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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 槍の勇者のやり直し
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買出し

「変化にはまだ時間が掛かるみたいだし、何か作る? とりあえず市場の方で安値で買えないか調べてみるけど」

「尚文、やってくれるのか?」

「昨日は焼き肉とは言っても石焼きと元康くんの持ってきた鎧を強引に鉄板代わりにした物だったしね。機材もついでに買い集めて見るよ」


 お義父さんがため息交じりに言いました。


「よし、じゃあ俺達は……気持ち悪い……」


 錬と樹はフラッと倒れそうになり馬車にもたれ掛かりました。


「酔っていたのを忘れてたのか……忘れられるくらいには慣れてきたのかな」

「どうしますかな?」

「エクレールさんもまだ酔いから立ち直って無いし……元康くんの回復魔法で治療し終えてからにしようか」

「根本的な解決にはなりませんぞ」


 酔いなどは緩和が限界ですからな。酔い止めも緩和するのは同じですぞ。

 まあ、それでも動く程度にはなりますかな?

 ただ、症状を治すのは出来ないと言う点だけを考えると面倒ではありますぞ。


「元康くんは錬達を部屋に送って、俺はサクラちゃん達を河原へ連れて行くよ。その後は買い出しに行こうか」

「わっかりましたぞー」


 俺は錬達に回復魔法を掛けて動けるようにさせてから肩で支えて宿の部屋に送り届けました。

 お義父さんはフィロリアル様達を河原に案内してから戻ってきましたぞ。


「じゃあ買い出しに行こうか。毒のある食材とかあったら教えてね。まだあんまり技能を習得してないからわからないんだ」

「はい、ですぞ」


 お義父さんの後を付いて行き、俺達は市場に来ました。

 眠らない町なので、いろんな物が売ってますな。


「なんか禍々しい食材とか扱ってる店もあるね。これが亜人基準なのかな?」


 お義父さんは店先に吊るしてある目玉のような野菜を見て呟きます。

 他の店ではなんですかな? きんちゃく袋みたいな物もあるようですぞ。

 中に何があるのでしょうな?

 

 徐に俺は下にあるキュウリみたいな野菜ときんちゃく袋を交互に見ますぞ。

 その隣に干しアワビみたいな食材がありますぞ。

 きっと、あの袋の中身はこれでは無いですかな?


「あんまり卑猥な妄想はしないようにね」


 お義父さんが何かを察して俺を注意しました。

 何が卑猥なのでしょうか?


