1686話
虹の軍勢も更新されています。
【セトは『光学迷彩 Lv.五』のスキルを習得した】
脳裏に、いつものアナウンスメッセージが響き、次の瞬間レイの喜びの声が夜の林の中に響く。
クラゲのモンスターを倒した日の夜……取りあえず黒鯛のモンスターを倒した時と同様、誰もその正体を知らないということもあり、結局モンスターの死体は魔石を抜き取った後はそのままミスティリングに収納された。
百本近い、かなりの長さを持つ触手がモンスターの死体をどうこうするにはかなり邪魔だったのだが、それでも触れればミスティリングに収納出来るので、特に問題になることはない。
……普通にモンスターの死体をどうにかするのは、まず間違いなく大変だっただろうが。
レイにしてみれば、クラゲのモンスターということで食材にはなるのではないかと、そんな風にも考えた。
実際に日本にいた時はスーパーで売っている中華クラゲともやし、ハム……それ以外にも畑で採れた野菜だったり、山で採れた山菜だったりを混ぜて中華風サラダが食卓に並ぶことも多かったのだ。
問題なのは、クラゲは食べられると知っているレイだったが、具体的にどうすれば食べられるのかが全く分からなかったということだ。
ガランカに魚介類を買い取りに行った時に聞いてもみたのだが、ガランカではクラゲを食べるということに驚かれすらした。
ちなみに、海ということで取りあえず貝を獲って貰ってるグループには海藻も採って貰うように頼んできたのだが、こちらはガランカでも普通に食べられているので、食べられない海藻を渡されるような心配はなかった。
もっとも、食材ということで採取を頼んだが、レイの場合は具体的に海藻をどうやって調理するのかということが分からないのだが。
レイが知っている一番簡単な調理方法は、味噌汁やスープの具にするくらい。
もしくは、単純に茹でて醤油を掛けて食べるというくらいか。
だが、レイにはそのくらいしか考えつかなくても、実際に料理を専門にしている者にしてみれば未知の食材と見なすのは間違いない。
……ただ、ふとレイは日本にいた時TVか、それとも料理漫画か、具体的に何で見た知識なのかは覚えてなかったが、ともあれ海藻を食べて消化出来るのは日本人とほんの一部の外国人だけだというのを思い出した。
だが、ガランカでは海藻は昔から普通に食べられていたというのだから、取りあえず大丈夫だろうと判断したのだ。
もっとも、消化出来なくてもそれは別に食べられないという訳でもないということもあったのだが。
「グルルルルルルゥ!」
海藻を含めたことを考えていたレイは、セトの嬉しそうな鳴き声で我に返る。
どう? やったよ? 凄い?
そんな得意げな様子で円らな瞳を向けてくるセトに、レイは笑みを浮かべてその頭を撫でてやる。
気持ちよさそうに目を細めるセトの様子は、客観的に見てグリフォンという高ランクモンスターのようには到底見えない。
それこそ、飼い主に懐いている子猫……と言った印象だ。
体長三mの巨大な子猫という、矛盾した存在だが。
「今回海に来たのは、色々な面でラッキーだったな。まさか、こうも大量に魔石を入手出来るとは思わなかったし。……いや、種類は多いけれど、別に大量って訳じゃないか」
入手したモンスターの魔石は、そのどれもが今までレイ達が入手した物とは違う。
だが、それぞれ一個ずつである以上、大量という言葉は相応しくなかった。
「グルゥ!」
そんなレイの言葉を聞いているのか、いないのか。セトは嬉しそうに喉を鳴らしている。
だが、レイはセトに注意したりする様子はない。
ここ最近……それこそ本当に暫くの間、自分達は色々と忙しくて、モンスターの魔石を吸収するような暇はなかった。
いや、そもそも戦っている相手の多くが人間だったこともあり、魔石の入手すら出来ていなかったのだ。
それを思えば、今は新たなスキルを幾つも習得し、魚介類を好きなだけ食べることが出来、ゆっくりとした時間をすごせるのだ。
これで嬉しくなるなという方が無理だろう。
(もっとも、いつまでもこういう時間をすごせる訳じゃないだろうけど)
レイ達がこうして海でバカンスを楽しんでいる間も、ギルムでは増築工事が行われているのだ。
その仕事において、本来ならレイ達は大きな役割を果たす必要があった。
一応海に来る前に急ぎの仕事の殆どは片付けてきているのだが、ギルムのような大きな街を増築するとなれば、それこそ問題は幾らでも出てくる。
