826 クマさん、タイガーウルフと戦う
探知スキルに魔物の反応。
「「くぅ~ん」」
くまゆるとくまきゅうがすり寄ってくる。
「分かっているよ」
魔物の反応はタイガーウルフ。
タイガーウルフの反応は獲物を狙うようにゆっくりと近づいてくる。
どうしようかと考えていると、リディアさんが立ち上がる。
「なにか、近づいてきている」
「魔物か!?」
「草木を踏む音が重い。ウルフより大きい」
リディアさんが耳に手を当てながら確認する。
「あなた、魔力を抑え込んでいなかったの?」
マーネさんが呆れるように尋ねる。
「抑えていたんだけど。どうしても、採取しているときに襲われたら、と思ったら」
「ユナがいるから大丈夫だと言っているでしょう」
「そうだけど」
「長年の行動は止められないね」
マーネさんはため息を吐く。
「ユナ、それで、この子たちはなんて?」
「タイガーウルフみたい」
わたしの言葉に青ざめる3人。
「早く、ここから離れないと。リディア、どっちから来る?」
「あっちの方角から」
リディアさんは奥の木々を指さす。
本当に耳がいい。
探知スキルにも、リディアさんが指差した方角にタイガーウルフはいる。
「距離は?」
「離れているけど、走り出されたら……」
100m離れていたとしても、タイガーウルフが走れば、あっという間に追いつかれる。
「ゆっくりと、ここから離れるぞ」
いつものことなのか、ゼクトさんは片付けを始める。
手際がいい。
「そうね。十分に採取したわ。ここから離れましょう」
逃げるの?
久しぶりのタイガーウルフだよ。
フィナへのお土産だよ。
「戦ったらダメ?」
「なにを言っているの?」
バカの子を見るような目で見られる。
「いや、久しぶりのタイガーウルフだし」
「なに、久しぶりに知り合いに会った感覚で言っているの? あなたバカ? タイガーウルフなんでしょう。逃げるの一択でしょう!」
やっぱり、バカだと思っていたみたいだ。
「マーネさん、声が大きいです」
リディアさんが注意するが、時すでに遅し。
「走ってくる!」
リディアさんは慌てる。
探知スキルを確認すると、もの凄い速さでこちらに向かってくる。
逃げるより、迎え撃ったほうがいい。
「3人は下がって! くまゆるとくまきゅうは3人をお願い」
タイガーウルフが来る方向を見ていると、飛び出してくる。
「なんだ。タイガーウルフって、こんなに大きいのか?」
「討伐されたタイガーウルフを見たことがあるけど、こんなに大きくなかったわ」
わたしが倒したことがあるタイガーウルフより、一回り、二回り、大きい。
巨大化と言うほどには、巨大化はしてないけど、ボス級って感じだ。
口から唸る声が漏れ、わたしたちを見ている。
「ごめん、わたしが大きな声を上げたせいで」
「どうする?」
「この子たちに乗って逃げれば」
「わたしが戦うから、3人はくまゆるとくまきゅうから離れないで」
久しぶりのタイガーウルフ。
フィナへのお土産になる。
大きくなっても、ただのタイガーウルフだ。
「ユナ、大丈夫なの?」
「マーネさんはエレローラさんから、話を聞いて知っているでしょう」
「知っていても、現実にタイガーウルフに出くわせば、心配はするわよ」
「大丈夫だよ」
安心させるために微笑む。
タイガーウルフは様子を窺うように右回りに歩きだす。わたしも対角線になるように歩きだす。
わたしがタイガーウルフに向かって歩き出すと、タイガーウルフは一番先に仕留めるべき獲物と認識したのか、顔を向けてくる。
お互いに様子を窺っていると、タイガーウルフの足に力が入る。
来ると思った瞬間、タイガーウルフは踏み出していた。
速い。
間合いを詰められる。
鋭い牙で噛みつこうとする。
わたしは横に躱し、体を反転させると、毛皮を傷めないように空気弾を放つ。
タイガーウルフは体を捻って、後方から襲う空気弾を躱す。
避けた?
前に戦ったタイガーウルフと違う。
タイガーウルフは空気弾を避けたあと、すぐに反転して襲いかかってくる。
速い。
後方に跳んで、逃げるが、タイガーウルフの踏み込みで距離が縮まる。
タイガーウルフの爪が襲いかかってくる。
わたしは着地と同時にタイガーウルフの前足をクマパンチで弾く。さらに踏み込み、顔を殴る。
クマパンチを喰らったタイガーウルフは吹っ飛ぶ。
さらに追い込むように、タイガーウルフの体勢が整う前に空気弾を放つ。
空気弾が捉えたと思った瞬間、タイガーウルフは地面に着地すると、体を翻す。
ちょ!
