身勝手な召喚
あれから三日。
フォーブレイへの旅は順調に進んでおりますぞ。
数度、俺達を勇者ではないかと尋ねてくる連中と遭遇しましたが、違うと否定してやり過ごしました。
「そ、そうですか」
見た感じだと敵意などはありませんでしたな。
「貴方達はこれから何処へ?」
「フォーブレイへと向かっておりますぞ」
と答えると大抵の者達はすんなりと引き下がって行きましたな。
そんな様子にお義父さんが言いました。
「アレってさ、絶対にこっちの状況を察してるよね」
ですが時々しつこい者も現れます。
前回も似たような連中がいた様な気もしますが。
「フォーブレイよりも、我が国にお立ち寄りください!」
などと言って邪魔をしてくる連中もおりました。
もちろん問答無用で痺れさせたり、眠らせたりして逃げますがな。
どいつも己の欲望をギラつかせているので、一発ですぞ。
「どうにかして自国の方へ来てほしいと縋ってくる連中が時々鬱陶しいな」
「その点で言えばシルトヴェルトの方々は思ったよりも穏便ですよね」
そういえば、ちょっと前にシルトヴェルト側からの使者も現れましたな。
ああ、メルロマルクに滞在している時のとは別人ですぞ。
フォーブレイの方へ行くと告げると、アッサリと道を譲ってくれました。
正確にはエクレアが何やら使者に説明をしていた様ですが。
「エクレールさんは何を話していたの?」
「ん? ああ、何にしてもまずはフォーブレイの意向を聞いてからではないか? とな、私達を騙せると思うなと注意しておいた」
「それで頷くってどうなんだろう?」
「大義名分があるんじゃないの?」
「三勇教が神罰を受けたと世界中で有名になっているようだ。下手に関わり過ぎれば二の舞だと思っているのだろう」
「なるほどねー……元康くんの暴走だったけど、何が幸いするかわからないね」
「もちろん、神を騙る偽者だと躍起になる勢力も出て来ているらしいから注意が必要ではある」
「宗教とは争いを回避する事もあれば、争いの種になる事もあります。どんな世界でも変わらないのですね」
樹教の教祖が呟きました。
こういう話題になると、樹は謎のオーラを纏いますな。
以前の様になると厄介なので、ここ等で教えてやりますかな?
「自らの都合の良い、神を思い通りに操ろうとしているだけだな」
「だね。だけど審判として元康くんが起こした出来事が良い脅しにもなっている」
「最初はやり過ぎだと思いましたが、僕達の旅の障害を除去してくれている訳ですね」
「本当、何が幸いするかわからないもんだ」
「勇者殿達も十分に注意するのだぞ。口車に乗って安易に頷いてはならん」
「わかってるって」
お義父さんを筆頭に頷きました。
今の俺達の結束は強く、安易な話術では騙されませんぞ。
「だからフォーブレイへ向かっていると答えているんだ。筋を通してフォーブレイから波の処理に派遣されるとな」
あの国はお義父さんに敗れる前は本当に権威のある国なのですな。
四聖勇者伝説の発祥の国でしたか?
俺もこの世界の歴史に関してそれほど詳しくはないですが、いろんな伝承があるのでしょうな。
実際、フィロリアル様の聖域にあるフィロリアル伝説を俺は見た事がありますぞ。
ちなみにビーストスピアはフィロリアル様の聖域にあった物ですな。
「うん。宗教上の大義名分よりも世界平和を優先しないとね」
「ですね。お陰で勧誘も減って来ましたね」
「わからないぞ。日本でも勧誘はしつこいからな。異世界なら尚の事だろうから、まだ来るかも知れない」
ここ三日以内がピークになってきてますな。
「稀に襲撃があるけど、サクラちゃん達の足の速さに追いつけないみたいだからどうにか出来てるね」
「空からドラゴンで襲撃しようものなら、僕や元康さんの攻撃で撃退は出来ましたし」
「今日で何回の襲撃があった?」
「えっと、三回だね。獣人ばかりだからシルトヴェルトの過激派かな?」
「逃げられたら困るとか、聖戦とか言っていそうだな。尚文さえ滞在すれば追い掛けて来なくなるか?」
「ちょっと、幾ら盾の勇者を信仰している国だからって俺を置き去りにするのはやめてよ?」
「そうですぞ。お義父さんがこの国に滞在しようものなら大義名分を掲げて戦争をする派閥が出てくるかもしれません」
前々回はメルロマルクが攻めて来たので応戦した形ですが、何が起こるかわからないのが戦争ですぞ。
