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レジェンド  作者: 神無月 紅
崖のダンジョン
1743/3865

1743話

失礼しました。

投稿予約日を間違っていました。

「では、これが奴隷の代金となります」


 そう言い、警備兵の中でもある程度上の立場にある者が、レイに盗賊達の代金を支払う。

 そこに入っている金額は、平均よりも幾らか安い金額。

 そのことも、レイは特に気にした様子はない。

 それこそ他の街まで連れていくといったことや、もしくはオークションに出すといった真似をすれば、盗賊達にももう少し高い値段がついただろう。

 だが、レイは元々盗賊達を売った金でそこまで儲けようとは考えていなかったし、ましてや別の街にまで盗賊達を連れていくのも面倒だということで、そこそこの値段で妥協した。

 その結果が、現在レイの手元にある金だ。

 そして、レイがこの値段で我慢したもう一つの理由は……


「奴隷商人に捕らえられていた女達の件、くれぐれもよろしく頼む」

「ええ、勿論です。うちとしても、街の近くで奴隷商人が活動していたなどという話は、不名誉極まりないですしね。皆さん、しっかりと故郷に送らせて貰います」


 そう、現在レイの前にいる男が言ったように、奴隷商人の馬車に乗っていた女達をそれぞれ自分の故郷まで連れていくということを、しっかりと警備兵が約束したのだ。

 不幸中の幸いか、奴隷商人に捕らえられていた女達は、その殆どがこの近辺の村や街の出身の者が多い。

 金銭的な負担そのものは、そこまで多くはないだろう。

 もしこれで、遠く離れた……それこそ、馬車で数ヶ月も掛かるような場所の出身者ばかりであれば、全員を故郷に帰すといった真似は出来なかっただろう。


「そうそう、奴隷商人の件ですが……どうやら、裏はないようですよ。奴隷商人の死体や荷物を調べたところ、個人で……もしくは仲間がいても数人といったところのようです」

「そうか」


 警備兵の言葉に、レイは少しだけ安堵する。

 奴隷ということで、どうしても少し前に行ったレーブルリナ国の件が思い浮かんでいた。

 もしかしたらその関係ではないかと思っていたのだが、実際には違うということで、肩の荷が下りた形だ。


「手続きはこれで全て完了です。では改めて、盗賊と違法な奴隷商人の討伐、ありがとうございました」


 警備兵は深々とレイに向かって一礼する。

 それは、異名持ちのレイや、一緒にいる元ギルムのギルドマスターのマリーナ、そしてパーティメンバーではないが、姫将軍として名高いエレーナといった権威に頭を下げたのではなく、純粋に街の近くに存在し、危険をもたらす存在を倒してくれたことに対する感謝の気持ちからだ。


「いや、気にしないでくれ。こっちも殆ど成り行きだったし……盗賊のお宝は貰ったしな。それに、あの盗賊には小さいが因縁もあったし」

「因縁、ですか? もし良ければ、その因縁というのを伺っても?」


 そう言われたレイは、特に隠す程のことでもないので、特殊なポーションについての話をする。

 それを聞いた警備兵が、不愉快そうに眉を顰める。

 病気の治療に使う特殊なポーションが、盗賊の為に届かなかったというのは警備兵にとっても愉快な出来事ではないのは当然だった。


「それは……ますます討伐して貰って助かりました」

「偶然だったんだけどな。まさか、この辺りを根城にしているとは思わなかったし」

「あはは。まさか、盗賊喰いとまで言われてる人が偶然なんて、そんなことある訳がないじゃないですか」


 笑いながら言う警備兵に、レイはこれ以上何を言っても無駄だろうと諦める。

 これもまた、異名持ちということで有名になった弊害なのかもしれない。

 そんな風に思いつつ、警備兵の詰め所から出ると、そんなレイをセトと……そしてレリューが待っていた。


「待たせたか?」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトが嬉しそうに鳴き声を上げるが、レリューはセトとの時間が終わったことで若干残念そうにする。