「わかりませんな」


 とは言え、前回のお義父さんは割とこの国の料理を慣れた感じで食していたと思いますぞ。

 さすがにこの食材をどう調理するのか分かりません。


「これってどう調理するんですか?」

「ん?」


 お義父さんが尋ねると店主が怪訝な目をしております。

 そこでお義父さんは気さくな感じで商品を指差していますぞ。

 特に問題ない様に感じますが。

 まあ、人間は珍しいのか、それだけで若干警戒されている空気がありますな。


「盾は俺の武器なんですよ。盾は良いですよね。みんなを守れますから」


 唐突にお義父さんが言いました。

 敵意は無い、と盾を掲げているのですな。

 それだけで若干、店主の反応が良い方向に転じたように見えるのが実に不思議ですな。


「そうかそうか、お前さんはこの食材が初めてか?」

「ええ、とある事情でシルトヴェルトに来た冒険者でして、この地の食材を知りたいと思ったんですよ。盾の勇者の伝説のファンですし」


 お義父さんは俺の話した情報を参考に交渉を上手く運ぼうとしている様ですぞ。

 俺は黙ってお義父さんの話術を観察します。

 何度ループしても交渉に関してお義父さんの右に出る者はいません。


 店主はお義父さんの盾を眺めますぞ。

 きっと盾がしっかりと手入れされているか、などを観察しているのでしょう。

 当然ながらお義父さんの盾は伝説の盾なので、手入れなどのメンテナンスは必要ありません。

 それ所か、そこ等の盾よりも遥かに良い物でしょうな。


 やがて店主は満足したのか、会話を再開しますぞ。

 若干機嫌が良さそうですな。


「ふむ……わかった。普段は人間には値引きなんてしたくねえが、盾を大事にしてるってのはわかったから値引きついでに教えてやるよ」

「はい」

「これはな、こうやって中に刃を入れて割って中身をほじくり出すもんなんだ」


 と、アワビっぽい実は果物である食材を店主は目の前で調理して見せてくれましたぞ。


「こ、こうですか?」

「もっと勢いを付けなきゃ割れねえぞ」


 お義父さんはその形状に若干の遠慮を見せていますぞ。

 しかし……なんですかな? この変な食べ物は。


「は!」


 掛け声と共にお義父さんは勢いを付けて切れ目に刃を入れてから器用に割りましたぞ。

 その後は、長年の勘か店主が教えてもいないのに身を綺麗に取り出しましたな。


「繊維質が若干剥く邪魔になってるみたいですね」

「お前さんは器用みたいだなーじゃあこっちのはな」


 と、店主はお義父さんに食材の癖等を教えてくださいました。

 最後はきんちゃく袋みたいな、やはり果物ですぞ。

 中にある種が美味しいそうですぞ。


「これ、割ると匂いがしそうなので後でやりますね」

「おうよ」


 お義父さんは店主が教えるよりも早く、捌き方と癖を理解した様ですな。


「じゃあ、この傷が付いてるやつをください。もちろん――」


 お義父さんがいろんな食材を少しずつ購入して行きましたぞ。

 値引きもちゃんとするのはお義父さんらしいですぞ。

 袋は俺が持つ役ですな。


「で、これも」


 と、お義父さんがさりげなく選んだ様に見える物を見て店主は感心しました。


「お前さん、目が良いな。良いモノばっかり選んで行きやがる。それでありながら断り辛い粗悪品もついでに買って行かれたら断れねえ」

「あはは、そうなんですか? 偶然ですよ」


 若干、お義父さんがワザとらしく照れていますな。

 これはアレですな。

 相手に合わせて態度を変えるという奴ですぞ。


「主な料理方法は何なんですか?」

「普通に火で炙って食べるのが一番美味いと思うぜ。良い匂いが凄く立ちこめる」

「楽しみですね。それで……粗悪品が混ざってるなら少しオマケしてくださいよ」

「しょうがねえなー……ん?」


 若干首を傾げながら店主はお義父さんからお金を受け取っておりましたぞ。


「じゃあ行こうか、元康くん」

「はいですぞ」


 次の店でもお義父さんはそれとなく相手に取り入って会話を挟みながら値引きして行きました。


「隣の店にも同じ物が売ってたけど、隣よりも高いな」

「こっちの方が品質が良い物を使ってるからな」


 などと言う商人には強気に出ていますぞ。


「その割には売れて無いみたいだぞ。ほら、ここが古くなってる」

「なに!? 何処が古いんだよ」


 現実を見ていない商売人には、その食材を掲げて道行く人の方を見ながら。


「ちょっとそこの人ー」

「はい?」


 話しかけられた亜人はお義父さんを怪訝な目で見ますぞ。

