表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける
905/910

881 サタケ、クマとの遭遇 その2

 お互いに距離をとり、木刀を構える。

 向き合うと分かる。

 小さい。

 俺の娘と変わらないほどの年齢。

 クマの被り物の目が俺を見ている。

 可愛らしいクマに騙されるな。

 ジュウベイは見た目に騙されずに、この嬢ちゃんと戦ったのか。

 嬢ちゃんの顔に恐怖心はない。

 俺の部下だって、俺と試合となれば萎縮して、緊張をする。

 でも、嬢ちゃんは面倒くさそうな表情をしているだけだ。


 スオウ王の合図により、試合が始まる。

 俺はゆっくりと間合いを詰める。

 嬢ちゃんの目つきが変わる。

 面倒くさそうにしていた表情が真剣になる。

 一瞬で気持ちを切り替えた。

 嬢ちゃんは木刀を構えたまま俺をジッと見ている。

 観察されている?

 嬢ちゃんの周りを歩きながら様子を窺う。

 汗が流れ落ちる。

 冗談だろう。

 こんな少女に緊張しているのか。

 嬢ちゃんの様子を窺いながら少しずつ間合いを縮めていく。

 俺の方が体が大きい、俺の攻撃の間合いが先に入る。

 あと半歩、俺は踏み込み、木刀を振るう。

 だが、嬢ちゃんは軽く避ける。

 俺はすぐに切り返して、連続で攻撃を仕掛ける。

 それさえも避けられる。

 そんな動きにくそうな服を着ているのに、なんで避けることができるんだ。

 頭に被っているクマの目が俺を見つめているように俺の攻撃は避けられる。

 嬢ちゃんが木刀を横一線に振る。

 目の前を横切る。

 もし、ジュウベイのように木刀から風魔法を放たれていたら死んでいた。

 格下と思うな。化け物と思え。

 嬢ちゃんに攻撃させないように攻め立てる。

 後手に回れば、それだけ不利になる。

 戦いにおいて、相手の攻撃を防ぐには実力差がないとできない。

 武器を向けられて怖がらない人はいない。

 木刀を振り回すだけなら子供や初めて木刀を持った者でもできる。

 でも、身を守ることは簡単にできることではない。

 相手の攻撃を防ぐには恐怖心に勝ち、相手の攻撃をしっかり見て、防がないといけない。

 口で言うのは簡単だが、誰でも傷つくのは怖い、武器を持った相手に恐怖心が湧く。

 武器で攻撃をされたら、目を閉じる者もいる。

 でも、目の前の嬢ちゃんは恐れずに俺を見ている。

 しっかりと嬢ちゃんは俺の攻撃を躱し、俺の重い攻撃を受け流している。

 俺の部下だったら、受け流すことなんてできない。

 数撃、打ち合えば手から木刀が弾き飛んでいる。

 強い。

 俺は後ろに軽くジャンプして着地と同時に嬢ちゃんに向けて木刀を突き出す。

 嬢ちゃんは一瞬驚くが、これさえも躱す。

 嬢ちゃんは突きを躱すと同時に俺の後ろに回り込む。

 俺は体を捻り、木刀を振るう。

 木刀と木刀がぶつかる。

 その衝撃を利用して、逃げるように間合いをとる。


「今の防ぐんだ」


 嬢ちゃんは楽しそうな表情で言う。

 偶然だ。

 嬢ちゃんの体の位置から考えて、そこから攻撃が来ると読んで、木刀を振ったら、運よく防ぐことができただけだ。


「強いな嬢ちゃん。一本目は勝たせてもらうつもりだったんだが」


 2本目をやれば、負けるのは確実だ。

 俺も魔法は使えるが、ジュウベイほど強くはない。


「その年齢で、これほどの実力を、どうやって身につけた?」

「何度も死ぬような経験をしながらかな?」


 噓とは思えない。

 だけど、同時にありえないと思いたい。

 俺の娘と変わらないほどの少女が、そんな戦いに身を置いていたなんて考えたくない。

 嬢ちゃんの目から分かることもある。

 恐怖は抱いていない。俺の木刀、足の動きを冷静に見ている。

 俺の踏み込む足の位置から、木刀の予測をしている。

 だから、受け止めたり、受け流したりできるのか。

 こんなことができるのは、ほんの一握りの者だけだ。

 なら、逆手にとる。

 俺は深呼吸し、木刀を構える。

 そして、一歩踏み込み、一気に嬢ちゃんに詰め寄る。

 踏み込みとは予想外の一振り。

 嬢ちゃんの目が驚く。

 騙せたが、嬢ちゃんはギリギリのところで躱す。

 だが、それも予想済み。嬢ちゃんならギリギリ避ける。だから、次の攻撃を仕掛けている。

 踏み込んだ右足を軸にして、左足で嬢ちゃんの足を蹴る。

