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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける
817/913

793 クマさん、街の話を聞く

 今日の部屋の片付けが終わり、残りは明日以降になった。

 最低限、寝ることはできると思う。

 わたしとカガリさんの使う魔法は大いに役にたった。

 初めはクマの格好をしたわたしと、幼女のカガリさんが魔法を使うの見て、みんな驚いていた。

 本来なら、カガリさんの見た目の年齢では魔法を使うことはできない。しかし実際は誰よりも長く生きている人だ。

 でも、そんなことは言えないので、カガリさんは「妾は特別だから、マネをするでない」とみんなに言っていた。

 そして、日が落ち始めたころ、ボラードさんが帰ってきた。

 わたしとカガリさんを含めた、リーゼさん家族が部屋に集まる。


「それで街はどうだったの?」

「凍っていた人たちは無事だったよ」

「よかった」


 ボラードさんの話を聞いて、リーゼさんはホッとした表情をする。

 でも、氷竜が降り立った場所では、少なからず被害がでていたそうだ。

 それから、ボラードさんは状況を把握するために街の中を回ったそうだ。

 どこも氷は溶け始め、住民は氷漬けになっていた家の片づけをしていたそうだ。


「誰も、3年間、凍っていたことに気付いていないのね」

「ああ、おまえたちと同じだ。氷竜が現れ、寒くなったところまでは覚えているが、それ以上は覚えていない」

「わたしたちも昨日のように感じますから」

「だが説明は必要だろう。3年間氷漬けになっていた事実は変わらない。他の街との交流はなくなり、おかしく思う人も出てくる」


 他の街から船が来なければ、おかしく思うはずだ。

 黙っているわけにはいかない。


「ベンデやバランたちにも会ってきて今後の話をしてきた。それで街の重鎮たちを集めて話し合うことにした。そのときにはリーゼにも来てもらう」

「わたしもですか?」

「ベンデたちにも来てもらうが、わたしたちの言葉だけでは、どこまで信じてもらえるか分からない。わたしたちを見ても、3年前とどう変わったのか分からない。でも、リーゼは違う。この3年間で変わった」


 ボラードさんたちを見ても、3年の時間が経ったことは微妙すぎて分からないと思う。

 でも、リーゼさんを知っている人なら、この3年間で成長していることが分かる。


「おまえを見世物にするようで悪いが」

「ううん、気にしないで。わたしも役に立てるなら手伝うよ」

「すまない」


 こればかりは、リーゼさんにしかできないことだ。

 ボラードさんは街の現状やこれからのことを話す。

 もう、ボラードさんたちは自分たちがするべき道を進み始めている。わたしたちは不要だ。


「ボラードさん、明日にはわたしたちも帰るよ」


 わたしの言葉にボラードさんがわたしとカガリさんのほうへ、目を向ける。


「お二人には氷竜を討伐したことで、参加してほしいのですが」

「誰もわたしたちが氷竜と戦ったことは信じないと思うよ。それに、わざわざ言う必要もないよ。別に街を救ったと言うつもりもないし」


 見た目がクマの着ぐるみと幼女が氷竜と戦ったと言っても、誰も信じない。

 説得力がない。


「そうじゃな。妾たちが一緒になって話したところで、誰も信じはしないじゃろう。3年間経ったことと氷竜が立ち去ったことだけを伝えればいい」


「それでは、せめてお礼を受け取ってください」

「お礼はいらないよ」

「妾も不要じゃ」

「これから、街の復興で大変でしょう。だから、気にしないで」


 クマハウスを建てる場所か、小さい家が欲しいとも考えたけど、今回は目立たない場所にクマの転移門を置くつもりだ。

 

