抜けてきた、貴方なら!




 どうやら悪魔の腕(スルメ)が気に入ってしまったらしい、タナカさん。

 でも私はそれを返してほしいな。

「タナカさん! その腕は私が先に見つけたんです。だから返してもらいます!」

「『ん? フランよ、勝負か…』」

「だから私、御先祖様(フラン)じゃありませんってばーっ!!」

「『何を言う、その見事な赤毛に! 魂の輝きに! ………うむ? 香ばしいトウモロコシの匂いが食欲をそそる…!』」

「トウモロコシ!? え、私からそんな匂いしてる!?」

 ま、まさかそんなはずは………

 …と思ったら、タナカさんの視線は放置された屋台の一つに向いていました。

 勿論、売り物は焼きモロコシです。

「タナカさん! 話は最後まで続けようよ…っ 途中で食欲に負けてどうするの」

「『フランよ、貴様暫く会わなかった内に随分と怒りっぽくなったものよな』」

「今朝も会いましたよね!? あと、私リアンカですから! 子孫ですから!」

「『――欲しい物がある。なればその腕一本でもぎ取るがよーいドンッ!』」

「よーいどん!?」

 駄目だ、話が通じません!

 相変わらず、このドラゴン……私にツッコミさせよる……………

 私の方は、まじめに話をしているつもりです。

 ですが端から聞くとどうなんでしょうね?

 特にタナカさんの使う言葉は、かっなり古~いお言葉ですから。

 今の人間の国々に暮らす人達は、きっと意味が理解できないでしょう。

 そんな言語で、片方が話していて。

 それでこの会話の流れ………

 脈絡のない話がどう聞こえるのか、勇者様の怪訝そうな態度が示しています。

「待て、リアンカ! さっきから一体どんな話をしているんだ!?」

「私にもわかりません!」

「君の台詞の脈絡がなさすぎて、俺も何が何だか!」

「私じゃなくって、今回はタナカさんのせいですからね!?」

 タナカさんの言葉がわからない勇者様が、私に疑惑の目を注いできます。

 濡れ衣です。

 濡れ衣冤罪ですから、勇者様!

「とにかく、腕を返そうね!?」

「『むぅ、喉が渇いてきた………浴びる様に酒が呑みたい』」

「そんなこと言っていると、ウォッカ目玉に注ぎますよ!?」

「だからさっきから、どんな話をしているんだ…!」

 ………駄目だ、タナカさんってばやっぱり話が通じない!

 そこが楽しいひとではありますけどね!?

 流石に、いい加減に悪魔の右腕を返してほしいわけで。

 でも存命五桁オーバーの竜に、私が立ち向かって勝てる気は微塵もありません。


 それどころか、喧嘩しようぜ☆とばかりに前足を振りかぶられても困る訳で。

 当然ながら、そんなことをされても私に対処できるはずがない訳で。

 いやいや、ほんと! だから困り………


「あ、わっきゃぁぁぁああああああっ」


 こ、困りますってばぁぁぁああああああっ(泣)!!


 私はご機嫌ドラゴンさんが虫を潰すような無造作で振り下ろしてきた腕をなす術もなく見上げていました。

 でも本当に成す術がなかったら、死んじゃう訳で。

「――リアンカっ!」

 勇者様が咄嗟に、私を守ろうと身を翻しますが。


 私は魔境で培った危機回避能力で、攻撃予測地点から飛び退いていました。

 間一髪、でしたけれど。


 小さな頃から、魔境で危険な場所での遊びを繰り返していて良かった…!!

 今、魔境中ところかまわず遊びに精を出した幼少期に本気で感謝しました。

 慣れって凄いよね…! 


「え………っ?」


 そして、代わりといわんばかりに。

 私が寸前でひらりと避けた、訳ですが。

 そんな私を救出しようと飛び込んだ勇者様まで、避けることになった訳で。

 ………私を庇う筈が、空振りに終わった勇者様。

 でも、まだ終わっていませんでした。

 私という標的がいなくなったことで、勇者様は無防備に攻撃予測地点に飛び込んでしまったのですが………はい、当然ながらそこに攻撃が来ますね!

