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レジェンド  作者: 神無月 紅
秋に向けて
1655/3865

1655話

「んー……この辺りだった筈だよな?」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトはそうだよ、と喉を鳴らす。

 現在レイ達がいるのは、街道から少し離れた場所にある、少し大きめの岩がある場所。

 盗賊団を一つ壊滅させたら、ここで待ち合わせをするということになっていたのだ。

 本来ならずっと別々に行動したかったのだが、捕らえた盗賊や、その盗賊団が貯め込んでいたお宝の類を回収する時にエレーナのマジックポーチやマリーナの精霊魔法で間に合わない場合、レイのミスティリングに収納する必要があった。

 また、アイテムボックスの劣化版たるマジックポーチは、アイテムボックス……レイの持つミスティリングと違って入る量が決まっている。

 そうである以上、中に入っている物をレイに預けるのはマジックポーチを有効活用するという意味では最善の選択だった。


「あ、いた。レイ!」


 そんな声に視線を向けると、少し離れた森からヴィヘラが出てくる。

 そしてヴィヘラを追いかけるように、ビューネとマリーナが姿を現し……そしてマリーナの後ろに、水の精霊魔法で生み出された水をロープ代わりにして手首を縛られた盗賊達が姿を現す。


「……多いな」


 精霊魔法で縛られた盗賊の数は、二十人程もいる。

 その数から、恐らく倒した盗賊の殆ど……場合によっては全員を捕らえてきたのだろうと予想するのは、難しい話ではない。

 そう呟いたレイはと言えば、捕虜にした盗賊の数はゼロ。

 汚れなき純白に所属していた盗賊達は、その全てが殺され、死体もアンデッドにならないように焼きつくされている。

 洞窟の中にあった財宝の類は当然全て持ち出しているが、それでも汚れなき純白という名前とは正反対の盗賊に対する怒りは完全に消えるようなことはない。


「あら、レイとセトだけなの? 盗賊達は?」

「生かしておく価値もない屑だったから、焼却処分にした」

「あー……そうなんだ」


 レイの表情を見れば、その盗賊がどのような相手だったのかは容易に予想出来る。

 そして、レイがかなり不機嫌なのも。

 これ以上その話を続けるのは、レイにとっても自分にとっても良くないだろうと判断し、ヴィヘラは話題を変える。


「そう言えば、エレーナ達は遅いわね。向こうもそろそろ戻ってきてもいいと思うんだけど」


 言葉では心配しながら、それでもヴィヘラの口に心配の色がないのは、エレーナが盗賊程度の相手に負ける訳がないと理解しているからだろう。

 ……事実、エンシェントドラゴンの魔石を継承したエレーナを盗賊が倒したと言われれば、それこそ天地がひっくり返ったかの如く驚きを感じるのは確実だった。


「そうだな。多分貯め込んでいたお宝が予想していたよりも多かったとか、そういう感じじゃないのか? もしくは、盗賊が予想以上の数で捕らえるのに時間が掛かってるとか」


 盗賊を倒すのはともかく、捕らえた盗賊を捕縛するのはかなり時間が掛かりそうだという予想があった。


「それで、この盗賊達を引き渡す相手はまだ来ないの?」

「……言われてみれば、遅いな。そろそろ来てもいい頃合いだと思うんだが」


 太陽は既に真上に存在しており、ミスティリングから時計を取り出して確認すれば、昼を少し前にすぎた頃合い。

 約束が昼であった以上、扱いとしては遅刻となる。

 もっとも、この世界では時計を持っている者の方が少なく、基本的には三時間ごとの鐘の音で時間を判断している。

 そうである以上、多少なりとも約束の時間からずれることは、そこまでおかしなことではない。

 もっとも、今回盗賊達を引き受ける者達はギルムから正式に依頼された者達で、ましてや待ち合わせの相手の中には、レイ達がいるというのも知っている。

 そんな中でレイ達に不愉快な思いをさせるかと言われれば、間違いなく否だ。

 ギルムで仕事をしていく上で、レイを――正確にはその従魔のセトを――敵に回すというのが、どれだけ恐ろしいことなのかは、それこそ考えるまでもない。

 そんな風に話している間に、盗賊を引き連れたマリーナがレイ達の下に到着する。

 マリーナの精霊魔法によって逃げられないようになっている盗賊達は、レイの側にいるセトを見て、驚愕と恐怖の視線をセトに向けた。

 自分達が誰を敵に回してたのか、これ以上ない形で理解してしまったのだろう。