 何分、人間の地位は低いですからな。

 感覚で言うと日本で外国人を見た感覚を少し悪くした感じでしょうか。

 亜人の同行者がいないと尚の事目つきが悪く感じますぞ。


「この商品ってこれが普通ですか?」

「んー……そうじゃないか? 俺がいつも食ってるのはこんなもんだぞ」


 人間には悪い物を高く買ってほしいという願望からか頷きますぞ。

 お義父さんが若干イラっとしているのを表情で隠していますが、長く観察している俺は察しますぞ。


「じゃあ俺が買いますので、貴方は目の前でこの部分だけを食べてください。俺が奢りますよ」

「な――」

「問題ないのですよね? なら食べられますよね?」


 お義父さんがナイフでその部分に切れ目を入れると異臭が立ち込めましたぞ。

 これは完全に悪くなっている様ですな。


「人間の分際で――」

「食べられない物を人に食べられると言うのがこの国のルールなんですか?」


 そう、純粋そうに答えられると周りにいる人達も空気が悪いと感じたのか視線を逸らしますぞ。


「誰でも良いですよ? 食べます?」

「わかったわかった! 俺が悪かったから出てけ!」

「俺は良いですけど、そんな品を売りつけるのは皆さんに迷惑だと思いませんか?」

「そうだそうだ!」


 通行人はこれ幸いにと商人を罵倒し始めました。

 亜人や獣人は血の気が多いのが沢山いますからな、これ幸いに野次を飛ばしてますぞ。


「商売人失格だぞー!」

「てめぇ! いい加減にしろ!」


 悪い噂を立てられて商人はお義父さんの胸倉に掴みかかろうとして避けられましたな。

 それからそっと、お義父さんは耳元で商人に囁きました。

 ハッとしたように頷いてから、キョトンとした表情で立ちつくしています。

 どうするのですかな?


「問題はあるようですけど、腐っていない部分はかなり熟しているので糖度も高いですし、料理に使うと良さそう。腐る直前が一番美味しいと言う言葉もありますしね」


 お義父さんは俺に視線を向けますぞ。


「元康くん、弱めの火の魔法を出して」

「はいですぞ」


 ボッと手の先に火の魔法、ファスト・ファイアを灯すとお義父さんは火で食材を炙りましたぞ。

 先ほどまで腐臭がしていたのに、何故ですかな? とてもフローラルな香りになりましたな。

 ゴクリと道行く人たちが匂いに釣られて唾を飲み込みましたぞ。


「ほら、これはこの国の、皆さんも知ってるシンプルな料理ですよね? どうですか? どうやら腐りかかっていて今日中に処分しないといけませんが、ここで買って行っては? 今なら……」


 お義父さんは先ほどの店主から値段に関してそれとなく聞いていた様ですぞ。

 ちなみに今の店では、この腐りかけの果物は銅貨6枚で売っている物みたいですな。


「大まけにまけて、銅貨4枚だそうです! どうですか皆さん!」


 店主が釣られて、値札を書き変えましたぞ。

 すると道行く人がこぞって買いに走りました。

 割とすぐに腐りかけの食材が無くなった様ですな。


「はい、約束通り全部処分したからオマケしてよ」

「……わかったよ」


 と、お義父さんはにこやかに値引きをして更に購入しましたぞ。


「調理器具は日本とあんまり変わらないみたいだし、買い揃えられたよ」

「さすがお義父さんですな」

「何がさすがなのかは知らないけど……まあ大体こんなもんかな。じゃあ河原でまた料理しようか」

「わかりましたぞ。ところでお義父さん」

「何?」


 袋を担ぎながら俺達は市場を後にしました。


「さっき何を囁いたのですかな?」

「ああ、『このままじゃ腐って損失になるんだから、俺が全部損にならない範囲で処分してやる。仕入れ値は幾らだ?』って聞いて最低ボーダーよりも少しだけ上の金額で売ったんだよ」


 かなり危ない所だったけどね。

 と、お義父さんは呟きますぞ。


「あっちも腐りかけて処分しないと大損だって自覚はあったみたいだから、俺の出した条件を簡単に飲んでくれたよ」

「失敗したらどうなっていたのですかな?」

「俺達が買い取る事になった感じだね。その場合は強引に保存が利く物に加工する予定だったよ」


 さすがお義父さん損にならない様に手まわしをちゃんとしていたのですな。

 最初に聞いた店主に料理の仕方を聞き、別の店で実践して見せてからの薄利多売で損失の緩和をするとは、素晴らしいですぞ。

 そんなこんなで俺達は料理の準備に取り掛かったのですぞ。

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