 予想外の事態に一瞬体が硬直してしまった勇者様にとって、その一瞬は取り返しの付かない隙に繋がってしまいました。


「NOぉぉぉおおおおおおおっ」


 ばしーんっと。

 蚊を叩き潰すみたいな、そんなイメージで振り下ろされる前足。

 逞しくも、ぶっとい前足!

 あんなもので叩き潰されたら、内臓までぺしゃんこですよ!

「ああっ 勇者様ー!?」

 そんな…っ とうとうお亡くなりに!?


「って、死んで堪るかー!!」


 本当に、勇者様って生命力が強くて悪運も強い方ですよね。

 魅入られたように、前足が叩きつけられた地面を私達は凝視していました。

 でも、なんでかな。

 勇者様の声が、背後から聞こえてきたんです。


「え、勇者様…っ?」


 振り返れば、そこに。

 お元気そうな、勇者様。

 あれ、生きてる。


「そんな「死んだ!?」みたいな反応されても、俺は生きてるからな…っ」


 そう悪態をついて、体中を泥だらけにした無残な姿。

 さも、とうとう死んだ!?とばかりの反応を見せた私達に、まっすぐ抗議の声。

 白い衣装は先程からの災難で散々なことになっていましたが、勇者様の眼差しには未だ凛とした光が宿っています。

 ………結構散々な目に遭っていると思うんですけど、ね。

 勇者様はいつだって目に凛々しい光を宿しておいでです。

 何でこの人、目が死なないんだろ。


 叩き潰される寸前で、勇者様は地面を全力で転がったのでしょう。

 転がり回避して、全身を西瓜果汁の上から土塗れにして這い蹲っています。

 問答無用の攻撃だったので、喰らわないに越したことはありません。

 何はともあれ、勇者様がご無事そうで良かった…!

「そのことだけは、心の底から本気で思ってますよ? 勇者様、無事で良かった」

「友達の君に身の安全を残念がるほどの憎悪を寄せられていたら、俺は泣くぞ?」

 真顔で言い放った勇者様。

 その表情は、「暗にそれを案じている」と言っているも同然で…。

「そんな事実はありませんから、泣かないでくださいよ!?」

「だったら頼むから、俺が泣く羽目になるようなことは謹んでくれ…」

 そう言う勇者様のお姿は、疲労感たっぷりで大変哀愁に満ちていました。


 

 さて、どうしましょう。

 タナカさんったら、すっかり喧嘩する気で臨戦態勢。

 長生きしている癖に、魔境の住民並みに短気で好戦的ですね…

 あの戦闘狂一族の似た者なら、到底このままで済ましてくれる気がしません。

 問答無用で攻撃され続けたら、私、死んじゃう。

 非戦闘員の私は、戦闘なんて出来ないんですから。

 

「まぁちゃん!」

「よし、任せとけ」


 こう言う時は、出来ないことは出来る人にお任せです☆

「まぁ殿…!?」

「悪く思うなよ、タナカ………覚悟決めとけ」

「『むう…こちらにもフランが。いつの間に分身の術を会得したのだ、フラン』」

「お前一回、目医者行って来い」

 超絶嫌そうな顔でタナカさんを見るまぁちゃん。

 真っ黒なその目は、ブリザードに凍て付いておりました☆

 しかしタナカさんの目に、まぁちゃんはどう見えているのでしょう。 

 というか、御先祖をどんな人だと認識しているのでしょう。

 もしかしたら元蜥蜴という経歴のせいで人の顔を細かく見分けることが出来ていないのかもしれませんが…

 襟足が少し長い赤髪な御先祖様と、白銀の髪を長く伸ばしたまぁちゃん。

 ………ぱっと見ただけで、随分違うと思うんだけどな。

 

「『フランよ、この日をどれほど待ったことか…本日は喧嘩祭りを開催する!』」

「だから御先祖じゃねーっての。お前、真剣に眼鏡作ってもらってこい!