 痛いと思うが、悪く思うなよ。

 俺に蹴られて、嬢ちゃんの体が吹っ飛ぶ……はずだった。

 嬢ちゃんの体は動かない。

 嬢ちゃんの右足が俺の蹴りを防いでいた。

 それに気づいたときには、嬢ちゃんの木刀が俺の顔に向けられていた。

 負けた。

 それも言い訳ができないほど完璧に負けた。

 嬢ちゃんは最低限の攻撃しかしてこなかった。

 それは俺との実力差を見せつけるためだ。

 俺が新米だったときのことを思い出す。

 当時、隊長だった人に手も足も出なかった感覚だ。

 全ての攻撃を防がれ、なにもできなかった自分。

 この年になって、それを感じるとは思わなかった。


「あはははははははは」


 笑いしか出ない。

 俺は地面に座り込む。


「まさか、俺の蹴りを読んでいたのか?」

「軸足がずれていたからね」


 確かに、普通の武器による攻撃と、蹴りを想定した踏み込みでは、軸の向きが違う。

 だが、戦いの最中、そこまで目を向けられる人物なんていない。

 人は自分に攻撃を仕掛けてくる武器に目がいく。

 足なんて、初動に一瞬、目を向けるぐらいだ。

 武器で攻撃をされているときに、踏み込んだ軸足なんて見ないだろう。

 いや、普通は見ることはできない。

 見ることができるのは、余裕があるって証拠だ。

 俺との試合に。

 笑いしか出ない。


「だが、蹴りを読んでいたからといって俺の蹴りは軽くないぞ。嬢ちゃんの体ぐらい吹っ飛ばすことはできるはずだったんだがな」


 嬢ちゃんはクマの格好をしているが、それが重くても飛ばせないほどではない。


「えっと、魔力を込めて踏ん張っただけだよ。魔法は使っていないからOKだよね?」


 うしろめたそうに言う。どうやら、その部分が気になっていたみたいだ。


「ああ、問題はない」


 人によっては不正だというかもしれない。

 でも、俺は不正だとは思わない。

 とっさに行動に移すことができるのは、体に染み付いているからだ。

 あの一瞬で魔力を流し、俺の足げりを防ぐのは容易ではない。

 そもそも、普通はあの蹴りには気づかないはずだ。


「ジュウベイが勝てないわけだ」

「ユナが強いとは聞いていたが、本当に強いんだな」


 スオウ王が近づいてくる。


「恥ずかしいところを御見せしました」


 俺は立ち上がり、スオウ王に謝罪をする。


「いや、いい試合だった。俺も、ユナの実力は話で聞かされていただけだったから、こうやって見ることができて、よかった」

「でも、サタケさんも本気を出していないっすよね」

「これは試合であって死闘ではない。あくまで、嬢ちゃんの実力を測るための試合だ」


 それは俺だけではない。

 嬢ちゃんも俺の実力を測るように防戦一方だった。

 俺が嬢ちゃんの実力を測るつもりが、測られていたみたいだ。

 ただ、嬢ちゃんの実力は測ることができた。

 守りは難しい。

 だから、守りが上手ってことは、それだけでも実力があると分かる。

 さらに、その守りに余裕があるのか、ギリギリなのか、見れば簡単に分かる。

 結局のところ嬢ちゃんが強いってことは分かったが、実力は未知数だ。


「それでどうするの。約束どおりにもう一本やる?」

「頼む」


 2本目は魔法ありの試合になる。

 魔法なしで負けた俺が、魔法ありで勝てる可能性は低い。

 でも、嬢ちゃんの実力が見たいので、2本目も申し出た。

 ルールは危険な魔法は禁止、あくまで魔法は補助的な魔法のみとルールを付け足した。

 本当なら、ジュウベイと嬢ちゃんが戦ったように、なんでもありにしたかったが、騒ぎになるだろうし、命懸けの戦いになる。

 妖刀を取り戻す役目があるのに、怪我をするわけにはいかない。


 試合は、想像どおりに負けだ。

 戦い慣れているのか、魔法で誘導するのが上手だった。

 俺の行動範囲は狭くなり、無理やりに突破しようものなら攻撃を仕掛けてくる。

 一矢報いるため、隙をついて嬢ちゃんに攻撃を仕掛けるが、地面から土魔法で作られた柱が出ると俺の木刀を防ぎ、そのまま嬢ちゃんの木刀が俺の顔に向けられた。

 強すぎだろう。

 これで大蛇と戦えるほどの魔法も持ち合わせていると言うのだから、本当の実力は計り知れない。

 言い訳かもしれないが、俺は本気で戦っていない。

 もし、本気を出して魔法を使えば、練習試合どころの騒ぎでなくなる。

 命の危険も出る。

