165.うっかり追い打ち
(結果的に)勇者様不憫祭り開催中(笑)
前回、書き忘れたのですが「みてみん」に11/1、イラストを投稿しました。
内容は活動報告の方に書いていますが、例のきわどいリアンカちゃんの衣装…舞踏会にて着用した、正装姿を投稿しています。
イラストとか興味ないね!という方もいるかも知れませんが、気になる方は覗いてみてください。タグに「ここは人類最前線」と付けているので、作品名か「小林晴幸」で検索したら出てくると思います。
混乱の、中。
突然の襲撃に騒然となる、悪夢のパレード。
連続して被弾し、直撃の末に大ダメージを受けた勇者様。
めこっと凹んだ山車の中ほどまで、陥没して。
埋没した勇者様を救わんと、狂乱の王妃様が護衛達に助けるようにと縋りつく。
うん、なんという混沌。
「な、なんなんだ攻撃か…っ」
「テロか!? どこの手の者がこれを!?」
「ま、魔王だ…! 勇者である王子殿下に対する、魔族の襲撃だ!」
「な、なに!? 魔王の襲撃…!?」
混乱の伝言リレーは、確実に極端な方向へと走りつつありましたが。
「………あながち間違いとも言えないのがアレだね、まぁちゃん」
「流石に今回ばかりは俺もちょっと反省したわ」
混乱ぶり夥しい、伝言リレー。
情報が伝達されるごとに、民衆の恐怖や無責任な想像、思い込みや先入観に染まって話は大事になっていきましたが…
暴動でも起こしそうな狂乱ぶりを、遠く眺めながら思います。
最終的に『事実に限りなく近い妄想』へと辿り着いたことは笑うべきかな?
うん、まぁちゃん…そんな遠い目しても過失は消えないからね。
「取り敢えず、勇者の生存確認しとくか」
「不思議と死んでいる気がしないのが、勇者様の勇者様たる由縁だね」
「俺も割と力入れたつもりだし、結構な感触があったんだけどなー………なんか、俺も生きてる気がするわ」
「というか、勇者さんが死ぬところって想像つかないんだけど。あの魔族並の人外生物が死ぬって、それどんな天変地異?」
「むぅちゃん、むぅちゃん、勇者様は本人曰く人間だから。人外生物じゃないから。………辛うじて」
「リアンカも言ってること大概だよね?」
「大丈夫ですの! 勇者さんならきっと、隕石に直撃しても生きてますのー!」
「いや、流石にそれは死ぬんじゃないか?」
「本当に?」
「…………………多分、死ぬんじゃないか?」
悪気はないのですが、私達の感想はそんな感じでした。
それは何とも他人事で、そしてとっても酷い気がします。
うん、悪気はないの。
でも本気の本当に、勇者様が死んでる気がしなかったんですよ。
それ故の、心の余裕から出た言葉だと思います。
本当に死んでいたり、死んだんじゃないかと疑惑が濃厚だったら流石に…
……うん? 流石に、こんな悪ふざけじみたことは言いません、よね?
