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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
23 小都市リセルティア
242/267

23−9



「さて、どうします?お嬢さん」


 例の目印の花屋さんから、三本目の路地を行き。ちらっと異教の神殿とかを視界の端に捉えたら。丸みを帯びた胴の器から、煙が上がる様子が描かれた、香炉の看板が目に入り、ドアに近づけば良い香りがふわりと辺りに漂った。

 きっとここがお香のお店…と、じっと外観を探ったら、店内の窓の近くに掛けられたドリームキャッチャー的な飾りが、黒い羽根の小道具を網の下にさげていた。

 分かりづらいけど、合ってるのかな———?微妙な疑問で間があいたけど、意を決してその中へ。「いらっしゃい」という落ち着いたおじいさんの声に誘われ、私は狭い棚の隙間を慎重に進んで行った。

 ここはもう直入に、「リセルティア・フェスタの参加者です。アリアス・ルートを引きました。こちらに【金の香炉】は置いてありませんか?」と。

 おじいさんは器用にも片眉を上げ、まさに「にやり」と音がしそうな凄みの利いた笑みを浮かべて、背後の棚より三つの香炉を私の前に並べてみせた。


 そして冒頭に追いついて…。


 一番始めの【杖】のお店のように。少し前にお邪魔したアクセサリー・ショップのように。そして、それらを凌ぐレベルで。

 生半可な知識では、とても越えられないような、見た目も色も大きさも、そっくりな物がある。

 どれも金色、蓋付きで、丸い胴と猫足が付いた香りを楽しむための器だ。

 表面に掘られた模様は三つとも異なるが、知識や知恵や神聖さ、調和を意味する草花(そうか)模様。アリアスさんが手にしていたとて、遜色のない意味深さである。大小異なる鈴がそれぞれに付いていて、振り香炉として使えそうである鎖を掛ける穴もある。


——うわ…これは難しい…。


 金色の香炉であれば、何でもいいと思っていたが。まさかまたしてもこんな形で、試されるとは思わなかった。

 そのまま、うわぁ(゜゜;)な顔色で黙り込んだ私を見遣り、おじいさんは気楽なもので、口元に笑みを浮かべて手元の仕事を再開させる。

 神々に祈りを捧げ、自身の行く先を決めるために使用したらしい【金の香炉】だ。前の世界でも香炉と言えば、立ち上る煙へと人々の祈りを託したという、精神的な道具でもあった。それを愛したアリアスさん。施された草花模様に“愛”を意味する花は無く、蓋に掘られた穴たちもハートを思わすものは無い。何?もしかして好きな人から受け取った的な香炉なの??生涯、独身と聞いているけど…愛した人と死別したとか、そういう切ないストーリー…?金の香炉に込められた何を愛した?アリアスさん。

 ふと、まさか、香りか?と蓋を持ち、匂いを嗅ぐが。

 どれも新品状態らしくて、残り香の“の”の字もない。


「うわ〜…難しい…難しいです……」


 うーん、うーんと唸りを上げる私を「にこっ」と横目で見ながら、おじいさんはお茶を飲み。

 どれほどそうして居ただろう。

 自分的には大して時間が掛かった記憶がないが、不意に背後のドアが開く。


「お姉さん!」


 と言い、駆けつけたのはしばらくぶりのオルティオくん。

 肩に止まった鳥さんが、ふわっと飛んで行ったのは、こちらもしばらく離れていらした黒髪の勇者様である。


「【銀の方位磁石】を、早く手に入れられたんだ」


 と。

 彼らは急いで町の人づてに“香炉の店”を聞いて回って、西側の貴族地区より近いこのお店に行き着いたのだ、と。

 幸い、香炉を置いていそうな専門店はこちらだけ。「窓際の飾りを見ても、該当店で間違いなさそうだ」とは、クライスさんの言である。答えは出された三つの中に、必ずあるだろう、と。2人は私の目の前の三つの香炉に視線を向けて。