 そんなレリューの様子を見て、レイは小さく笑みを浮かべつつ、近づいてきたセトの頭を撫でていた。

 ギルムからゴルツに向かう途中は、まだレリューもセトを愛でるという行為を多少なりとも自重し、レイ達に自分がセト好きだというのを隠そうとしていた。

 もっとも、それを完全に隠せる筈もなく、早々と知られてしまったが。

 それでも、当初はそこまで露骨でもなかったのだが……今は、ギルムに帰る途中だ。

 そしてギルムに到着すれば、それこそミレイヌを始めとしたセト好きの面々によって、レリューのような男のセト好きはどうしても肩身が狭くなってしまう。

 だからこそ、ギルムに到着するまでに十分セトを愛でておきたいと、そう考えているのだろう。

 既に、セトを愛でるという行為を隠そうとはしなくなっていた。


(まぁ、ゴルツに向かう途中から、もう隠せてなかった気もするけど)


 セトと仲良くしているのが羨ましいのか、レリューの視線に羨望が混ざる。

 それを理解しつつも、レイは尋ねる。


「それで、宿は? あのダークエルフの件はどうなった?」


 奴隷商人に捕らえられていた女達は、既に警備兵に引き渡している。

 女達の故郷に戻すようにと、先程警備兵と話した通りに。

 だが……かなりの暴行を加えられていたダークエルフは、マリーナが一時的に引き取ることになっていた。

 そこはやはり、ダークエルフとしての同族意識が強かったのだろう。


「今は、傷の手当ても終わって、体力を回復させる為に眠ってるらしい」

「そうか。……けど、あのダークエルフを引き取ったのはいいけど、どうするつもりだと思う?」


 レリューと共に宿に向かいながら、レイは尋ねる。

 そんなレイとレリュー……そしてセトの姿は、街の住人達から当然のように注目されていた。

 それでもソーミスの時のように過剰なまでの反応がなかったのは、レイやセトにとっては幸運だったのだろう。


「それを俺に聞かれてもな。元々俺は、お前達の援軍という形で同行してるんだ。その辺りにはあまり関わらねえようにしてるよ」


 レリューの言葉に、それもそうかとレイは頷き……やがて、目的の宿に到着する。

 この街でも、間違いなく高級な宿。

 別にそれはレイ達が贅沢をしたかったからこの宿に決めた訳ではなく、純粋にセトが入れる厩舎の大きさという点でこの宿が選ばれた場所だ。

 宿の従業員にセトを預け、宿の中に入り……


「あら、レイ。早かったわね。もう手続きの方は終わったの?」


 椅子に座ってビューネと一緒に何か話していたヴィヘラが、宿に入ってきたレイとレリューの姿に気が付く。


「そうか? 結構時間が掛かったと思うけどな」

「あれだけの人数を引き渡したり、奴隷商人の件も考えると、随分早いと思うわよ。それで? 利益の方は?」

「そこそこってところだな。こっちとしては、別に今回の件で儲けようとは思っていなかったから、構わないけど」

「そう」


 レイの言葉に、ヴィヘラは特に怒りもせず、褒めもしない。

 元々そこまで興味があって振った話題という訳でもなかったのだろう。

 そんなヴィヘラの態度はレイも分かっていたので、特に気にした様子もなくヴィヘラ達の方に近づいていく。

 ……当然の話だが、ヴィヘラはこの宿の中でも非常に目立っている。

 既に夕方近くということもあり、宿に泊まっている者も、宿に戻ってきてはヴィヘラの美しさや、娼婦や踊り子のような衣装に包まれている肉感的な肢体に息を呑むということを行っており、それこそ誰がヴィヘラに声を掛けるかということで、お互いに牽制していたりもした。

 そんな中で、レイがそのような者達を無視してヴィヘラに声を掛ける――正確にはヴィヘラから声を掛けたのだが――ような真似をしたのだから、ヴィヘラに話し掛ける機会を窺っていた者達にしてみれば、レイの存在はとてもではないが面白い相手ではない。

 それでもレイに向かって絡もうとしなかったのは、レイの側にいるレリューが明らかに凄腕の冒険者といった外見をしていた為だろう。

 実力が外見に表れないレイや、強さよりも女としての面が強く出ている服装をしているヴィヘラと比べると、レリューは真っ当な強者と呼ぶべき存在だった。

 ヴィヘラに話し掛けようとしていた者のうち、冒険者はレリューの姿を見た時点で自分よりも圧倒的に上だと判断して話し掛けるのを躊躇う。

 商人の方は自分が護衛として雇っている者や、見るからに冒険者といった者が怯むのを見て、自分が話し掛けても不味いと判断して控える。

 結果として、特に大きな騒動になるようなこともなかった。

 もっとも、当の本人達はそんな周囲の様子を全く気にしてはいなかったが。


「あのダークエルフの容態は?」

「マリーナが言うには、レイのポーションの効果もあって、今夜には問題なくなるそうよ」


 最初、レイはヴィヘラが何について言っているのかが理解出来なかった。

 だが、すぐにマリーナの不機嫌さが自分に向かない為にと、半ば誤魔化す意味でマリーナに渡したポーション……ゴルツのマジックアイテム屋で貰ったポーションのことを思い出す。