空気弾を躱したタイガーウルフは、わたしに襲いかかってくる。
口を大きく開く。
その口めかげてクマパンチを放つ。
放たれたクマパンチには電撃を纏っている。
タイガーウルフは、電撃を纏ったクマパペットに食らいつく。
タイガーウルフの牙は、わたしのクマパペットを噛み砕くことはできず、ドスンと音を立てて倒れる。よし、無事に毛皮を傷めることもなく倒すことができた。
「ユナ、大丈夫!」
マーネさんが駆け寄ってくる。
「大丈夫だよ」
「大丈夫なわけがないでしょう。噛まれたのよ」
マーネさんが心配そうにタイガーウルフに噛まれたわたしの手に触れる。
「血は出てないわね。でも、骨が折れている可能性も」
「噛まれる前に、タイガーウルフの口の中に魔法を放ったから大丈夫だよ」
わたしは証明するように手首を振る。
骨が折れていたり、痛みがあれば、手首を振るうことなんてできない。
「本当に大丈夫みたいね。噛まれたと思ったときは、肝を冷やしたわ」
マーネさんはホッとした表情をする。
心配をかけたみたいだ。
でも、心配してくれると少し嬉しく思う自分がいる。
「なに、笑っているの?」
「心配してくれて、ありがとう。でも、タイガーウルフぐらい大丈夫だよ」
「ぐらいって……」
「俺たちが戦ったら、死んでいたな」
「そもそも、戦おうとは思わないわよ」
「それにしても、大きいわね」
あらためて見るけど、過去最大の大きさのタイガーウルフだ。
フィナへのいいお土産になった。
わたしはクマボックスにタイガーウルフをしまう。
危険もなくなったので、ベルトラ草の採取を再開する。
それから、魔物が襲ってくることなく、無事に採取が終わる。
「それで、あなたたちはどうする。帰る?」
「できれば、マーネさんと一緒に帰りたい」
「わたしたちだけで帰っても、採取した薬草を奪われるだけだから」
「もちろん、2人が邪魔と言えば、帰るけど」
「一緒に行っていいなら、他の薬草の場所も教えることができる」
「そうね。ユナ、あなたが決めなさい」
また、わたしに決定権を振ってきた。
マーネさんは薬草の場所を知りたいのか、連れて行きたそうにしている。
だからと言って、自分の気持ちを押し付けたりはしない。
ちゃんと、護衛をするわたしの意見を求めている。
まあ、魔物がいると言っても、ウルフやゴブリン。それからタイガーウルフぐらいだ。巨大スネイクもいたけど、リディアさんやマーネさんの話だと、そうそう出くわす魔物じゃないって言う。
いざとなれば、くまゆるとくまきゅうに乗って逃げればいい。
「いいよ。ただし、わたしの指示には従ってね」
「ああ」
「わかったわ」
そんなわけで、リディアさんゼクトさんもマーネさんが探してる木まで一緒に行くことになった。
「それで、マーネさんが探している木って、どこにあるの?」
「残念だけど、詳しい情報はこれ以上はないの。情報をくれた冒険者は魔物に襲われて、適当に逃げ回ったから」
「それじゃ、どっちに向かったか分からないってこと?」
マーネさんは首を横に振る。
「西に向かったってことだけは分かっているわ」
西と言っても、幅が広いけど、それしか情報がなければ西に向かうしかない。
「他に情報は?」
「爆発花の近くを通ったと、言っていたわね」
「爆発花? なに、その物騒な名前の花は」
「名前通りに、爆発する花よ。とっても危険な花よ」
爆発って、爆弾みたいに?
「ああ、それなら、俺たち知っているかも」
「あなたたち、知っているの?」
「近くまでなら、案内はできます」
そんなわけで、わたしたちは爆発花に向かうことになった。
「リボンがあるわね」
「それは俺たちが付けたものだ」
「リボンが黒く汚れている?」
リボンの先が黒い。
「この先は危険だからね」
「危険?」
なんのこと?
「この子は冒険者なのにリボンの意味を知らないのよ」
それは、一年も経っていない新人冒険者だからね。
「リボンを結んだあと、進んだ先が危険と分かった場合、リボンの先を黒くして、ここを通った冒険者に危険を知らせるのよ」
「そんな意味が」
「もちろん、信用するかどうかは、その冒険者次第だけどね」
「この先にお宝を見つけて、他の冒険者を近寄らせたくないから、付ける場合もあるわ」
「信じて引き返すのか、お宝が隠されているかもと思って進むのか、自己判断よ」
お宝を他人に奪われないためか。
もう、疑心暗鬼になるね。
「そろそろよ」
「近づくのか」
「そうね。離れた場所から確認だけはしたいわ」
わたしたちは目視できるところまで移動する。
「本当に爆発花ね」
チューリップみたいな花が咲いている。
正確には蕾のままだ。
「これは危険ね。花が咲いていたら採取しようと思ったけど」
「爆発って、どのくらいの威力なの?」
わたしが尋ねると鹿が正面からやってくるのが見えた。
鹿がピョンっと跳ねて、蕾のある花群の中に入ったと思った瞬間、鹿が倒れた。
「なに!?」
はっきり見えなかったけど蕾が破裂した。
「花が爆発したの?」
「爆発花は、生き物が近づくと蕾を爆発させ、蕾の中に入っていた種を飛ばすの。その種は近くにいた生物の体を貫くほどの威力があるわ」
「それじゃ、あの鹿は」
「体中に穴を空けられて死んだ」
つまり、散弾銃みたいなもの?
なにそれ、怖い。
「そして、死んだ生き物を栄養にして育つ」
こわ。
「それじゃ、この爆発花は処分した方が……」
「残した方がいいわ。近寄ってきた魔物も倒してくれる。こういった植物があるから、危険な魔物の数を減らしてくれるわ」
確かに、魔物を倒してくれるなら助かる。
ここの花の場所を知っておけば、近寄らなければいいだけだ。
「ちなみに、倒れた魔物の血肉や魔石の力を得て育つから、威力があると言われているわ」
だから、恐いって。
「研究に一輪だけと思ったけど、難しそうね」
「わたしが取ってこようか?」
「ユナ、わたしの話を聞いていた? 危険なのよ。近寄っただけで、あの鹿と同じ運命を辿るわよ」
「なんとかなると思うよ」
わたしはそういうと爆発花に目を向ける。
近寄らなければいいだけだ。
わたしは魔力を込めるとミニクマゴーレムを作り出す。
久しぶりのタイガーウルフゲット。フィナへのお土産です。
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【書籍発売予定】
書籍20.5巻 2024年5月2日発売しました。(次巻、21巻予定、作業中)
コミカライズ12巻 2024年8月3日に発売しました。(次巻、13巻発売日未定)
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※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。