表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける
804/900

780 クマさん、氷竜と再度話す

 氷竜がここにいる理由は簡単なことだった。

 卵があるから。


「人はドラゴンの卵を盗むから警戒されていたんじゃな」

「卵なんて盗んでどうするの?」


 食べるんじゃないよね。


「詳しいことは知らんが、秘薬として使われる事があると聞いたことがあるのう」


 確かにゲームでも、ドラゴンの卵がアイテムとして扱われることがある。

 そう考えると、氷竜が人間を近寄らせない理由も分かる。

 でも、なんでここで産んだのよ。人がいないところで産んでよと言いたくなる。

 そのせいで、多くの人が氷漬けになってしまった。


「ヒトノコヨ、タチサレ。ソレイジョウ、チカヨルナ」


 氷竜の冷気がさらに強くなる。

 わたしは風の防壁を作って、みんなを守る。


「卵に何かするつもりはないよ」


 とりあえず、落ち着かせないと会話にならない。

 それでなくても、わたしたちが来たことに怒っている。


「一つだけ聞かせて、卵から赤ちゃんが生まれたら、ここから出て行ってくれるの?」

「ソノトキハ、コノチヲ、ハナレル」


 やっと、一番聞きたかった言葉を聞くことができた。

 ここに住み続けるわけではなくてよかった。


「それで、いつ産まれるの?」

「ワカラナイ」


 もしかして、三年間卵を温めているとか?

 あと、数年とか言わないよね。


「いや、近いうちに産まれるじゃろう」

「カガリさん、分かるの?」

「なんとなくじゃが、卵から出たがっている感じがする」


 どんな感じなんだろう。

 肌で魔力を感じられるカガリさんだから、分かるのかもしれない。


「それじゃ、待てばいいってことだね」


 カガリさんの言葉どおりなら、もうすぐ産まれる。

 そうすれば、氷竜は立ち去る。氷竜と戦うこともない。出て行くと言うなら、戦うメリットはない。

 ゲームならドラゴンの素材をゲットだ。と喜んで倒すところだけど、現状、ドラゴンの素材は不要だ。

 わたしたちはこれ以上、氷竜を刺激しないように、立ち去ることにした。


「カガリさん。本当に、産まれるの?」


 くまゆるに乗っているカガリさんに尋ねる。


「さっきも言ったが、なんとなくじゃ。魔力の塊が出たがっている。それがいつになるのかは分からん。それこそ明日なのか、一ヶ月後なのか」

「幅が広すぎない?」

「ドラゴンの生態なんか知らんから仕方ないじゃろう」


 それを言われると、なにも言えない。

 わたしだって、ドラゴンの生態なんて知らない。

 ゲームだって、普通に現れて、戦うだけの存在だ。

 秘宝を持っていたり、強くなるための素材だったり。

 ゲームによっては、アドバイスをくれるドラゴンもいたり、仲間になったりもするけど。

 卵から、赤ちゃんが産まれるのにどのくらいかかるとかは知らない。


「まあ、そんなに心配はせずとも、近いうちに産まれるじゃろう」


 今はカガリさんの言葉を信じよう。


「氷竜の赤ちゃんが産まれて氷竜が立ち去れば、リーゼさんたちも少しは救われるね」


 氷竜を倒しても死んだ人の命は戻ってこない。

 氷竜を倒せば、リーゼさんの心も救われるかもしれないが、リスクが大きすぎる。


「問題があるとしたら、いつ飛べるようになるかじゃのう」

「……」


 そうだよ。

 たとえすぐ産まれたとしても、すぐには飛べないよね?

