守られた信頼
「え? え? え?」
お義父さんはキョトンとした表情で俺達を見ています。
「驚くのも無理はありませんね。僕も元康さんに証拠を見せられるまで信じていませんでしたからね」
「ああ、危うく道化にさせられそうになっていたんだからな」
錬と樹がお義父さんに向かって親しげな笑みを浮かべて呟きます。
ついにお義父さんを救いましたな。
「い、一体なにが……」
お義父さんが俺を見つめておりますぞ。
当然ながらどういう状況なのかわかっておられない顔ですな。
「詳しく事情を説明する事は出来ますが、今はただ……お義父さん、貴方が無実であると俺達は知っているとだけ理解してくれればいいのですぞ」
「……お義父さん?」
「元康が尚文の事をとある理由でそう呼びたいんだと。これも後で説明するから今は聞き流しておけばいい」
「僕としてもどうかと思うんですけどね。元康さんには色々と教わった手前、注意出来ないんですよ」
「はぁ……」
ピンとこない感じにお義父さんは首を傾げております。
が、徐々にお義父さんが涙ぐんできましたぞ。
「みんな、俺がやって無いと信じてくれるのか?」
「当たり前だ」
「ええ、絶対に尚文さんは無実です」
「そうですぞ。お義父さんがそんな汚れた事をするはず無いですぞ」
涙を拭ってもすぐに溢れだす涙で、お義父さんは顔がぐちゃぐちゃですぞ。
鼻をすすっている様な音もします。
信じてもらえてうれしいという思いが伝わってきます。
錬も樹も悪くないと、少し照れてますな。
「ブブブブ! ブブヒブブブブ!?」
赤豚が嘘泣きをしながら発狂気味に俺達に何やら鳴き喚いていますな。
近寄るな! ですぞ。
お義父さん、錬、樹、皆の信頼を勝ち取った今、もうお前に利用価値など無いですぞ。
一秒でも長く生きたいのなら、今の内に逃げた方が良いでしょうな。
まあ、所詮は数秒でしょうが。
「黙れ、お前の虚言を俺達は信じない」
「元康さんに教わっていなかったら信じていたと思うとゾッとしますね」
「綺麗な花には毒があると言うが……とんだ猛毒だ。しかも人が苦しむのをほくそ笑んでいるとなると性質が悪い」
キッと錬と樹は各々武器を構えて戦闘態勢に入ります。
むむ、勇者と云えど今の二人に戦わせるのは危険ですぞ。
ましてや樹は俺がストーキングした所為でLv1ですからな。
お義父さんもまだLv1だったはず。
「アマキ殿、カワスミ殿、キタムラ殿、一体どうしたと言うのじゃ。そこの盾の勇者が仲間を強姦しようとしたのに擁護しようと言うのですかな? 幾ら心の知れた異世界人同士と言えど庇って良い事では無いのじゃ」
クズがどうにかして思惑通りの展開へ修正しようとしておりますが手遅れですぞ。
錬と樹は真実を知って、クズや赤豚の台詞を聞いても犯罪に加担させようとしている様にしか見えないでしょう。
「ふん、何も知らないと思っているから勝手な事を言って……知っているんだぞ。この国が盾の勇者を宗教上の敵として認識しているという話を」
「宗教上の敵!?」
お義父さんが理由を知って驚きの声を上げます。
錬の言う通りですぞ。
好き勝手お義父さんを侮辱した罪、その身をもって償わせなければいけませんな。
「召喚してすぐにお義父さんを秘密裏に殺そうものなら俺達に警戒される。勇者という立場上、そんな真似をしようものなら諸外国からの非難も避けようがないですぞ」
「ええ、ですから尚文さんを犯罪者に仕立て上げ、僕達との仲を悪くされた挙句、機会が来たら僕達に殺させようと画策したんです」
「仮に俺達が強くなる前にお義父さんが他国へ亡命しようものなら俺達の耳に入らない様に殺すつもりだったのでしょうな」
これまでのループが物語ってますな。
俺はこの目で全て見てきたのですから、間違いないですぞ。
「とにかく、茶番はこれまでだ。俺達はお前等の操り人形になるつもりはない」
「そうです。一刻も早くこの国から出て、他の……勇者達を平等に扱ってくれる国へ行きます」
「俺達は勇者ですぞ。お前等の様な身勝手で他力本願な連中の思い通りになると思わない事ですな」
お義父さんを守る様に、俺は前に一歩踏み出して槍を構えました。
錬と樹も倣って周りの兵士達に牽制に武器を向けます。
「頭を垂れて許しを懇願しろ、ですぞ。俺の気が変われば命だけは助けてやる気になるかもしれませんぞ?」
まあ天地が引っくり返ってもありえないと思いますが。
「ブヒッ!」
赤豚が嘘泣きをやめて何やら吐き捨てましたな。
正体を現しました。
「ぐぬぬ……!」
クズが苛立ち混じりに呻きましたな。
さて、ここで素直に俺達を逃がしてくれますかな?
