表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/182

162.勇者様は鬼ごっこで消耗して帰って来ました

あの後、勇者様は物凄く大変だったらしい…。



 翌日、勇者様は一晩夜露にさらされたお布団みたいになっていました。

 物凄くじっとりぐったり。

 このまま寝室から出てこないかと思ったよ!

「勇者様、おはよう! 今日も何だか不幸そうだね…」

「その『いつも不幸そうに見える』みたいな言い方は止めてくれないか!?」

「え、勇者様…幸せなの?」

「………少なくとも、不幸せだというつもりはないけど」

「勇者様、タフだね! すっごいタフネス!」

「止めてくれ! 君に言われると物凄く微妙な気分になるんだ…!」

 客観的に、勇者様の日常は7割か6割くらい不幸…というより不運に見えます。

 それが勇者様のお国に戻ってから、9割くらいに跳ね上がったっぽく感じるのは私の気のせいでしょうか。

 ………特に、女性問題で。

「勇者様、マゾなの?」

「真顔でなんてことを聞くんだ、君は!?」

「え、否定しないの?」

「するよ! 全力でする! 俺には変な趣味なんてないからな!?」

「あれだけ異常な人生を毎日送ってきて、それで健全さを失わず保ってる時点で勇者様もどっかおかしいよね」

「だから、真顔でそういう暴言は止めてくれ…!」

 うん? 勇者様も自覚があるのかな?


 今朝の勇者様は、いつもよりもより一層余裕がない感じ。

 それはアレが原因でしょうか?

 昨夜の舞踏会。

 まだまだ宴もたけなわという時間帯に私を離宮に残し、再び出陣した勇者様。

 彼が離宮へと凱旋を果たしたのは、夜も開けちゃった頃合いで。

 夜も早くに寝たお陰で早起きしちゃった私は、勇者様を見て愕然としました。


 何があったのやら、着衣は乱れに乱れておりまして。

 私がやらかしちゃった時とは違う意味で…揉みくちゃにされた?という感じに。

 上着は袖が取れかけてボロボロ。もう脱いじゃいなよ。

 シャツはよれよれ、えりの釦が幾つも跳んで胸まで…いえ、釦全部跳んでますね。胸どころか全部開いて腹筋が晒されています。

 ……あれ、ズボンの金具も壊されてません? むしろ引き裂かれてません?

 帯も、その下の帯紐も、全部突破されていますね…。

 そして頬やら首筋やらに濃厚な深紅のルージュでキスマークが………


 勇者様の目は、ものすっごく虚ろでした。

 うん、目が死んでました。

 でも微妙に涙目でした。

 疲れ果てた有様で、ぼうっと白く燃え尽きていて。

 えっと、何があったの?と迂闊に聞くに聞けない雰囲気の勇者様。

 そんな疲れ果て、精神も擦り切れた勇者様に私は言いました。


「勇者様、とうとう肉食マダムに食べられちゃったの!?」

「どこでそういう物言いを覚えてくるんだ!!」


 あ、復活した。

 やっぱりツッコミネタを振ると、どんな時でもすぐさま復活しますね。

 勇者様はツッコミ役の鏡だと思います。


「あと誰が食われただ、不吉な! 俺の培った回避能力を甘く見ないでくれ!」

「え、でも回避出来てないですよね。見るからに」


 勇者様のお姿は、どこからどう見ても襲われた果ての『被害者』でした。

 いくら十九年の人生で回避能力をMAX磨いたとしても、限界はあるよね。うん。


「とりあえず勇者様、キスマーク付いてるよ。ほっぺと首筋に」

「!? くそ…っ 拭い落としたはずなのに!?」

「わあ、拭かれても付いてるなんて凄い執念」

「執念とか言わないで、こわい」

 ぷるぷると、小動物のように震える勇者様。

 なんで貴方は女性に相対すると途端に子羊なんですか?

