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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
御前試合 ~本戦開始~
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139.試される勇者様の臨機応変応用力!

試される勇者様の臨機応変応用力。

もしくは、望まれていなかった無駄機能。


リアンカ

「今日もたのしい勇者様がはっじまっるよー♪」

せっちゃん

「わあい! おねえさん、今日の勇者様はどんなお話ですの?」

「それはね?」

「わくわく♪」


「……………いいひとだったのに」


「何がありましたのー…?」

「星になった」

「しゅーてぃんぐすたー?」

「…いや、どっちかというと恒星の方かな」

 堂々と魔法が使えないことを宣言しちゃった勇者様。

 それで一体、どうやって御先祖様を焼き御先祖様にするつもりですか。

 正直なところ、それ以外の勝機なんて皆無でしょう?


「ねえ、そういえば勇者様って初級魔法なら幾らか使えなかったっけ」

 何か前、そんなことを言っていたような気がする。

 うん、マルエル婆の家でそんなこと言ってなかったっけ。

 気になったから聞いてみよう!


「勇者様ー!」


「なんだー!?」


 呼びかけたらきちんと返してくれる勇者様。

 彼は、こんな時になんだけど偉いと思うよ。

 でも、見るからにそれどころじゃなさそうだよね!

 御先祖様の楽しそうな檜クラッシュを右に左に避けながら、紙一重の風圧に翻弄されそうになる体を制御しながら叫び返すのは大変でしょうに…


「勇者様って、魔法使えなかったっけー!?」


 さあ、勇者様のお答えは…!?


「簡単な、初歩の魔法しか覚えてないんだ! それも、回復・補助よりで!」

「それでも野営とか灯りとか用の初歩中の初歩っぽい火の魔法とか!」

「…野営は、自分で火を起こしていた。灯りは光属性の魔法で………」

「勇者様!」

「なんだ?」

「 終 わ っ た ね ! 」

「良い笑顔で不吉なことを! 親指立てるのは止めてくれ!」


 うん、これ終わった以外に何と言えば?

 私はもう、後は勇者様が再起不能にならなければ良いなぁと。

 半ば以上、運を天に任せるくらいの気持ちで見守ったがいいかも。

 うん、神妙に見守った方がよさそうな気がしてなりません。

 だけど、勇者様は!

 なんと、勇者様は!

 驚くべきことに、まだ諦めていなかった…!

 ………人生、時には諦めも肝心。

 さっさと諦めた方が楽になれると思うのになぁ。


「フラン・アルディーク…!」

「お、なんだ? ギブか、それとも一発芸か」

「なんで名前呼び掛けただけでその二択を迫られないといけないんだ!?」

「うん、うちの家風?」

「くそ…っ つくづくリアンカの先祖だ!」

「っつーか、俺が子・孫に家風として教え込んだ。ばっちりだ」

「ハテノ村のお祭気質を築いたのは貴方か…!」

「俺もまさかここまで強固に定着するとは。やったね! してやったりにやり!」

「くっそ、リアンカの先祖だ…!」


 ………勇者様、一々引き合いに「(リアンカ)の先祖」を連呼するのはどういう訳ですか?