……………何だか自信がなくなってきました。
勇者様の生存確認。
急がなきゃいけないはずのそれに対して、何故か私達はとっても悠長。
本気で、勇者様が死ぬ気がしなかったので…いえ、これは言い訳ですね。
本音を言えば、あの混沌の渦中に飛び込むのが面d…気が引けたからで。
でもそんなことも言っていられないので。
「まぁちゃん、いってらっしゃい!」
「お前、俺一人に押し付ける気だろ」
「いってらっしゃい!」
「ま、俺がやったことだし別に良いけど」
ひょいっと肩を竦めると、何とも気軽な様子でまぁちゃんは、
跳びました。
それはもう、一足飛びという言葉が脳裏に浮かぶほどに軽々と。
たった一度の跳躍で。
溜めも助走もなしの、たった一回の跳躍で。
まぁちゃんは、混乱する人が気を飛び越えました。
まぁちゃん………貴方の前世は飛蝗でしょうか。
まさに昆虫並の跳躍力。
なんで羽が生えていないのか不思議なくらい。
流石、魔王様。
人間の限界を易々と超越してくれます。
「おー…軽々と跳ぶもんですねぇ。やっぱ基礎身体能力高いなぁ」
「リアンカ? 言っておくけどあの程度なら半魔の僕でも結構軽いよ」
「むぅちゃんがって思うと意外…でもやっぱり身体能力人間以上なんだよね」
流石、魔族の身体能力。
むぅちゃんは半魔族だけど。
軽くジャンプで波いる障害物(人垣)を飛び越えた魔王様。
彼の着地地点は、混沌の渦中。
勇者様が埋没した、山車から生えた旗の上。
そんな不安定な場所に、よく立てるものです。
まぁちゃんって平衡感覚も半端じゃありませんよねー…
いきなりどこからともなく飛んできた超絶美青年。
言わずもがな妖しい彼に、人々がどよっとざわめきます。
そんな衆目の反応もなんのその。
まぁちゃんは全く意に留めることなく、平然とした態度。
「おーい、勇者生きてっかー?」
呑気な声は、とっても場違いでした。
救いはまぁちゃんを『勇者様のお友達』と関係者が認識していてくれたことでしょう。お陰で、いきなり武器を向けられることはなかったのですから。
もしもそんなことになっていたら、復活した勇者様の胃が大変なことになります。一瞬で過剰分泌された胃液が、胃壁を溶かしつくしちゃうぞ☆
きっと胃に見事な大穴があくことでしょう。
「ん、返事がないな…ただの屍のようだ。こりゃ、本格的にサルベージ必要か?」
周囲の微妙な困惑を放置して、まぁちゃんがうむうむと何かを確認しています。
サルベージですか、それは山車を破壊した方が早くないかな。
引っ張りだすより、周囲の障害物を撤去した方が早そうな気がします。
でもまぁちゃんの言う『サルベージ』は、私の予想とは違うものでした。
「おーい、リアンカ?」
わあ! こっちに話を振ってきた!
あんな大注目を受けている状態で私に声をかけてくるなんて!
お陰でこっちまで注目の渦に巻き込まれちゃうじゃないですか。
困ったなぁと眉尻を下げる私に、まぁちゃんは尚も言葉を重ねます。
「ちょっと何かボケ一丁! ツッコミ様が一瞬で復活するようなどぎついの頼む」
「そんないきなり言われても、私ボケじゃないから無理だよ」
……………微妙な沈黙が、仲間達の間に漂いました。
え? 私、ボケじゃないよね?
混沌の使者ではあるけれど。
まぁちゃんが、そっと視線を逸らしました。
まるで見てはいけないものから、視線を外すように。
まるでそっとしておかなければいけないモノから、手を離すように。
「え、と…じゃあどうすっかな」
気まずげに項を搔いていますけれど、ね?
言いたいことがあるなら言おうよ。私達の間に遠慮は無用だよ?
その腫れ物に触れるような扱いが、何となく癪に障ります。
「仕方ねーな。この山車、破壊すっか」
そしてまぁちゃんのあっさり破壊宣言。
うん、それでこそ魔王様だよね☆
「よーし、そんじゃこの山車破壊すっから、十数える間にお前ら退避しろ」
…まぁちゃん、それって結構無茶じゃない?
