824 クマさん、休憩する
くまゆると約束したとおりに、くまきゅうからくまゆるに乗り換え、進む。
「それにしても魔物の遭遇率が高くなってきたわね」
あれから、何度か魔物と遭遇した。
遭遇したと言っても、ウルフやゴブリンなど下級魔物だ。
わたしからしたら、脅威にならない。
だからと言って、巨大スネイクのように巨大ウルフが現れるかもしれないから、気を付けないといけない。
そんなウルフがいたら、見てみたいけど。
「音が聞き取れないって、こんなに不安なのね」
リディアさんはマーネさんに言われて、魔力を押さえ込んでいる。
意識しないと、魔力が漏れてしまうとのことだ。
「こんな状況じゃ、魔力は貴重よ。魔物のことはクマたちに任せて、あなたは魔力を抑えなさい」
「うぅ」
「まだ、漏れているわよ」
「うぅ」
子供に注意される大人って感じだね。
「でも、そんなことが分かるんだね」
「ハーフエルフでも、一応はエルフだから風の流れには敏感よ」
エルフって風のイメージが強いから、エルフって言葉だけで「そうなんだ」と納得してしまう。
「でも、あなたは、それだけ風魔法に愛されているってことよ」
「わたしが風魔法に……」
「ちゃんと、魔力を扱えるようになれば、あなたの強い武器になるわよ」
リディアさんは、マーネさんの言葉に真剣な表情になる。
「でも、魔物を探知できる技術は凄いことよ。両方とも上手に扱えるようになるといいわ」
探知の常時型がいいのか、ときおりがいいのか、その場で変わってくると思うけど、切り替えができれば、魔力の消耗を抑えることができる。
「……マーネさん、ありがとう」
「若者を導くのは年長者としての役目よ」
マーネさんは目を逸らし、恥ずかしそうに言う。
わたしの前に座っているから、耳が赤くなっているのが、丸わかりだ。
「兄さんは、こんな不安な中、歩いていたのね」
「いや、リディアを信用していたから、そうでもなかったぞ。お前が、魔物の位置をちゃんと把握し、危険を回避してくれたからな。それに、その風魔法? だけじゃないだろう。いつも周囲に気を配って、魔物が通った跡を、目視でも確認してくれた。それは、お前の実力だろう」
「……兄さん」
「だから、俺はお前を信用していたから、不安なんてなかった」
ゼクトさんの言葉にリディアさんは嬉しそうにする。
兄妹が仲が良いってことはいいことだね。
フィナとシュリも仲がいいし、ノアとシアの姉妹関係もいい。
たまに仲が悪い兄妹の話も聞くけど、わたしの周囲の姉妹はみんな仲がいい。
そして、何度か下級魔物と遭遇したけど、巨大魔物とは遭遇することもなく順調に進み、日が暮れてきた。
「あと、どのくらい?」
「もう少ししたらだけど」
「距離的にはそのぐらいだな」
2人が少し考え、答えてくれる。
「それじゃ、そろそろ暗くなるから、今日はここまでとしましょう」
マーネさんが空を見上げながら言う。
日が落ち始めている。無理して進むようなことではない。
「それじゃ、わたしが野宿できる場所を探してくるわ」
リディアさんがくまきゅうから降り、走り出そうとする。
「待って!」
走り出そうとしていたリディアさんが振り返る。
クマハウスを出すか一瞬悩んだけど、マーネさんは知っているし、ここは危険な森だ。もしものことを考えたら、クマハウスの中で一夜を明かしたほうがいい。
「野宿の場所なら、大丈夫だよ」
「…………?」
「この子のアイテム袋には家が入っているのよ」
マーネさんが、わたしが答える前に言ってしまう。
「「家?」」
ゼクトさんとリディアさんがハモる。
「うん、まあ。とりあえず、少し開けた場所に移動するよ」
ここでは木々が邪魔をしてクマハウスを出す場所がない。
木々を切ってもいいけど、倒れる音が魔物を呼び寄せるかもしれない。
危険を冒すことはない。
しばらく移動すると、クマハウスを出せそうな場所があった。
「ここでいいかな」
わたしはくまゆるから降り、クマボックスからクマハウスを出す。
そして、ゼクトさんとリディアさんは、初めてクマハウスを見た人たちと同じ反応をする。
驚き、最後には「クマ?」と呟く。
「これ、家なのか?」
「アイテム袋から、出てくるのも驚いたけど。本当にクマが好きなのね」
「とりあえず、中に入って」
騒がれて魔物が近寄ってきても困るので、わたしはみんなを連れて家の中に入る。
ちなみにくまゆるとくまきゅうは大きいままだ。
説明が面倒なので、このままでいいと思う。
「本当に家だわ」
「しかも、俺たちの家よりも、いい」
ゼクトさんとリディアさんはキョロキョロと家の中を見る。
家の中をジロジロと見られると恥ずかしいから、そんなに見ないでほしい。
「この中なら、ウルフぐらいの魔物だったら大丈夫だから、安心だよ。もし、魔物が襲ってきても、くまゆるとくまきゅうが教えてくれるから、ゆっくり休んで」
「「くぅ〜ん」」
くまゆるとくまきゅうが任せてって感じに鳴き、2人はくまゆるとくまきゅうを見る。
「ユナちゃんが、凄いことは分かっていたけど、規格外過ぎるんだけど」
「それには、わたしも同意ね。こんな子を知っていたんなら、エレローラも早く紹介してほしかったわ」
リディアさんの言葉にマーネさんが同意する。
「交代で見張りしながら野宿をしていたわたしたちって……」