レイ達がいれば簡単にどうとでもなる問題であっても、レイ達がいなければかなりの手間暇を掛ける必要がある。
そう考えれば、いつまでもこうしてバカンスを楽しみ続けるという訳にもいかなかった。
そして、ギルムの増築工事もそうだが、メジョウゴからギルムに向かっている者達に対しての物資の補給もある。
ゾルゲー商会の協力で、基本的には困窮するようなことはないのだが、それは別に満ち足りているという訳ではない。
ゾルゲー商会にしても、今回の件はあくまでも必要だからこその出資でしかない。
つまり、あくまでも必要最低限の物資しか融通はしていない。
甘い果実や出来たての美味い食事といった、いわゆる贅沢品の類は、皆無……という訳はないが、非常に少ない。
だからこそ、ギルムに向かっている者達にしてみれば、レイが持って来てくれる補給物資はこれ以上ない程にありがたい代物なのは間違いなかった。
(ま、その辺りはもう少し楽しんでからでいいか。本当にどうしようもなくなれば、それこそマリーナが言ってくるだろうし)
自分達の中でも仕切るのが上手いマリーナの顔を思い浮かべながら、レイはセトを撫でながら声を掛ける。
「じゃあ、セト。早速だけど光学迷彩を使ってみるか。レベル四では八十秒透明になることが出来ていたけど……さて、レベル五になって、どれだけそれが伸びたか」
「グルゥ!」
任せて! と喉を鳴らすセトに、レイは笑みを浮かべつつ、ミスティリングの中から時計を取り出す。
「よし、じゃあ俺が合図をしたら光学迷彩を使ってくれよ? ……今だ!」
「グルルルルルルゥ!」
レイの言葉に従い、セトは鳴き声を上げる。
同時に光学迷彩が発動し、セトの姿は普通に見ているだけでは見ることが出来なくなる。
「いるよな?」
「グルゥ!」
一応、といった様子でセトに声を掛けるレイだったが、セトはそんなレイの言葉に対して即座に返事をする。
それを聞いたレイは、安堵しながら時計を確認し……やがて、八十秒がすぎる。
だが、当然のようにそれでセトが姿を現すようなことはない。
レベルが五に上がったのだから当然かもしれないが、そのままどれだけの時間セトがそのままなのかを計っていく。
「……嘘だろ?」
一分、二分、三分……それだけの時間がすぎても、セトは透明のままそこにいる。
三分をすぎた辺りで、もしかしたらセトはどこかに移動しているのでは? と思って声を掛けてみたが、当然のようにセトからはすぐに鳴き声が返ってきた。
つまり、そこに相変わらず透明のセトがいるというのは間違いのない事実なのだ。
レベル五になればスキルの効果が飛躍的に上がるというのは分かっていたレイだったが、それでも光学迷彩の効果時間はかなり長いことに驚く。
そして、四分が経ち……五分が経った瞬間、セトの姿は再び目に見えるようになった。
「グルゥ?」
終わった? と首を傾げつつ、円らな瞳をレイに向けるセト。
そんな視線を受けながら、レイはレベル五になった光学迷彩の破格の性能……いや、バグっているのではないかとすら思えるその性能に驚くことしか出来ない。
セトの素早さと力を考えれば、そんな相手が五分も姿を消して好き放題に暴れるというのは、敵にとってみれば信じられない悪夢としか言いようがなかった。
「よくやってくれたな。うん、光学迷彩……これは、間違いなく切り札になるな」
「グルゥ!」
レイが褒めると、それを聞いたセトは嬉しそうに喉を鳴らす。
セトにとっては、自分が強くなったというのも嬉しいし、同時にレイから褒めて貰えるようになったというのも十分以上に嬉しかった。
セトが嬉しがる様子を見て、レイも笑みを浮かべる。
だが、いつまでもセトを愛でていたいレイだったが、そういう訳にもいかない。
光学迷彩というのは、セトが消えるという行為以外にも使い道があるのだから。
そうして三十分が経ち、再度光学迷彩を使えるようになるまでセトを可愛がってから、次の確認に移る。
「さて、じゃあ次だ。……これまでのパターンから考えると、セトに触れている相手が消えていられるのはセトだけで光学迷彩を使っている時の半分なんだが……さて、どうなんだろうな」
レベル五になったことで、セトが単体で光学迷彩を使っていられる時間は飛躍的に伸びた。
そうである以上、もしかしたらセトと一緒に光学迷彩を使った場合の効果時間も、半分……つまり、セトが単体では五分なので二分半ではなく、もっと伸びているのではないか。