 精神的外傷(トラウマ)のせいですか? 精神的外傷(トラウマ)のせいなんですね?

「それで勇者様、堂々と朝帰りですが人生の墓場を予約して来たんですか?」

「そんなもの予約して堪るか! まだ未遂だ、未遂!!」

「え、そこまで良い様に弄ばれた感が漂ってるのに、未遂…!?」

 それが本当なら、確かに勇者様の回避能力は人類の限界を超えているのかも知れません。凄いよ、勇者様!

 あと「まだ」っていっている時点で、いつかは逃げられなくなるかもという無意識の恐怖がいい感じに滲み出ていますね。不憫な…!

「ええ、と…貞操を守り切れたんですか、凄い防御力ですね」

「女性の集団って、なんであんなに怖いんだ……」

「え、しかも相手は集団…!?」

 本当に、どうして逃げ切れたんだろう、この人…。


 舞踏会に最低限いなければいけない時間は、夜明けよりもずっと前。

 勇者様は限界まで頑張って退座の挨拶をすると、さっさかさーっと離宮に戻ろうとしたそうです。

 ですが勇者様がこうして社交界に姿を現す前には1年の空白があるせいか…そしてこの式典期間が終われば、また魔境に行くことが確定しているせいでしょうか。

 それに舞踏会に一人で戻ったことも災いしました。

 つまり離宮に戻る時…移動の際は、勇者様たった一人。

 守ってくれる人も庇ってくれる人も、障害になる人もいない。

 それが、淑女(爆)達を思い切った行動に駆り立てたのでしょう。

 勇者様の受難、闇の鬼ごっこは人知れず開催されたようです。


 箍の外れた乙女(集団)に待ち伏せをくらい、人気のない廊下で襲われて何処かの空き部屋に連れ込まれかけたそうです。集団総がかりで。圧倒的な数の暴力で。

 お嬢様って凄いね!

 私が言うのもなんだけど、淑女? ねえ、それって淑女?

 淑女の癖に貞淑さの欠片もないよ!

 振り切ったその暴走ぶりには、暴徒めいた狂気が感じられます。

 私もよく慎みがーとか恥じらいがーとか言われるけどね?

 流石にその色々捨てちゃってる感漂う捨て身のお嬢様方に比べればずっとずっとマシだと思うよ。

 だってそのご令嬢方、どう考えても普通に暴漢じゃないですか。女性ですけど。

 そんな痴女に育っちゃって…お嬢様達の親御さんも落涙ものですよ。

 いえ、権力欲漲っちゃってる家なら、勇者様を手籠めにすることに成功したら「良くやった!」と大絶賛かもしれませんが。

 だってどう考えても、勇者様は善良で紳士で生真面目さんです。

 本意ではなくても、どんなに一方的な行為によるものでも。

 過ちを犯しちゃったら、きっちり責任を取ってくれることでしょう。

 例え、勇者様の方が被害者でも。

 勇者様、絶対にその辺は気にするだろうし。

 ………責任感が強いって、良いことばかりでもなさそうですね。

 勇者様にとっては、不幸なことなのかもしれません。

 だからやっぱり、私は思う訳ですよ。


「今日も絶賛、厳しい女難にさらされた勇者様は十分に可哀想だと思うよ?」


 乱れ切った身形を改める為に寝所へ籠り、もう出てこないかと思われた勇者様。

 かなりの時間を費やして戻ってきた彼は、やっぱりどこか虚ろな顔で。

 ………やっぱり、何か大事なものを失っちゃったのかな?

「いや、違うから。リアンカが心配しているようなことは起きてないから」

「どうやって逃げ切ったんです?」

「…女性の輪を強行突破して怪我をさせたら、それこそ責任を取れと迫られるのは分かり切っていたから、な……包囲網を完成される前に、廊下の窓から庭園まで」

「飛び降りたんですか?」

「それはもう、形振り構わず」

「……………話を聞くに、その廊下の場所って四階でしたよね」

 勇者様は女性が相手だと、本当に全力全開ですよね。

 王宮は豪華な建築物なので、どこの階も天井がとっても高めです。

 その、四階から飛び降りたんですか………普通の人間なら、粗挽肉ですよ?

