神罰の日
「では一緒に来て欲しいのですぞ。エクレアを助ければここに用はありませんからな」
まあ、する事はありますが……。
「わかったよ」
「俺達には拒否する権利は無さそうだしな」
「元康さんがいなきゃこの場所から生きて逃げる事すら出来無さそうですしね」
先ほどから殺せ殺せと声がしますからな。
お義父さんの冤罪を未然に防いだら偽勇者の汚名を被せてくるとは、クズと赤豚は厄介な置き土産をしてくれましたな。
まあ、勇者に逆らったらどうなるかを城の連中は知らないからでしょう。
玉座の間から外へ出るのは案外近いですが、城中の兵士が集まってきますからな。
廊下の方に出ると炎の壁相手に悪戦苦闘している様ですぞ。
何やら炭化した奴も混じっているようですな。
「に、偽勇者だ! 早く殺せ!」
「王の安否は確認できたか!?」
「奴はもうこの世にいないですぞ。パラライズランス!」
炎の壁を移動させながら槍で痺れさせてやりました。
さすがに強さを理解したのか兵士共が道を開けますな。
「少しでも手を出したら皆殺しにしてやりますぞ」
俺が睨みつけると兵士共は硬直して動けなくなりました。
「ささ、行きますぞ」
お義父さん達は息を飲んで付いて来てくださいます。
が、影っぽい奴が突然現れ、含み針を放ってきました。
槍で弾いて、突き刺してやりますぞ。
「いい加減にするのですぞ」
「どれだけいるんだ……」
「俺達を絶対に逃さないつもりなのでしょうな」
やがて城の入り口まで移動する事が出来ました。
いい加減、兵士は元より、三勇教関係者っぽい連中がうっとおしいですな。
騒ぎに乗じて駆けつけたのでしょう。
「勇者を相手にどれだけ愚かな事をしているのか知らしめますぞ」
「な、何をする気だ?」
錬が代表して聞いてきますぞ。
「あの建物が見えますかな?」
俺は城門の先にある広場の……近くにある大きな教会を指差しますぞ。
三勇教の教会ですな。
「ああ、アレがなんなんだ?」
「あそこには今回の陰謀の肩棒を担いだ犯人……要するに黒幕がいるはずですぞ」
教皇は間違いなくあそこにいるでしょうな。
何せ盾の勇者であるお義父さんが冤罪を被さる日だったのですからな。
インナー姿で歩いて行くお義父さんをほくそ笑んでいたはずですぞ。
「まさか乗り込んで行くとか言わないよね?」
お義父さんが間に入って聞いてきますぞ。
その予定はないですが。
「ご要望とあらば目の前で黒幕を仕留めますが、どうですかな?」
「要望じゃない! やっぱり乗り込むつもりなの!?」
「さすがにそんな面倒な事はしません」
「そ、そうか。それなら良いんだけど」
「建物に入る必要などありませんからな」
「え……?」
俺は意識を集中して魔法を詠唱しますぞ。
「リベレイション・ファイアストームⅩ!」
魔法で作りだした炎の嵐を起こす玉を、狙いを定めて投擲します。
ヒューッと大きく放物線を描いて、教会の上で玉は破裂してそこから強力な炎の竜巻が発生しました。
天をも貫く強力な炎ですぞ。
お義父さん達は巻き起こった風と炎を呆然と見ております。
「安心してほしいですぞ。教会以外は指定していないので、民間人は無事ですぞ」
「そそそそそ、そういう問題!?」
「これが勇者の強さ……なのか?」
「ここまで僕達も強くなれるんですか!?」
「なれますぞ! 錬も樹もこの程度、造作も無いでしょうな」
俺の褒め言葉を聞いて、錬も樹も炎の嵐を見つめております。
「太鼓判を押されても全く嬉しく無いんだが……」
「そうですね。早く帰りたいです……」
「俺は?」
「お義父さんは援護と回復担当ですからな。直接的な攻撃魔法は習得出来ません。ですが、俺達を更にパワーアップさせる魔法を習得しますぞ。まさしく、コレよりもさらに強くなるほどの力を与えてくださいます」
