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レジェンド  作者: 神無月 紅
崖のダンジョン
1713/3865

1713話

 ダンジョン攻略、二日目……レイ達は一階を難なくクリアし、現在は二階の森にいた。


「岩の植物、結局なかったな。出来れば同じ場所にあって欲しかったんだけど」


 そう呟くのは、レリューだ。

 妻のシュミネに、岩で出来た花をお土産として持って帰りたい。

 そんな風に思っていたのだろう。

 だが、Y字路の左側、昨日岩の植物があった場所に寄ってみたのだが、そこには何もなかった。

 つまり、岩で出来た植物の類は、一度引き抜いてしまえばそれまでだということになる。


「まぁ、果実の類もないしな……それを考えれば、岩の植物がなくてもおかしな話じゃないだろ」


 近くに生えている木……昨日果実をひたすらに乱獲し、枝には殆ど果実が残っていない木を見ながら、レイが呟く。

 それでもまだ幾つか果実が実っているのは、昨日採り忘れたものか、それともまだ小さくて採らなかった果実が昨日の今日で食べ頃になったのか。

 その理由はレイにも分からなかったが、果実の数が少ない以上、わざわざ今日は採ったりはしない。

 ……もっとも、イエロが空を飛んでその果実を採り、セトの下に運んで二匹で一緒に食べるといった行為をしていたが、それはそれだろう。


「取りあえず……問題は、どの方向に向かうかだな」


 ダンジョンに出来ている森である以上、当然のようにここに初めて来たのはレイ達だ。

 そうである以上、森の中に踏み固められた道などという便利なものがある筈もない。

 代わりに、モンスターや動物が通ったと思われる獣道の類は幾つか見つけることが出来たのだが。

 だが、その獣道が幾つもある以上、どの方向に向かえばどんなモンスターがいるのかといったことは分からない。

 獣道の大きさから、大体どれくらいの大きさの動物やモンスターが通ったのかということは予想出来るのだが……このダンジョンにどのようなモンスターや動物の類がいるのか分からない以上、それは軽い目安にしかならない。

 それだけに、どこに向かうのかというのはレイ達にとって悩みどころだった。


「取りあえず、大きい獣道がある方に進んでみればいいんじゃない? この森の大物、つまり強敵はなるべく早く倒しておいた方がいいし」


 身体が大きいと強いは決して同じ意味ではないのだが、ヴィヘラにしてみればどうせ戦うのならば強い相手の方がいい。

 そういう意味での提案だったのだ。

 他にも幾つか意見は出たのだが、結局特にこれといった決め手のないものだけであり……最終的にはヴィヘラの提案に従って、大きな獣道を進むことになるのだった。






「うーん……思ったよりもモンスターが出て来ないわね」


 不満そうに言うヴィヘラの足下には、三匹のオークが倒れている。

 それが気絶している訳ではないというのは、三匹ともが首が折られ、あらぬ方を見ていることから明らかだろう。

 ヴィヘラ達の美貌を目当てに襲ってきたオーク達は、それこそ一方的な蹂躙にあい、一分と経たずに屍を晒すことになった。

 そんなオークの死体を、レイは特に驚きもなくミスティリングに収納する。

 ヴィヘラの強さを考えれば、オーク三匹程度でどうにか出来るとは、最初から思っていなかったのだ。


「ダンジョンが出来たてかどうか、ちょっと分かりにくいな」


 周囲の様子を見ながら呟いたのは、レリューだ。

 この二階にある森のように、広大な空間を有しているかと思えば、出てくるモンスターの種類は、今のところそう多くはない。

 もしこれでもっと高ランクな……それこそ、昨日バニラスが心配したようなバジリスクやコカトリスといったモンスターが姿を現すのであれば、もっと苦戦していたのだろうが。


「グルゥ!」


 そんなレリューの言葉に反応したかのように、セトが鋭く鳴く。

 その場にいた面々は、その声に警戒が混ざっているのに気が付き、すぐに戦闘が出来るように準備をする。

 この中で最も戦闘力の低いビューネは列の後ろの方に移動し、すぐに援護出来るように長針を構えた。

 そうして数秒……不意に近くに生えていた茂みから、巨大なクチバシが姿を現す。

 見るからに滑らかな艶を持ち、それでいながら凶悪そうな……それこそ、人の頭であれば容易く口の中に入れられるくらいの大きさを持ったそのクチバシを持った存在は、やがて茂みの向こうから身体の全てを現す。

 その姿は、巨大な鳥と呼んでも差し支えないだろう。

 ただし、鳥は鳥でも空を飛ぶのではなく地面を走ることに特化した鳥だった。


(ダチョウ?)


