別の名称
「そ……そうなんだ」
男性の強い主張にお義父さんがつらそうに頷きました。
「ちゃんと裏は取ってあるから事実なの。案の定タクトはいろんな所で恨みを買っていて、権力や力でねじ伏せていたから敵が多いなの」
ライバルが後押しをしますぞ。
確かにタクトの信用というのは張り子の虎とばかりに上っ面なものばかりですぞ。
発明をして新商品を世界に広めはしますが、既存の商品が売れなくて困った商人のケアは微塵も考えていなかったので、商業組合からは危険視されていたそうですぞ。
もちろん妨害工作をしようものなら完膚なきまでに叩き伏せてから見世物にした挙句、財産没収。
労働者にも多少の恩恵は与えますが、生活が豊かになったように錯覚させつつ重労働を強いる。
そして社畜ドリンク。
お義父さんの商売認識や統治とは逆の思考ですぞ。
既存のリソースに迷惑を掛けずに儲けるのがお義父さんでしたからな。
物価が下がり過ぎないように、儲ける量を調整して敵を作り辛くしておりました。
バイオプラントに関してはしっかりと世話と土壌管理が出来なければ枯れるようにして、農家に無償で提供したそうですぞ。
タクトの場合は草木一本生えないように発明品で既存のリソースを食いつぶすのがセオリーだったみたいですな。
ですが、枯れ果てた地に対するフォローはありません。
敵が多いのは当然ですな。
この男性もその手の商売上でタクトにとって邪魔な存在だったらしく、難癖をつけられたそうですぞ。
邪魔な奴が丁度良く困っていたから煽ったのでしょう。
男性曰く、妻の病気を何とかする為に奮闘している内に元娘を懐柔されたらしいですな。
元娘は元妻の血を引いている為、小奇麗な子豚でタクトの好みだったらしく、親子共々タクトハーレム入りだったみたいですぞ。
とんでもない豚の話ですぞ。
タクトはこの手の豚を引き寄せるフェロモンでも宿しているのではないですかな?
……思えば俺も真の愛に目覚めるまで、この手のフェロモンを持っていたのかもしれません。
でなければあんなに豚が群がってくるのはあり得ないですからな。
「私など命があっただけ運が良い方です。同士になれたかもしれない者達の中にはタクトや裏切り者達に殺されている者も多いのです」
そうでしょうな。
前のループではゼルトブルの商人が暗殺されていました。
こんな感じでタクトとその豚共は世界中で悪さをしているのですぞ。
「酷い話ですな。とんでもない豚共ですぞ」
都合の良い男が現れたら乗り換えるのが豚の常套手段ですぞ。
豚は擬態が非常に上手ですから男性に非はありません。
豚とはそういった生き物なのですぞ。
気に食わない事があるとすぐにへそを曲げてブーブーと文句を言うくせに、相手に対して何もする気は無いのがその証拠ですぞ。
挙句男を操ろうと画策しますからな。
何かしてほしい事があるならハッキリ言えですぞ!
素直さは美徳なのですぞ!
だから俺は素直なのですぞ!
お義父さんも素直ですぞ!
おや? 最初の世界のお義父さんが一歩引いて、いや……それはお前だけだ、と仰っているような気がしますが……やはり謙虚ですな!
ほら見ろですぞ。
「あー……なんつーか、色々と酷い話だねぇ……」
「うむ。女である私が言うのもなんだが、酷い話であるのは同意する」
「タクト一派の洗脳の可能性は? そういうのもしていたと聞きましたが?」
ゾウが尋ねますぞ。
「もちろん可能性はあるとガエリオンも読んでいたけど、タクト一派のキツネが仕留められているなら低いと思うなの。アレは幻覚を見せる魔物だけど、あいつが居なくても未だに潜伏している奴にまぎれているから本心だと思うなの」
「どうしようもないなぁ……」
「その母親の教育に問題があったと私は思いたい」
エクレアが頭に手を当てて言ってますな。
甘いですな。
豚は豚として産まれるのですぞ。
「所詮は豚ですな」
「ええ、槍の勇者様の仰る通り、豚に報いを受けさせてください。手段は問いません。それが私……いえ、私達にとって最大の喜びなのです」
「うっ……目が死んでるよ、この人……気持ちは痛いほどわかるけどさ……女って怖い……そんな簡単に乗り換えられるんだ……」
「そうですぞ。豚は醜いのですぞ」
この辺りお義父さんに深く理解してもらわなければいけませんからな。
などと考えているとエクレアがお義父さんに言いました。
「イワタニ殿、世の女性の全てがそうではないと理解してくれ……」
「大方『犯罪者のつまらない夫を支えるより、私の事を気にしてくれる刺激的で金持ちな鞭の勇者様に乗り換えても良いかも!』って感じだったんじゃないかい? 美味しい思いが出来そうじゃないか」
パンダが豚の心理を読み取っていますぞ。
きっと間違いはないでしょう。
堅実な者をつまらないと罵り、自分勝手な奴を刺激的と表現する所が豚を正しく認識している証ですぞ。
さすがは傭兵、中々に分析能力がありますな。
「ラーサ……」
「あたいは勘弁願うけどね。ああいうのは気に入らないねぇ。金っつーのは自分で稼いでナンボさね。エルメロ、あんたもそうだろう?」