「氷竜と戦っただけでなく、氷竜の角や鱗まで譲っていただいて、わたしたちはなにもお礼をしてません」

「そうです。ユナさんとカガリちゃんにはちゃんとお礼ができてません。わたしたちが、お二人に会えて、どれほど救われたのか」

「別にお礼がほしくて、したわけじゃないから」


 わたしも氷竜の素材を手に入れたから、個人的には満足だ。

 わたしたちの言葉にボラードさんは「分かりました」と言ってくれる。


「でも、この街で困ったことがありましたら、言ってください」


 そこが妥協案だね。


「そのときはお願いね」


 話も纏まったところで、カガリさんがリーゼさんに話しかける。


「リーゼ」


 カガリさんは真面目な表情をしている。


「お主は、これから大変だと思う。お主はボラードたちと違って、3年前と見た目が変わっておる」

「……」

「周りから奇異な目で見られるかもしれぬ」

「……」

「もしかすると、お主のことを避ける者や、陰でなにかを言う者がいるかもしれぬ。人とは自分たちと違うと避けることがある」

「カガリちゃん……」


 カガリさんの言うとおりだ。中学生だった子が一人だけ高校生になったようなものだ。同い年の友達は誰もいない。

 自分が友達と思っても、相手が同じように接してくれるとはかぎらない。

 子供時代の3年の差は大きい。


「お主は誰も経験ができぬ3年間を過ごした。それは無駄ではない。きっと、お主の糧となっておる」

「……うん」

「だから、決して負けるんじゃないぞ」


 まだ、知り合いに会っていない。

 どのような目で見られるか分からない。

 カガリさんは可能性の一つとして、話している。

 もちろん、そんなことがないことが一番だけど、友人が一晩で3年も成長してしまったら、どう接したらいいのか分からない。

 わたしだって、もし目が覚めたらフィナが3年も成長していたら、今までと同じように接することができるか分からない。

 こればかりはお互いに会ってみないと分からないことだ。


「カガリちゃん、心配してくれてありがとう。大丈夫とは言えないけど。絶対に負けないよ。前を見て進むって約束する」

「わたしがいるから大丈夫よ。なにがあってもリーゼは、わたしが守るから」


 話を聞いていたルーアが答える。


「そうじゃのう。家族が守ってやればいい。お主は一人ではないことを忘れてはいけない。それだけは覚えておくといい」

「うん」


 カガリさんはリーゼさんとルーアの言葉を信じ、それ以上は口を開かなかった。


 その日の夜。

 わたしとカガリさんは客室を与えられ、泊まることになった。

 リーゼさんは母親リンセさんとお姉さんのルーアと一緒に眠ることにしたようだった。

 わたしはベッドの上に倒れる。

 結局のところ「クマの道しるべ」はなにを指していたんだろう。

 わたしは「クマの道しるべ」をクマボックスから出す。

 光っていない。なにも示さない。

 振っても、軽く叩いても、反応は起きない。


「それは、この街に向けて光っていた玉か?」

「うん、なにか理由があると思うんだけど、なんだったんだろうと思って」


 この街に来て、起きた出来事は。

 1、リーゼさんたちに会った。

 2、氷竜と出会った。

 3、氷竜と話した。

 4、氷竜の素材を手に入れた。

 5、街を救った。


 もしかして、人が困っているところを指す魔道具じゃないよね?


「そんなことか」

「カガリさん、分かる?」

「そんなこと、分からんよ。ただ、この街を示していただけじゃろう」

「そうだよね」

「光が、なにを指していたか分からんことには、答えは出ぬ。お主が、それを持っているつもりなら、振り回されないことじゃ。今後も光れば、分かっていくじゃろう」


 カガリさんの言うとおりに、現象一つで決められるものじゃない。

 今後も光ることがあれば、目的も分かるはずだ。

 だから、今は気にせずに「クマの道しるべ」は次に光るまでクマボックスに仕舞う。

 光るかもしれないし、光らないかもしれない。

 こればかりは、わたしには分からない。


 翌朝、わたしとカガリさんは起きると、出発の準備をする。


「それじゃ、帰るかのう」

「ちょっと、長めのお出かけになっちゃったね」


 一度だけ、フィナには少しばかりカガリさんとおでかけすると連絡をいれて、なにかあったら、クマフォンに連絡を入れてと伝えておいたから、心配はしていない。

 カガリさんのことはサクラにでも伝えようかと言ったけど、カガリさんが不要だと言ったので、誰にも伝えていない。


「スズランのやつが来ていなければよいが」


 カガリさんの体が震えていた。

 スズランさんって、怒らせると怖いのかな。

 無断でいなくなっていたら、心配はするかと思う。


 わたしとカガリさんが1階のフロアにやってくると、リーゼさんたちが集まっていた。

 ボラードさん、バランさん夫婦、ベンデさんお爺ちゃんたち、鉱山にいた6人。


「みんなどうしたの?」

「嬢ちゃんたちが帰ると聞いてな」

「最後に礼と思ってな」

「お礼なら、何度ももらっているよ」


 何度も帰ろうとして、その度にお礼の言葉はもらっている。


「そうだが、今回は本当に帰るんだろう」

「うん」

「見送りぐらいはさせてくれ」

「大変だと思うけど、頑張ってね」

「6人で暮らしてきた3年間に比べたら、大変なことはない」

「そうだな。待っているのは楽しい苦労だけじゃ」

「ああ、家族とできる苦労なら、感謝じゃ」

「それと、これを2人にお渡ししておきます」


 ボラードさんからカードを渡される。


「領主が発行している特別なカードです。これがあれば、街にも自由に入れます。家の門で見せれば、わたしやリーゼに取り次いでくれます」


 つまり、また来てほしいってことだろう。

 断る理由はないので、わたしとカガリさんはカードを受け取る。


「ユナさん、カガリちゃん、また来てくださいね」


 リーゼさんはわたしのクマさんパペットとカガリさんの手を握る。


「うん、来るよ」

「お主の様子も気になるからのう」

「約束ですよ」


 わたしたちは別れの挨拶を済ませ、お屋敷を出る。



※今後の予定ですが、氷竜編が終わりましたら、しばらくお休みをいただければと思います。

いろいろとあるのですが、21巻の書き下ろし作業や次の話の展開を考えたりする時間をいただければと思います。


※コミカライズ外伝 2巻2023年3月1日発売予定です。本屋さんで見かけましたら、よろしくお願いします。


【発売予定表】

【フィギュア】

KDcolle くまクマ熊ベアーぱーんち! ユナ 1/7スケール 2024年3月31日


【書籍】

書籍20巻 2023年8月4日に発売しました。(次巻、20.5巻予定、作業中)

コミカライズ11巻 2023年12月1日に発売しました。

コミカライズ外伝 1巻 2023年6月2日発売しました。(2巻2023年3月1日発売予定)

文庫版9巻 2023年12月1日に発売しました。(表紙のユナとルイミンのBIGアクリルスタンドプレゼントキャンペーン応募締め切り2024年3月20日、抽選で20名様)(10巻、作業中)


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] クマハウス~ 山頂にでも建てるかね
[一言]  どうやって帰る(風にみせかける)んだろう。 タールグイはいないだろうし、どこかに転移門を置くつもりとか地の文で言ってるのでそれで帰るんだろうけど、こんだけお見送りとかされたら、ひとまず旅立…
[良い点] 大団円と言える締めくくりかな 復興はこれからだけど・・・ [一言] 凍った町編(?)お疲れ様でした 凍った人の行く末が終始気になってましたが救いがあって本当に良かったです
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