 それが、レイが鳥のモンスターを見た第一印象だ。

 実際には体型そのものはダチョウと似ているが、足の筋肉はレイがTVや本で見たダチョウとは比べものにならないくらい発達しており、身体はダチョウよりも圧倒的にボリューム感のある緑の羽毛に包まれている。

 そして何よりダチョウと違うのは、額から一本の角が伸びている点だろう。

 正確には刃と評した方が正しいだろうその角は、見るからに凶悪な武器なのは間違いない。


「グリンボ!?」


 そのダチョウのようなモンスターを見て、マリーナの口から驚きの籠もった叫びが出る。

 そんなマリーナの声を聞く……よりも前に、既に気配でレイ達の存在については把握していたのだろう。

 グリンボと呼ばれたそのモンスターは、レイ達を見て大きくクチバシを開く。


「皆、散って! ウィンドブレスよ!」


 グリンボと呼ばれるモンスターの能力を知っているマリーナの叫びに、レイ達は即座に反応する。

 もしこれがゴルツの冒険者であれば、マリーナの声にこうも素早く反応することは出来なかっただろう。

 え? え? と、急に叫ばれたことに驚き……


「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 次の瞬間、グリンボの嘴から放たれたウィンドブレスの直撃を食らっていた筈だ。

 ウィンドブレスという名前ではあるが、グリンボの口から放たれたのはただの風ではない。

 その風の中には風の刃と呼ぶべきものが大量に含まれており、もしウィンドブレスをまともに食らっていれば、それこそ身体中が斬り刻まれるだろう。

 風の刃そのものは、鋭い切断力を持っているがその傷口はそこまで大きくはない。

 だが……その小さい風の刃が無数に存在する中に人がいればどうなるか。

 それこそ、身体中を無数のカミソリで斬りつけられたかのようなことになるだろう。

 レイ達の場合は、即座にマリーナの指示に従ってウィンドブレスを回避したが、それがどれだけの威力を持っているのかは……それこそ、レイ達の側に生えていた木の幹に無数についた小さな傷を見れば明らかだろう。