などとパンダはゾウと話しておりますが、お義父さんは困った顔をしております。
まあゾウの元実家にも似た様なケバマンモスがいましたからな。
ゾウならよくわかるはずですぞ。
「大丈夫なの!」
「ガエリオンちゃん?」
「ガエリオンは、この世が終わってもなおふみを愛すると誓っているなの。ドラゴンはしつこいから乗り換えなんてないなの。それはなおふみを好きな者達も変わらないなの」
「あー……うん。ありがとう」
ここでライバルがポイント稼ぎに入ったので遮りますぞ。
「元よりタクト残党に命は無いのですぞ。その願い、奴等を見つけられれば叶えられますぞ」
何せタクト残党の行く先はフォーブレイの豚王行きが確定していますからな。
早く食肉工場に送らなければいけません。
「はい! どうかよろしくお願いします!」
そんな訳で俺達はタクト残党の殲滅に行くことになったのですぞ。
「なの! 島は戦場になる可能性が高いからお前は来ない方が良いなの。でも、ちゃんとガエリオンが納得できるようにするから期待して待っていろなの」
ライバルはそう言いながら映像水晶を男性にチラつかせますぞ。
すると理解したとばかりに男性は頭を下げて下がりました。
「お願い申しあげます」
こうして俺達は目的の場所に人員を引き連れて移動する事になりました。
「なんていうか……遠目でもわかる感じに建物があるね。ここまでの海流が激しい所はあるみたいだけど、よく見つからなかったね」
俺達は船から島へと視線を向けます。
接岸できる港らしき場所と、その奥には屋敷っぽいものがありますな。
「タクトが関係各所に隠して密かに建造してリゾート地にした場所らしいなの」
「へー……なんで隠していたんだろう?」
「タクトですからな」
俺達には理解できないおかしな思考をしていたのかもしれません。
なんせタクトは転生者。
この世界を堕落させ、衰退させるのが奴等の目的ですぞ。
「答えになっていないような気もするけど……まあ、表向きは世界が誇る天才って触れこみだった訳だし、人目を気にせず羽を伸ばしたいって感じだったのかな」
「色々と隠蔽するのが好きだった様ですからな」
メッキの嘘天才がタクトですな。
ですが、いくら煌びやかなメッキを張った所で既にボロボロに剥がれてきていますぞ。
「ちなみにあの目立つ屋敷以外にも島の奥の方に隠れた屋敷があるって噂なの」
「そうなんだ? なんかこう……クローズドサークルでも起こりそうな場所って感じだなぁ。不吉な伝承が残っている島みたいだしさ。なんていうの? 七裂島殺人事件みたいなタイトルで一本行けそうだよね」
「なの?」
「金持ちが所有する島ではありそうな展開ですな」
「元康くんは遭遇してそうだよね」
お義父さんがちょっと楽しそうに聞いてきますぞ。
「金持ちの面倒な権力闘争の騒ぎの舞台に遭遇した事はありますな」
せっかくの夏のバカンス中に豚のお家騒動で面倒事に巻き込まれたのですぞ。
今考えるとあれは面倒でしたな。
しかもふたを開けてみれば、豚の親族達はお互いがお互いを思い合っているのにすれ違っていた~~という拍子抜けの展開でした。
最後はみんなで笑って終了ですぞ。
「ただ、田舎に転校した時のような騒ぎ程度で、印象は薄いですぞ」
あの時は気持ちをリセットしたつもりで大げさに騒いで、豚共と事件解決に邁進しましたが、馴れた感じで行動した気がしますぞ。
「それより島というと大きな、もっとリゾート地って感じの街みたいな島に行く事がありました」
日本の本島とは距離こそあれど一種の都市みたいな場所に転校した事がありましたな。
その島独自の科学技術で不思議体験が出来るふれこみでした。
「錬ほどではないけど独自の最先端技術が目玉でしたな。俺は専門ではないので全くわからない挙句、観光地ですがな。何分、在籍していたのもそこまで長くないですからな」
本当、思えばいろんな所を転々としすぎな学生生活でした。
あれでよく学力が下がらなかったものですな。
「うーん……元康くんの世界も実は中々にSFだったのかもしれないね。異能力や魔法を別の名称で呼んでいそう」
「そんな物がありましたかなー? ただ、どこで会ったのか思いだせない豚は浮かんできますな。アイツはどんな奴でしたかな? 顔だけで思い出せませんぞ」
思い出そうとしても思い出せませんな。
まあ問題ないでしょう。
どうせ豚の事ですからな。覚えておく価値もありません。
「密かに存在する異能力や魔法だけど、その地から離れた際に記憶を消されたとか……無いと言いきれないのが元康くんの怖い所だよね」
「HAHAHA! 俺の世界は樹の世界ではないのですぞ? そんな事ないですぞ」
「まあ裏の世界では異能や魔法が存在するって展開はサブカルチャーの王道だからね。証明する手段が無いから気にしたら負けか」
少しは気にしろと冤罪から守れなかったお義父さん達が指摘してきたような気がしますが、そんな事より前を向くべきですぞ!