「ワシ達の思い通りに動けば良いモノを……もう良い!」
クズが立ち上がって、高らかに宣言しましたぞ。
「者共! この偽勇者達を即刻皆殺しにせよ!」
「ブヒィ! ブヒブヒ!」
赤豚も何やら鳴きましたな。
どうせ、苦しむように手足を飛ばしてからとか補足したのでしょうな。
「なに、次の勇者召喚の儀式をやればよい。今度こそ、本物の勇者を呼び出すのじゃ!」
勇者に逆らって勝てると本気で思っているのですな。滑稽で笑いがこみあげてきますぞ。
「命令とあらばしょうがありません」
と、錬と樹の仲間達も各々俺達に向けて武器を抜きました。
錬と樹は微妙な顔をしましたな。
他に兵士共がぞろぞろとやってきて俺達を取り囲みます。
「昨日はアレだけ話をした仲ですが……」
「しょうがないだろ。こいつ等もグルなんだからな」
「浮かれた異世界人だと思って騙そうとし、思い通りに行かなかったら偽者扱いで皆殺しですか。とんでもない連中ですね」
ですが、錬と樹は冷や汗を流しております。
まあどう考えてもLv一ケタですからな。
「錬、樹、お義父さん、下がっているのですぞ。今の三人では兵士一人にすら苦戦しますぞ」
勇者の武器のお陰で一般人よりも戦えはしますが、それでもLvという補正があるのがこの世界ですぞ。
ゲームだったら冒頭のイベントでは敵もそれ相応の強さでしょうが、ここはゲームではありませんからな。
錬や樹であろうとも、高Lvの兵士の攻撃を受けてまともに立っていられるとは思えませんぞ。
……お義父さんはこの段階で兵士の拳を受け止めていた様な気がしますな。
その兵士のLvが低いのか、はたまたお義父さんの防御力が初期から抜きんでて高かったのか分かりません。
考えてみれば四聖の武器で盾自体の強化方法は、お義父さん自身もわからないとおっしゃっていましたな。
お義父さん自身も実は無自覚に発動しているタイプの強化方法である可能性は否定できません。
有りそうな心当たりと言えば……婚約者を誘拐された辺りで、お義父さん自身の硬さ……では無く俺自身の戦闘力でしょうか。
あの頃から、樹が暴走した頃まで心なしか攻撃力が落ちた気がしますな。
強化方法の共有をしたお陰でまったく気になりませんでしたが、若干下がっていたのを覚えています。
やがて勝手に元に戻ったので気の所為だと思っていましたが。
あと……様々な強化方法が存在しますが、実は……強化方法を共有するという強化方法の説明がありません。
当たり前の様に扱って来ましたが、盾の聖武器の強化方法はこれなのでは無いのですかな?
と、ふと思い浮かびました。
今はそんな事よりも、この状況の打破ですな。
まあ、俺からしたらこんな連中、赤子の手を捻るよりも容易いですがな。
ここで前々回のお義父さんの言葉が蘇りますな。
頭を潰しても即座に次の頭が生えてくるので結果は変わらない、でしたかな?
ここまで来れば十分結果は変わるでしょう。
燻製を殺した後の結果が変わらなかった時は驚きましたが。
ま、クズを殺した場合、クズの次に何が出るか見物ですな。
「ブヒヒヒヒヒィ! ブブブ!」
「そうじゃ! 低Lvの偽勇者など赤子も同然じゃ!」
赤豚が高笑いをしてから何やら言いました。
続いてクズも俺達を舐めた様な事を言って笑っています。
失せろ! ですぞ。
「盾をその手で殺すのなら、まだ許してやろう」
「黙れ! お前等に利用されるくらいなら、ここでやられた方がマシだ!」
「ええ、錬さんに同意します。世界が滅びへ向かっているというのに差別をしている様な方々の為に僕は戦いたくありません」
「では行きますぞ。お前等、勇者を相手にした事の愚かさをその身をもって理解しろ! ですぞ!」
「錬、樹、元康、ありがとう……」
勿体無いお言葉ですぞ。
俺はそれだけで何倍もの力が溢れて来ます。