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7-60 分担

 謎解きイベント報酬のアイスを食べ終えて、皆とテントでノンビリしているうちに、キャンプ場内を歩き回った疲れも取れてきた。時計を見れば十七時半前、周りの客も半分ほど帰り始めているので、そろそろお開きの頃合いだ。


「さて、ぼちぼち解散かな?」

「そーだな──あ、忘ってた! キャンプファイヤーできるって、案内に書いてあったよね? シメにやろうぜー!」

「ハハッ、部長こういうの好きそうだよな」

「おうともよー。男はみんな炎に憧れみたいなん、あるじゃん? ……で、みんなはまだ元気ある?」

「もっちろぉ〜んっ!」

「はいっ。キャンプファイヤー、素敵ですね!」

「……疲れたけど……一人で帰れない」

「帰るのに三十分として……うん、ボクも平気だぞ!」


 女性陣も乗り気、夕の活動時間も大丈夫そうときたので、俺も合わせてうなずいておいた。実は炎となると気乗りしないが、せっかくのアウトドアイベントだ、水を差すのもよくない。


「よーし、さっそく薪を──」

「はいど〜ぞっと!」

「用意はんやっ!?」


 間髪入れずテーブルに置かれる薪の束。


「ちな~、手続きもぉ~バッチリ!」

「んんん~、一色さん、さすがッス!!」


 確かテントに着いた際にこの話をしてはいたが、その時なーこは夕の付き添いで居なかったので、誰かから聞いてコッソリ準備していたのだろう。お友達に世話を焼くのが生き甲斐と、まさに幹事オブ幹事な精神は大変結構だが、いつか過労死しないか心配になってくる。


「じゃ〜、暗くなる前にぃ〜? ちゃちゃっと始めよぉ〜!」

「「「おー!」」」


 早速と各自荷物を持って、BBQテントに隣接する専用スペースに移動した。そこは直径八メートルほどの芝生の小空間で、中央にはき火台、その周囲に丸太を寝かせた椅子いすが配置されている。


「へぇ、雰囲気あるなぁ」

「うおおお、テンション上がってきたぁぁ!」

「……うるさい」

「サーセン」


 無駄に暑苦しいヤスはさておいて、焚き火台に書かれた使用の手引きを読み上げる。


「えーと、『本焚き火台の上面に小枝など燃えやすい物を敷き、その上に薪を組み、台の投入口から着火剤を入れて点火してください。なお、下段の薪に着火剤を塗布とふしておくと、より早く燃え広がります』だってさ」

「「「おっけー!」」」


 皆で正しい手順を確認したところで、早速と準備を進める。


「まず薪組み担当は――」

「任せなっ!」

「じゃ、俺とヤスで」

「では私は着火準備担当をしますね!」


 炭(おこ)しの時の着火剤と竹ふいごを両手に構え、ふんすと意気込むひなた。


「んー、ボクは小道具担当と軽食担当かな」

「少年、オレも手伝うぜ。あと火消し用の水()みもしとくか」


 夕とマメはBBQ調理を通じて仲良くなったのか、サムズアップを交わしてわきの小テーブルへ駆け寄ると、早速と作業を始める。


「……私は休憩担当」

「サボリは〜だぁめっ! (──なあんて、実際は思い出担当、と言ったところだろう? くふふ、照れ隠し沙也さやちゃん、可愛いねえ?)」

「……うるさい」


 目堂は到着するなり丸太に座り込んでいるが、見ればひざに乗せたタブレットにペンを走らせており……なるほど、この青春の一ページを絵に残すと。なにそれ、めっちゃエモい。


「そいじゃ〜あたしは〜、沙也ちゃん見守り担当っ♪」

「……ブーメラン」

「えへ☆」


 目堂に肩をズイッと寄せて座るなーこだが、実際は全体の見守り──総指揮担当なのだろう。毎度の事ながら、この二人のイチャイ茶番劇が微笑ましく、なんともクセになってくる。