「なおふみ達の言っている事が理解できないのがちょっと悔しいなの。ガエリオンも色々と話を理解できるようにがんばりたいなの」
「ぶー」
ちなみにサクラちゃんは当然俺達の近くにいてライバルが何かやらかさないか見張っているので抗議しますぞ。
サクラちゃん、その調子ですぞ。
「会話を掻い摘んで聞くと、殺人事件を隠蔽なの? それはタクトがよくやらかしていた事じゃないなの?」
「まあ、似ているといえば似てるけど違うかな。とにかく、タクト残党との決戦になると思うからみんな、気を引き締めて行こう!」
「なの!」
「もちろんですぞ!」
お義父さんの言葉に俺やサクラちゃん達を含めてエクレア達、船に乗っている者達が頷きますぞ。
「腕がなるねぇ……いい加減、いつ出てくるか警戒するのもウンザリしていた所だからねぇ。ここらで終わらせてもらいたいねぇ」
「勇者を亡き者にし、隠蔽した挙句、身勝手な復讐のために戦争まで起こした者達に報いを受けさせるのは至極当然。メルロマルクが関わったツケを女王の代わりに払わせてもらう!」
「早く世界を平和にしたいですね」
パンダ、エクレア、ゾウもやる気を見せていますな。
「世界を玩具にする悪しき者達を私達で屠るのですわ!」
「「「わー!」」」
ユキちゃんの声に連れてきたフィロリアル様達も合わせますぞ。
既に準備万端。
タクト残党の豚狩りをこれから行うのですぞー!
「お義父さん、まず先制攻撃とばかりに俺がリベレイション・ファイアストームなどで島の形を変えるくらいの攻撃をしますかな? 開発中のリベレイション・メルトブラストでも良いですぞ。何なら島を跡形もなく爆散させるのも良いですな」
「槍の勇者、お前流で言うなら豚の捕縛が出来ないから却下なの」
「お前には聞いていないですぞ!」
「えーっと、元康くん、ガエリオンちゃんの言う通りタクト残党は捕縛する事も目的だから島を消し飛ばすのはやめてね。こう……持って行った金銭をどこに隠しているのかとかも吐かせないといけないんだしさ」
「わかりました。一匹一匹生け捕りにして処理していくのですな」
「う、うん……」
という訳で俺達は目的の島、タクトが改名したセブン島に上陸し、屋敷に向かって突撃したのですぞ。
豪勢な庭園を突っ切りますぞ。
なんか慰霊碑みたいな石を切って立てた碑文みたいなものがありますぞ。
カルミラ島などにあった代物かと思いましたが、違う様ですな。
「なんだろうこれ?」
「島のおとぎ話が書かれているみたいだねぇ」
「ああ、魔王を七つに裂いて埋めたって奴?」
「そうさね。それを一つ一つ大層に記した物みたいだねぇ。ご丁寧に右手を引き裂けとかエグイ文面が書かれてるねぇ」
最初に生贄を魔王は求めたとか書いてますな。
で、最初の勇者は魔王の腹をぶち抜いたみたいですぞ。
「タクトの遊び心か何かなのかな? それとも元からここにあったとか?」
「気にする必要は無いと思いますぞ」
「そうだね。先を急ごう」
という訳で俺達は進んだ訳ですが、豚共は影も形もおりません。
屋敷に潜伏しているのか、島のどこに隠れているのかわかりませんが突撃ですな!
「行きますぞー!」
「「「わー!」」」
俺の後をフィロリアル様達が続き、港や庭園周りは占領完了ですな!
「ここまで数が多いと圧巻だけど……」
「警備が手薄どころじゃないなの……嫌な予感がするなの」
お義父さん達が警戒気味に言いますぞ。
「何があろうと俺が解決して見せますぞー!」
という訳で屋敷の玄関前まで余裕で到着しました。
「では中をぶち破って華麗に侵入ですぞ」
「ちょいと待ちな。槍の勇者」
ここでパンダが玄関前で俺を呼び止めますぞ。