竜族用の高性能な眼鏡(主に老眼鏡)作る職人紹介してやっから…!」


 激しく何かがぶつかりあう音がしました。

 何の音かと首を傾げてしまいます。

「勇者様、いま何があったんですか?」

「………まぁ殿の手刀から真空刃が飛び出し、それをタナカさんが噛み砕いた」

「わあ☆怪獣大合戦………」

「その言葉で済ませて良いのか…!? ああ、くそっ 俺はどうすべき…というかどっちを止めれば良いんだ! いや、そもそも止めて止まるのか!?

だが、止めなければ国が消える…絶対に消滅する!!」

 苦悩にご尊顔を歪ませながら、勇者様の手が新たに持ってきた剣に伸びます。

 勇者様が剣を抜こうとする寸前、私は声をかけていました。

「勇者様……」

「……どうしたんだ、リアンカ」


「後何分で王都が焦土と化すか、賭けませんか?」


「縁起でもないことは止めようなっ!?」

 ぎょっと振り返った勇者様に、軽くお説教されちゃいました☆

 ロロイやリリフもじとっとした目で、私のことを見てきます。

 あれ、流石に洒落が酷過ぎましたか…?

「リャン姉、それを言うなら『何分で王国が消し炭と化すか』じゃ?」

「ああ、そっちか!」

「そっちもこっちもないからな!? 勝手に人の国を滅亡決定しないでくれ…!」

「「「「「え…っ」」」」」

「なんで全員揃って、『思いがけないこと聞いた』って顔をする…!」

「いや、勇者様………その、滅ばずに済むと思っているんですか?」

「より正確に言うなら、滅ぶ前にあの怪物(×2)を止めれると思ってんの?」

「あ、言っておきますけど、私はまぁちゃんがシャイターンさんの腕を取り戻すまで取りなす気はありませんよ?」

「詰んだな」

「詰んでますね」

「せめて冥福を祈りましょう」

「誰の!? なあ、お前達の脳内では、一体誰が死んだ設定なんだ!」

「――え、聞きたいですか?」

「………………………それじゃ、俺はちょっと行ってくるから…」

「いってらっしゃい、勇者様! 怪我が少ないことをお祈りします。死んじゃったら流石に手の施しようがないので、完全に死ぬ前に退避してくださいね!」

「生きてさえいれば、どうにかできますの! 頑張って逃げてですのー!」

「ぐっどらっく! せめて死なずに済むくらいの幸あれ…!」

「拾える骨が残ることを祈っとくよ」

「何で君達は揃いも揃って、そんな不吉な言葉で見送るかな…!」

 やけくそ気味に叫ぶ勇者様のお顔は、何だか悲壮感を帯びていました。

 勇者様、死なないと良いね!

 

 でも現実問題、タナカさんvsまぁちゃんの構図は本気で人類の及ぶべき範疇を超えてしまっているように見えます。


 こうして私達がわやわやしている間にも…


「まぁちゃんぱーんち!」


 どごーんっと。

 その一撃で街灯が吹っ飛んだよ、まぁちゃん?


「『馳走になり申す!』」


 そして拳から飛び出した衝撃波を、タナカさんが食べたーっ!!

「ち…っ 小手先の小技は通じそうにねぇな。長生きしてるだけあるぜ」

「『どんと来い!』」

 互いを見交わしあって、含み笑いをもらす怪獣二頭。

 あの、お二方?

 背後に、人類の前で出しちゃいけない類の禍々しい気配が漂ってますよ?

