818 クマさん、コウモリを倒す
わたしはクマの光を作り出し、洞窟を照らす。
「本当にクマ好きなのね」
マーネさんはクマの光を見ながら言う。
もう、何度目かの言葉か分からないので否定はしない。
「一応、わたしも明かりは用意してきたけど」
マーネさんはそう言うと、アイテム袋からランタンのようなものと懐中電灯を取り出す。
「マーネさん、魔法は使えるんだよね?」
「初歩的な魔法だけね。だから光魔法も使えるけど、魔道具を使う方が多いわ」
マーネさんはランタンを腰に引っかける。
もしもの場合ってことらしい。
わたしと離れた場合、わたしの光の魔法が消えた場合、いろいろな場面を考えているみたいだ。
わたしとマーネさんを乗せたくまゆるとくまきゅうは洞窟の中に入る。
クマの光が洞窟を照らす。
「冒険者って、こんな洞窟の中にも入るんだね」
「魔物討伐、貴重な薬草に鉱石、冒険者によって理由は様々よ」
ゲームでも、同じような理由で入ったものだ。
「それ以前に、なんで研究者のわたしに聞くのよ。あなたは冒険者でしょう」
「それはそうなんだけど。なんで好き好んで、こんなジメジメした暗いところに入るのかなと思って」
「まあ、それには同意ね」
クマの明かりのおかげで洞窟の中は照らされている。
これだけ明るければ、蛇にいきなり襲われるってことはないはずだ。
探知スキルを確認する。
スネイクの反応が近くにある。
反応がある方向を見ると、小さい岩陰の下にとぐろを巻いた蛇、スネイクが長い舌を出して、わたしたちを見ている。
マーネさんの薬が効いているのか、くまゆるとくまきゅうのおかげなのか分からないけど、近寄ってくる様子はない。
周囲を注意しながら進んでいると、上からカサカサとなにかが飛ぶ音がする。
「ユナ、上」
マーネさんも気付いたようで上を見ている。
わたしも上を見ると、天井に無数のコウモリがぶら下がり、ときおり飛び回っていた。
探知スキルを確認するが、反応はない。
つまり、コウモリは魔物ではないらしい。
「気持ち悪い」
天井に張り付いているコウモリを見たマーネさんは、嫌いな物を見るような表情をする。
わたしも蛇同様にコウモリも好きではない。
そもそもコウモリが好きって言う人は少ないはずだ。
あのネズミみたいな顔に、気持ち悪い翼。
もし鳥とコウモリのどちらかを飼うなら、絶対に鳥だ。
「わたしたちを見ていない?」
恐いから、そう見えるのかもしれない。
討伐したほうがいいかなと考えが横切ったけど、死んだコウモリが雨のように降ってきたら、それはそれで気持ち悪い。
落ちてきたコウモリを避けたとしても、地面にたくさんのコウモリの死体が転がるってことになる。
その上を通りたくない。
歩くのはくまゆるとくまきゅうだけど、離れるのが一番いい方法だ。
「くまゆる、くまきゅう、駆け抜けるよ」
「「くぅ〜ん」」
くまゆるとくまきゅうは駆け出すと、後ろからパサパサと音を立てて、コウモリが追いかけてくる。
逃げたことで獲物と認識したみたいだ。
「ユナ!」
マーネさんが叫ぶ。
コウモリが襲いかかってくる。
口を大きく開き、牙が剥き出しになっている。
噛みつくつもり!?
わたしは風魔法で小さい竜巻を起こす。
洞窟の中に小さい竜巻が巻き起こり、コウモリは巻き込まれていく。
襲いかかってくるなら、容赦はしない。
コウモリの翼は風の刃によって刻まれていく。竜巻を止めると、大量のコウモリが地面に落ちる。
翼を失えば飛ぶことはできない。
「ちなみに、コウモリって薬になるの?」
「わたしは使わないわ」
どうやら、採取はしないみたいだ。
わたしもクマボックスに回収はしたくないので放置することにした。
地面に落ちたコウモリから離れると、近くにいたスネイクが動く。
わたしは身構えたが、移動先は、わたしたちの後ろ。
後ろを振り向くと、翼を刻まれて飛べないコウモリに向かっていく。
そして、見たくないものを見てしまう。
スネイクが大きな口を開いてコウモリを丸呑みした。
「うぅ」
「ユナ、どうしたの?」
「マーネさん、後ろを見ちゃダメ」
わたしが注意したのに、マーネさんは後ろを振り返って、見てしまう。
「うぅ」
マーネさんは、わたしと同じ反応をする。
「だから、言ったのに」
「見ちゃダメと言われたら、気になるでしょう」
まあ、それには同意だ。
わたしだって、「見ちゃダメ」と言われたら「なんで?」と思って、気になって見てしまう。
ここの正しい受け答えは「なんでもないよ」だったのかもしれない。
もう一度、後ろを見る。
コウモリの数が減り、スネイクの数が増えている。
戻って来る頃にはコウモリの姿は消えて、スネイクのお腹が膨れていると思う。
コウモリが少し可哀想に思うけど、襲ってきたコウモリが悪い。
襲ってこなければ、放置したのに。
そんな弱肉強食の姿を見ながらも、洞窟の中を進む。
右に曲がり、少し下り、さらに右に曲がり、坂道を上がる。
ところどころにスネイクがいるけど、襲ってくることはない。
「スネイクが多いね」
壁際や岩などにスネイクがいる。
「倒したほうがいいかな」
近寄ってこないので、遠くから魔法で攻撃をするだけで倒せる。
「ちなみに、スネイクは薬に使えるの?」
「薬には使わないわよ。冒険者にとって食材になるんじゃないかしら。わたしは食べたことはないけど、それなりに美味しいらしいわよ」
蛇を食べる話は耳にする。
だからと言って、この場で倒して、捌いて、調理して、食べるなんてできない。
まず、蛇を捌くことなんてできない。
フィナだったら、できるのかな?