前回の周回では過激派はクズの活躍で駆逐されたと言っておりましたが、代表自体は攻めたがっておりましたからな。
お義父さんが上手く説得する事を期待しないといけませんし、三勇教に神罰が下ったと言われても残党は元より、メルロマルクの貴族自体は残っているのですから攻めてくる可能性は大いにあるでしょう。
前々回と同じ轍を踏んではなりませんぞ。
「宗教上というのは面倒な話だな」
「しかし……どうしてこうも勇者を神と崇める風潮が根付いているのか……」
「よくよく考えると異世界人に頼るこの世界の連中と言うのは他力本願も極まっているんじゃないか?」
「召喚される側からしたら夢が詰まっていますが、戦争に負けそうになったら神頼みに召喚の儀式をしていそうですね。自分達が悪いにも関わらず」
「あー、勇者と魔王の構図だね。単純に人間とそれ以外の種族が長く戦争とかしてる感じ。勇者は片方の意見しか聞けない訳だから、魔王は悪、みたいになるんだよね」
「僕も似た様な作品を見た事があります。作品によっては最終的に和解したりするんですよね」
「どちらにしても大義名分として利用されるのは変わらないな」
と言う疑問に対してエクレアが手を上げますぞ。
「無論、そういう事を仕出かす輩がいない訳ではない。とはいえ、召喚具を使わずの召喚による成功例は極一部でしかないがな」
「召喚具?」
「召喚機材などとも呼ばれる勇者を召喚する時に使われる道具の事だ。これが無ければ異世界から勇者を呼ぶ確率は大いに下がるそうだ」
「あれば成功するのか?」
「いや」
エクレアは首を横に振りますぞ。
「まず成功しない。それほどの脅威ではないと四聖の武器は判断するのだろうな。四聖勇者が召喚されるのは相応に危機が訪れた時と言われている」
「元康くんは知ってる?」
「生憎と知りませんな」
「こういう政治的な話とかは元康くんに話す意味は……あんまり無さそうだからね」
お義父さんが何やら納得したように呟きますぞ。
「じゃあ四聖の勇者が召喚されたという事は奇跡的な確率だったと言う事ですか?」
「勝算はあったのだろう。波という脅威が迫っていたのだからな」
ただ、とエクレアは話を続けていますぞ。
そういえばエクレアは途中で立ち寄った町のギルドに出かけておりましたな。
シルトヴェルトの文字を読めるのでしたかな?
「四聖の勇者が揃って召喚されるというのは相当な脅威が迫っている事の表れだ。王と三勇教はその事実をちゃんと認識していなかったと見て良い」
「世界の危機よりも自らの信仰と欲望ですもんね。腐敗も極まっていますよ」
「波という現象を軽視していたと見て良いな。俺達は都合の良い駒だった訳だ」
概ねその通りですな。
最初の世界では、俺を含め、まさにそんな感じでした。
「話は戻るけど、じゃあ四聖の勇者が一人で召喚されるとかの方が多いの?」
「そうなる。私も実際にこの目で見た訳ではないが、過去に召喚された四聖の勇者は大半が一人で召喚される事が多いそうだ」
「脅威度の指針なんでしょうね。その場合は、勇者一人でも解決できる訳ですか」
「俺達よりも前の四聖勇者ってどんな活躍をしたの?」
「私が知る話だと……一世紀ほど前らしい」
「へー……その時はどんなことがあったの?」
「何分、波乱な時代だったので資料の消失が多いのだが、魔王と呼ばれる邪悪な存在が人々を操って世界を意のままに操ろうとしたそうだ」
「うわ、良くある異世界RPGだね!」
「最終的に勇者の活躍で魔王は倒されたと伝わっている」
「そんな時代の方がある意味では、分かり易くて良かったかもしれませんね」
おや?
聞き覚えがある様な、無い様な気がしますぞ。
「未来で三勇教の残党が先導者の短剣という傷つけた相手を操る武器を使った事件がありましたな」
「え?」
俺も詳しくは聞いていないのですが、フィロリアル様が経緯を話し合っていました。
もちろん操られたフィロリアル様もいて、俺はメルロマルクの城下町を爆走してお義父さんを手伝ったのですぞ。
「伝説の再来か?」
「何でも人を自らの信念に染め上げる能力を宿した勇者の武器を媒体にして作られた物だったそうで、感染性を持っていたのだとか」
「確かに伝承にはそういう話があるな。その時はどうなったのだ?」
そうですな、結論から入る事にしましょう。
「犯人は三勇教に騙されて正義を暴走させた樹だったのですぞ」