 巨体Mr.タナカと戦う為、まぁちゃんは空へ浮かび上がり宙に両足を張る。

 背後に漲るドス黒いオーラが、まるで空まで暗黒に染め上げるようですね。

 ある意味、絶景です。


 対するタナカさんは悪魔の腕を前足で押さえつけたまま、威嚇射撃か口から妖しいブレスを吐き出します。

 空に浮かぶまぁちゃんの足元を、めらりと邪悪な何かが過ぎ去りました。

 不可視のブレスなんて放たれたら、射程を予測→回避と動く為に気をやらなくてはならなくなってしまいます。

 それじゃ精神が疲れて磨耗してしまうでしょう。常人なら。

 ………まぁちゃんなら、平然と対処しそうだけど。


 そして、腕。

 タナカさんに依然として捕獲されたままの、右腕。

 ドラゴンにかみかみされていたというのに、まだ腕としての体裁を残したままの結構頑丈な右腕様もまた、未だ逃れることを夢見てかじたばたと暴れている。

 うん、さすがしぶといですね。

 まぁちゃんの放った火炎から確保した種火は、未だ尽きぬのでしょう。

 空へ、金属片すら残さず溶解させてしまいそうな灼熱の火柱が迸ります。

 ………なんだか段々、アレが襲撃的な意味合いを持つ火柱じゃなくって別のものに見えてきました。

 強いて言うのであれば、「HELP!」を意味する救難信号的な何かに…。

 場合によっては、無人島に漂着した人の救難要請よりも切羽詰っています。

 うん、自力で逃げられないんだね…腕。

 目も耳も口もなかったら、情報遮断状態で周囲の状況が掴めないもんね、腕。

 盲目状態で逃げ場も見つけられず、腕は未だ依然としてもがいています。

 腕、がんばれ……右腕。


 そんな、ますますもって現場の状況は怪獣大決戦めいているわけですが。


「………勇者様、あれに突撃するの? 死ぬよ?」

「真剣な目でしみじみと言わないでくれ…っ」

「うん、でも普通に死ぬと思う」

「待つ人達の為にも、王国の為にも…俺はこんなところでは、死なない…!」


 そうして、勇者様は。

 間に合わせの剣を力強く掲げて、死地へと駆け出して行きました。

 心なしか、大きな死亡フラグを打ち立てて行った様な気がしてなりません。

 王国と王国に暮らす人々の為、暴れる人外二人を治めに行った訳ですが…

 腕の回収は二の次なんですね、勇者様…?


 こうして場は、悪魔の腕を執拗にかみかみするタナカさんと、腕を奪い返すついでにタナカさんをしばこうとする魔王まぁちゃん…そして、そんな暴れる二人を取り押さえるべく決死隊と化した勇者様の三つ巴に………

「むぅちゃん、どう見る?」

「単純に考えて、三つ巴というには勇者さんが実力不足かな。

あの二人を相手に肩を並べるには、今のレベルじゃまだまだ無理じゃない?」

「そうだよね。そうなんだよねぇ…」

 勇者様、今日こそ死んじゃうんじゃ………と思って、毎回そうはならないんですよねー。なんだかんだ、勇者様の頑丈さならばあるいは…と不思議な信頼感がいつの間にか芽生えています。

 勇者様ならば…と。

 私達は固唾を飲んで周囲を見守っています。


 私は非戦闘員な訳ですが。

 今この場で共に野次馬をしているラインナップは超☆豪華です。

 魔王の妹、一名。

 真竜、二名。

 火炎魔法の得意な薬師、一名。

 そしてサーベルタイガーの子と猫数匹。


 たたかえ、と。

 誰かの苦情が聞こえてきそうなラインナップでした。





田中さんvsまぁちゃん&勇者様………では、なく。

 →正解:田中さんvsまぁちゃんvs勇者様

 暴れる暴君二人から、勇者様は果たして王都の防衛成るか…!?

 …という、図式です。


 ですが対立構図の完成は…いや、まだです!



11/16 誤字の訂正

 次回、リアンカちゃんが悪魔を召喚します。

 そんな予定です。(予定は未定)

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