 嬢ちゃんに勝つには嬢ちゃんを殺す覚悟、殺される覚悟をしないと勝てないだろう。


「部下に見られなくてよかったね」


 嬢ちゃんは嫌味っぽく言う。

 どうやら、無理やりに試合をさせたことに怒っているみたいだ。

 でも、嬢ちゃんの言うとおりに部下に見られないでよかったと思う反面、勉強のため見せておきたかった気持ちにもなる。

 嬢ちゃんの戦い方は刀を持つ者として、魔法が使えるなら理想的な戦い方だった。

 でも、一言尋ねたい。


「どうして、そんなクマの格好をしているんだ?」


 俺の質問に場が静まり返る。

 尋ねちゃダメだったのか。

 スオウ王が呆れた表情をし、シノブが嬢ちゃんの隣で口に人差し指を当てている。

 俺の質問に嬢ちゃんは答えた。


「それは、クマの加護を持っているからだよ」


 そんな加護は聞いたことがない。

 でも、これ以上は理由を話すつもりはないらしい。

 それにスオウ王とシノブの態度を見れば、これ以上追及してはいけないことぐらいは分かる。


「それじゃ、わたしが勝ったんだから、わたしの命令を聞いてくれるんだよね?」


 嬢ちゃんは憎たらしい笑顔で言う。

 負けたときの条件を間違えたかもしれない。





サタケ視点終了です。


※次回、投稿が遅れましたら申し訳ありません。

ちょっとした用事があり、遅れるかもしれません。


※くまクマ熊ベアー10周年です。029先生のイラストが公開されました。

ユナ、フィナ、くまゆる、くまきゅうのイラストです。

可愛いので見ていただければと思います。

リンク先は活動報告やX(旧Twitterで確認していただければと思います。)


※PRISMA WING様よりユナのフィギュアの予約受付中ですが、お店によっては締め切りが始まっているみたいです。購入を考えている方がいましたら、忘れずにしていただければと思います。


※祝PASH!ブックス10周年

くまクマ熊ベアー発売元であるPASH!ブックスが10周年を迎え、いろいろなキャンペーンが行われています。

詳しいことは「PASH!ブックス&文庫 編集部」の(旧Twitter)でお願いします。


※投稿日は4日ごとにさせていただきます。(できなかったらすみません)

※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合はX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)

※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)

※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」外伝公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)

お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。


【くまクマ熊ベアー発売予定】

書籍21巻 2025年2月7日発売しました。(次巻、22巻、作業中)

コミカライズ13巻 2025年6月6日に発売しました。(次巻14巻、発売日未定)

コミカライズ外伝 3巻 2024年12月20日発売しました。(次巻4巻、2024年8月1日発売予定)

文庫版12巻 2025年6月6日発売しました。(次巻13巻、発売日未定)


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>俺の娘と変わらないほどの年齢 サタケさんにはユナと同じくらいの年齢の娘がいるのですね。  そう言えば、ユナが初めて和の国に来た時に泊まった、温泉付き旅館の娘さんのコノハさんもユナと同じくらいの年齢…
>結局のところ嬢ちゃんが強いってことは分かったが、実力は未知数だ >これで大蛇と戦えるほどの魔法も持ち合わせていると言うのだから、本当の実力は計り知れない サタケさんは、ユナの対人戦闘力が自分では奥…
>妖刀を取り戻す役目があるのに、怪我をするわけにはいかない ジュウベイさんが「妖刀」盗難事件で動いているのは間違いなようですが・・・カガリさんも、捜索に参加しているのでしょうか?。 「妖刀」を持った…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