782 クマさん、乱入する
申し訳ありません。
今回より、氷竜のカタカナの言葉の後ろに普通の文字をいれさせてもらいました。
読み返すと、カタカナの長文だと読みにくいと感じ、対処させていただきました。
同じ文章が二度出てきますか、読みやすいほうを読んでいただければと思います。
氷竜がいる場所に近づくにつれて、冷気が流れてくる。
「カガリさん、大丈夫?」
「大丈夫じゃ。どうやら、敵対しているようじゃな」
わたしとカガリさんは高台のところから氷竜を見下ろす。
氷竜はお互いに口から吹雪のようなものを吐き出し、周辺は大変な状況になっている。
ただ、お互いに氷属性なのに、そんな攻撃は効果あるの? と思ってしまう。
周りにいる生物にとっては最悪の環境だけど。
氷竜は唸り声をあげ、威嚇するように咆哮をあげる。
流石のわたしでも、友好的な関係には見えない。
これで、二匹の氷竜が仲良く山頂に棲みつく選択肢が一つ消えた。
だからといって、好転したわけじゃない。
氷竜の戦いは地響きが起こり、木々は倒れ、戦いが街の方へ移動されたら、街に被害が出る。
「近くで見れば、どっちの氷竜かは一目瞭然じゃな」
カガリさんは戦う氷竜を見て呟く。
わたしでも分かった。
山頂にいた氷竜のほうが青白く綺麗な竜。
新しくやってきた竜は一回り大きく、逞しい竜。
色合いは同じでも違うことはハッキリ分かる。
「山頂にいた竜が押されているのう」
山頂にいた氷竜のほうが動きが鈍く、防戦が多い。
新しい氷竜はカラダを捻り尻尾を振り回し、山頂にいた氷竜の体に当たる。
山頂にいた氷竜も応戦するが、後手に回る。
「体格の差?」
「それもあるが、大きな原因は魔力の差じゃ。新しくやってきた氷竜は魔力が万全の状態と言ってもいい。じゃが、山頂にいた氷竜の魔力が少ない」
「少ない? あんな吹雪のような冷気を出すのに?」
そのせいで、街は大変なことになり、鉱山だって、雪かきをすることになって大変だった。
「あれは卵から漏れた冷気じゃろう」
卵?
「たぶんじゃが、卵を孵化させるために、氷竜は魔力を注ぎ込んでいたんじゃろう。触ったことがないから分からんが、氷竜の体は冷たそうじゃろう。そう考えれば普通の鳥とは違うはずじゃ」
それを言われたら、なにも言えない。
わたしだって、ドラゴンの生態なんてしらない。
細かく魔力を感じられるカガリさんなら、当たっている可能性は十分にある。
「つまり山頂にいた氷竜は三年間、卵を孵化させるために魔力を使ってきたから、本来の力を出すことができないってこと?」
「さらに言えば、逃げることもせずに戦っておる」
……それはこれから産まれてくる大切な子供を守るため。
「それで、氷竜を倒すとか言っておったが、どうするのじゃ? どっちかに加勢して倒すのか。それとも、戦いが終わったところで、残った片方を倒して、漁夫の利を狙うか?」
カガリさんの言う通りに、氷竜の戦いが終わってから、漁夫の利を狙うのが危険が少ない。
でも、この氷竜の戦いを見て、カガリさんの言葉を聞いてしまうと、この世界で会って来た家族たちの姿が思い出され、山頂にいた氷竜に気持ちが傾いてしまう。
フィナとティルミナさん。
ノアとエレローラさん。
モリンさんとカリンさん。
そして、ハチミツの木にいるクマの親子。
自分には与えられなかったもの。
「……山頂にいた氷竜を助けるよ」
「お主が決めたなら、構わぬ」
「理由を聞かないの?」
「卵を守っておるからじゃろう。お主は弱い者を見捨てようとはしない」
「そ、そんなことはないよ」
面と向かって言われると恥ずかしい。
「それにあの氷竜と約束したからね。赤ちゃんが産まれれば、ここから出て行くって」
新しくやってきた氷竜が、この地に居座る可能性だってある。リーゼさんたちを襲うかもしれない。
行動が分からない氷竜を助けるより、行動が分かっている氷竜を助けたほうがいい。
「じゃが、あの氷竜が街を凍らせ、リーゼたちの家族を殺したことは忘れてはならんぞ」
「分かっているよ」
この場にリーゼさんたちがいたら、新しくやって来た氷竜を応援するかもしれない。
自分たちの家族を殺した相手を倒してくれるんだから。
悪と悪の戦いなら、自分たちに酷いことをした悪のほうが敵だ。
わたしの行動はリーゼさんたちの気持ちに背くかもしれない。
でも、未来のことを考えたら、山頂の氷竜を助けたほうが未来が開ける。
わたしは心配するくまゆるとくまきゅうの頭を撫でて、安心させてから送還させる。
氷竜の戦いを窺う。
山頂の氷竜が吹雪を吐く。それを新しい氷竜が翼を羽ばたかせて躱し、そのまま山頂の氷竜の後ろに回る。山頂の氷竜が尻尾を振り回すが、届かない。
新しい氷竜は攻撃を躱すと、そのまま降りて山頂の氷竜にのし掛かる。
山頂の氷竜は抵抗するように体を動かし、首筋に噛み付く。
抵抗するように新しい氷竜の爪が山頂の体に食い込む。
お互いに引かない。
わたしは動く。
氷竜との距離が縮む。
氷竜の戦いで冷気が充満する中を走る。