 後で問い詰めてみましょう。

 きっと面白いことになるはず。


「だけど、俺は負ける訳にはいかない…リアンカの先祖には!」

「お前さん、やたらリアンカちゃんに拘るね? 気になんの?」

「一々話を逸らさないでくれ…!」

「はは…っ 俺に勝てたらリアンカちゃんの身長体重胸囲腹囲と人には知られたくない系の秘密教えてやろっか?」

「大事に守ろうな、プライバシー…!!」


 ご、御先祖様…

 ここは最低と罵るべきでしょうか。

 それとも負けないでと激励するべきでしょうか。

 とりあえず、どれかは知りませんが本当に秘密を暴露されそうになったら………

「まぁちゃん、むぅちゃん」

「わかったわかった」

「うん、了解したから…だからその手に握った凶器は下ろそうよ」

「バイオテロは止めろ。悲劇が起きる」

「ふふ…二人が分かってくれたのなら、良いんですよ?」

 二人は快く頷いてくれて。

 御先祖様が個人情報の流出に走ったら、その時こそ魔族最大火力(まぁちゃん)の火炎魔法で燃やしつくして消滅させてもらおうっと…。


 どうやって救済したものやらな、試合の行方。

 いつの間にか勇者様は御先祖様に追い掛け回されています。

 羊のように。

 御先祖様のあの余裕振りを見るに、速度他諸々を加減しているのでしょう。

 手加減した上で、弄ばれていますね…。

 赤い髪に布を巻きつけ、緑の瞳をきらきらさせて。

 悪戯な笑みの御先祖様はとっても活き活き。

 手に持った武器が棒であるためか、悪乗りしたガキ大将に見えます。

 やがて試合場の端に追い立てられ、失格(リングアウト)目前の勇者様。

 勇者様を前に、御先祖様は余裕たっぷりです。

 檜の棒をとんとんと肩の上で弾ませながら、にやりと悪い笑み。

 うわー…なんかあの笑顔、妙に既視感(デジャ=ビュ)を感じる。

 どっかで見た誰かの笑顔にそっくりな気がしますが、それが誰かを思い出すよりも先に試合の展開が動きました。


「さて、どうするよ? 棄権する? 失格になる? 玩具になる?」

「待て! 選択肢の三番目がおかしい!?」

「ちなみにお勧めは四番:軍門に下がるで」

「誰が…! 人生棒に振ってたまるか!!」

「そんじゃどーすんの」


 のほほんと余裕の笑みで、鬼畜選択肢を突き付けてくる御先祖様。

 流石御先祖様…とてもとても身近な何かを感じます。

 

 そんな、御先祖様に。

 勇者様がとてもとてもやりきれないという顔で。

 …なんでしょう、あの苦渋に満ちた顔。

 心底、心底不本意だとでもいうような顔で。

 嫌そうな顔で、腹をくくったような顔で、不満そうな顔で。

 何だかとっても勇者様らしからぬ、捻くれた顔で。

 勇者様…どうしたんでしょう。

 思わず首を傾げる私達の、目の前で。

 勇者様がものすご~く、苛立ち明らかに呻いたのです。


「…っ この機能だけは絶対に使うことないって! そう思っていたのに…!!」

 

 そう言って勇者様が掲げるのは、トリオン爺さんが作った剣。

 勇者様の為に誂えた、特別製。

 その、剣の。

 えーと、あれは………柄頭の宝石、でしょうか。

 トリオン爺さんは随分と凝り性な妖精さんです。

 武器工房と言いながら無骨な武器しか作れない訳でもなく。

 むしろやたら手先が器用なので、独自に装飾までしちゃう趣味人です。

 勇者様の剣も、トリオン爺さんが一から完成まで手掛けた剣ですからね。

 流石、納期を大幅に無視って遅らせ完成させた逸品なだけあります。

 それは大作と言ってもいい出来で、装飾も見事。

 加えて五色の魔石が嵌めこまれています。

 多分あれは…属性強化か、それとも魔法が込められているのか。

 仕掛け大好きなトリオン爺さんのことだから、何かしら効果があると思います。

 もしかしたら、あの石に炎の付与効果とかあるんでしょうか。


 …柄頭の、宝石。

 その金色の石を勇者様が取ると…あら不思議!

 金色の石の下から、透明な石?が出てきました…?

 あの透明な結晶体はなんでしょう。

 御先祖様も攻撃の手を休め、きょとんと好奇心に輝く瞳で見守っています。

 あの余裕っぷりは完全に勇者様を眼中に留めていない余裕ぶりですね。

 ですが。

 勇者様が、ぎらっと。

 ぎらぎらっと。

 御先祖様を睨みつけました。

 そして苛立ちと共に一言。


「貴方さえ…貴方さえ、現れなければ!」

「そりゃ、そこの兎娘に言ってくれ」

「…可燃性でなければ、こんな馬鹿みたいな機能使わないで済んだのに!!」

「………ん? ばか?」


 首を傾げる御先祖様に。

 勇者様が起死回生の足払い!

 追い詰められていたところに突然の反撃。

 御先祖様も転びはしなかったけれど、油断していた為か少し体勢を崩し…

 その隙に、勇者様が走る!

 目指すは一直線。

 先にあるモノは…あれは、剣?

 御先祖様に使用してもらいたくて魔境から急遽駆け付けた、あの剣。

 謎一杯の怪しい呪われた剣(アルディーク家認識)。

 転がったままの剣が、きらりと光った気がしました。

 あの剣と以前一度だけタッグを組んだ、勇者様。

 彼は、あの剣の力を知っています。

 私は知りませんけど。

 もしやと見ていると、予想通り。

 勇者様は走る速度を緩めることなく、あの剣を手に取って…!

 この展開は、と。

 目を見張って見守る私達の前。

 勇者様はくるりと振り返り、距離を取った状態で御先祖様と対峙しました。

 その手に、二振りの剣を握って。

 右手に、御先祖様の(死蔵した)剣。

 左手に、トリオン爺さん作の剣。

 え、二刀流?

 勇者様は、そんな高度な戦い方を習得(マスター)していたのでしょうか。

 先を見逃せないと、見守る私達。


 …が、しかし。


 勇者様が剣を二本手に取ったのは、二刀流とかではなく。

 

 もっと別の……剣とかどうとか関係ない使い方が!


 これこそ不本意、全力で不満。

 そんな顔も最高潮に不機嫌そうに。

 勇者様が剣を構え…って、鞘に収まりっぱなしですよ!?

 二本とも!

 しかも勇者様が握ってるの…柄じゃなくって鞘の部分なんですけど!

 こ、これで一体どう扱うつもりで…!?

