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レジェンド  作者: 神無月 紅
レーブルリナ国
1565/3865

1565話

 隠し通路と呼ぶには、あまりにも広い、それこそ人が並んでも六人か、もしくはそれ以上が歩けそうな場所を、現在五十人近い人数の者達が歩いていた。

 その五十人全員が武装しているのを見れば、とてもではないがこれがピクニックや何かで移動しているようには見えないだろう。

 だが、その五十人全員が緊張しているかと言われれば、そうでもない。

 抱いている緊張感や危機感といったものは、それこそ人によって大きく違う。


「でもよ、本当に俺達がわざわざ援軍に行く必要があるのか? 一応それなりに巨人の数も揃ってるんだろ? なら、わざわざ俺達が行く必要ないと思うんだがな。それも、わざわざ馬車まで使って」


 心の底から面倒臭そうに呟きながら、男は後ろを見る。

 モンスターの革で作ったレザーアーマーを装備しているので、金属鎧を身につけている男よりは身軽に後ろを見ることが出来る。

 だが、後ろを見ても、そこにあるのは仲間達の姿だけ。

 少し前まで乗っていた馬車の姿は、そんな仲間達に覆い隠されて一切見えない。

 どのような馬鹿がメジョウゴにある地下施設……この男達の間では巨人の巣と呼ばれているそこに攻め込んだのかは分からないが、それでもこれだけの人数を揃える必要があるのかというのは、正直なところ疑問だった。


「まあな。こっちに出荷されてきた巨人はともかく、向こうにも護衛用ってことで、ある程度の数が残っていた筈だし。多分、俺達が向こうに到着しても、向こうでの戦いは終わってるんじゃないか?」


 男の側にいた、弓を手にした男がそう告げる。

 言葉通り、非常に気楽な様子だ。

 どこか遊び半分といったような様子を見せているその男に、周囲にいる者達も幾分か気が紛れたのだろう。緊張していた雰囲気が消えていく。

 だが、周囲にいる者達が緊張しているのも当然だった。

 そもそもメジョウゴが完成してから、自分達がこうして巨人の出荷に使う通路を歩いて巨人の巣に侵入することになるとは、夢にも思っていなかったのだろうから。


「気を抜くのはいいが、油断するなよ。向こうで何が起こっているのか、まだ正確には分かってないんだからな」


 男達の先頭を進む、隊長がそう皆に注意する。

 緊張しすぎるのはよくないが、当然油断しすぎるのもよくはない。


「分かってますよ、隊長。けど、巨人の巣に襲撃を仕掛けるような馬鹿がいるんすか?」


 そんな疑問が隊長に投げかけられるが、隊長も詳しい事情は知らされていない。

 そもそも、メジョウゴが襲撃されているという情報すら、伝令で受け取ったのだ。

 ……これで、ジャーヤがもっと大きな組織であれば、召喚魔法やテイマーがテイムしたモンスターや鳥といったもので素早く、それでいて詳細な情報を収集出来たのだろうが。

 残念ながら、ジャーヤはレーブルリナ国では他に類を見ない程の組織であっても、それはあくまでもレーブルリナ国という小国でのことだ。

 ましてや、対のオーブのような希少なマジックアイテムを持っている筈もない。

 もっとも、そのような希少なマジックアイテムがあっても、この隊長に持たせるより、有効的に使う手段は他に幾らでもあるのだろうが。


「俺達に出撃しろって連絡が来た以上、当然そういう奴がいるんだろうな。……ただ、正確にはどんな相手なのかってのは、結局分からなかったが。……それも、この先に行けば分かるだろ」


 隊長の視線が、行き止まりになっている壁に向けられる。

 当然それは本当に行き止まりの壁になっている訳ではなく、隠し通路として閉ざされている場所だ。


「おい」


 隊長が小さく呟くと、それだけで何を命令されたのか理解した部下の一人が壁の側に走っていき、仕掛けを解除し始める。

 そうして隊長達が壁の前に到着したタイミングで、行き止まりに見えた壁が横に動いて入り口を露わにする。

 巨人の出荷に使われる通路だけに、その入り口も当然大きい。

 ここまで来れば、当然のように隊長以外の者達も気を引き締めていたのだが……


「え?」


 その驚きの口調は、隊長の口から上がる。

 当然だろう。これから侵入者を倒そうと思っていたのだが、まさか隠し扉が開いた瞬間に誰かがいるとは思っていなかったのだ。

 いや、地下五階に続いているのだから、丸くなって眠っている巨人がいる可能性は考えていた。

 だが、巨人ではなく、自分達と同じ大きさの人間がいるというのは、隊長にとっても完全に予想外だった。

 巨人の巣が攻撃されているという情報があった以上、施設の中に侵入者がいる可能性は否定出来なかったのだが……それでも、まさか地下五階まで侵入者が入り込んでいるというのは、完全に予想外だったのだ。