「首を落とす!」


 ウィンドブレスを回避し、地面を蹴った勢いでスレイプニルの靴を発動させて、空中を蹴る。

 三角跳びの要領でグリンボとの間合いを縮めたレイの手には、ミスティリングから取りだしたデスサイズが握られていた。

 そうして振るわれる、死神の刃。

 魔力によって斬れ味が格段に増しているデスサイズは、何の抵抗もなく……それこそ水を斬ったかのようにあっさりとグリンボの首を切断した。

 ダチョウと同じく、首が長い為に狙える場所も大きかったのがグリンボにとっては致命的な不幸だったのだろう。

 巨大な頭部が地面に落下すると、吐き出されていたウィンドブレスも当然のようになくなる。

 そして斬れ味が鋭かった為か、切断された首から血が噴き出すまでに若干のタイムラグがあった。


「他にもいるぞ!」


 グリンボは単独行動をするのではなく、集団で行動するモンスターなのだろう。

 レイは、自分が倒したグリンボの首から吹き出す血から距離をとりつつ、近くの茂みから自分が倒したのと同じ姿をしたグリンボが姿を現したのを見て叫ぶ。

 レイの声に、他の者達も即座に戦闘に入る。

 新たに茂みの中から現れたグリンボの数は、全部で三匹。

 うち一匹はまだ子供らしく、他の個体の半分程の大きさしかない。


「ゴオオオオオオオオ!」


 レイ以外の面々が戦闘に入ったのと同様、三匹のグリンボも戦闘に入る。

 だが、グリンボに時間を与えれば先程レイが倒したのと同じウィンドブレスを放たれる危険もある。

 それを理解した他の面々は、グリンボに攻撃させないように一気に攻撃を行う。

 真っ先に動いたのは、ヴィヘラ。

 地を蹴り、グリンボとの間合いを詰めると魔力によって生み出された爪でグリンボの喉を掻き切ろうとする。

 だが、ヴィヘラに狙われたグリンボは近づいてくるヴィヘラに気が付いたのか、咄嗟にクチバシで迎撃しようとし……


「ゴォッ!?」


 次の瞬間、眼球にビューネの放った長針が突き刺さり、悲鳴を上げ……そして眼球の猛烈な痛みに驚きと痛みの悲鳴を上げ、そのまま魔力の爪により首を斬り裂かれた。

 だが、レイの場合と違って首を切断した訳ではなく、あくまでも斬り裂いただけだ。

 勿論それは致命傷なのだが、それでも即死とまではいかない。

 首から噴水のように周囲に血を吹き出しつつ、グリンボはその場から逃げようと走り出す。


「この状態でまだ動けるの!?」


 首を斬り裂かれ、多少身動きするくらいは予想していたヴィヘラだったが、まさかその状況で全力疾走して逃げ出すというのは完全に予想外だったのだろう。

 首から血を吹き出しながら走るグリンボという光景に驚き……そんなヴィヘラの横を、鞭状になったミラージュが通りすぎていく。

 走り出したグリンボに追いついたミラージュは、その足を鞭状になった刀身で絡め……そのまま、一気に切断した。

 幾ら首が斬り裂かれたにも関わらず自由に動き回れるグリンボでも、走るには当然足が必要となる。

 その足がなくなったグリンボは、走っていた速度のまま地面にぶつかり、そのまま転がり回る。

 残り二匹のグリンボのうち、子供と思われるグリンボはマリーナの風の精霊魔法によって身動きを封じられた上でセトによる前足の一撃を食らって頭部を爆散していた。

 ……ヴィヘラが倒したグリンボと違って、精霊魔法で動きを封じられていたので、頭部がなくなったまま走り出すようなことはなかった。

 もっとも、首を斬り裂かれたのと頭部がまるっきりないのとでは、全く意味が違ってくるのだが。

 そして最後の一匹は……レリューがその剣技を使い、レイの時と同じく首を切断して仕留めていた。

 自分から近づいてきたレリューを自慢のクチバシで攻撃しようとしたものの、その一撃はあっさりとレリューに回避され、そのままの動きで首を切断されたのだ。

 クチバシを振るう一撃を出した動きのままで首を切断されたグリンボは、その勢いのままに地面に突っ伏す。

 首から吹き出ている血が地面を派手に濡らしているが、それはレリューにとって特に気にするようなことではない。

 一分にも満たない戦闘が終わると、周囲には強い血臭が漂う。


「レイはアイテムボックスを持ってるんだろ? なら、一度ここから離れないか? 血の臭いを嗅ぎつけて、他のモンスターが襲ってこないとも限らないし」


 レリューのその意見に反対するような者はおらず、レイは速やかにグリンボの死体をミスティリングに収納すると、その場から立ち去っていく。


「にしても、イエローバードに続いてあのグリンボってモンスターも鳥のモンスターだったな。もしかして、このダンジョン……いや、この森だと鳥のモンスターが主力なのか?」

「あら、でもゴブリン、コボルト、オークの三種類もいたじゃない。ダンジョンの外で落下して死んでいたり、一階で遭遇するってことは、多分この森のどこかに住んでいるんだと思うわよ?」


 ヴィヘラのその言葉に、レイはそう言えばと思い出す。

 毎日のようにダンジョンの出入り口から落下して死んでいるのだから、どこかにそれらのモンスターの巣があるのは当然だった。

 そして一階部分にはY字路が一つあるだけで他に何もそのような場所がない以上、この森こそがゴブリン達の拠点のある場所と考えるのが自然だろう。


「毎日のように、階段を下って一階に行って、それで落ちて死んでいるのは疑問だけど」

「偵察とかか? ……理由は分からないけど、それらしいのを見つけたら対処しておいた方がいいだろうな」


 この場合の対処というのは、住処にいるゴブリン、コボルト、オークを皆殺しにするということだ。

 そのような真似をすれば、崖の下で死んだモンスターの魔石や討伐証明部位、素材をゴルツの住人が採取出来なくなる。

 それはレイも分かっていたが、他人の事情を……それも自分で戦って得られる利益ではなく、言わば事故死した死体を漁って自分の利益とする者達と、ゴブリン達に襲われるのを毎回撃退する時の面倒くささ、そのどちらを重視するのかと言われれば……言うまでもなく、後者だった。

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