外見年齢
お義父さんはサクラちゃんを受け止めてから、降ろしますぞ。
「えっと、サクラちゃん?」
「うんーサクラだよ?」
「そっかそっか」
「ナオフミ撫でてー」
「はいはい」
お義父さんがサクラちゃんの頭を優しく撫でておりますな。
「元康くん、なんか元康くんの言ったのとサクラちゃんの背格好が違うんだけどー……」
「おかしいですな?」
前回のサクラちゃんはお姉さんやエクレアと殆ど同じの背格好でしたぞ。
外見年齢も似た感じでした。
ですが今のサクラちゃんはユキちゃん達と殆ど変りませんぞ。
「と言うか三人とも全裸だし! 急いで服を着させないと」
「普通の服では変身すると破けますぞ」
「へくし!」
同時にボフンとサクラちゃんの変身が解けますな。
それをパクパクと驚いて指差しているのは錬と樹とエクレアですぞ。
「話に聞いては居ましたけど、やはり本当だったんですね」
「あーもじゃもじゃー」
コウが樹に向かって駆けて行きますぞ。
「貴方がコウさんですね。改めてよろしくお願いしますね」
「うん。コウね、カワスミのもじゃもじゃをたべてみたーい」
「……もじゃもじゃって、髪ですか!? そういえば時々、僕の髪を甘噛してましたけど、狙ってるんですか!?」
「懐かれてるね、樹」
「嬉しくも何ともありません! 何なんですか一体!」
コウが樹にじゃれつきますぞ。
樹の方はなんとなくですが嫌そうにしていますな。
まさかフィロリアル様を嫌がるはずはありませんぞ。俺の気のせいでしょう。
「……」
「……」
ユキちゃんと錬が無言で見つめ合いましたな。
「どうですかな?」
「ふむ……興味深いな」
とは言いながら錬は全裸のユキちゃんから目線を逸らしました。
「戦闘能力は高めで人化する魔物か……元康が飼い主だが、俺も今後の為に育てるというのも一考か?」
「あんまり育てると食費が凄い事になりそうだけどね」
「そうですね。今夜もバクバクと食べていましたからね」
「この調子で増えたら俺が困るよ」
お義父さんがサクラちゃんとじゃれあいながら応じますぞ。
「せめてもう少し俺達が強くなってからで良いと思う。まあ、仲間は多いに越したことは無いけどさ」
「ですが、エクレールさん以外の仲間をフィロリアルで補完するのはどうなんですか?」
「それも一理あるか」
「精々、錬と樹に一人ずつって所にしたいね」
「考えておこう」
「仲間が増えるのは喜ばしい事ですわ。ですが、多すぎて維持できないのは本末転倒……さすが勇者様達ですわね」
「なんかユキちゃんの口調が育ちが良く聞こえるね」
「ですわ口調ですか……」
「もじゃもじゃー」
「うわ、この子達、フィロリアル姿でも喋りますよ!?」
甘噛されている樹がコウを押しのけながら言いますぞ。
「そうだねー……完全に喋ってるね。とりあえずどうしようか?」
「サクラ、ナオフミと一緒に眠りたいー……ねむーい」
「ああはいはい。かといって宿の部屋でフィロリアル姿になられたら床とか抜けそうで怖いね。服とかも確保しないといけないし……今日は野宿?」
「いやいや、硬いベッドであろうとも宿で眠りたいですよ。わざわざ野宿をしてどうするのですか!」
樹が異議を唱えますな。
「とりあえず、ユキちゃん達には服の準備をしますぞ。ささ、この糸巻きをそれぞれ回してほしいですな」
事前に準備していた馬車に乗せた糸巻き機を俺は見せますぞ。
金に物を言わせて購入しましたからな。ゆっくりと準備が出来ますぞ。
「これを回すのー?」
「ユキが最初にやりますわ」
「もじゃもじゃー」
おや? コウは樹にじゃれるのを優先しておりますぞ。
ユキちゃんが糸巻き機をゆっくりと回し始めました。
前回はコウがギュルギュルと音を立てて回したのが記憶に新しいですな。
「ナオフミー……サクラ……」
「はいはい? 分かったから、宿でフィロリアルの姿になったらダメだよ?」
「はーい」
「じゃあローブを着せるから、サクラちゃんは絶対に破いちゃダメだよ。破いたらここで寝て貰うからね」
「やーん……わかったー」
なんとも微笑ましい光景ですな。
エクレアが三人分のローブを準備して、お義父さんと一緒にユキちゃん達に着せて行きますぞ。
「コウも樹にじゃれついてないで服の準備をしてねー」
「はーい!」
ユキちゃんの後ろに並んでコウがピョンピョンと跳ねていますぞ。
とても楽しそうですな。
俺もコウに合わせて跳ねていますぞ。