 ざわ、とどよめく私達。

 勇者様は気を落ち着かせようとしてか一度だけ、深い深呼吸とともに目を閉じ…

 カッと、開いた。


「喰らえ…! 説明を聞いた時、絶対に一生使わないと思った無駄機能…!!」


 瞬間。

 爆発的に、光がはじけました。


 め、目が…潰れる!


 咄嗟に私達はすちゃっとサングラス。

 ここ最近、このアイテムが手放せません。

 勇者様が光った…!

 その瞬間に懐から取り出して装着してましたよ。

 この流れるような動作。

 もう条件反射のような感じでしょうか。

 そして会場中が目も眩み、眩しさに何も見えない中。

 私達、サングラスを装着した魔境出身者だけが、それを見ました。


 ゆ、勇者様が!

 眩い太陽のように光ってるー…っ!!


 そこに、人型太陽と化した勇者様がいました。

 光属性特化の面目躍如!

 なにあの光っ!

 あまりにも強い小型太陽の如き光は、試合の会場全体を包むかのようです。

 試合場も、観客席も、もしかしたらその周辺も。

 あまりに強い光に晒され、攻撃を受けたかのように人々が蹲り、目を庇います。

 私達も魔境特別製強化サングラスがなければ危うい所でした…。

 ご自身の光属性は半年前から自覚されてましたけど、いつのまにあんな芸当ができるようになっていたんでしょうか。


 でも、光るだけ!


 …よくよく観察してみますと、あれ、光ってるだけですよね。

 確認を取ろうと光竜リリフと、魔法に詳しいまぁちゃんにちらりと目配せ。

「光ってるだけ、だな」

「ええ、ただ光ってるだけですわね」

 二人の頷きを経て、確認が取れました。

 やっぱり光ってるだけです。

 あの行動に、眩しい以外のどんな意味が…

 もしかして、ただの眼潰し?

 

 最初に気付いたのは、光の強い特性を備えた光竜リリフでした。

「あ、あれは…!」

 その指差す先を見て、私達も気付きます。

 全体的に万遍無く光を放っているかに見えた、勇者様。

 でも違いました。

 勇者様の身体があるところから、特に強く濃い光が一直線に放射されています。

 まるで光を束ね、伸ばしたように。

 そう、光に目をきつく瞑った、御先祖様へと向けて。

 あの現象を、なんと名付けましょう。


「サン☀ビ――――――――ム!!」


「妙な名前を付けるなあぁぁぁぁあああっ!!」


 わ、勇者様から拒否されちゃった☆

 全力で叫んだ勇者様は、肩で息をしながらも此方を睨んでいる様子。

 私を睨むなんて…どうやら、心底余裕がないみたいです。

 さてさて、この妙な事態。

 どういった意味があるのか、剣はどんな意味があるのか。

 …そういえば、剣の妙な機能がどうのと言っていましたね。

「リャン姉さん、あれを見て!」

 リリフが指さす先を見れば…それはトリオン爺さんの剣。

 ん? おかしいですね?

 私の見間違いでなければ、サン☀ビーム(笑)が…

 私はよくよく観察して、それに気付きました。

 ビーム(光るだけ)は勇者様の光を集束し、剣の柄頭にある透明な石から…

 こ、この現象は………!!


 まさかの、ル―――――ペッ!?


 ルーペです!

 あれは間違いなく、ルーペです!!


 と、トリオン爺さんったら何て無駄機能を…

 どうやら御老体よろしく、勇者様の剣にはルーペが内蔵されていた模様。

 そりゃ勇者様も葛藤しますよね…

 というか、そんな無駄機能…何を想定して取り付けたのでしょう。

 勇者様、視力めちゃめちゃ良いのに…。


 勇者様用と考えると用途不明の便利機能。

 それは発光する勇者様の強烈な光を集光・照射し、一点集中で降り注ぎます。

 御先祖様、に。


 虫眼鏡効果、という言葉が頭に浮かびました。


 わー………何たる地道な発火作業。

 わざわざ発光体と化してまで実行するのが、虫眼鏡効果…。


 後々に勇者様に聞いたことですが。

 この虫眼鏡効果を実現させるほど光れたのは御先祖様の呪剣のお陰だそうです。

 以前に使用した勇者様曰く、あの剣には使用者の身体・魔力・精神力強化及び聖性・光属性付与の効果があるとか。

 何そのハイスペック。

 呪われた剣の癖に、機能凄すぎやしませんか。


 何はともあれ剣の力を引き出し、勇者様は太陽のごとき眩さを手に入れました。

 いつものキラキラと比べると、一千倍以上強くなっていそうです。

 そんな、状態で。

 苛烈なまでにキラキラ…ギラギラ光を放ち。


 やがて。


 ………御先祖様から、煙が。



 


今日の勇者様

 武器:ルーペ(虫眼鏡)


まぁちゃん

「とうとう武器ですらなくなった、か…」

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