獣人族の男の子たちの学園生活 魔道具と訓練【図あり】
後書きに図を追加しました。
北の森に向かった生徒五人は、かなり厳しく叱られた。
その上で、一年間の授業出席禁止。
しかし、学園の現状では出たい授業に好きに出て卒業の証を集めるので、卒業が一年延びたという処分。
授業料の問題もあるだろうが、かなり緩い処分だ。
危ない目にあったから、その温情かな?
そう思ったけど違った。
五人が持っていた魔道具、合計で七つ。
全部、学園に没収された。
生徒たちは魔道具を実家から無断で持ち出していたらしく、実家に今回の件を報告、処分待ちらしい。
場合によっては実家から追い出されるかもしれない。
その点を考えれば、厳しい処分なのだろう。
かわいそうだけど、魔道具の値段を聞いたら僕も納得。
で、その魔道具七つ。
僕たちの家のリビング、テーブルの上に並べられている。
「どうしたんだ、これ?」
僕の質問に答えてくれたのが、いつの間にかいたグラッツのおじさん。
「この前の“混ぜ物”の件、ひょっとしたらこの魔道具のどれかが関係しているんじゃないかって話があってな」
「そんな危険なものを家に並べないでほしいんだけど?」
「そう言うな。
形式的に、学園が教師であるお前たちに貸し出し、それを調べるって形なんだから」
「?
どうしてそんな形に?
調べたいならグラッツのおじさんが借りたらいいじゃない」
「俺、貴族の当主。
仕事とはいえ、他の貴族の没収品を借りたとなったら、変な噂が立つんだよ」
「僕たちなら問題ないの?
一応、男爵家当主相当だけど?」
「学園教師の立場があるだろ。
面倒事を押し付けて悪いな」
グラッツのおじさんは、僕にではなくブロンに謝る。
承知したのはブロンか。
「で、これを誰が調べる?
グラッツのおじさん?」
「興味はあるけど専門外だ。
お前たちの村に専門家がいるだろ。
そっちに任せる」
「専門家?」
「村長の奥さん」
「いっぱいいるよ」
「そうだった。
ルールーシーさんだ。
彼女は魔道具の世界じゃ有名人だぞ」
「へー」
「へーって……大人物なんだけどなぁ。
それで連絡したんだけど、出産直後でバタバタしているから待ってくれってさ」
「出産?
生まれたの?」
「女の子だ。
ルールーシーさんの子がルプミリナ。
あと、ティアさんの子がオーロラ」
「ロナーナさんは?」
「ははは。
大人をからかわないように。
良い子にしていたら、式には呼んであげよう」
「もうそこまで話が進んでいるの?」
「あともう少し。
と、俺はみている」
「頑張ってね」
「うむ。
それで、話を戻すとだ。
村の武闘会の時に渡すことになった。
それまで保管しておいてくれ」
「ここに保管しておくより、学園に返したら?」
「却下だ。
これらを借りるのにどれだけの手続きが必要だったかブロンに教えてもらえ」
ブロンをみると、もう一回借りるのは面倒と顔に書いてあった。
なるほど。
「事情はわかったけど、危ないんでしょ?」
“混ぜ物”が出てきたら、それはそれで困る。
「大丈夫だ。
ここにある魔道具が原因なら、もっと多くの“混ぜ物”が出てる。
一応、疑惑……というか、“混ぜ物”は魔道具によって生み出されるという説を唱える者たちが一定数いるから、彼らを納得させるために調べるだけだ」
大人は大変なようだ。
「魔道具説以外にも、“混ぜ物”は勇者の成れの果て説、全ての魔物は“混ぜ物”から産まれた説、古の魔法使いによって生み出された不滅の化け物という説もあるな」
「口外禁止なのに、色々な説があるんだね」
「口外禁止だが、四百年前に魔王国で出ているからな。
見たことがある者がまだ王城に勤めている上に、対策を研究していたりする」
「口外禁止の意味、なくない?
冒険者たちも知ってたみたいだけど」
「口外禁止の意味、目的は逃げる力のない者を不安にさせないためだ。
具体的に北の森に出た、とか言わなければ問題ない」
「了解。
えっと、使ってもいいのかな?」
「壊さなければな。
値段の話は聞いているだろ」
……大事に保管しておこう。
村の武闘会の時に戻る前に、学園で武闘会の真似事をしてみた。
北の森の件で、自分たちの力不足は痛感している。
希望者を募って簡単なトーナメントを行う。
どうして希望者に兵隊さんが混じっているのかな?
人数が少ないから、かまわないけど。
あと、北の森の件の五人も参加。
これは授業じゃないしな。
別に問題はない。
妙に気合が入っているけど……誰かに良い所でも見せたいのかな?
うーむ。
まず学園の生徒。
全体的に弱い。
武器は立派だけど、実力に見合っていない。
北の森の件の五人も頑張っているけど、まだまだ実力不足。
アイリーンとロビアの二人の実力は、他の生徒たちより頭一つ分抜け出している。
その頭一つ分が大きいのか、生徒たちが相手だと一蹴してしまう。
次に兵隊さん。
さすがに実力はある。
学園の生徒たちの大半を貧相な武器で圧倒。
技術と経験の差が明確だ。
粘れたのはアイリーンとロビアの二人だけ。
これはアイリーンとロビアを褒めるべきかな?
まあ、勝ったのは兵隊さんだけど。
その兵隊さんが、なぜ僕たちに負ける。
これは……行動の先読みをしていない。
していないから、僕たちの行動を防げない。
訓練だから手を抜いているのか?
いや、それにどんな意図があるんだ?
意味がわからない。
まさか、行動の先読みができないってことは……ないよな?
行動の先読みは戦闘の基礎中の基礎だって、ガルフのおじさんやダガのおじさんは言ってたし。
学園内だから手加減して……学生たちを圧倒していた。
うーん。
僕も馬鹿じゃない。
この学園に来て半年以上。
それにこの前の北の森の件。
そろそろ気付いたことがある。
僕はゴール、ブロンを見る。
うん、二人も確信したようだ。
魔王国の兵隊は、すごく弱い。
僕たちに気を使っているとかなら、よかったんだけど違うようだ。
「おーい、次は集団戦をするぞ。
そっちはお前たちにトーナメント上位の学生を加えて十人。
こっちは三十人でいくから」
僕がトーナメントで優勝したので、グラッツのおじさんが仕切り始めた。
「あれ?
ちょ、大人の方が多いんだけど?」
「そっち、トロイ子爵の娘とリーブス子爵の娘がいるだろう。
これぐらいで丁度……よくないな。
お前たちが三人いると考えたら……もう二十人、兵舎から追加だ。
誰か走ってくれ!」
トロイ子爵の娘がアイリーンで、リーブス子爵の娘がロビアのことだ。
「そうだ、将軍がいた!
休暇中?
大丈夫だ。
ここに戦いがあると教えれば喜んでやってくる。
呼べ、呼ぶのだ!
そして我らに勝利を!」
……
魔王国、大丈夫だろうか?