 勇者様、流石の頑丈ぶりで見るからに無傷だけど。

 女性に囲まれた勇者様の必死ぶりは、化物と戦うよりも必死かもしれません。

「そこからは夜明けまでずっと鬼ごっこだった…本気で狩られる獣の気分だった」

「愛の狩人☆さん達も形振り構わなすぎですよね。駆け引きじゃなくて本当の意味での狩りになっちゃってるじゃないですか」

「彼女達は、何人くらいいたんだろうな……かわしても、かわしても後から後から出てくるんだ。撒く側から新手が、逃亡先を予想していたかのように次々と…」

「それ一種のホラーですよね」

「ああ、恐怖以外の何物でもない…おまけに、離宮へと戻る経路の(ことごと)く、要所を抑えるように別動隊が待ち伏せしていて……!」

「………勇者様のお国って、戦争に淑女の集団を投入したら無敵なんじゃないですか? 十分遊撃隊をこなせますよ」

「女性を戦の矢面になんて立たせられるものか」

「なんでそこまで災難な目に遭っても、フェミニストでいられるんですか…? えっと、本気で不可解なんですが」

 女性に優しい紳士でも、勇者様の如く散々な目に遭えば女性嫌悪症に陥って邪険に扱うようになりそうなものですが。

 未だに女性への優しさといたわりを失わない勇者様は、やっぱりどこかおかしいのかも知れません。勇者様、このお国の淑女はどう考えても守るべき弱者ではありませんよ? むしろ凶悪な肉食獣顔負けのサバンナの覇者ですよ?

「マゾなの? ねえ、やっぱりマゾなの?」

「だからそう言う言葉を、どこで覚えてくるのかなぁ…!?」

 犯人はもちろん、緑の鳥魔族(ヨシュアン)さんです。


 

 そんな感じで、勇者様は物凄く疲労の極致にいました。

 この調子で、今日を無事に過ごせるのでしょうか。

 今日は、勇者様がお里帰りしたそもそもの目的。

 勇者様のお父様の在位十年を記念した式典の日なのですが。



「勇者様、私達の今日の予定はどうしましょう?」

「ああ…取り敢えず、リアンカ達は好きに過ごして構わないよ。国賓は式典への参加が義務付けられるけれど、君達は俺の個人的な客という扱いになっているから」

「冷静に考えてみると、王子様のお友達だからって王宮に置いてもらえるのって凄いですよね。警備がったがたに緩くないですか? この国、大丈夫?」

「………その辺りは、俺がちゃんと調整したから」

 どうやら知らないところで勇者様にとっても御苦労おかけしていたようで。

 見えないところでたくさんの親切をもらってたんですねー。

「勇者様、今日の諸々を乗り切ったら、うんと恩返ししますね」

「いらない」

「大丈夫、沢山サービス★しますから」

「うん、いらない」

 勇者様はどうやら遠慮しているご様子で。

 私と勇者様の仲で、遠慮は無用ですよね☆ ←私が。

 なので勇者様はいらないと仰いますが………


 今日を勇者様が乗り切れたら、有言実行。

 たくさん、いたわって差し上げようと思います。


 私なりの方法で(笑)




 そんな勇者様の今日の予定は堅苦しい式典に参加した後、王都練り歩きパレードで晒し物になった上で、王城のバルコニーから見せしめの刑だそうです。

 更に夜はまた舞踏会だそうで………


 勇者様、今日中に離宮に帰って…

 いえ、むしろ無事に帰ってこれるのでしょうか?




フラグ?

リアンカちゃん、ねぇそれフラグ(笑)?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