 何か声を出せば、それこそこの場で殺されるかもしれないと思い、声を出さずに大人しくする。

 それこそ、レイに目を付けられないようにと。

 そんな盗賊達の側では、レイがマリーナに汚れなき純白のことを話す。

 汚れなき純白と名乗る盗賊達がどのような真似をしていたのかは、マリーナに捕らえられた盗賊団も理解していた。

 なるべく人を殺さないようにしていたこの盗賊達にしてみれば、汚れなき純白は同じ盗賊であっても一緒にして欲しくないというのが正直なところだ。

 何人かは、レイ達を怖がっていながらも感謝の視線を向けるような者すらいた。


「ん? あれは……ああ、別口か」


 盗賊達の視線に疑問を感じつつも、レイは縛った盗賊達を引き連れてこちらにやって来る冒険者達の姿を確認する。

 この冒険者達も、ダスカーからの依頼を受けてギルムからやって来た者達なのは間違いなかった。

 ……実際、レイが何度かギルドで見た顔も混ざっており、向こうもレイ達の姿を確認したのか、軽く手を上げて挨拶をしてくる。


「どうやら大漁だったみたいだな」


 そう告げたレイの言葉に、冒険者の男は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 当然だろう。盗賊が溜めていたお宝は報酬として自分の物になり、それで盗賊は取り調べの後は奴隷商に売られてその金も入るのだから。

 レイでなくても、盗賊狩りという行為が魅力的に思えるのは当然だった。……もっとも、それが出来るのは一定以上の強さを持つ者に限るのだが。

 特にサブルスタ周辺の盗賊の中には、元冒険者という者も珍しくはない。

 そのような者達が集団で掛かってくるのだから、それをどうにか出来る強さがあって、初めて盗賊狩りというのは可能なのだ。


「そっちもな」


 冒険者の男は、マリーナの精霊魔法で捕縛された盗賊達を見てそう言葉を返すが、レイはその言葉に対して首を横に振る。


「いや、そうでもない。これはマリーナとヴィヘラ、ビューネの三人が捕らえた盗賊だ。俺は別行動だったからな」


 そう言われた冒険者の男は、パーティメンバーを分けて盗賊に対処するというレイの実力に一瞬驚き、だがレイであれば当然かとすぐに納得し……次に疑問を抱く。


「なら、レイが捕らえた盗賊は?」

「いない」

「……は?」


 レイが何を言っているのか全く分からないといった視線を向けてくる冒険者に、汚れなき純白のことを思い出しながら、若干不機嫌になりつつ口を開く。


「生かしておく価値もないような外道だったからな。全員その場で処分した」

「あー……なるほど」


 外道という言葉だけで、大体どのような盗賊団なのかを理解したのだろう。冒険者の男は、曖昧にレイの言葉を誤魔化す。

 もし冒険者の男がそのような盗賊団と遭遇しても、何人かは殺すだろうが、それでも全滅させるような真似はしないだろう。

 何と言っても、相手がどのような外道であろうと、奴隷として売り払えば相応の金額になるのは間違いないのだから。

 だが、それはあくまでもこの冒険者の場合だ。

 金銭的に困っていないレイであれば、そのくらいのことは問題ないだろうと、そう判断してもおかしくはないし、それに対して別に不利益を被った訳でもない冒険者が何かを言うつもりはない。

 そんな風に冒険者と話していると、今回の依頼に参加した者達が次々と森の中から姿を現してくる。

 その殆どが捕らえた盗賊達を縛っているのだが、中にはほんの数人……もしくは一人も盗賊を捕虜にしていないような者達もいた。

 何故そのようなことになっているのかと考えれば、レイは胸の中にある苛立ちに溜息を吐くしかない。

 そんなレイの予想通りにか、捕らえた盗賊以外に盗賊達に捕らえられた商人や旅人といった者を引き連れている者もいた。

 何故そのような者達が一緒にいるのかというのは、それこそ盗賊に捕らえられていたからだろう。

 男は、身代金と引き替えに。そして女は……身代金との引き替え以外にも、欲望の対象として。

 事実、冒険者と共にいる女の何人かは視線が定まっていないような者もいれば、縛られている盗賊に殺意を込めた視線を送っている者もいる。

 冒険者から借りたのだろう。破かれた服の上から明らかにサイズの合っていない服を着ている者の姿もあった。

 そんな者達のことも気になるが、まずは情報交換ということで、他の冒険者達との会話を優先する。


(いつもなら、マリーナにこの辺のことを任せてるんだけどな)