それこそ、セトが単体で光学迷彩を使っている五分と同じか、場合によってはもしかしたらそれ以上消えていられるのではないか。
そんな思いで、レイはセトに自分が触れている状態で光学迷彩を使って貰うように頼んだんだが……
「あー……こっちはレベル四の時と変わらないのか」
セトと一緒に透明になっていられる時間は延びた。
それは間違いない。
だが、一緒になって消えていられる時間が二分半、百五十秒と、五分の半分であるというのは以前と変わっていなかった。
「グルゥ……」
レイの残念そうな言葉に、セトは申し訳なさそうに俯く。
「っと、別にセトが悪い訳じゃないだろ。それに、一緒に消えていられる時間が百五十秒もあると考えれば、十分戦力的にもの凄いことになるだろ」
励ますようにセトに告げるレイだったが、実際その言葉は決して間違っている訳ではない。
セトが五分消えて暴れるというのは、間違いなく相手に致命的なダメージを与えられる。
だが……セトとレイが一緒になって姿を消したまま百五十秒も暴れたりすれば、それがどれだけ大きな騒動をもたらすのかは、それこそ考えるまでもないだろう。
それこそ、その辺の盗賊団程度であれば、レイとセトが消えた状態で襲い掛かれば、一分と掛からずに皆殺しにするくらいは容易に出来る。
そう考えれば、セトの光学迷彩は脅威的な威力を有するということになるのは間違いない。
セトを慰める為ではなく、純粋に思っていることを説明する。
そんなレイの態度に思うところがあったのか、やがてセトは落ち込んだ様子から嬉しそうな様子に表情を変えていく。
「グルゥ、グルルルルルゥ!」
機嫌良さそうに喉を鳴らすセトを撫でながら、レイは視線を木々の向こう……マジックテントを使ってベース基地としている方に向ける。
今日は光学迷彩を習得出来るだろう魔石を吸収する為に、マジックテントのある場所からそれなりに離れた場所に移動していた。
よって、セトは早く向こうに戻って食事をしたいと、そう思っているのだろう。
マジックアイテムの窯も置いてきてあり、現在そこではビストルが多くの魚介類を使って料理を作っている。
以前作った、非常に美味い……堕落の海鮮スープを今日も作っていた。
もっとも、今日はその海鮮スープを使って食べるうどんがメインとなっているのだが。
満腹亭で売って貰ったうどんは、レイのミスティリングの中にかなりの量が収納されている。
それを使ってのうどん料理が、今日のメインディッシュだった。
以前飲んだ堕落の海鮮スープの味を思い出し、レイはセトの背に乗る。
セトも早く料理を食べたいのか、レイが何も言わなくてもすぐに走り出す。
数歩の助走の後は翼を羽ばたかせ、空を駆け上がっていく。
レイ達がいた場所は、ベース基地として使っている場所から離れていても、それはあくまでも地上を歩いて移動すればの話だ。
セトの翼に掛かれば、それこそ十秒と掛からずベース基地に到着する。
そうして地面に着地すれば、周囲には非常に食欲を刺激する香りが漂っていた。
「うわ、美味そうな匂いだな」
「お帰り、レイちゃん。うどんの方はこれから準備をするから、用意よろしくねん」
ビストルの言葉に、レイは焚き火に視線を向ける。
そこでは、大きな鍋に入ったお湯が沸騰していた。
後はうどんを茹でて、海鮮スープを掛ければ出来上がりとなる。
「うどん、どのくらい茹でればいいんだろうな」
そう言いつつ、取りあえず鍋の中にうどんを入れていく。
そうして木のヘラでうどんをかき混ぜる。
数分が経ち、うどんを一本味見したレイが、丁度いい固さだと判断し……やがて、極上のうどんを食べることが出来るのだった。
【セト】
『水球 Lv.五』『ファイアブレス Lv.三』『ウィンドアロー Lv.三』『王の威圧 Lv.三』『毒の爪 Lv.五』『サイズ変更 Lv.一』『トルネード Lv.二』『アイスアロー Lv.三』『光学迷彩 Lv.五』new『衝撃の魔眼 Lv.一』『パワークラッシュ Lv.五』『嗅覚上昇 Lv.四』『バブルブレス Lv.一』『クリスタルブレス Lv.一』『アースアロー Lv.一』
光学迷彩:使用者の姿を消すことが出来る能力。ただしLv.五の状態では透明になっていられるのは三百秒程であり、一度使うと再使用まで三十分程必要。また、使用者が触れている物も透明に出来るが、人も同時に透明にすると百五十秒程で効果が切れる。