 鳥をイメージするなら、親が餌をあげているシーンが思い浮かぶ。


「じゃが、卵から赤ん坊が産まれれば、口で咥えたり、足で掴むこともできるじゃろう。早く産まれて、移動してもらうことを願うしかないじゃろう」


 だね。


「それはそうと、てっきりお主は氷竜が言ってた懐かしい魔力とやらについて尋ねるのかと思ったんじゃが」

「思ったよ。でも、卵を守る母親?から、そんなことを尋ねられる雰囲気じゃなかったしね」


 それに懐かしい魔力って、何年前? 百年以上前なら血が繋がっていたとしても、それはもう他人だ。

 そんな人物の話を聞いたとしても、わたしはなんとも思わない。

 ただ、どこで会ったのかは聞いておけばよかったかもしれない。

 とりあえず、今はリーゼさんたちに氷竜のことを伝えるために鉱山に戻る。


「……本当に、氷竜と話ができたのですか?」

「うん、それで卵を守っているから動けないみたい」

「じゃが、産まれたら、この地を離れると言っておった」


 わたしとカガリさんの説明に、驚きの表情をするが、少しだけ嬉しそうにする。


「それが本当なら、助かるが」

「嘘を吐いている感じはしなかったよ。嘘を言う必要もないし。でも問題は、いつ産まれるかどうかだけど、カガリさんが言うには近いうちらしいけど」

「そう感じただけじゃ。当てにするのではない。ぬか喜びはさせたくない」

「でも、未来が見えないより、明るい未来が待っていると思えたほうが嬉しいです」


 みんなから、笑顔が出る。

 ずっと、このまま氷竜は居続け、この状況が永遠に続くと思っていたけど、氷竜がいなくなる可能性があると知ったリーゼさんたちは嬉しそうだ。

 その日の夜、わたしたちのお別れのパーティをすることになった。


「ユナさん、カガリちゃん、ありがとうございました」

「たくさんの食料もありがとうな」

「リーゼさんは残ることにしたんだよね」

「はい、氷竜が立ち去るなら残ります。それに、お母様やお姉ちゃんのお墓を作ってあげたいです」 

「カガリさん、氷竜がいなくなれば街の氷も溶けるんだよね?」

「普通の氷とは違う。魔力を含んだ氷じゃ。簡単には溶けぬかもしれぬが、魔力の供給がなくなれば次第に溶けていくじゃろう」


 なら、よかった。


「氷竜が立ち去ったあとは、近隣の街に助けを求めに行かねばならんのう」

「そのときは俺が行く」


 漁師のバランさんが申し出る。


「結局のところ、お二人がどこから来たのか、どうやって来たのか、知らないままでしたね」

「すまぬな」


 動く島、タールグイのことや、海の上をくまゆるとくまきゅうが走れることや、帰りはクマの転移門で帰ることなど、説明が面倒なことが多い。


「2人とも不思議な女の子なのは、分かっています。こんなところに女の子だけで来て、不思議なクマさんがいて、魔法も凄い。世界はわたしが知らないことが多いなと思いました」