「……てっ、ぐべ」


 目の前にいた相手を見ていた隊長が、ようやく我に返って、敵だ、攻撃しろと叫ぼうとした瞬間、殆ど反射的に攻撃したレイの拳が隊長を吹き飛ばす。

 隊長にとって幸いだったのは、金属鎧をしっかりと身につけていたことだろう。

 咄嗟にレイが手加減したこともあり、金属鎧が破壊されるといったことにはならなかったのだから。

 その代わり、衝撃を完全に殺すことが出来ずに肋骨を何本か折ることになってしまったのだが。


『……』


 ジャーヤの部隊の者達は、一体何が起きているのかが理解出来なかった。

 まさかこれ程早く巨人の巣の最下層まで侵入者がやって来ているのは完全に予想外だったし、自分達では到底勝つことが出来ない隊長が、一発の攻撃でこうもあっさりと倒されるのも、信じられなかった。

 そうして男達が動けないでいる中で、レイ達は当然のように次の行動に出る。

 真っ先に突っ込んだのは、当然のようにヴィヘラ。

 拳と蹴りで数人が瞬く間に気絶させられ、次にエレーナとレイが殆ど同時に襲い掛かる。

 そこまで先手を打たれ、ようやく男達も目の前にいる相手が倒すべき敵であると判断したのだろう。

 慌てたようにそれぞれが反撃を開始する。

 もっとも、それが可能になったのはあくまでも集団の先頭方面にいる者達だけだ。

 五十人程の人数での移動ということもあり、この時点で後方にいる者達には何が起きているのか全く理解出来ていなかった。

 それを幸いと、レイ達は次々に攻撃を仕掛けていく。

 今回の戦いの中で大きな活躍をしていたのは、ビューネだった。

 元々盗賊としては戦闘に特化しているビューネだけに、レイ達が戦う機会の多い高ランクモンスターに対してや、先程戦った巨人との戦いでは援護をするしかなかったが、今の戦いは違った。

 ビューネの持つ、ランクSモンスター銀獅子の素材を使って作られた武器、白雲。

 特殊な能力は存在しない武器だったが、その斬れ味は相当に鋭い。

 少なくても、ここにいる兵士の持つ盾や鎧といた防具では、攻撃を防ぐのは完全に不可能な程に。

 更にジャーヤの兵士達にとって不運だったのは、人数が多いからこそ、身動きがしにくかったことだろう。

 迂闊に戦闘行動を取ろうとすれば、自分の持っている武器で周りの仲間達を傷つけてしまう。

 中にはそれでも全く構わないと言わんばかりに攻撃しようとする者もいるのだが、それでも周囲に大勢の人がいる以上、動きにくいのは間違いない。

 結果として、瞬く間にジャーヤの兵士達の人数は減っていく。

 そうしてジャーヤの兵士達が倒れた場所を、レイ達は進んでいく。

 気絶している、怪我をして立てない、死んでいる……様々な理由で倒れている者達がいる以上、そこで戦闘をするのは危険だ。

 まだ生きている者を踏んで殺してしまう……といったことを懸念しているのではなく、単純に踏んでバランスを崩すことを心配してのことだ。

 レイ達の力があれば、その程度のことはそこまで心配する必要はないだろう。

 だが、何にでも完全にということはない。

 そうである以上、その危険を前もって排除するのは当然のことだった。


「ん!」


 白雲を振るいながら、もう片方の手で長針を投擲するビューネ。

 その長針は、ビューネの隙を突いて一撃を放とうとしていた兵士達に突き刺さる。

 鎧を貫く……といった真似は出来ないが、兵士達も身体の全てを、そして顔の全てを防具で覆っている訳ではない。

 フルプレートアーマーでも着ていれば話は別だったかもしれないが、ジャーヤの兵士達がそのような物を買えるような金銭的な余裕がある訳もないし、何より兵士達程度の身体能力では動きが極端に遅くなる。

