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効率の追求=楽?

「おっ」

「ふわぁぁぁぁ……おや?」


 ログインして談話室に向かうと、そこにはシエスタちゃんの姿が。

 ここの所、一人でいることが多いな。

 座って机にもたれながらマーネの世話をしていたのだが、こちらに気付いて半身を起こす。


「これはこれは、先輩ではありませんか。今夜はノー監視デイですか?」

「何だいそりゃ……ええと、とりあえずこんばんは」

「ばんわー」


 監視というと、あの三人のことか?

 向かいの席に座りながら、シエスタちゃんの問いに答える。


「今のところ、ユーミルもリィズもセレーネさんもいないけど」

「そうですかぁ。じゃあ誰かがプライベートモードにしていない限りは、二人きり――」

「そんな空気をぶち壊しつつ、拙者参上!」

「「……」」


 トビの登場に俺たちが驚かなかった理由は簡単だ。

 隠れ方がなぁ……。


「俺の後ろをこっそりついてくるって、お前……」

「子どもの悪戯レベルですよねぇ……」

「そんなことよりハインド殿! シエスタ殿!」

「そんなことって」


 遂に忍者としての矜持(きょうじ)を捨てたか。

 もはや似非(えせ)忍者であることを自認しつつあるトビは、まくし立てるように言葉を重ねていく。


「検証と計画の見直しをすると聞いたでござるよ! 拙者も手伝う手伝う!」

「今日はやたら元気だな。どうした?」

「どうしたって、拙者この二日ばかりログインできていなかったでござろう?」

「ああ。また響子さん関連だったよな? 確か」

「長い夏休みですねぇ……あ、もしかして見送りのゴタゴタですか? いくら何でもそろそろ夏休みも終わりでしょうし」

「シエスタ殿、大正解! もうね、時間はあってもログインする気力が削がれてね……しかしそれも昨日まで! 姉からの解放! 拙者は晴れて自由の身に! ああ、自由って素晴らしい!」


 大袈裟な……しかし事情は分かった。

 そういうことであれば、トビにも積極的に協力してもらおうか。


「そうか。じゃあ、ひとまずここにいる三人で話を進めておくか」

「休み時間に聞いた感じだと、神獣のイベント補正率の検証を行う――ということでござったか?」

「それともう一点。経験の宝珠に内包される経験値の量の検証な」


『経験の宝珠』にはランクがあり、それは倒した『試練を与えし者』のレベルに連動して上下する。

 その数値は神獣の総取得経験値の増え方を見れば分かるのだが、宝珠の説明には表示されないので確認が少し面倒になっている。


「あれ、どっちも攻略サイトにデータが載っていません?」

「載っているけど、レベル60までのデータだけだよ。それ以上は載っていないから、自力で調べる必要がある。ちょうど昨日倒したレベル61~63の宝珠があるから、まずはそいつで」


 61以降で急に経験値の量が増えている、何てこともあり得なくはないのだ。

 早めに確かめて損はない。


「それに攻略サイトのデータだけを参考にして、その上で戦略を立てるのは非常に怖い。載っていない範囲がどうなっているのか分からないし、データを載せてくれた人の数値が正しいとも限らない」

「おぅ……拙者、その手の失敗談がいくつかあるでござるよ。ソーシャルゲームの話なのでござるが、最適ルートと信じて消費アイテムを大量投入した結果……」

「後から更に効率の良いルートでも発見されたか?」

「……」


 トビが悲し気な目をして遠くを見る。

 そしてSSRがどうとか、半年貯めた消費アイテム、イベントボーダーがどうだのとブツブツ呟き始めた。


「……それに、自分で得た情報と見聞きした情報を比べると、前者のほうがより頭に残るものだと思うんだ。攻略サイトを参考にするのは大いに結構だけど、鵜呑みにするのはちょっとまずい気がしないか?」

「あ、何か先輩楽しそうですね。言ってることは面倒極まりないですけど」

「え、そう?」


 俺としてはこのイベント中に感じていた澱みというか、もやもやが晴れていく心地なのだが。

 例えるなら、不安定でぐらついていた足場を整然と組み直していくような気持ち良さ。


「調子出て来たでござるな! それにシエスタ殿。ハインド殿が面倒なことを考えてくれるから、拙者たちは楽をできるのでござろう?」

「おー、トビ先輩いいこと言いますね。じゃあ先輩、もっと面倒な感じになってOKですよ?」

「酷い言われっぷりだな……でもさ、シエスタちゃんだって似たようなことはしているじゃない?」

「はい? どれのことです?」


 俺が指しているのは、面倒だ何だと言いながら彼女が参加している学校行事関連。

 しんどい辛いと言いながらも、不参加をほのめかす様な言葉はこれまで一度も聞いていない。


「あー、それですか。だって不参加だと一部のクラスメイトと溝はできるわ、先生に目を付けられるわ、親に心配されるわでそっちのほうがよっぽど面倒ですよ? 私はあくまで楽なほうを選んでいるだけというか」

「うん、俺の予想通りの思考形態。そしてその考え方は決して嫌いじゃない」

「あ、マジですか? じゃあ好きってことですねそうですね? では先輩、私とけ――」

「ストップストップ、シエスタ殿! そこまででござるよ!」

「……何でトビ先輩が止めるんです?」

「いや、ここで止めておかないと拙者が後でしばかれそうな……主にユーミル殿とリィズ殿に。黙って見ていた、なんてもしバレたら――」


 トビがその光景を想像したのか、表情を引きつらせる。

 とりあえず話を戻してもいいだろうか?


「……こっちはゲームの話なんで、学校行事とは次元が違うけど。娯楽だし、最初からやらなければいいと言われればそれまでで……でもそれらを踏まえた上で言わせてもらえるなら、俺の検証どうこうもシエスタちゃんの考え方と似たようなもんだよ。さっき言った通りにね」

「ほほー。じゃあ先輩の場合は、具体的にどんな取捨選択が行われているんです?」

「そうだな……まず、このまま検証に手を抜いた状態でイベントの結果が悪かったら、俺自身イベント後にイライラして眠れなくなるかもしれない」


 もっとああすれば良かったこうすれば良かったと、頭の中でぐるぐる巡る気がしてならない。

 それだけ俺はこのゲームに入れ込んでいる自覚がある。


「それは嫌ですねー。私は布団に入ればすぐに眠れますが」

「ユーミルは地団駄を踏むだろうし、リィズは舌打ち、セレーネさんは悲し気な表情に……」

「先輩に対してはしないんじゃないですか?」

「そうかな? でもまあ、どうせやるならいい結果にしたいじゃない? 遊びといえどさ。だから多少検証したり作戦を立てるのが面倒でも、そっちのほうが俺は楽しいし、楽だ。後から思い出してイライラするほうがずっと面倒」

「なるほどなるほど。先輩の考え方……私も、その。嫌いじゃないですよ?」


 非常に珍しいことに、シエスタちゃんが僅かに言い淀む。

 それに対し、トビが目を輝かせて楽しそうにする。


「おおっ! シエスタ殿がそういう言い方をすると、なんかガチっぽいでござるな! 普通に好きって言うよりも!」

「……先輩。トビ先輩にきつく当たるユーミル先輩や妹さんの気持ち、今なら私にも分かります」

「まあなあ……」

「え!?」


 そして本人は、どこが悪いのか分かっていない様子。

 ……さて、まずはノクスを呼び出して。

『経験の宝珠』についての検証から始めるとするか。

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