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いつからこれが長期滞在用宇宙ステーションだと錯覚していた?

ソ連が1960年代に月に行こうとしていたというのはあまり知られていないものの、そこまで知られていない話ではない。

特にロシアの情報公開によって月着陸船などが公開されたりしているが月着陸船や宇宙服などはゲーム「Fallout3」などで見ることが出来る。


あのシリーズはブラックジョークとブラックユーモア、そして強烈なまでの反共主義をテーマとしている割に、なぜか米国製として登場するモノがソ連時代の兵器や装備だったりするのはアメリカンブラックジョークというものなのだろうか。


それはさておき、ソ連最大のジレンマといえばN1ロケットの失敗であろう。

サターンVと同じく100t級を宇宙に持っていける高性能ロケットとして開発されていたN1はついに完成する事無く計画自体が終わってしまった。


この影響により、ソ連が1度に100t以上運べるロケットというのはエネルギアまで実に20年間もの空白期間が出来てしまう。


そんなソ連だが、実は当初より月への有人飛行はそんなに乗り気ではなかったりする。

1980年代、デタントの後のロシアはソ連時代の月への有人飛行計画などの技術文書を公開した。


これらによって月への有人飛行計画とそれらのための宇宙船の存在などが明らかになったが、それらはなんというかソ連らしくなく、飛行計画を見ても「上手く行った暁には月にでも行かせて見るか」といった具合である。


ではソ連自体はあの時代、一体なにをしたかったかというと「惑星間航行」という技術を確立したかったのだ。

そしてサターンVのようなロケットが作れなかったソ連がそこで思いついた方法、それも共産主義らしい合理的な方法は「宇宙船をユニット化し、ドッキングして必要に合わせたモノにして宇宙航行させる」というものである。


これは今日のロシアの宇宙技術を支えているが、非常に安価で高い技術力も必要なく、とにかくロケットを沢山飛ばせるなら誰でも長距離滞在、長距離移動が可能な代物を作れる。


中国がそれを証明しているように、ソ連時代に確した技術は今日でも高く評価できうるものである。


実はコロリョフはソユーズを開発する頃にはすでにその方が高効率であることを認知していたようで、フォン・ブラウンと数少ない対談の機会があった際には「なぜサターンVという優秀なロケットを複数用いてアポロ計画を遂行しなかったのか?」とフォン・ブラウンに尋ねたことがあった。


コロリョフをして「羨ましい」といったサターンVであるが、一方でその性能に対してアポロ計画はコロリョフにとっては不可解というか杜撰なものに感じたのだった。


この時のフォン・ブラウンの回答は「NASAが私の考えに理解を示さない」ということであったが、フォン・ブラウン自体はラヴェル船長が大変なことになった「ジェミニ計画」にてランデブー飛行を行っていた上、アポロ計画の試験段階でもサターンIBとサターンVを複数用いて試験を行っていたため、コロリョフの話に対しては本人も前向きだった。


だが米国政府は「格好いいからだ」とか「1回で飛ばせば技術力の高さを証明できる」とそちらばかりに目線が向いており、フォン・ブラウンらの意見は無視したのだった。


サターンVやサターンIBを複数用いれば月着陸船だけでなくスカイラブのような滞在用の区画も月まで持っていけることを理解していたコロリョフは当時の米国の経済力と技術力ならサターンVを1週間に2回飛ばす事ができるのを知っていた。


だからこそ「サターンVに全てを積載し、1回で飛ばす」というのはフェイルセーフも甘く、杜撰で危険すぎる計画だと考えていたのだ。


コロリョフから言わせると「月を脱出できなかった場合の対策が考えられていない」ということだが、実はソ連式の月への有人飛行では月着陸船とは別に月脱出船が用意されており、緊急時にはそちらでも離脱できるよう冗長性が確保されていた。


それぐらいソ連は未開の地に向かうにあたり、安全性の確保を考えていたのだが、コロリョフが後年残した記録を見ると「サターンVを3つ使えば火星にいけたのになぜか彼らはスカイラブ計画など、よくわからないことをしていた。技術力をもてあましている」とその間違った方向性への努力に空しく思っていた。(これはアポロ17号の後に残ったサターンVの数と合致するので、それをスカイラブに使ったことへの批判であると思われる)


アメリカは月に1回のパッケージングで行こうとしすぎて、サターンVを3つ使えば火星まで行けた事に気づいていなかったというのが当時のソ連の評価である。


一方でソ連は「最初から複数用いて飛ばす」という考えがソユーズの時点で完成していた。

そのためにアポロ計画の間に別の計画を遂行していくことになる。


それこそ今回の話の要のものである。


実はソ連の技術書類において「宇宙ステーション」なる存在は無い。

かのミールは「長距離滞在可能地球周回型モジュール式宇宙船」である。


そしてロシアはISSについても「宇宙ステーション」と公式に呼称したことがない。

なんたってISSのソ連側にはブースター含めた「ISSを動かす」ユニットモジュールがドッキングされている。


ISSを動かせるのはロシアだけだが、そもそもロシアにとってISSも「超大型宇宙船」だったりするのだ。


そんなソ連が考えていた野望。

それは「地球脱出」だった。


コロリョフやフルシチョフが残した文書をみるととても面白いのだが、双方は「いつか来るであろう太陽系の死」もしくは「突如として発生する地球での人類の生存不可能な状況」という存在のため、長期滞在可能で長距離航行が可能な存在を求めていた。