 もっとも、フルプレートアーマーを着ていても、視界を確保する為の隙間や、関節を曲げる為の隙間といった場所があるので、本当の意味で完全な防御という訳にはいかないのだが。

 結果として、レザーアーマーや金属鎧を身につけている兵士達は、身体に長針が突き刺さる痛みで悲鳴を上げることになる。


「痛っ!」

「うわっ、くそ!」

「つっ!」


 そんな悲鳴が響いて兵士達が混乱する中、懐に飛び込んだビューネは素早く白雲を振るう。

 兵士達は鎧の上からでもあっさりと身体を刺され、盾ですら斬り裂かれるということになり、ろくに防御も出来ない。

 咄嗟に自分の武器で白雲の一撃を受け止めた者もいたのだが、兵士達が使っている武器はとてもではないが強力な武器とはいえない。

 ギルムでは、二流……下手をすれば三流品が精々といったところしかなく、その程度の武器で白雲の一撃を受け止めることが出来る筈もなく、鎧や盾と同様にあっさりと切断される。

 中には何とか受け止めることが出来る者もいたのだが、それでも一撃がいいところだ。

 二撃目、三撃目ともなれば、防ぎきれるものではない。

 防御が出来ない以上、敵の攻撃は回避するしかないのだが、周囲に仲間がいてはそのような行為も難しい。

 結果として、まさにこの戦いはビューネの独壇場と呼ぶに相応しい戦いとなる。

 もっとも、幾ら戦闘特化型の盗賊とはいえ、それでも結局のところビューネはまだ小さな子供でしかない。

 長時間の戦闘ともなれば、体力的な問題でどうしても動きが鈍らざるを得ない。

 兵士達の中でも比較的腕の立つ者の何人かは、そんなビューネの様子を見て取ったのだろう。

 持久戦に持ち込めば、どうにかなる。

 そう思ったのだが……


「あら、ビューネ以外に私達もいるのよ? それを忘れて貰っては困るわね」


 そんな声と共に、ヴィヘラがビューネと入れ替わるように敵の中に突っ込んでいく。

 体力的にこれ以上は危険だと感じたビューネは、そのまま後ろに下がって、黒水晶のあった空間に戻っていく。

 それを見た兵士達は、惜しいところで逃がしたと舌打ちし、だが次の瞬間には新たに現れたのが娼婦や踊り子の如き薄衣を着た、極上の美女ということに気を取られる。

 ……この時点で、既にジャーヤの兵士達は半分以上が倒されており、残る戦力は既に二十人を切っている。

 普段であれば、間違いなく自分達の危機だと判断するのだろう戦力の低下だ。

 だが、ジャーヤの兵士達は所詮軍人や傭兵といったものではなく、裏の組織の人間だ。

 それも、ここにいるのは別に精鋭といった者達でもない。

 戦う者としてのモラルで考えれば、それこそその辺の盗賊と差異はなかった。

 そのような者達だけに、自分達の目の前にいきなり現れたヴィヘラという絶世の美女を見て、力の差を理解出来る訳がなく、ましてや現在の状況よりも自分の欲に流されるのは当然だろう。

 勿論全員がそのような者ではないのだが、人数としてはどうしてもそちらの方が多くなる。

 結果として、その少数は身動きが出来なくなり……当然そのような相手を、ヴィヘラ達が逃すような真似をする筈がない。

 エレーナが放った、鞭状になったミラージュの攻撃が、素早く狙いを定めて射られたマリーナの矢が、次々とそのような者達を仕留めていく。

 当然レイもそれを黙って見ている筈がない。黄昏の槍……ではなく、それを入手する以前に使っていた、使い捨ての槍をミスティリングから取り出す。

 穂先が半分程の細さになっているその槍は、普通に槍として使えば、とてもではないが使い物にならない。


(こいつらに黄昏の槍は勿体ないしな)


 魔力を流せば、穂先についた血や脂といったものはどうとでも出来る。

 だが、それでも目の前の雑魚と呼ぶに相応しい者達を相手に、黄昏の槍を使うのはあまりに勿体ないと感じたのだ。


「こっちも、忘れるな……よっ!」


 その言葉と共に投擲された槍は……まず最初に槍が刺さった相手の胴体を砕きながらそのまま奥に進み、運の悪い数人の男達にも同様の結果をもたらす。

 そのような真似をされれば、幾らヴィヘラの色香に迷っていた男達ですら、正気に返る。

 正気には返ったのだが……残念ながら、今更正気になってもどうしようもないところまできていたのだが。

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