「俺たちの、この10日間はなんだったんだ……」
そんなことを言われても知らないよ。
「でも、安心して寝られるのは助かるわ」
「ちゃんと寝られていなかったからな」
危険な外で寝るなら、深い眠りに就くのは難しい。
いつ、魔物に襲われるか分からない。
魔物にも夜行性とかあると思うけど、基本、夜はクマハウスで寝ているので、夜の魔物の行動については詳しくはない。
「わたしは夕食の準備をするから、3人は休んでいて」
「それじゃ、わたしは薬草の処理をしたいから、解体場を借りるわね」
マーネさんが解体場に向かう。
ゼクトさんとリディアさんは、どうしたらいいのか悩んでいる。
「2人も来なさい。採取した薬草の処理の仕方を教えてあげるわ。持ち帰るにしても品質を保たないといけないでしょう。一応、あなたたちにできる範囲でしていたみたいだけど。あと、ついでにリディアには日焼け止めの薬の作り方も教えてあげる」
リディアさんが確認するような目でわたしを見る。
「こっちは、一人で大丈夫だから、マーネさんを手伝ってあげて」
わたしの言葉に2人はマーネさんと一緒に解体場に移動する。
3人が解体場に向かうのを確認すると、夕食の準備を始める。
パンでいいよね。
モリンさん、カリンさんの焼くパンは美味しい。
卵とソーセージを焼き、野菜を添える。それからアンズが作ってくれたスープを用意し、飲み物は牛乳と果汁を用意する。
はい、簡単料理の完成。
わたしは、解体場に呼びにいく。
「3人とも、食事ができたよ」
解体場に入ると、採取した薬草の処理を行なっていた。
「まだ、終わらない?」
「ユナ? もう、そんなに時間が経っていたのね。残りは食事の後にしましょう」
「いいの?」
「せっかくユナが作ってくれたんだから、温かいうちに食べましょう」
3人は食事が並んでいる部屋に戻ってくる。
「美味しそう」
「嘘だろう。こんな森の中で卵まであるぞ」
「この子に常識を問うのはやめた方がいいわよ。疲れるだけだから」
なにか、マーネさんが酷いことを言っている。
「ちゃんと、手を洗ってね」
「ああ」
「うん」
3人はちゃんと手洗いをしてから席に着く。
「ユナちゃん、本当に食べていいの?」
「おかわりなら、たくさんあるから食べていいよ」
2人は顔を見合わせると食べ始める。
「うまい」
「こんな森で、こんな美味しいものが食べられるなんて」
「大袈裟だよ」
「何言っているの。この森に入ってから、干し肉とか、固いパンしか食べていなかったのよ。それが、こんなに美味しいパンにソーセージ。それに、新鮮なサラダに、この果汁も美味しいわ」
「酒が欲しくなる」
「悪いけど、お酒はないよ」
わたしは未成年だし、飲まない。
だから、お酒を振る舞うって考えがない。
ああ、ちなみに、料理酒はあるよ。出すつもりはないけど。
「ああ、お腹がいっぱいだ」
「苦しいわ」
2人はいい食べっぷりだった。
パンを補充し、卵とソーセージも追加して焼いた。
スープも何杯もおかわりしていた。
「ユナちゃん、ありがとうね。こんなに美味しい食事は久しぶりだったよ」
「それならよかったよ」
「でも、たくさん食べちゃったけど、食材って大丈夫?」
「大丈夫だよ」
モリンさんの焼いてくれたパンは大量にあるし、食材もたくさんある。
いざとなったら、ウルフの肉は大量にあるし、和の国で米を大量に購入済みだ。
お米なんて、俵でたくさん購入したから、一生分あるかもしれない。
わたしが食器の片付けを始めると、マーネさんは薬草の処理の続きをするため、リディアさんたちを連れて解体場に向かう。
食器の片付けも終わり、くまゆるとくまきゅうとまったりしていると、マーネさんたちが戻ってくる。
「終わった?」
「ええ、終わったわよ」
「それじゃ、お風呂に入って寝ようか」
「「お風呂?」」
「ゼクトさんは、後で一人で入ってね」
「ちょっと待って、お風呂? お風呂があるの?」
「リディア、ユナに関しては常識を捨てた方がいいわよ」
マーネさんが忠告みたいなことを言う。
この世界の常識からしたら、わたしの行動が非常識なのは分かるけど、なにか酷い。
申し訳ありません。今後の投稿は4日ごとにさせていただきます。
水曜日投稿だと、3日しかなく、ストーリーを考えて、原稿用紙10枚分書いて、誤字脱字確認するのが、ギリギリで大変なため、投稿は4日ごとにさせていただきます。
複数作品を書いている人は、本当に凄いと思う。
※文庫版11巻が予約受付中です。発売日は10/4です。抽選のアクリルスタンドも引き続き行う予定となっていますので、よろしくお願いします。
※投稿日は4日ごとにさせていただきます。
休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合は活動報告やX(旧Twitter)で連絡させていただきます。
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書籍20.5巻 2024年5月2日発売しました。(次巻、21巻予定、作業中)
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※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。