何を言っているんだこいつ、という目で皆様はまぁちゃんを見ていたのですが。
まぁちゃんが徐に掲げた、手。
右手の上にどう見ても明らかに物騒な…魔力の塊が迸り始めまして。
魔力の塊なんて一般民には見えそうにもない物ですが。
それは、明らかに物騒な気配を周囲に発しつつ、闇の色をしていました。
そして全体的に危険度が高そうな黒い獄炎を纏っている訳で。
わあ☆
逃げろ。
それこそまさに、狂乱の一言。
本気で暴動が起きるんじゃないかと思った訳ですが。
見るからに危険度MAXの破壊魔法を前に、周囲の人々は血相を変えました。
というか、まぁちゃん。
勇者様の埋まった山車にその魔法炸裂させたら、それこそ本当に勇者様が死んじゃうんじゃないかな。
まぁちゃんは魔力が強すぎて、細かな手加減が苦手です。
それは私も知っている事ですが…うん、逃げろ。
あれは本気で逃げた方が良い魔法だと思います。
だってなんか、物凄く禍々しいもん。
あわや、こんなところで魔王によるテロ第二弾(悪気はない)が勃発するかと思われたのですが。
運命の女神様の采配でしょうか。
それとも某勇者様に加護を与える幸運の女神(←そういえば)の強運でしょうか。
普段日頃は勇者様の凶運に打ち消されたのか相殺されたのか、中々発揮されないものですが。今日は間違いなく、この土壇場で発揮されました。
勇者様の、神の加護によって稀に起こる幸運が。←不幸中の幸い。
その瞬間!
突如として、勇者様の埋没した穴がいきなり弾けました。
どっぱぁぁぁああああん、と盛大に。
それまで蛇に睨まれた蛙よろしく、まぁちゃんに注目が殺到していたのですが!
意表を突く事態に、再び衆目の注目は勇者様の埋まった山車そのものへと。
何があった、何事だ、と。
人々の見守る中………ゆらりと、揺らめいた。
何が?
勇 者 様 が!
うんともすんとも反応がないので、再起不能かと思われた勇者様。
なんとその彼が、自分の埋まった場所を弾けさせて這い出して来たのです。
………多分、勇者様自身と一緒に瓦礫だのなんだのが一緒に埋没して、今まで身動きが取れなかったんだろうなぁ。
穴を弾き飛ばした勢いで、様々なモノが宙に舞い、そして落ちて行く。
雑多な諸々は、穴から噴出したにしては本当に色々なモノがありましたから。
恐らく、自分の体をみっちりと穴に詰め込んで隙間を埋めていた瓦礫を弾き飛ばし、それから這い出て来たのでしょう。
それが大変だったのか、穴の中で息が詰まったのか。
半壊した山車の上、四つん這いの勇者様は肩で荒い息をついていました。
ついでに言うと、見たところ無傷でした。
「おお…自力で這い出して来やがった」
流石にちょっと、タイミング的に吃驚したのでしょう。
なにしろ出鼻をくじくような絶妙のタイミングでしたから。
目をぱちくりとさせる仕草はどことなく幼くて、まぁちゃんがどことなく愛らしく見えます。その容姿は可愛いというより妖しい超絶美青年なんですけどね。
ぜはぜはと肩で息をついていた勇者様。
その息も、ようよう整ってきたのでしょう。
よろり力なく立ち上がる姿は、まるで生まれたての小鹿。
それでもキッと先程勇者様に直撃かました魔法弾の飛んできた先へ…
……さっきまでまぁちゃんのいた、私達の方へと鋭い視線を飛ばしてきました。
「まぁ殿、殺す気か!!」
わーお、バレてら。
勇者様も、直撃喰らって悟るものがあったのでしょう。
どうやら魔法を放ったのがまぁちゃんだと、もろバレしているようです。
しかし殺す気かと問いかけつつ、勇者様ったら全くの無傷ですよね?
ぴんぴんしていますよね?
担架と医者の用意に走り回っていた近衛兵の方々がポカンとしていますよ。
勇者様に向けられる「信じられない」という目を見るに、勇者様、魔境に来て更に打たれ強くなったんじゃないですか?