それこそ近くに移住可能な惑星があるならば移住するぐらいの気概があったのだ。


そのため、アメリカがアポロ計画で月と地球を往復する中で、ソ連はサリュートを用いて様々な実験を行っていた。


特に「宇宙戦艦?」とも言うべき武器を搭載したサリュートが存在したりするのは知られていない。

大量のサリュートでやりたかったことというのは、「ユニットモジュール」という存在の実験である。


実はこの計画、非常に大量のユニットが打ち上げられていて、近年では宇宙関係の雑誌にも記載されるようになったが「サリュート」と名づけられていないユニットも大量に存在する。


これらの1つの集大成が「ミール」であり、ミール自体がサリュートと同型のものをコアモジュールとして「サリュートとは名づけられなかったユニット」などを含めた大量のユニットモジュールをドッキングして成立している。


ソ連がここで確立したかったのはミール内部を見てもらえばわかる通り、「長期間の間補給無しで稼動し続ける宇宙船」であった。


実は1970年代の時点でサリュートを用いて火星当たりまで向かわせようと考えていたが、「今更火星に行っても仕方ない」と思ったソ連は「どこだって行けるようにしてアメリカが対決姿勢を示すなら木星あたりまで飛ばしてやるか」と開発を続けていたのだ。


開発にあたっては米国のように「数日~数十日」程度の飛行ではないため、とにかく衛生管理については気を使わねばならない。


先述する「風呂」「トイレ」といった存在に力を入れたのはこのためだが、それ以外にもミールでは「冷蔵庫」「野菜類」「野菜栽培施設」「クロレラなどを用いて光合成を利用した酸素供給補助装置」「宇宙を漂う氷などを用いて水を補給する装置」など、とにかく「SF小説で妄想されていたモノを実現化しよう」と努めた。


こういった技術は正直言えば完成の領域にある。

ミールの後継機たるミール2はISSとして存在しているが、ISSの補給は1年に1回で良い。

現在の非常に多い人数の状態で……ある。


人数を3人ほどに絞って無駄な施設を切り離せば補給は「2年に1回」で十分だったりする。


そして実はこれは公開情報だが、ISSはやろうと思えば地球を脱出してフワフワと他の惑星に飛行できる。


この方法では先述したようにプログレスによって燃料などの補給を受け続けながらという方法ではあるが、定期的にプログレスの補給を受ければ火星、金星、水星などは現時点で「普通に行って戻ってくる」ということは可能だ。


そうだったのだ。

実はISSは現時点で存在する世界最大にして世界で最も高性能な宇宙船だったのだ。


そして現在中国でも金にものを言わせてこのISSのようなものを建造中だが、不思議なことにISSも中国の大型モジュール式宇宙船も火星などに向かうような予定がない。


これはロシアも中国も「人工衛星による探査によって得られるデータから、そちらへ有人飛行して得られるのは生で見た火星やら金星なだけ」というかかる費用に対して旨味がないためで、惑星探査をするだけなら人間が向かう必要性がないのでやらないのだ。


そんなロシアがISSでやってることというのは実は「宇宙船の修理技術の確立」だったりするから面白い。


様々な故障に見舞われたミールに対し、何度も修理活動を行ったソ連とロシア。

普通に考えると「ならもっと故障しないように作ろう」とか「なら交換できるようにしてしまおう」とか考えるが、ソ連式の考え方だと「船外で修理できるようにパイロットを育て、修理しやすい機体にしよう」という考え方になる。


これは「壊れない宇宙船などない」というソ連による長年の経験の賜物であり、ミール2ことISSロシア側では様々な修理が行われ、最近ではネットによるライブ実況が行われている。


面白いのは、このライブ実況は船外活動だけでなく船内活動もあるのだが、ロシア側の宇宙食はなんだか地上とあまり変わらないような様子に見える。


サラダなどを皿にのせて食しているのだ。

実はロシア側のブロックには農業ブロックがあり、野菜を育てている。


これも長期間航行する上で「酸素」と「栄養源」の2つを提供する貴重な存在だからであるためで、ISSの補給回数を減らす事に貢献している。


ソ連とロシアはすでに気づいていた。

「農業を行うブロックがあれば、宇宙で酸素の問題が解決できるかもしれない」と。


簡単な水耕栽培ならアメリカ側でも行われているが、本格的なブロックはロシア側にしかない。

こういったものもロシアに対して西側各国の技術や発想や技術力が遅れているという証左であると思われる。

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