「どれかなぁ?」

「ベルがここまで悩んでるんだ。相当、難しいんだろう」


 そんな風に呟いた。


「すみません…なかなか選べないんです。どれもアリアスさんが持ってて、不思議ではない品なので…」


 ほとほと困っているんです、と正直に話したら。

 クライスさんは頷いて、おもむろに香炉に手を伸ばす。

 右手に取って目線の高さへ。少しずらして様子を伺い、その姿は造りを調べる普通のお客さん。うーん、とでも唸っていそうな様相なのだが、安定の無言&無表情である。

 彼は残りの2つとも同じように手に取り、調べ、最後の一つを机に置くと「これだな」と言って指差した。


「えっ」

「わかるの!?お兄さん」


 ギョッと沸き立つ私達だが、クライスさんはぶれずに指差した香炉について、お店のおじいさんへと決を求める空気を醸す。

 おじいさんは再びそこで、片眉を上げる器用さを見せ。


「……正解です。よくわかりましたな」


 賞賛の言葉と共に、懐から羽根を取り出した。

 クライスさんは頷き返し、私達を見下ろすと。


「急いで戻ろう。実は此処に来る前に、羽根を五つ集めたチームを目にしてきたんだ」


 と。


「あっ、それ、私も見ました!」


 赤い羽根を集めていたチームではなかったですか?

 そう彼に問い掛ける。

 お店で煩くするのも悪い、で、お礼を言ってすぐに辞し。外へ出た我々は小走りで中央広場へ。


「俺が見た集団は、青い羽根を持っていた」

「え、青ですか!?じゃあ、きっと、他のチームも、そろそろ全部集まる頃合いなんですね!」

「だっ、大丈夫かな?」

「今は走るしかないな」

「うんっ。僕、頑張るよ!」


 クライスさんは意気を示した少年を優しく見遣り、いざとなったら担ぐか、と。語っていそうな空気でもって、私の方にも視線をくれた。はい!足を引っ張らないよう、私も頑張ります!!と。こくりと縦に頷けば。ふっ、という流し目で、一瞥、再び前を向く。

 正直。


——ん…?


 という疑問はあったが、気に留めても仕方ない。

 いや、気にしてる余裕が無い。主に、肺活量的に。


 そうして我々は、一路、広場を目指して行って。


「おぉ、頑張りましたな」


 と。

 アリアスさんのお話を語ってくれたおじいさんから、六枚の羽根と引き換えに銀のメダルを受け取「させるか!」…れなかったり。


——っ!!!ヾ(;゜□゜)ノ


 近い過去、似たような“春一番”を感じた事があるような。

 確かその時も、羽根さんが、ぶわっと舞ってしまったような?


——えぇぇえぇっ!?


 あれ、どうするの!?六枚揃った黒羽根が、全部空に散っちゃったけど!?———そんな声にならない悲鳴が私の口から漏れ出でて。

 しかし、何かに気付いた彼は素早く鳥に指示を回すと、精霊さんが黒羽根を旋回しながら回収する間に。


「何の真似だ」


 と、声の主へと、きつい視線を投げ掛けた。

 投げられた本人は少し驚き顔をして、そこにもう一人仲間が居たかと、しかし衣類をなびかせ笑顔。ひらひらと腕を振るって、構造物に消えて行く。


「あっ…あの時の……」


 思い出すのは、赤羽根を集めた集団。道ばたですれ違った時に、何気なく互いの視線が交差したように思えた人だ。

 クライスさんは私の様子に、知り合いか?と投げかけて。

 ちょっとその背後のオーラが禍々しく見えたため、思い切り首を横に振る私がそこに居たりした。


「み、道ばたですれ違った事があるかなー…?って感じです」


 全然。全く。これっぽっちも。仲良くとかは無いんですけど。

 右手でノーを全力アピール。すると彼は視線を動かし、アリアス・ルートの案内人に「違反にはならないのか?」と。こうした魔法使用の例は、ルールに觝触しないのか?そう静かに問い掛ける。


「そうですなぁ…」


 と前置いて、おじいさんは顎髭を撫で。


「住民や街の景観を損なわない程度なら。参加者同士の魔法使用は、違反…という訳でもないのです」


 そう、毎年ね。

 と。

 クライスさんはそれを聞き、よし、言質を取ったぞ、と言わんばかりの顔をして。

 壮絶な魅力を湛え、浮かべた微笑を深くした。


「なるほど」


 と語った声は、鳥肌が立つほどにフェロモン満載の重い音。

 あ、この人、こんな風にも怒りを表す事があるんだ…。

 ついていけない少年のため、私は笑顔で緩衝するが。

 羽根を集めた鳥さんが手元に戻った事を確認、六枚の羽根と交換でおじいさんからメダルを貰い、オルティオくんに強く握らせたクライスさんはこちらを向いて。


「東門に向かっている気配を複数感じる。走るぞ」


 と言い。




 不意に私達を抱き上げて、勢いよく地面を蹴った。

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