物凄く「慣れた」感のある勇者様は、そんな奇跡を見る様に勇者様を仰ぎ見る人々には全く気付かず。
むしろ悠長に怒りを露としていました。
まあ、魔境生活で培った「慣れ」なのでしょう。
それで魔法の発生源に当たりをつけた上で、何の警戒もなく目を吊り上げて怒っている訳ですね。まぁちゃんの悪ふざけか何かだと思っているから。
その身の上に更なる不幸が襲いかかろうとしていたなど、微塵も知らないで。
勇者様が這い出てきたならコレは無用、と。
山車に向けて放とうとしていた真っ黒い魔法にまぁちゃんが目を向けます。
ひらり、手を揺らめかせて握り潰そうとした…瞬間。
ちゅどぉぉおおおおおおおおおおおおお………んっ
人ごみの向こうで、物凄い轟音が鳴り響きました。
同時に天まで届け☆と立ち上る火柱………ものすっごい火柱。しかも黒い。
明らかに、尋常ならざる事態…というか、人知を超えた異常現象が………
「まぁ殿!?」
「俺じゃねえよ!?」
すかさずかけられた冤罪に、まぁちゃんがぶんぶんと首を横に振ります。
異常事態(しかも魔法絡みっぽい)→まぁちゃんという図式が一瞬で脳を染め上げたらしい勇者様は、端から決めつけていたようですが………
まぁちゃん、そこにいるし。
その手に揺らめく暗黒魔法は未だに消されていませんでしたが、それ以外の魔法なんて使ってませんでしたよ? そんな気配も皆無です。
予想よりも近い声に、勇者様も驚いたのでしょう。
未だ人混みの向こうにいると思っていたのかな。
ぎゅんっと音がしそうな勢いで首を巡らせると、頭上、旗の上に佇むまぁちゃんを発見したようです。
まぁちゃんは「はろー」と空いている方の手をひらひら振っています。
うん、まぁちゃん、それって勇者様の怒りを煽るだけじゃないかな…。
案の定、険のある吊り上がった眼差しは明らかに怒っています。
ついでにまぁちゃんへの濃厚な疑惑が隠されていません。
「まぁ殿以外の誰がアレを出来るって言うんだ!?」
「でも俺じゃねーし」
疑惑を否定するまぁちゃんに、疑惑を撤回しない勇者様。
冷たい眼差しと濡れ衣は我慢がならないと、まぁちゃんが叫びます。
「大体、自分が原因なら俺はそう言うぞ。自分のやったことに対して隠すようなことはねーし、嘘は吐かねーからな?」
言われてみれば、まぁちゃんってあまり嘘を吐く印象ありませんよね。
誤魔化したり詭弁を弄したり、都合の悪いことを言わなかったりすることはあっても嘘を吐く姿はこれと言って記憶にありません。
余計なことや、いらない時にも正直にズバッと!
隠す必要のあることを平然と言ってしまう印象はありますけど!
ふふ…っ 正直者の魔王様(笑)
圧倒的強者であるが故に、敢えて隠す必要はないということでしょうか。
「俺がアレをやったんだったら、てへっと笑って「やっちまった☆」って自己申告するくらいの器はある!」
「自慢出来たことかソレ!!」
叫び返した勇者様が、思わずといった動作でまぁちゃんの立っている旗用のポールをぺしっと叩きました。
ぺしっと。
それは、まぁちゃんにとってはほんの些細な震動。
不安定な足場でも、まぁちゃんなら物ともしない。
……………が。
「「あ」」
その些細な震動で、まぁちゃんの手からぽろっと落ちる物がありました。
あの、暗黒魔法(消し忘れ)です。
それはそのまま自由落下。
万有引力に従い、真っ直ぐ真下に………
………旗の真下にいた、勇者様の上に。
ずどぉぉおおおおんっ
火柱が立ち上った時に比べると小さいけれど、それでも充分すぎる程に威力を感じさせる轟音が、その場に響き渡りました。
勇者様に、直撃して。
さて、あの火柱の正体は?!
a.悪魔
b.親玉
c.サンタクロース
d.引ったくり犯の末路
e.田中さん
さあ、どーれだ?