 そう思いつつ、レイが他の者達と話しているのは、やはりマリーナが少し前まではギルドマスターをやっていたからだろう。

 この依頼はギルムで出された依頼である以上、当然のようにそれを引き受けたのはギルムの冒険者となる。

 そしてこれもまた当然のことなのだが、ギルムの冒険者であれば、マリーナのことを知っていて当然だった。

 中には今回の増築工事の件で来たが、それでも何らかの理由で腕を認められてこの依頼に参加したような者達もいる。

 そのような者達の中には、まだマリーナについて殆ど情報を得てない者もおり、マリーナに話し掛けられれば嬉しそうに言葉を返していた。


「それにしても、盗賊がいるとは聞いてたけど、こんなに多くの盗賊がいるとは思わなかったな」








「そうだな。しかも、どう考えてもこれで全部って訳じゃないし」


 レイと話していた冒険者が、周辺に集まってきた他の冒険者達が捕らえた盗賊達を見ながら呟き、レイはそれに同意する。

 実際、冒険者に捕らえられている盗賊の数は既に百人を超えている。

 まだこれからも冒険者が集まってくることを思えば、その人数は下手をすれば二百人近くにすら達するだろう。


「けど、ここにこれだけの盗賊が集まってるってのに、サブルスタでは何で放っておいたんだと思う?」

「さあな。正直なところ、俺にそれを聞かれても分からない。いやまぁ、サブルスタは中立派じゃないって話だし、ギルムの増築工事を妨害するつもりもあったのかもしれないけどな」

「……うわぁ、派閥抗争とか絶対に関わりたくないな」


 その冒険者の言葉にレイも同感だといったように頷く。

 サブルスタを治めている者が何を考えているのかはレイにも分からなかったが、それでもギルムに……ダスカーに敵対するような真似をして、ただで済むとは到底思えないのだ。

 そもそも、自分の治めている街の周辺にいる盗賊を、討伐もしないでそのままにしておくというのは、貴族にとってその街を治める技量がないと示しているに等しい。

 例えそれが、貴族が自分で治めているのではなく代官を派遣して治めているとしてもだ。

 いや、寧ろその場合は代官の能力を見る目がない……つまり、人を見る目がない貴族として嘲笑されてしまうだろう。

 そのような危険を冒してまで、このような真似をするのかと言われれば、少なくてもレイの目から見れば、それは馬鹿な真似という風にしか思えない。

 ……もっとも、こうしてサブルスタの周辺にいる盗賊を、ギルムの冒険者達が大々的に討伐しているという時点で、サブルスタの代官、そして代官を選んだ貴族の顔の面子を思い切り潰しているのだが。


「まぁ、俺達はそっち関係に関わらないで、依頼された仕事だけしていればいいさ」


 近くにいた別の冒険者が、そう言いながら近づいてくる。


「こっちから関わりたくなくても、向こうから関わってくるんじゃないか? ……ほら」


 レイ達の話を聞いていた、また別の冒険者がそう言ってサブルスタの方を指さす。

 そうして指さされた方にいたのは、三十人近い兵士達の姿。

 もっとも、兵士は兵士でも、戦争に向かうような完全装備という訳ではなく警備兵と思われる程度の装備だったが。

 それでも武装した兵士三十人近くともなれば、相応の迫力があるのは間違いない。

 事実、この場に集まっている冒険者達も近づいてくる兵士達に視線を向けているのだから。

 そして、兵士の後ろには馬車が……


「おい、あいつ。何で兵士達と一緒にいるんだ?」


 先程までレイと話していた冒険者が、近づいてくる兵士達の後ろにいる馬車の御者を見て、思わずといった様子で呟く。

 そんな冒険者の男に、何か少しでもヒントになればという思いから、レイは尋ねる。


「知ってる奴か?」

「知ってるも何も……俺達が捕らえた盗賊をギルムに運ぶ為に雇われていた冒険者達だよ」


 その言葉は周囲に響き、取りあえず面倒に巻き込まれたのは確実だと、レイは夏の青空を見上げるのだった。

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