「あのポーション、そこまでランクの高い物じゃなかった筈だけどな」


 実際、レイが店員から聞いたポーションの効果は、あくまでもそれなりといった程度の効果しかなかった筈だった。

 それが、何をどうすればそこまで効果が上がるのか……レイにとっては、疑問でしかない。


「その辺は、マリーナの精霊魔法の効果なんじゃない? 実際、水の精霊魔法とかなら回復出来るんだし」

「相乗効果、って訳か。……けど、その話が事実ならもっと広がっていてもいいと思うんだが」

「私に聞かれても、詳しいことは分からないわよ。部屋に行って、直接マリーナに聞いてみた方がいいんじゃない? 私もそろそろ戻ろうと思ってたし」


 そうヴィヘラに言われ、特にここに残る必要性も感じていなかったレイは、あっさりとその言葉に頷く。


「分かった。なら、行くか。マリーナにも、あのダークエルフをどうするのか聞いておいた方がいいだろうし。……別にマリーナと同郷って訳じゃないんだよな?」


 世界樹の存在する集落を思い出しながら尋ねるレイに、ヴィヘラは頷きを返す。


「そうらしいわね。ただ、エルフやダークエルフは数が少ないだけ仲間意識が強いらしいから、それでじゃない?」

「まぁ、人間に比べたら人数が少ない種族は、自然と団結力が強くなるよな」


 レイとヴィヘラの言葉を聞いていたレリューが呟き、ビューネが無表情で頷きを返すが……レイとヴィヘラは、若干居心地が悪くなって視線を逸らす。

 何故なら、レイが率いる紅蓮の翼にまともな人間と呼ぶべき存在はビューネくらいしかいないからだ。

 レイは言うまでもなく、ゼパイル一門が技術の粋をこらして作った人造人間とでも呼ぶべき存在だし、マリーナはダークエルフ、ヴィヘラはアンブリスを吸収した元人間。

 レイ達のパーティメンバーではないが、エレーナもエンシェントドラゴンの魔石を継承したことにより、人間とは呼べなくなっている。

 そういう意味では、レイの仲間内できちんとした人間と呼べるのはビューネとアーラの二人だけなのだ。


(何気に人外率高いよな。まぁ、だからどうしたって話だけど)


 レイにしてみれば、ファンタジーな異世界に来たのだから、別に種族をそこまで気にするようなつもりはない。

 他の面々にしても、それは大きく変わらない筈だった。

 そんな風に考えつつ、レイ達は階段を上っていく。

 ……目の保養という意味ではこれ以上ない存在のヴィヘラがいなくなったことを残念に思う嘆きの声が背後から聞こえてきたが、レイ達はそれを気にした様子はない。

 そうして部屋の前にやって来て軽くノックすると、扉が開いてマリーナが顔を出す。

 部屋の中に入れないのは、ダークエルフの寝顔を見せたくないというのがあるのだろう。

 もしこれがエレーナやヴィヘラといった面々であれば、何の問題もなく招き入れていただろうが。


「あれ、レイ。どうしたの?」


 そう声を掛けてくるマリーナは、大分落ち着いていた。

 勿論完全に落ち着いたという訳ではないのだろうが、少なくても周囲にいる者達に感じられるようなプレッシャーを発したり……というような真似はしていない。

 そのことに安堵しながら、レイは口を開く。


「あの捕まっていたダークエルフの怪我の具合がどうなのかと、それと明日には出発するけど、どうするのかと思ってな」

「ああ、その辺は問題ないわ。起きた時に少し話を聞いたけど、あの子はそれなりに強いみたいだから、自分の集落までは一人で帰れるそうよ。……もっとも、今度は騙されないように気をつけるって言ってたけど」

「……騙される?」

「ええ。何でも街に出た時にお酒を奢って貰って、それを飲んだら眠ってしまって、気が付けば既に奴隷商人に捕まっていたらしいわ」

「あー……うん。それは何て言えばいいのか、ご愁傷様?」


 そう告げ、居心地の悪さを誤魔化すように笑みを浮かべるのだった。

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