そんなことを考えながら進む。
たまにコウモリが上を飛び、スネイクが様子を窺っているが、コウモリが襲ってきた以外、順調に進んでいる。
そんな中、マーネさんが声をあげる。
「きゃ」
わたしたちを乗せたくまゆるとくまきゅうは止まり、わたしは周囲を確認する。
なにもない。
「ごめん、上から水が落ちてきて、驚いただけ」
確かに、上から水滴が落ちてきている。
どうやら、その水滴が運悪く、マーネさんの首筋に落ちたみたいだ。
探知スキルを見ていると、気になる反応が先ほどからでている。
「くぅ〜ん」
くまゆるも気付いているみたいで鳴く。
「くまゆる、どうしたの? 魔物?」
くまゆるの反応が、魔物を見つけた反応と同じだったので、マーネさんが尋ねてくる。
「どうやら、この先に人がいるみたい」
人の反応が2つある。
「人? 冒険者かしら?」
森の出入りは自由だ。
冒険者がいてもおかしくはない。
個人的には出会うと面倒くさいので、会いたくないけど。
探知スキルの反応では少し離れているので、すぐに会うことはない。
なにより、人の反応が洞窟の中にいるのか、外なのか、探知スキルでは分からない。
休憩しているのか、反応に動きはない。
「出会ったら、どうしたらいい?」
「そんなの関わらない1択よ。会う冒険者が良い冒険者とは限らない。こんなところで襲われても誰も助けてくれないし、殺されれば魔物に食われて証拠隠滅もできる」
確かに、ジェイドさんやブリッツたちみたいに、良い冒険者とは限らない。
どんな職業にだって、良い人も悪い人もいる。
「疑うのはよくないけど。信用するのも危険よ」
とりあえずは出会っても様子見することになった。
魔物やコウモリに襲われることもなく、順調に進んでいると、くまゆるとくまきゅうの動きが止まり、「「くぅ〜ん」」と鳴く
「なに?」
マーネさんが驚く。
わたしはとっさに探知スキルで確認する。
人の反応が動いている。
動きが速い。
走っている?
それを追いかけるようにスネイクの反応が一つ追いかけている。
スネイク一匹から逃げている?
つまりスネイク、一匹も倒せない?
冒険者じゃなくて、一般人の可能性も出てきたけど、こんな森深くに一般人がいるとは思えない。
「この子たちはなんて言っているの?」
「スネイクから人が逃げて、こっちに来ているって」
「…………!?」
わたしの言葉にマーネさんは考え込む。
「どうする?」
わたしの仕事はマーネさんの護衛だ。
自分勝手に動くわけにはいかない。
「さっきは、関わらないのがいいと言ったけど。見捨てることはしたくない」
「つまり、助けに行くってこと?」
マーネさんは首を横に振る。
「でも、わたしは戦えないから、助けに行くなんて言えない。だからと言って、ユナに戦ってなんて言えない。でも……」
見捨てるのは抵抗があるみたいだ。
わたしも、進む先で人の死体なんて見たくない。
「ちなみにスネイクぐらい、簡単に倒せるよ」
マーネさんの背中を押す感じで言う。
自分のためでもある。
「そうね。スネイクが嫌う薬もあるわ。戦わずに済むかもしれないわ」
くまゆるとくまきゅうを走らせる。
「速く走れ」
「もう無理よ」
男性の声と女性の声が洞窟に響く。
さらには、なにか重い物が這いずる音も聞こえてくる。
嫌な予感しかしない。
「くまきゅう、急いで!」
わたしが乗るくまきゅうとマーネさんが乗るくまゆるは加速する。
「ユナ、見えたわ」
エルフの血が流れているためか、わたしより先に発見する。
そして、マーネさんの言葉から数秒して、わたしにも見える。
2人が走っている。
さらに、その後ろに巨大な蛇が追いかけている。
探知スキルにはスネイクと表示。
だから、大きさが違う魔物の場合は名前を変えて。
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※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。