「なんで知ってるんだ? とかは後回しにした方が良いんだよな? 追われている訳だし」
三勇教の教会も焼き払いましたし、この魔法によって兵士共も敵意を喪失しました。
力無く地面に座り込んでいる者が多数ですぞ。
「ああ……愚かなる我等に神々が裁きを与えた……」
「儀式魔法にすら耐性を持つ教会がいとも簡単に……」
「神罰の日だ……」
何やら両手を合わせて祈りを捧げております。
信仰心が深い連中は俺達を見て祈り、命乞いをするに留まりましたな。
「動きやすくなりましたな」
「これだけの事を仕出かしたらそうなるだろうよ……」
お義父さんが黄昏気味に答えます。
そうですな。褒めてもらいたいですぞ。
「後は刺客の攻撃を避けて地下監獄に行きますぞ」
「監獄……罪人なのか?」
「罪状は奴隷狩りをした国の兵士を私刑にしたでしたかな」
「奴隷……」
「それは悪い事なんですか? 正しい事の様にしか聞こえませんが……」
樹が首を傾げています。
「お義父さんを信仰する代表である亜人の保護区で貴族が波で死んだらしいですぞ。その後、奴隷狩りが行われ、守るために戦ったそうですな。一応、この国では悪事だそうですぞ」
樹の正義感が疼いたのか先ほどよりも意思が戻ってきましたな。
「確かに、結果が気に喰わないだけで僕達を殺そうとする人達ですからね。聞く限りだと良い人そうですね」
「気が合うかはわかりません。少々真面目な感じでしたからな」
エクレアは俺が見ても真面目でしたからな。
話をすれば通じるとは思いますが、どうなのでしょう。
「さあ行きますぞ」
俺達はその足で地下監獄へと行きましたぞ。今や城下町は大騒ぎになってきているようですがな。
お義父さんは落ち付きが無くくさりかたびら姿ですな。
早く落ち付いた場所に逃げられるようにしたいですな。
監獄内を火の魔法で明かりを灯しながら進みます。
その最中、お義父さん達は牢に入れられた人たちを心配そうに見ております。
石造りでじめじめとした嫌な感じの場所ですな。
「……やっぱり牢屋ってあるんだな」
「こんな国ですから、気に喰わない相手を投獄しているんでしょう」
「あれ? あの人、耳が……って亜人だっけ? 異世界なんだからあるよね」
「昨日、城下町で見たな」
「ええ、やはり亜人だからとかの理由で捕まったのでしょう」
前々回来た時の様に投獄された者たちは覇気がありませんな。
まあ、俺達が異世界人だと言うのも気付かず、兵士か何かだと思っているのでしょう。
「むやみに助けるとか……しない方が良いよね」
「そうだな……実は極悪人とかも混じっているかもしれないしな。それに俺達とはあまり関わらない方が良いだろう」
「ええ、僕達はどうすれば良いのかを見極めないといけません」
やがて前々回にエクレアと出会った牢獄へと行きましたぞ。
格子の間から中を覗きこみます。
どうやらエクレアはまだ生きているようですな。
お義父さん達がエクレアの格好に息を飲みますぞ。
手枷で両手を吊るされて無理やり立たされているのですからな。
しかも拷問の痕もあれば尚更でしょう。
「おい、見慣れない奴だな。お前はメルロマルクの兵か? 先ほどから騒がしいが何かあったのか?」
「……」
「何をじろじろと見ているのだ? お前等、そんなに私を見て楽しいか」
「楽しくなんかない……」
一番にお義父さんが答えますぞ。
「ええ、この国はこんな事を平然としていたんですね」
「元康、コイツか?」
「そうですぞ」
「暗くてよくわからないけど……なんか美人みたいだよね」
エクレアは疲れ切った目でウンザリそうに俺達を見ますぞ。
大方、迷い込んだ新兵とでも思っているのですかな?
「えっと、貴方がエクレアって人ですか?」
お義父さんが代表して尋ねます。
「誰の事を言っているんだ? 人違いだ」