151話 一年生の成績発表
その後、慌てて駆けつけてきた学園長によって事態の収拾が図られた。
ラシェが足を取られた穴は、すぐに土魔法の教師によって埋められた。その中に、一年の土魔法クラスを担当する教師の姿はなかった。
マーカスが学園長に説明をしている間に、教皇と王太后は観客席のほうへと戻っていった。
セシルも、教皇自ら診察をして大丈夫だと判断されたので、そのまま席へと戻る。
ここまでの得点は、すべての的に攻撃はし終えていたので、そのまま計算されることになった。
「ひどいわ! 私は全然実力が出せなかったのに」
大げさに嘆くのはレナリアたちと一緒に走ったマグダレーナだ。
確かに最後の的を当てるタイミングでレナリアのリッグルが足を取られたが、魔法はもう放っていたので得点には関係ない。
教師たちもそれを踏まえて、そのまま得点を数えることになった。
これから五年生の競技が始まるがほぼ空中での戦いになるので、コースの穴を応急処置で埋め直しておけば問題はない。
だからマグダレーナの抗議に付き合っているのは、同じ火魔法クラスの同級生くらいだった。
「レナリア、怪我は大丈夫だった?」
「セシルさまのおかげで、怪我はありません。あの……助けてくださってありがとうございました」
「君が無事で良かった」
鏡でよく見る自分の目の色よりもほんの少し青みがかったタンザナイトの瞳に見つめられて、レナリアは思わず頬を染める。
「そ、それにしてもアンジェさんが現れてびっくりしました」
「うん。教皇猊下と一緒にきたんだろうね。……猊下は何をしに来たんだろう。エレメンティアードを見にきたようにも思えないけど」
「そうですね……」
そこへポール先生のアナウンスが流れた。
「皆様、大変お待たせいたしました。一年生の競技の際には思わぬ事故がありましたが、怪我人はありませんでした。突然の霧の発生につきましては、現在原因を調査中です」
まだはっきりとしたことが分かっていないので、霧の聖女が現れたということは言えないのだろう。
もちろんレナリアたちは霧の聖女など存在していないことを知っているので、思わず目を合わせてしまう。
「事故の前にすべての的に魔法での攻撃が終わっていますので、そのまま採点いたしました」
それを聞いたマグダレーナが「ひどいわ」と再び嘆く声が聞こえた。
「その結果、一年生の最多得点クラスは、属性別で水魔法クラスとなります。皆さま、拍手をお願いいたします」
やはり水魔法クラスの生徒たちの実力は安定している。
「そしてなんと次点は、風魔法クラスでした。この魔法学園始まって以来の快挙です。皆さま、盛大な拍手をお願いいたします!」
レナリアは思わず席の後ろを振り返る。
そこには驚いたように目を見開く、風魔法クラスのクラスメイトたちがいた。
「……凄いじゃないか、ランス!」
そう声をかけたのは、ランスの幼馴染でミルクティー色の長い髪を左側でゆるく結んでいるフレーゲル・ガンシュだ。
「ランス、おめでとう!」
もう一人の幼馴染のアジュール・ライトニアも青い目を潤ませて喜んでいる。
二人とも、ランスが父のような攻撃魔法に特化したサラマンダーではなく、魔石に魔法紋を刻むしか役に立たないと思われていたエアリアルの守護だったことに絶望していたのを知っている。
だからこそランスがこうして結果を出すことができて、自分のことのように喜んでくれているのだ。
他の風魔法クラスの生徒たちも、同級生から祝われて面映ゆそうにしている。
引っ込み思案のマリーですら、クラスメイトらしき女生徒からお祝いの言葉をかけられていた。
「おめでとうレナリア」
「セシル様こそ、おめでとうございます」
「ありがとう」
レナリアにもセシルが声をかけてくれる。
誰にも声をかけてもらえないのは寂しいかもしれないと思っていたので、ちょっと嬉しい。
「次は、一年生の個人成績の発表をします。五位、火魔法クラスのバーバード・トマソンくん。四位、水魔法クラスのパスカル・ドーリーくん。そして三位は土魔法クラスのランベルト・パリスくんです」
レナリアはランベルトの実力がどれくらいなのか知らなかったが、三位の成績ということは、さすが王子であるセシルの側近候補となるだけはある。
レナリアは、一番はセシルになるとして、二位の成績を取ったのは誰だろうとのん気に考えていた。
だが次のポール先生のアナウンスに息が止まるほど驚く。
「二位は、水魔法クラスのセシル・レイ・エルトリアくん。そして……一年生の最優秀生徒は、風魔法クラスのレナリア・シェリダンさんです」
「えええええっ」
「何かの間違いじゃないのかっ」
「万年最下位の風魔法クラスが、嘘でしょ!」
その発表に、会場内は騒然となった。