「コウと一緒に元康が何故か跳ねてるな……」
「完全に元康くんが増えているように見えるね」
「勘弁して下さいよ……うへぇ……」
樹が川で、髪を洗い直していますぞ。
「うわ、毛先がぐしゃぐしゃじゃないですか……」
「まあまあ、懐いてくれてると思って見れば可愛いじゃないか」
「そうですけど……」
「ふふ、なんとも騒がしくなってきたな。これでシルトヴェルトでも活動しやすくなるな」
「ああ……確かに怪訝な目で見られる可能性も減るのかもしれないな。とりあえずは表面上、コイツ等の付き添いを装ってみよう」
「何だかんだで差別がある世界だもんね」
「差別の無い世界を作るのは……無理なのでしょうか?」
樹が困った様子でお義父さんと錬、エクレアに尋ねますぞ。
「差別と区別は違うし、平等とも違うんだろうけど、人間の認識は変わらないと思うよ。周りを変えるのってすごく労力がいるし、俺達が正したって何処かで元に戻っちゃうものだからね」
「……」
「俺達の元居た日本でも差別はあったのですから無理では無いですかな?」
俺の返答に樹が呆気にとられた様な顔をしますぞ。
「そうだな。人間そうそう変わるものではないし、まして日本に居たとはいえ、俺達の世界だって差別があったんだ。異世界だからと払拭できるか怪しいな」
「……勇者である僕達だからこそ出来ないものかと思ったのですけど」
「それは力による支配でしかないかもね。常識を押しつける場合は、まさしく世界を支配でもして何世代も認識を押しつけてやっと出来るか出来ないかの次元だと思うよ」
「尚文さん。それじゃあ悪人みたいな行為に聞こえます」
「見方によっては悪だね。だけど差別を無くすって言うのは得てしてそう言う物だよ。漫画やアニメみたいに一見平等になった様に見えるのは夢物語なんじゃないかな? 敵側が納得したように見えても結局は力による支配だし」
「ああ、相手を殴って強引に納得させて従事させたら、自分達からしたら良い事に見えるが……って元康の話していた樹の話はこれなんじゃないか?」
「なるほど……常識を押しつけて支配する……僕のやろうとしていた正義の悪い面ですね。反省しましょう」
おや? 樹が納得したみたいですぞ。
あの樹がですかな?
「とはいえ、そろそろ眠いので宿に帰りたいのですが……」
樹と錬があくびをしておりますぞ。
「ぐるぐるー!」
ユキちゃんが巻き終えるとコウが勢いよく糸巻きを回し始めましたな。
ここから先で、サクラちゃんとなると前々回を思い出しますぞ。
「まだまだ掛りますので錬と樹は先に宿で休んでいたらどうですかな?」
「……そうですね。ではお言葉に甘えて先に寝かせて貰いましょう」
「わかった。では私が宿まで送ろう」
「ああ、尚文と元康はどうするんだ?」
「俺はサクラちゃんが準備を終えるまで待ってるよ」
「んー?」
お義父さんは相変わらずサクラちゃんを可愛がるのが上手ですな。
前回の時はなんとなくですが距離感があった様な気がしなくもないですから、俺的には今のサクラちゃんの方が可愛らしいと思いますぞ。
ただ、前回はおっとりの中にも意志の強さを持っていた様な……気がしなくもないですな。
今はお義父さんに素直に甘える良い子ですぞ。
「俺はお義父さん達が終わるまで待っていますぞ」
前は先に休んでしまいましたからな、今回は見張っておりますぞ。
結局、明日は服作りで俺は待機する事になるのですから良いでしょうな。
「そうか。あんまり遅くならない内に帰って寝るんだぞ」
「わかってるって」
「特に尚文は飯作り担当なんだし、早めに休んでも良いんだからな」
「いい加減、明日は何処かで朝食を取りたいけどね」
「……吐きたくないですね」
「ああ」
「何処かで弁当でも買うとかでも良いからさ」
とは言いますが、錬と樹は卒ない返事をするだけでしたぞ。
アレは、明日もお義父さんが弁当を作るフラグですな。
もはや錬と樹はお義父さんの料理の虜ですぞ。
やがてお義父さんの料理が無ければ生きていけない体になるのですな。
俺の笑みに鳥肌を立てながら錬と樹はエクレアと一緒に宿に戻って行きました。
「元康くん。にやにやとキャラに合わない笑みを浮かべて何を考えているの?」
「お義父さんの洗脳術に嵌って行く錬と樹を見て笑っただけですぞ」
「そんなおぞましい事してないよ!?」
とまあ、そんなこんなでユキちゃん、コウ、サクラちゃんの服の素材は確保できたのですぞ。