 それにしても、瞬時に適材適所で動き出すこのメンバー、なかなかの連携力だ。しかも半分はお互い知り合って半日とくれば、実はスゴイことなのでは。


「なぁ大地、こんな感じで積むん?」

「たぶんな」


 隣のスペースを参考にして、上から見て井の字になるように、五十センチほどの薪を二本ずつ交互に組み上げていく。ただ薪が斜めに切られていたり、長さや太さが不揃ふぞろいだったりするので、バランス良く組み上げるのは案外難しい。それで進めているうちに、ヤスが考え無しに置いたものを、俺が微調整する形に落ち着いた。


「おいヤス、もうちょい選んで置けよ――ってかもう充分な高さじゃないか?」


 すでに一メートル以上積み上がっているので、これ以上高くなると燃やした時に危険そうだ。


「いーや、まだまだイケル! 高ければ高いほど盛り上がるからな! ほら、この僕の華麗なる積みテクを見なって、ホイッホイッホイッ!」


 無駄にテンションアップしたヤスの無駄なスピードアップに、俺の微調整が追いつかなくなり、タワーは傾きながらドンドン積まれていく。


「ヤス、ストップ!」

「んー? ──あ」


 止めるも時すでに遅く、タワーの上半分が崩れてきて……


「あうっ!」


 屈んで着火剤を塗っていたひなたの上に落ち、コココンと頭に当たる。


「ご、ごご、ごめんよっ、小澄さん! 大丈夫!?」

「は、はいぃ……ビックリしちゃいましたけど、平気ですぅ」


 特に怪我もなさそうなのは良かったが……ひなたに危害を加えた時点で、ヤスの運命は決まっている。


「ヤ・ス・ク・ン?」

「ひぃぃっ!?」


 予想通り鬼の形相となったなーこが、胸元から抜いたスタンガンのケーブルをヤスに巻きつけ、本体をひなたへと渡す。


「ハイッ、ひ~ちゃん? 遠慮なくぅ〜、ビビビっとぉ〜? バカモンにおしおきぃ、しちゃってぇ〜?」

「えっとぉ……ええー?」


 ひなたは手元のスタンガンを見て目をまん丸にすると、すぐに巻きついたケーブルをクルクルとほどき、なーこの胸元へと返納する。


「……あれ? ビリッと、こない?」


 直立で覚悟を決めていた様子のヤスが、恐る恐ると目を開いて不思議がる。


「悪気はないんですから、怒ったりなんてしませんよ。……でも天馬さん、危ないですから次は気をつけてくださいね?」

「ウィッス!」

「……ひなた、甘すぎ」

「それな。ひなたジャッジだと、どんな大悪党でも許されそうなもんだ」

「僕にはもっと甘くていいよっ!」

「ほら、こうなるからな?」


 優しさはときに人――馬をダメにする。


「むむむぅ、そんなことはないですよぉ。私にだって……絶対に許せない人がいます」

「マジでっ!?」

「……驚愕きょうがく

「(ああ、ひ〜ちゃん……)」

「てかこの小澄さんにガチで嫌われるって、どんだけヤベェ事したんだ、そいつはよ」


 慈愛の塊ひなたの意外過ぎる発言に、かなり驚かされたが……まぁひなたも人の子だ、絶望的に反りの合わない相手だっているよな。


「そいつの名は、『てん』で始まり」

「……『ゆき』で終わる」

「うん、そいつぁ悪そうな名前――ってぇぼくぅ!?」

「だってオマエ」

「……粗相して反省も無し」

「っさーせんっしたっ!」


 仰々しく頭を下げるヤスを見て、ひなたがクスクスと微笑む。


「うふふ、天馬さんの訳ないじゃないですかぁ。皆さんのことは、だ~い好きですよ♪」

「きゅぅ~ん❤️ あたし()~、ひ~ちゃんだぁい好きだよぉ~? ぎゅ~♪」

「……私も……ぎゅ」

「外部犯だったか。ふぅ、安心したぜぃ。な、大地?」

「テメェと一緒にすんな!」


 とは言え俺も過去に色々とやらかしている身なので、本当は嫌われていたらどうしようと、実は少し心配だった。思えば出会った頃は、むしろ嫌われたい程だったが、今ではこうして親しくなれた事をとても嬉しく感じている。夕の世界の未来では、社会に出てからも研究者仲間として仲良くしていたそうだし、こちらでも末永く善き友人同士でありたいものだ。


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