プロローグ
月曜日、それは多くの人々にとって憂鬱になるワードだ。
ある者は通勤ラッシュからのデスクワーク、上司の叱責に心を痛め、ある者は眠たくなる先生の催眠ボイスに耐えながらの授業を思い憂鬱になる。
「月曜なんてこなければいいのに……はぁ、学校に行ったらテロリストに占拠されていたり、全先生がインフルエンザに掛かって学級閉鎖になったりしないかな」
さらっと本心をぶちまける少年。彼もまた、月曜に憂鬱になる人種の一人だ。
だが彼は学校が好きだった。
勉強も好きだし、友達も多い。
では何故彼が月曜に憂鬱になるのか。
いつも通りの待ち合わせ場所。近場の公園で、《彼女》を待つ。
彼女の名前は篠崎 琴音。一言で言うなら活発な性格の彼の幼馴染だ。
小学校の頃から一緒に登校しており、公園で待ち合わせするのが日課になっていた。
「あれ? 遅いな」
時間にルーズではない彼女のことを思い出しながら、キョロキョロと辺りを見渡す。
「ん?」
不意に、視界の先に親子の姿が目に止まった。
朝早い時間に散歩だろうか。だが男の子が自動販売機のほうを指差し、母親が必死になって子供を引っ張っている。
興味をそそられ自動販売機に目を向ける。
「はあああぁぁ!?」
自動販売機から足が生えていた。
何度も目をこするが錯覚では無い。
スカートとニーソを装着した女性の足が、商品受け取り口から伸びていた。
小さく、「おお! これは!」や「すばらしい……ここが楽園か」といった言葉が漏れている。
一瞬で正体を看破した彼は、ああまたか! と顔をしかめて自動販売機に向かいダッシュ。
「おいおいおいおい! 朝っぱらから何してんだよ!」
「おお! その声は竜也!」
自動販売機から綺麗な女性の声がする。
必死に定規のようにピンと張った足を引っ張る。
「速く出て来い! 変な目で見られてるぞお前!」
「分かった、分かったから引っ張らないで! 千切れるううううう!」
十秒後、彼の目の前には何かをやり遂げた顔をした美少女がいた。
顔立ちは整っており、街を歩けば誰もが振り返る。
流れるような黒髪は、きちんと手入れされていることを物語っていた。
「いや~自動販売機の中ってああなってるんだね~」
「知らねえよ! お前はもうちょっと恥という物をだな!」
「好奇心が恥!? 人類は好奇心があったからこそ空を飛び、星星を渡ることが出来たんだよ!」
「そいつらは天才だからいいんだ! お前はただの馬鹿だ!」
そう。彼女こそ彼の憂鬱の種である。
好奇心が非常に強く、清楚の見た目に反しすさまじい行動力を持つ。
ため息を突きながら、今日の学校で彼女が起こす奇行を思うと胃が痛い。
彼女のお目付け役と先生方に思われているため、自分もよく怒られている。
「……はぁ。まあいい。学校行くぞ」
「りょ~かい!」
誰もが見ほれる笑みで敬礼する冬美。だが彼は知っている。皆を巻き込み事件を起こす前の悪魔の笑みだということを。
彼の名前は天道竜也。この物語の主人公であり、色々な目に合っている可哀想な17才だ。