ある冬の日 【画像あり】
冬の空を見上げると、ヒイチロウがドラゴンの姿で飛び回っている。
空を飛ぶ練習だ。
前よりは上手くなっているが、飛び方はパタパタとしていて安定していない。
そのヒイチロウの傍に並んで飛んでいるのは、ハクレンでもライメイレンでもなくティア。
ヒイチロウが空を飛ぶようになってから、急にヒイチロウとティアの仲がよくなった。
飛び方の指導方法かな?
ハクレンが放任気味なのは知っていたけど、ライメイレンは意外にも教えるときは厳しいんだよな。
ヒイチロウには甘いと思っていたのに。
なんでだろ?
「ちゃんと教える前に巣から飛び立って、二十年ぐらい帰って来なかった娘がいたから」
ドースが教えてくれた。
なるほど。
心配だから、厳しいのか。
「ところで、その娘というのは?」
「ヒイチロウの母親」
ハクレンか。
そっか。
「初めての子がいきなり飛び出して行方不明になったものだから、ライメイレンが大暴れしてかなりの騒動になり……
その騒動が収まった頃に、ハクレンはひょっこりと普通に戻ってきてな。
揉めたのなんのって……
そのハクレンが子を生み、大人しく暮らしている。それだけで奇跡のように思える」
ドースの様子から、本当に大変だったようだ。
ん?
飛んでいるヒイチロウが……盛大なクシャミをした。
同時に口から大きな炎が飛び出す。
威力が小さいのか炎はすぐに消えたが、ヒイチロウは口を火傷したようだ。
ティアに口を見せて、回復魔法をかけてもらっている。
なかなかの甘えっぷり。
ドースの横にいるライメイレンのティアを見る目が怖い。
ハクレンは……屋敷の中でウルザやアルフレートに勉強を教えている。
となると、一番怒っているのは俺の腕の中にいるティゼルか。
ヒイチロウがティアと一緒にいるところを見て屋敷から抜け出したのだが、俺に捕まった。
その後、俺に抱きついて拗ねている。
俺では機嫌を直してくれないようだ。
ティアが戻ったらお願いしよう。
ヒイチロウの空を飛ぶ練習は一時間ほど続いた。
途中でハクレンがティゼルを探しにきたが、ティゼルの機嫌が悪いままなので今日はそのまま預かることに……
ティゼルはハクレンに抱かれて屋敷に戻った。
……
お父さん、ちょっと寂しい。
降りてきたヒイチロウは人間の姿になり、そのままティアに抱っこされる。
ティアはよしよしと抱えながらも、ライメイレンにヒイチロウをパス。
視線に気付いていたのかな?
となると、ティアは俺のところには来ないな。
うん、ティゼルのところに行った。
よろしくお願いする。
さて、俺は冷えたであろうヒイチロウの為に温かいスープでも……
すでに鬼人族メイドたちが用意している。
ライメイレンに指示されていたと。
……
よし、ヒイチロウはライメイレンとドースに任せて、暖かい部屋に戻ろう。
部屋に戻ると、コタツから顔を出してこちらを見るクロとユキ。
コタツからは出てこないんだな。
妖精女王は黙って俺に新しいお茶をいれるように湯飲みを差し出してくる。
素直に俺を出迎えてくれたのは、フェニックスの雛のアイギスだけだ。
コタツの中に入っていなかったからかな?
よしよし。
アイギスをコタツの上に戻し、妖精女王の持つ湯飲みに新しいお茶を入れ、コタツから顔を出しているクロとユキの頭をなでる。
コタツの中には……子猫たちがいるな。
怒るな、すぐに閉めるから。
うん、俺の入る場所がない。
クロが譲ろうかという視線を送ってくるが、俺が言うまでは動かない姿勢だよね。
……
諦めた。
夕食の準備を手伝おう。
厨房、暖かいんだよね。
考えることはみんな一緒なのだろうか?
厨房は人でいっぱいだった。
実は、少し前から鬼人族メイドたちの間で保存食の開発が行われている。
発端は、俺の作った重箱。
4段重ねのそれなりに大きなもの。
そこに保存の利くものを詰めて、おせち料理っぽいものを作った。
それを振舞っている時に、鬼人族メイドたちからおせち料理の話を聞かれた。
残念ながらおせち料理の作り方はほとんど知らない。
なので、こういったのがある、こういった味でとイメージだけを伝えたら、それを再現しようと始まったのだ。
俺が満足できるのは黒豆と栗金団ぐらいで、他は見知らぬ不思議な料理だが……味は悪くない。
カズノコが欲しいが、あれってニシンの卵だよな。
なにかで代用できるかな?
厨房に入れなかった俺は工房に退避し、そんなことを考えながら追加の重箱を作っていた。
「装飾は任せてください。
漆塗りですよね」
山エルフたちと一緒に作る。
「漆にカブれるなよ」
「ご安心を。
漆塗りなら、百年ぐらいやっていますから」
長寿な種族の職人って反則だよな。
俺よりも圧倒的に塗るのが上手い。
まあ、俺は素人だから張り合わない。
「よーし、ガンガン作るから任せたぞ」
「はい。
ですが注文は十個では?」
「多く作った分は、外に売る」
「了解です。
ですが、ヨウコさんが困りませんか?」
「あー……じゃあ、売るのはやめて贈答用にしよう」
ヨウコが困っているのは、大樹の村と外部との交易差。
大樹の村で作った作物、酒、工芸品は、五村を通して販売されているが、逆に大樹の村が外部から買う物がほとんどないのだ。
一応、一年ぐらい前から燃料として薪を外部から購入するようにはしているが、全然釣りあっていないそうだ。
結果、大樹の村にはお金が転がり込んでくる。
お金は俺が受け取るのではなく、五村に預けているのだが、それで倉が増えすぎて困っているのだ。
少し前、ヨウコの訴えがあまりに大袈裟だったので見にいったけど、本当に倉が増えていた。
しかも、倉の中には金貨、銀貨、宝石がギッシリ。
前にマイケルさんにも言われたが、現金が倉で動かないのはよろしくない。
春までに、使う方法を考えよう。