わたしは氷竜に向かって跳び上がる。それと同時にわたしの前にクマの大きな炎が現れる。
「クマの炎!」
わたしは新しい氷竜に向かって大きなクマの炎を放つ。新しい氷竜の体に命中すると、山頂の氷竜の体に食い込む爪が緩み、山頂の氷竜から離れる。
新しい氷竜は首を動かす。
わたしを捉える。目と目が合う。
氷竜が咆哮をあげる。
空気が揺れる。
……殺す。
氷竜の目と咆哮には、そう込められていたように感じられた。
山頂の氷竜が攻撃を仕掛けようとすると新しい氷竜は翼を羽ばたかせ躱し、そのまま飛びたっていく。
新しい氷竜は上空を旋回すると、海の方へ消えていった。
「逃げた?」
「そのようじゃのう」
わたしとカガリさんは山頂の氷竜に近づく。
「ヒトノコヨ。ナゼタスケタ」(※人の子よ。なぜ助けた)
「消去法だよ。あなたは子供が産まれたら、ここから出ていくと言ってくれた。でも、あの氷竜は分からないでしょう」
棲みつく可能性もある。
「アノモノハ、オマエヲテキトニンシキシタ。ワレガシンダトシテモ、オヌシヲネラウダロウ」(※あの者は、お前を敵と認識した。我が死んだとしても、お主を狙うだろう)
「……やっぱり」
あの目には殺意がこもっていた。
なにがと言われたら、分からないけど殺意がこもっていた。
「ワレラハ、ヒオヲキラウ」(※我らは、火を嫌う)
だから、あんな目を向けていたんだね。
「ワレヲコロスジャマヲシ、ヒヲムケタオヌシヲユルサヌダロウ」(※我を殺す邪魔をし、火を向けたお主を許さぬだろう)
「それで、あの氷竜はなんなの?」
「ワレノチイヲネラウモノ」(※我の地位を狙う者)
「あなたの地位?」
「ワレハヒョウリュウヲスベルモノ」(※我は氷竜を統べる者)
つまり、氷竜の王ってこと? 卵を産んだから女王?
「アノモノハ、ワレガ、ヨワッテイルトコロヲ、ネラッテキタ」(※あの者は、我が、弱っているところを、狙ってきた)
カガリさんが言っていたとおりに、卵を孵化させるために魔力が減っていた?
「それって卑怯じゃない」
トップを狙うなら、正々堂々と実力で勝ち取らないと。
「それは人間の考えじゃ。獣は弱ったものは容赦しない。もちろん、守るものもいる。人だって、大切な者は守るが、敵対している人物が病気、怪我なら、攻撃のチャンスじゃろう」
「そうだけど」
カガリさんの言っていることは分かるけど、弱っているところを狙って攻撃を仕掛けるのは卑怯と言いたくなる。
「武士道、正々堂々。心地よい言葉ではある。じゃが、それは甘い考えじゃ。それではお主に聞くが、大蛇と戦うとき正々堂々と戦うことを考えたか。大蛇が完全に復活してから戦おうと思ったか」
思っていない。
封印で弱っているから、チャンスと思ったぐらいだ。
言葉では理解できても、心が納得していない。
「でも、同じ氷竜でしょう」
「アノモノハ、ハグレモノ。ジブンノツヨサヲ、ミトメサセルタメニ、ナカマニモコウゲキヲスル」(※あの者は、はぐれもの。自分の強さを、認めさせるために、仲間にも攻撃をする)
「あなたが負けたらどうなるの?」
「ワレハヒトヲオソワナイヨウニメイレイシテイル。ダガ、アノモノガワレノチイヲテニイレレバ、ヒトヲオソウヨウニナルダロウ」(※我は人を襲わないように命令している。だが、あの者が我の地位を手に入れれば、人を襲うようになるだろう)
それって、かなりやばいと思うんだけど。
「あの氷竜はそんなに強いの?」
「ワレガバンゼンナラ、カテル」(※我が万全なら、勝てる)
わたしの質問が悪かった。
強いと言われても、どれほど強いのか分からないし、弱いと言われても、どれほどの弱さか分からない。
「ダカラ、ワレガヨワッテイルトコロヲネラッテキタ」(※だから、我が弱まっているところを狙ってきた」
人間でも弱ったところを攻撃してくる人がいるけど、弱点を付くのは誰でもすることだ。
ゲームだって、相手の苦手する場所で戦ったり、弱点攻撃だってする。
火の相手には水。
水の相手には緑とか土。
緑の相手には火。
闇には光。
光には闇。
弱点をつく攻撃が卑怯だとは思わないけど。体調が悪いところに攻撃を仕掛けてくるのは卑怯だと思う。
万全な相手なら、卑怯な攻撃はいいけど。弱っている相手なら、攻撃はしちゃダメ。
わたしも自分勝手な考えだ。
「それじゃ、わたしがあの氷竜を倒すよ」
「オヌシタチガ」
「その代わり、赤ちゃんが産まれたら、ここから出て行ってよ。人がいないところに行って」
「ヤクソクシヨウ」(※約束しよう)
交渉成立だね。
あの氷竜を倒さないと、人類が危ない。
2023年、一年間お付き合いしていただき、ありがとうございました。
アニメ二期もあり、いろいろな年でした。
来年の投稿ですが、一週間ほどお休みをいただければと思います。
では、来年もクマをよろしくお願いします。
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※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。