「まあ、嬢ちゃんたちのおかげで、救われたことだけは確かだ。感謝する」


 お爺ちゃんはカガリさんが出したお酒をくびっと美味しそうに飲む。

 ちなみに、カガリさんもお酒を飲もうとしたけど、わたしが止めた。

 流石に、幼女がお酒を飲むところを見せるわけにはいかない。


「妾たちは氷竜のところに話しに行っただけじゃ」

「わたしたちじゃ、山頂に行くことさえできません」

「まして、氷竜に会いに行くなんて、怖くてできない」


 普通はそうだよね。

 わたしだって、クマ装備がなければ会いに行こうなんて思わない。

 死にに行くようなものだ。


「2人がいなくなると、寂しくなりますね」

「また、来るよ」

「本当ですか?」

「氷竜がどうなったか、気になるからね」

「お待ちしています」


 クマの転移門を設置すれば、いつでも来ることができる。

 そもそも、クマの転移門をどこかに設置しないと帰れないから、こことは繋がりを持つことになる。

 そして、お別れ会は遅くまで、行われた。


 翌日、晴天だ。

 わたしとカガリさんが帰る準備をしていると、みんながやってくる。


「ユナさん、カガリちゃん、本当にありがとうございました」

「いつでも、待っている」

「いつでも歓迎しますよ」

「どうやって帰るかは尋ねないが、気を付けて帰るんじゃぞ」


 わたしとカガリさんはくまゆるとくまきゅうに乗り、この場を離れる。

 振り返ると、リーゼさんが手を振っている。


「ちょっと、心残りだけど」

「こればかりはしかたない。妾たちがいつまでも残るわけにはいかない」

「そうだね」


 氷竜が立ち去るときまで、いられればいいけど。

 いつ氷竜が立ち去るか分からない状況では、それまで残るわけにもいかない。


「リーゼさんたち大丈夫かな」

「残ると決めたのはあやつたちじゃ。それに氷竜が立ち去れば、やることが山積みじゃろう」


 氷竜がいなくなれば船が戻ってくるだろうし、街の氷が溶ければ、悲しい仕事が待っている。

 氷竜が街の住民を全員、殺したと言っても間違いない。

 でも、リーゼさんたちは誰も氷竜を倒してほしいとは言わなかった。


「恨んでいないのかな?」

「リーゼたちのことか?」


 わたしの独り言に、カガリさんが反応する。

 聞こえてしまったものはしかたない。

 わたしは、思っていることを口にする。


「氷竜に家族を凍らされて、三年も鉱山暮らしをさせられて、普通なら氷竜を憎んだりすると思うんだよね」

「当初は憎んでいたじゃろう。でも、手を出すことができない相手には、諦めが先にでることもある。なにもできない。倒すことなんて不可能。人は諦めることを覚える」

「そんなものなのかな?」


 大切な人が誰かに殺されたら、恨むと思う。それが大切な家族なら、なおさらだ。


「それはお主が氷竜を倒せる相手と認識しているからじゃろう」

「……」


 確かに、戦ってみないと分からないと思っている。

 勝てなくても、負けるつもりもない。


「もしものたとえじゃが、お主の大切な者が船乗りじゃとする。その船乗りがいきなり天候が崩れ、嵐となり、海が荒れ、船が沈み大切な人が死んだとする。お主は海を、天候を、倒そうと思うか」

「それは、自然災害だから」

「力無き者にとっては、氷竜は、自然災害と同じことなんじゃと思う。いきなりやってきて、なにもせずに、街が凍り、家族を失った。一種の自然災害じゃよ」


 言っていることは分かる。

 でも、違うような気がする。


「氷竜は生き物で、災害は生き物じゃないでしょう」

「災害を起こしたのが神様だったら、どうする?」

「……」

「天候を自由に操り、人の手が届かないところから、操っていたら、お主もなにもできない」

「神様は、そんなことはしないよ」

「邪神という神もおる。良い神だけではなかろう」


 それを言われたら、なにも言い返せない。


「妾がなにを言いたいかと言えば、自分ができるから、他人もできるとは思わないことじゃ。人にはそれぞれの物差しがある。自分の物差しで測らないほうがいい」


 わたしが自然相手に倒すって考えにならないように、リーゼさんたちも氷竜を倒す考えにはならなかったのかもしれない。

 クマ装備がなければ氷竜と戦うことなんて考えもせず、諦めてリーゼさんたちのようにひっそり暮らしていたかもしれない。

ユナ「さて、帰るかな」

作者「…………」


※申し訳ありません。次回休むかもしれません。気温変化のせいか、体調を壊してしまいました。

未定ってことでお願いします。


※PASH!文庫、創刊1周年キャンペーンが開催中です。

文庫に付いている帯の応募券で様々な物が当たります。

詳しいことは活動報告にてお願いします。


※21巻の書き下ろしと店舗購入特典ショートストーリーのリクエストを募集中です。

範囲はユーファリア編です。リクエストがありましたら活動報告にてお願いします。


【お知らせ】

小説の更新日は日曜日、水曜日になります。

投稿ができない場合、あとがきなどに報告させていただきます。


奥飛騨クマ牧場とのコラボが2023年12月31日までとなっています。

くまクマ熊ベアーぱーんちBlu-ray&DVD、全3巻発売日中です。

最終刊には029先生全巻収納BOXも付いてきますので、よろしくお願いします。


【発売予定表】

【フィギュア】

フィナ、ねんどろいど 2024年1月31日予定 

KDcolle くまクマ熊ベアーぱーんち! ユナ 1/7スケール 2024年3月31日

グッドスマイルカンパニー、POP UP PARADE ユナ 発売中

【アニメ円盤】

1巻2023年7月26日発売

2巻2023年8月30日発売

3巻2023年9月27日発売

【書籍】

書籍20巻 2023年8月4日に発売しました。(次巻、20.5巻予定、作業中)

コミカライズ11巻 2023年12月1日に発売しました。

コミカライズ外伝 1巻 2023年6月2日発売しました。

文庫版9巻 2023年12月1日に発売しました。(表紙のユナとルイミンのBIGアクリルスタンドプレゼントキャンペーン応募締め切り2024年3月20日、抽選で20名様)


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] こんなに意固地だったかなー?ユナって。 氷竜を倒せる相手と考えちゃったり、知り合った他人を意地でも守ろうとしたりする人間性じゃなかった様な気がするんですよねー
[一言] 子供の龍の食事ってなんなのかな!
[一言] 草花を愛するおばあさんが、熱心に庭の手入れをしていて「今年もきれいに咲いてくれてありがとうね」と言っている足もとでは、何匹ものアリが踏み潰されている 氷竜にとっては人間なんてアリのような存…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